元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「メーキング・ラブ」

2019-04-26 06:29:51 | 映画の感想(ま行)
 (原題:Making Love )82年作品。当時としてはまだ珍しかった“同性愛を題材にしたハリウッド映画”だ。守備範囲の広いアーサー・ヒラー監督の作品としては、有名な「ある愛の詩」(70年)の系列と言うことが出来るだろう。実に滑らかで、かつスタイリッシュに撮られている。だが、時代が時代であるだけに、素材に対してそれほど深く突っ込んでいないのは仕方がないとは思う。

 ロスアンジェルス在住の30歳の医師ザックは、結婚して8年になるTV局プロデューサーの妻クレアと暮らしていた。一見幸せそうな夫婦だったが、実はザックは性的に満たされない思いを抱いていた。ある日、ザックは病院に健康診断に来たバートと懇意になる。バートはゲイだった。自らの性的アイデンティティをバートと知り合うことによって自覚したザックは、クレアと別居する。だが、バートは特定の相手と深く付き合うことを敬遠するタイプの男で、それ以上ザックと懇ろになることは無かった。しかし、元の生活に戻ることが出来ないザックは、訪ねてきたクレアに離婚を申し出るのだった。



 冒頭に“題材に対して深くは突っ込まない”と書いたが、言い換えれば今から考えるとそれが玄妙なのである。現時点でこのネタを扱うと、いきおい“性的マイノリティの権利がどうのこうの”というノリになってしまうのかもしれない。だが本作は、そういう方面とは一線を画す。

 この映画の主眼は都市生活者の孤独であろう。ザックとクレアは、ギルバートとサリヴァンのレコードや、ルパート・ブルックの詩集がお気に入りである。またテレビでケーリー・グラントとデボラ・カーの「めぐり逢い」を見ながら、セリフを掛け合いで諳んじて見せたりもする。いかにも洒落た佇まいの2人だが、それは上っ面だけだ。

 それはバートも同じことで、毎晩相手を変えるような生活で、年を取ったらどうするのだと問われて“凄いビデオのコレクションがあるからいいのさ”と答える。これが私にとって一番印象的なセリフだった。いくらビデオの映画を見て心を和ませても、その感想を共有する相手もいないのは、いかにも寂しい。終盤は各登場人物が自分の道を見付けたように見えるが、いずれもどこか納得していないようだ。

 ヒラーの演出は丁寧で、派手さは無いが淡々と見せてくれる。また映画をクレアとバートへの個別インタビューから始めるという手法は、クールな作劇が強調されて好印象である。主演のマイケル・オントキーンとケイト・ジャクソン、ハリー・ハムリン、いずれも良好なパフォーマンスだ。レナード・ローゼンマンの音楽とバート・バカラック等の既成曲の起用、そしてデイヴィッド・M・ウォルシュのカメラによる清涼な映像は効果的だ。
コメント
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