「レッドクリフ」を観てきました

  「行列」、「立ち見」と観る気の失せるような噂を聞くほど大ヒットしているらしい「レッドクリフ」ですが、友人から近場で穴場(←空いている)な映画館を教えてもらい、ついに観てきました。友人の言ったとおり、大規模な映画館で設備も最新なのに、客席はガラガラでした。おかげでゆっくりと楽しめました。渋谷、新宿、有楽町、品川あたりの映画館だとこうはいかなかったでしょう。

  と~~~っても面白かったです!!!わたくし的にはです。以下は一部ネタバレありなので、これから「レッドクリフ」をご覧になるみなさんはご注意下さい。

  この映画は、無心で観るほうがいいと思います。なまじ「三国志」に関する自分の知識と照らし合わせながら観てしまうと、どうしてもアラを探すことになってしまい、結果として不満が残るのではないでしょうか。超大型エンタテイメント作品として素直に楽しむほうが得策です。

  曹操率いる大船団が長江を下り、その岸辺を別働隊が進軍していく様子を上空から俯瞰したシーン、また曹操軍と周瑜・劉備の率いる連合軍が戦う前哨戦のシーンは大迫力でした。

  特に感心したのは後者の合戦のシーンです。単なる乱闘の描写ではなく、全体としてどういう作戦に沿って双方の軍が行動して、その結果どうなっていくのかが分かって面白かったです。合戦シーンは長かったですが、合戦の過程を段階を踏んで具体的に描いているので、観ていて退屈しませんでした。このときも両軍全体を俯瞰する手法を用いていて、これのおかげでより分かりやすかったです。

  元来、大陸の映画も香港の映画もアクションは得意中の得意です。それにハリウッド仕込みのCG技術が加わったおかげで、迫力があって、しかも「なるほど、今の戦況はこうなのね」とうなづけるような、見事な合戦シーンになりました。

  ストーリーは基本的に「三国志演義」に沿っていましたが、改変も多くありましたし、原書にはない、新しく創作されたエピソードも取り入れられていました。ただ、「話を面白くするならこうしたほうがいいだろうな、いや、むしろこうしたほうが絶対的に面白い!」的な改変や創作がほとんどで、私個人は自然に楽しめました(ただし、ごく一部の創作エピソードには、「んなアホな」とツッコミを入れたくなった)。

  衣装もステキでした。「三国志」の登場人物の多くには、「お決まりの衣装」というのが各自あるのですが、「レッドクリフ」は昔ながらのこうした「お約束」にはあまりこだわっていませんでした。

  特に金城武演ずる諸葛孔明の衣装はよかったです。諸葛孔明といえば、昔ながらの鉄板「お決まりの衣装」があるのです。その格好で出てこられたらどうしよう、金城武といえど(いやむしろ金城武だからこそ)絶対に噴き出してしまう、と危惧していましたが、大丈夫でした。諸葛孔明は「お色直し」が何度もありました。白を基調とした衣装で、どれもみんなカッコよかったです。

  諸葛孔明の初登場シーンも意表を突いたもので、しかも印象的でした。

  また、孫権を劉備と連合して曹操に対抗するよう説得するため、諸葛孔明は呉にやって来ます。孫権は宴席を設けて諸葛孔明を歓待しますが、諸葛孔明は戦場を駆け回ったその足でやって来たため、服が土ぼこりだらけらしく、羽扇(←諸葛孔明のトレードマーク)で盛んに土ぼこりを払います。そのたびに彼の服から大量の塵が舞い上がります。塵埃が舞い上がるその都度、諸葛孔明はニッ、と笑います。金城君のニッと笑う表情が超キュートでした

  諸葛孔明は登場シーンが多い割にはセリフがあまりないので、金城君は表情だけで演技しなければならなかったのですが、いつも非常にいい表情をしてました。特に目の演技が印象的でした。飄々とした雰囲気と同時に、思慮深い感じがよく出ていました。

  周瑜役のトニー・レオンは、私はあまり印象に残りませんでした。彼にしては珍しく、表情が乏しくて、周瑜という人物の性格があまりはっきり出ていない気がしました。

  「レッドクリフ」での曹操は、昔ながらの典型的悪役な曹操でした。ですが、曹操役の張豊毅の演技は見事というかさすがというか、ありきたりなキャラクター設定にも関わらず、周瑜役のトニー・レオンよりもよほど印象に残りました。

  孫権の妹である尚香役の趙薇も、大きな目を活用した強い目ヂカラと溌剌とした雰囲気が魅力的でした。周瑜の妻、小喬役のリン・チーリンはすごい美人なのですが、旦那役のトニー・レオンと同様、演技のほうはちょっと印象が弱かったです。

  思わぬ拾い物(といっては失礼ですが)だったのが、孫権役のチャン・チェンでした。戦うべきか否か、主戦派と降伏派の板ばさみになって苦悩する表情、「自分は父や兄には及ばない」という劣等感を吐露するときの表情がすごくよかったです。ちなみに、前出の友人は趙雲役の胡軍がカッコよいと言ってました(確かにおいしい役どころだと思うけど~)。

  中村獅童(呉の武将、甘興役)も意外と(といってはなんだが)よかったですよ~。表情が豊かで眼光も鋭く、いかにも気性の激しい猛将といった感じでした。

  私は字幕版を観たのですが、金城武が撮影時に北京語をしゃべっていたのは間違いないです(唇の形からみると)。ですが、彼の声は他人による吹き替えだと思います。声音が違いますし、発音もいかにも大陸の俳優がしゃべっているような、典型的な北方音の北京語で、台湾の北京語ではありません。

  中村獅童はセリフがけっこうありました。中村獅童の場合は、おそらくは短いセリフは本人の地声、長いセリフは他人による吹き替えではないかと思います(自信なし)。もしすべてのセリフが吹き替えなら、よほど中村獅童と声音の似た中国人に担当させたのでしょう。もしすべてが中村獅童の地声なら、すごいぞ中村獅童!です。

  エンドロールをくまなく見ましたが、吹き替えを担当したキャストは書いてありませんでした。

  セリフは古くさい時代劇用語や言い回しは少なく、ほとんどが平易な現代口語を用いています。こうした点も斬新なのかもしれません。日本でいえば、大河ドラマ「新選組!」で、沖田総司が現代日本の若者コトバでしゃべっていたようなものでしょうか。

  「レッドクリフ」の欠点をひとつ挙げるとするなら、それは「三国志」をあらかじめ知っている人でないと、登場人物のセリフやエピソードが示す意味が分からない、ということです。

  後の展開につながる伏線的なセリフ、エピソード、シーンがふんだんにあるのですが、意味があまりに曖昧すぎて、また印象が弱すぎて、あるいはあまりに唐突でワケがわからないといった感があって、伏線の役割を果たしていないのです。

  監督のジョン・ウーは、観客は「三国志」の内容をある程度は知っているもの、と前提しているのでしょう。大陸、香港、台湾ならその前提は間違っていないでしょうが、日本では必ずしもそうではありません。「三国志」をまったく知らない観客でも楽しめるようにする、という配慮が少し欠けている気がします。

  本編前に上映される日本語の「事前説明」や、本編にしつこく出てくる「説明字幕」も、そのことを証明していると思います。

  でも、「レッドクリフ」は予想外に面白かったです。前編は流れ的に「基本ストーリー紹介」、「主要な登場人物紹介」的なものになってしまいましたが、これで後編への期待がいっそう高まろうというものです。後編が楽しみです。
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