元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ボーはおそれている」

2024-03-09 06:10:46 | 映画の感想(は行)

 (原題:BEAU IS AFRAID)好事家(?)の間では最近評判が良いらしいアリ・アスター監督の作品を今回初めて観たのだが、結果“話にならん”という印象しかない。単に奇を衒ったとしか思えない建て付けで、求心力の欠片も感じられないのだ。しかも、これが3時間という犯罪的な長さ。マトモなプロデューサーならば、脚本第一稿の時点でボツにしていたかもしれない。

 神経症気味の中年男ボー・ワッセルマンは、父の命日に帰省するため支度していたところ、目を離していた隙に荷物と鍵を盗まれてしまう。母親に事情を伝えるものの、彼女は“帰りたくないから嘘をついているのだろう”と言うばかりで、とりつく島も無い。すると間もなく、つい先ほどまで電話で会話していた母が突然に死去したことを知る。何としてでも帰省しなければと決心して家を出た彼だが、予期せぬアクシデントが立て続けに起こり、実家への行程は厳しいものになる。



 主人公が住む町は、一日中犯罪が横行しているような場所だ。しかも、ボーの部屋には知らぬ間に不審者が忍び込んでいる。それでも先を急ぐボーは交通事故に遭ってしまうが、運び込まれたのは病院ではなく加害者である医者の家だ。もう、ここまでくると本作は通常のドラマツルギーを完全無視し、作者の手前勝手なイメージを並べただけのシロモノであることが窺い知れる。

 断っておくが、そういう好き勝手な体裁のシャシンはケシカランと言いたいのではない。上手くやってくれれば傑作にもなり得ることを、手練れの映画ファンならば知っている。だが、この映画に際限なく出てくる脈絡の無いモチーフの数々は、まったく面白くないのだ。これはつまり、作者の力量が足りないということである。

 たとえばデイヴィッド・リンチやデイヴィッド・クローネンバーグ、あるいは古くはフェデリコ・フェリーニやルイス・ブニュエルなどの往年の異能監督たちと比べても、圧倒的に“変態度”が低い。素人が自身の“単なる思いつき”を綴っただけの、金を取って人様に見せるには適さないアマチュア臭い作品と言わざるを得ない。後半には何やら主人公のマザコンぶりのメタファーがどうのという展開にもなっているようだが、ハッキリ言ってどうでも良い。とにかくこの退屈なシークエンスの連続には、観ているこちらは眠気との戦いに終始するしかなかった。

 主演のホアキン・フェニックスは確かに頑張っていが、映画自体がこのレベルでは、すべて徒労に終わっている。ネイサン・レインにエイミー・ライアン、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ヘイリー・スクワイアーズ、ドゥニ・メノーシェ、カイリー・ロジャーズといったその他の面子もあまり記憶に残らず。個人的には観なくても構わない映画だった。

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