元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「桐島、部活やめるってよ」

2013-03-18 06:35:48 | 映画の感想(か行)

 どこが面白いのか分からない。日本アカデミー賞の作品賞獲得をはじめ高い評価を受けている映画だが、私にとっては何一つアピールしてくるものが無かった。特に評論家連中の“高校生活を冷酷かつリアルに描いた”という物言いに関しては、まったく賛同できない。とにかく本作の登場人物の造型およびその振る舞いに、リアリティのかけらも感じられないのだ。

 舞台は地方都市(ロケ地は高知県)にある高校。11月になり、2年生は進路について考えなければならない時期に入った。そんなある日、バレーボール部のキャプテンで花形選手でもあった桐島が突然クラブを辞めたという話が生徒の間で広がる。それをきっかけに桐島と多少とも関わり合いのある者達に動揺が走り、人間関係がギクシャクしてくる。

 一方、前田が部長を務める映画部はコンクールで予選通過を果たし、担当教師から次回作のシナリオを渡されるが、前田はあくまで自分の企画・脚本で作品を撮りたいと思っている。そこで学校側の許可を取らずに学内でゲリラ撮影を敢行するが、くだんの“桐島の取り巻き達”とニアミスを起こしてしまう。

 まず不可解なのは、たかがスポーツ部の主将がクラブ活動から外れたぐらいで、周りの者がまるで人生の一大事のごとく浮き足立ってしまうことだ。念を押すが、この桐島なる人物は別に死んだわけでも、大病で入院したわけでも、重傷を負ったわけでもない。ただ部活を辞めただけ。その程度のことで少なからぬ数の生徒がオタオタしてしまうのは、滑稽でしかない。

 それでも“そういう現象が発生してしまったのだ”と言いたいのならば、桐島のカリスマ的影響力を事前にテンション上げて描き込むべきだ。映画は御丁寧にも、金曜日の放課後から翌週の初めまでを複数の視点から何度も映し出すが、桐島の存在感という“ドラマの根幹”がスッポ抜けているために、それが繰り返されるたびに鼻白むばかり。

 ならば独自の映画製作に勤しむ前田はどうかというと、彼も部員達も絵に描いたようなオタクでしかなく、実在感は限りなく希薄である。そもそも、いくら自分に才能は無いと分かっているとはいえ、前田が作ろうとする映画は幼稚すぎる。少なくとも担当教師からシナリオの何たるかぐらい教わっているはずだが、それも頭に入らないほどの鈍才ならば、感情移入する余地は無い。

 この映画について“校内のヒエラルキーの崩壊を描くことにより、現代の格差社会を照射してみせる”とかいった評があるそうだが、もしもそんな製作意図があったとしても、出てくるキャラクターが斯様に誰一人地に足が付いていない状態では、観ているこちらはシラけるばかりだ。

 吉田大八の演出は相変わらず“テンポが良いだけ”であり深みは無い。キャストに関しては前田に扮する神木隆之介が健闘していたぐらいで、あとは大した仕事をしていない。女生徒の一人を演じた橋本愛は本作で新人賞をもらっているようだが、彼女は身のこなしも表情も硬く、かといって並外れたルックスも持ち合わせていない。どうして評価されているのか、こちらも謎だ。
コメント
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