元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ホワイト・バッジ」

2016-01-23 07:31:46 | 映画の感想(は行)
 (英題:WHITE BADGE )92年作品。第5回東京国際映画祭でグランプリを受賞した韓国映画。舞台は1979年のソウル。かつてベトナム戦争に参加し、戦記ものを執筆中の主人公は、ある日かつての戦友に再会する。ベトナムの後遺症で日常生活に適応できないその元戦友と接触するうち、ベトナムでの悪夢を思い出していく主人公だが・・・・。監督はチョン・ジヨン。本国では中堅の実力派として有名らしいが、作品を観るのはこれが初めてだった。

 はっきり言って物足りない。ベトナムでの現地住民虐殺シーンは「プラトーン」、地獄のような戦闘場面は「ハンバーガー・ヒル」、復員後も社会復帰できない登場人物の描写は「帰郷」あるいは「7月4日に生まれて」、ベトコンの耳を切りとって集める兵士は「ユニバーサル・ソルジャー」、戦場の幻覚が襲って来るあたりは「幸福の旅路」、さらにご丁寧に「ディア・ハンター」ばりのロシアン・ルーレットまで挿入されていて、アメリカ製ベトナム戦争映画の総集編を韓国流にやりました、という感じなのだ。



 まあ、“モチーフとしてたまたまそうなっただけで、大したことではない”と開き直れられると何も言えないのだが、観ている側からこういう指摘を容易に受けるのは、映画のアピール度が低いせいである。

 私が知りたいのは、ベトナム戦争というまったく自分のとことは関係のない戦争に理不尽にもかりだされた韓国兵士の苦悩である。大義名分のない戦争でヒドイ目にあった韓国兵士。自己のアイデンティティを踏みにじるこの仕打ちは、アメリカ人兵士よりも重たいディレンマがあって当然であり、そのへんを突っ込んでアメリカ映画のベトナムものとは一線を画す鋭い映画に仕立ててほしかったのだ。

 ところが描くのは、シビアーとはいえ従来のベトナム戦争のルーティンだけだ。79年当時の政変に伴うデモがベトナムの悪夢に重なるという、思わせぶりなシーンはとって付けたようで感心しない。そして韓国映画特有のこの重さ、暗さ。2時間あまりの上映時間がとてつもなく長く感じられた。唯一救いだったのが主役のアン・ソンギのニヒリスティックな演技。当時は女優中心の韓国映画界で、私が唯一名前を覚えているた男優だった。
コメント
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