元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「明け方の若者たち」

2022-01-23 06:17:51 | 映画の感想(あ行)
 正直な話、映画としてはあまり上等ではない。筋書きはもちろん、登場人物たちの言動がどこか不自然だ。演出のリズムも万全とは言えない。しかしながら、嫌いにはなれないシャシンである。それは、今からはるか昔(笑)、私が本作の主人公たちと同じ年齢だった頃を思い出して、しみじみとした感慨を覚えたからだ。映画のクォリティは、必ずしも観る者の感銘度に強くリンクしているものではないことを痛感した。

 そこそこ有名な印刷会社への就職が決まった男子大学生の主人公は、明大前で開かれた退屈な飲み会に参加した際に、魅力的な女子と知り合い恋に落ちる。やがて彼は幾ばくかの期待を胸に入社してみたが、配属されたのは営業や商品開発の第一線ではなく総務部だった。一方で同期の者は次々と大きな仕事を任されている。



 彼は愉快ならざる気分になるが、それでも彼女との仲は続いていた。だが、ある時を境に彼女からは連絡が来なくなる。実は、彼女には重大な“秘密”があり、彼はそれを承知で交際していたのだが、今になってそのツケが一気に回ってきたのだった。カツセマサヒコによる長編小説の映画化だ。

 私が主人公と同じ年だった頃には、映画で描かれたような超危なっかしい色恋沙汰にウツツを抜かしたことは無い(というか、大半の者はそうだろう ^^;)。しかし、彼が抱く現状と将来に対する焦燥感は、よく理解できるのだ。特に、仕事の段取りが前近代的に見える部署で勤務しなければならなくなった屈託は、身につまされる。

 言っておくが、かつての私はこの主人公みたいに社会人としての夢や希望を抱いて就職したわけではなかった。景気が良かった頃だったし、ある程度安定していて名の知れた事業体に職を得れば、まあ何とかなるだろうというノリで過ごしていた。しかし、そんな脳天気な私でもこの主人公の心情はよく分かる。特に、不安に押しつぶされそうになりながらも、仲間との語らいに安らぎを覚える場面は、若者特有の楽天性と“この時しかない”という甘酸っぱさが横溢している。

 さて、彼女の“秘密”を含めてストーリーには無理がある。また、余計なエピソードも目立つ。監督の松本花奈はかなりの若手だが(98年生まれ)、ドラマ運びはスムーズとは言えない。それに経験が少ないのかもしれないが、ラブシーンはかなり下手だ。バスローブを着たままのベッドシーンなんか、みっともなくて見ていられない。ただし、キャラクターの造形には非凡なところもあるので、今後の精進を望みたいところだ。

 主演の北村匠海と黒島結菜は好調。井上祐貴や山中崇、濱田マリなどの他の面子も良い。ただし、佐津川愛美はロクに顔も映してもらえずに残念だった。
コメント
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