元・副会長のCinema Days

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ハイレゾ音源はオーディオ復活の起爆剤になるか?

2014-10-30 06:29:43 | プア・オーディオへの招待

 最近、オーディオ関連の雑誌やサイトにおいて頻繁に取り上げられる用語に“ハイレゾ音源”がある。前にも書いたが、このハイレゾ(ハイレゾリューション)音源というのは、従来型CDを上回る定格を持つ音楽用ソフトのことで、インターネットからダウンロードすることによって入手出来る。

 このハイレゾ音源がオーディオファン以外にも少しばかり知られるようになったのは、今年(2014年)9月に業績不振に悩むSONYが復活の切り札として大々的に取り上げてからだろう。同社はハイレゾ音源を“救世主”と位置付け、それに合わせた機器も順次投入していくらしい。また久々にTechnicsブランドで新製品をリリースする予定のPanasonicも、ハイレゾ音源の将来性を重視しているという話だ。

 ここでは、ハイレゾ音源が従来型CDに比べてどの程度高音質であるのかに関してはあえて言及せず、ハイレゾ音源がSONY及びオーディオ業界全体の復活に貢献する目玉商品に成り得るのかどうかについて考えてみる。

 結論から先に言えば、ハイレゾ音源はオーディオ復活の起爆剤にはならない。その理由は簡単だ。ハイレゾ音源に関するマーケティングが“古臭い”からである。

 オーディオの歴史を振り返ってみても分かるように、高品質のソフトが広範囲に普及するとは限らない。オープンリールデッキ用のソフトは一部の好事家が使用したに過ぎなかったし、DAT(デジタル・オーディオ・テープ)やエルカセットなどはミュージックテープの製造さえほとんど行われなかった。

 いくらモノ自体のクォリティが高くても、市場にそれを受け入れる余地が無ければ売れないのだ。そんな当たり前のことを、SONYをはじめとする各メーカーは分かっていないらしい。ハイレゾ音源に関して言えば、高音質を必要とする層どころか、現在は高音質のオーディオシステムに接した経験も無い者が世の中の大半を占めているのだ。そんな中で“音が良いですよ”という決まり文句だけで普及すると思っている、その感覚が古い。

 この景気低迷期に新しいアイテムを(業界全体まで立て直そうかというスローガンの元に)大々的に売り出すには、市場自体の底上げから着手しなければならない。だが、今はどう見ても、オーディオの市場は小さい。その小さいマーケットの中でいくら新規格をブチ上げようとも、成功は見込めない。送り手の独善に終わるのが関の山だ。

 そもそも、ハイレゾ音源の絶対数は話にならないほど小さい。アルバムタイトルで言えば、1万枚にも満たないのではないか。斯様にソフトの選択肢の少ないメディアを、一般ピープルが支持するはずがない。ちなみに従来型CDは約60万種類が市場に出回っているという。

 SONYが本気でハイレゾ音源に社運を賭けているのならば、少なくともまずは自分のところで発売している音楽ソフトをすべてハイレゾ音源としてネット上に乗せるべきだろう。さらには価格をグッと抑えて当初は採算性を度外視してでも普及を図らなければ、社会的な認知は覚束ない。今のままでは、登場してから十数年経っているにも関わらず、いまだにマニア御用達のアイテムでしかないSACDの二の舞だろう。

 要するにハイレゾ音源なんてものは、現時点ではオーディオという“斜陽化した趣味”に関わっている少数の者達を対象に、さらにその中のニッチな市場に向けての訴求力しか持ち得ないのだ。メーカー側がマーケットそのものを立ち上げるような努力をせず、漫然と“スペックが良い物を作ったから売れて当然”みたいな古色蒼然としたスタンスを取り続ける限り、絶対に普及しない。ましてやSONYみたいな大手企業が命運を託すようなものでもない。

 業界主導によるこの“ハイレゾ祭り”(?)を見て思い出すのは、80年代前半におけるCDの登場と、それに続く物量投入型コンポーネントの隆盛である。メーカーがブームを煽れば勝手にユーザーも追随するという、送り手側にとって応えられないような構図の再現を狙っているようにしか思えない。しかしながら、景気が良かったあの頃と現在とでは、状況が全然違う。新しい規格をリリースすれば需要は勝手に湧いてくるような図式は、最早期待できない。

 ハイレゾ云々を持て囃すよりも先に(このブログでは何度も言っていることだが)良い音の何たるかも知らない大部分の消費者に向けて思い切ったPRを仕掛けることが重要だ。いくら音源のクォリティが上がっても、それを鳴らすスピーカーやアンプが低レベルなものならば何もならない。とにかく、趣味のオーディオの復権のための、手っ取り早い起爆剤など存在しない。地道に市場を広げる努力なしには、この分野における現状からのブレイクスルーはあり得ないのだ。
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