元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「グリーンブック」

2019-04-22 06:31:27 | 映画の感想(か行)

 (原題:GREEN BOOK)観ている間はとても楽しめる。最後までストレス無くスクリーンに対峙出来て、感動的な気分にもなれる。しかし、観た後はあまり残らない。良く言えば“後味がサッパリとしている”という映画。意地悪な言い方をすれば“掘り下げ方が足りない映画”。要するにそういうシャシンだ。

 1962年、腕っ節の良さを買われてニューヨークの高級クラブの用心棒を務めていたトニー・リップは、クラブの改装工事の期間中、著名な黒人ピアニストのドクター・シャーリーの運転手として働くことになる。シャーリーはトニーの運転する車で演奏旅行に出かけるが、行き先は何と黒人に対する偏見が強い南部であった。当然のことながら身分や生き方がまるで異なる2人は、なかなか打ち解けない。それでも黒人用旅行ガイド“グリーンブック”を頼りに、何とか旅は続いていく。実話を基にした人間ドラマだ。

 キャラクターが違う2人の珍道中を追うロードムービーは、昔からさんざん取り上げられた“鉄板”の設定だ。しかも本作では両者の人種や立場を分けているため、時代背景も相まってそこに差別などの社会問題を織り込みやすく、加えて最初は折り合わなかった2人が次第に親密になる過程を淡々と描くことにより、容易くハートウォーミングな雰囲気を醸成することが出来る。

 道中はトラブル満載だが、いずれもそんな深刻な事態にならずに何とかやり過ごす。そして旅の終わりには嬉しいサプライズが待っている・・・・といった、観る側に余計な重圧感を与えない作りになっており、その分幅広い層にアピールすることが可能になり、結果としてアカデミー賞も取ってしまった。製作者としてはまことにオイシイ仕事だったと思われる。

 しかし、この映画にはシリアスな問題提示は存在しない。人種差別の深刻さ、それを裏付ける人間の心の闇や、歪な社会情勢などは描出されない。たとえば、シャーリーはあえて差別の激しい南部をツアー先として選ぶが、その行動を単なるシャーリーの“心意気”の次元で扱っているためか、彼の切迫した内面や当時の南部の状況などはほぼ捨象されている。対するトニーも、単に“見掛けは粗野だが、実は良い奴”といった紋切り型の描かれ方だ。

 そして、肝心の演奏シーンの訴求力の低さは致命的だ。選曲が悪いのか、さほど盛り上がらない。一見賑々しい終盤の酒場でのパフォーマンスもひどく平板だ。もっとも、これは監督ピーター・ファレリーのセンスの問題かもしれない。

 主演のヴィゴ・モーテンセンとマハーシャラ・アリは健闘していると思う。特にモーテンセンは綿密な役作りによってイタリア系にしか見えないのはアッパレだ。しかし、全編を覆う過度に甘い口当たりのストーリーテリングによって、さほど印象に残らないのも事実。なお、ショーン・ポーターによる撮影は良かった。
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