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沖縄→東京→竹野と流転する、bozzoの日々。

【Tom Waits】Christmas Card を巡る話

2009-12-17 | MUSIC
ねぇ チャーリー 私ね 妊娠してるんだ
今は9番街に住んでる
ユークリッド通りの外れの、
エロ本屋のすぐ上よ
ドラッグはやめたし
ウィスキーもやめたんだ
旦那はトロンボーンを吹いてるの
出世コースに乗ってうまくいやってるのよ

彼は私を愛しているって言ってくれる
お腹の子供は彼の子じゃないけど、
自分の息子のように育てるよって言ってくれる
彼のお母さんの形見の指輪をくれたし、
毎週土曜の夜にはダンスに連れて行ってくれるんだ

ねぇ チャーリー 私、あなたのことを考えるの
フィリン駅を通り過ぎる度にね
あなたはいつも髪にグリースをいっぱいつけてたよね
リトルアンソニー&ザ・インペリアルズのレコード、まだ持ってるよ
でもレコードプレーヤーは誰かに盗まれちゃった
あなたは今もあのレコード好き?

ねぇ チャーリー 私、おかしくなりそうになった
マリオが警察に捕まったとき
だから両親がいるオマハに帰ったんだ
でも、私が知っていた人たちはみんな、
死んでしまったか刑務所に入ってしまっていた
だからミネアポリスに戻ってきたの
これからはここで暮らすつもり

ねぇ チャーリー 私、幸せだと思う
あの事故が起きてから初めてそう思う
ドラッグに注ぎ込み続けたお金を、
全部ちゃんと持っておけば良かったよ
そしたら、中古車売り場を買ってただろうね
それで、車は一台も売らない
毎日、その日の気分にあわせていろんな車で出かけるんだ

ねぇ チャーリー ところで
本当のことを知りたい?
私には旦那なんていない
彼はトロンボーンなんて吹いてない
本当はお金を借りる必要があるの
弁護士に払うお金を
チャーリー、ねぇ
仮出所が認められるはずなの、
バレンタインデーの頃には

【youtube】Christmas Card From a Hooker in Minneapolis

      ●

トムウェイツ29歳の時の作品。
別れた女から近況を告げるクリスマスカードが届く。

旦那は出世コースでとても出来た男で、
毎週ダンスにも連れてってくれる。
愛に満ちた暮らしをしてるんだ…と。

時々私、あなたのことを思い出すの。
ドラッグに溺れた凄惨な日々とともに。
だから今、とっても幸せよ…と女。

カードの締めくくりに、女は告白する…
「チャーリー、ホントのこと知りたい?」

幸せな日々は真っ赤な嘘。
まだドラッグからも抜け切れてないわ。
弁護士へ払うお金が必要なの。
次のバレンタインデーまでには
仮出所が認められそうなの。

      ●

クリスマスは、なんでこうも胸締め付けられる季節なんだろう。
愛にあふれた昔日の記憶が、クリスマスソングと共に思い起こされるからか。

この歳になると、高校時に訳もなく浸ったトムウェイツが
また違った感慨で、骨身に沁みる。

自分の弱みをさらけ出したくなってきたからだろうか。

背伸びをして、必死で理想を追いかけて
前ばかりをひたすら見つめていた30代。

毎日、日雇いの派遣バイトでライン作業に明け暮れる40代。

くたびれた中年が集ってピッキング・検品・梱包の作業をしている様は、
歳と共にくすんで張りを失った肌のように、切ない。

1坪ほどの喫煙室で10人ほどの男女が
紫煙を吐いてる10分間の休憩タイムは、
やり切れない思いの淀み場のようだ。

      ●

クリスマスカードとは程遠い現実に
ただひたすら埋没している中年たちにも
クリスマスの浮ついた空気は届く。

どんなに縁遠い存在だと思っていても、
容赦なくイルミネーションは目に飛び込んでくるのだ。

品川埠頭の帰りのバスで
疲労を背中に滲ませた男たちは、
暗闇に明滅するそれらの灯りをどう捉えるのか。

くすんでしまった視界の翳りを、自覚することすらないのだろうか。

あのころのトキメキは、
星空を眺めた無垢な心と共に封印してしまったのだろうか?

そんな幾層もの堆積した心の記憶があるからか、
トムウェイツは、歳と共に骨身に沁みてくるのだ。




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