日本では「フォード」っていうと、どうしてもムスタング(マスタング?)や
トーラスなどの大きなアメリカ車が想像されますよね。
でも実はフォードって、世界企業。
1911年にはすでに欧州に販売網を拡げんとイギリス・フォードが設立され
モデルTの英国生産をスタート。
そして1931年にはドイツでもドイツ・フォードの工場が稼働を開始、
同じくモデルTの製造に着手しました。
つまりヨーロッパ・フォードも、すでに100年を超える歴史を持っているのです。
だけど日本では販売戦略上か、知名度の問題で「ヨーロッパ・フォード」という
存在を全面的に押し出してきませんでした。
そのため、それだけの歴史を持ちながらも、欧州の他のメーカーに比べて知名度があまり無く、
車種も日本ではレースやラリーで活躍した車種以外は、
あまり知られていないものが多いのではないかと思います。
イギリス・フォードとドイツ・フォードは当初は前述のように
アメリカ・フォードのモデルTをノックダウンで製造していましたが、
1932年にまずドイツ・フォードがドイツ専用モデルの「ケルン」を発売開始。
一方のイギリス・フォードも同じく1932年、モデルYという
イギリス独自のモデルをラインオフします。
こうして、ドイツ/イギリスぞれぞれのフォードは、
同じ社名を持ちつつも独自のカラーを出して行くことになっていきます。
そして両国フォードは、1960年代後半にヨーロッパ・フォードとして事実上統括化。
これ以降は同一モデルを両国で製造するスタイルに変わり、それは現在でも続いています。
ところで、ずっとお仕事をさせていただているカー・マガジンさん。
最新号となる2014年7月号(5/26発売)の巻頭特集は、
その「ヨーロッパ・フォード大特集」だったのです。
実にカー・マガジンさんらしい特集ですよね。シビれます!
そんな素敵な今号の特集で、
僕も寄稿をさせていただきました。
それが、1970年代にヨーロッパ・フォードではメジャーだった
「V4エンジン搭載車」のイラスト&エッセイです。
ブ、V4エンジン!?
V4エンジンはバイクではホンダのVFRやRVF、ヤマハのYZR、VMAXが真っ先に思い浮かびますし、
クルマでもいにしえのランチアが狭角V4エンジンをフルビアなどに搭載し、
ラリー・フィールドで活躍しましたのはご存知の通りかと思います。
とはいえ、ぱっと思い出しても、そのくらいしかないんですよね、採用例が。
だけど、実は一時期のヨーロッパ・フォードでは、ドイツ/イギリスともに、
V4エンジンは極めてメジャーな存在だったのです。
最初にV4エンジンが登場したのは1962年に登場したドイツ・フォードの
「タウヌス12M」。
俗にP4と呼ばれるこのモデルは、小さいタウヌスとしては三代めにあたるモデルです。
1.2L/1.5LのV4エンジンで前輪を駆動する、画期的なファミリーカーでした。
アメリカでの製造販売も予定されていたのですが、それは計画だけに終わってしまいました。
タウヌスP4は1967年にスクエアなボディを持つ「P6」型にモデルチェンジ。
車名も
「タウヌス15M」となります。
エンジンはそれまでの1.2L/1.5Lのほかに1.7Lも用意されました。
絵には描いてないけど、タウヌスP6。なかなかのグッドデザイン。
P4とP6は「小さいタウヌス(勝手に小タウヌスと命名)」なのですが、
「大きいタウヌス(大タウヌス)」もラインナップされていました。
ややこしいことに、
1952年から1968年のあいだにドイツ・フォードで製造された乗用車は
サイズの大小に関わらずぜんぶ「タウヌス」(涙)
なので、「P4」「P5」などの数字も、
たとえば小タウヌスはP4→P6、大タウヌスはP3→P5→P7だったりと、
数字の順番を見ても車種の大小がわからないんです(涙
大タウヌスでは三代めにあたる
タウヌス17M(P5)がV4を搭載していました。
タウヌス17M、20Mがラインナップされ、後者ではV4エンジンに2気筒追加したV6エンジンを搭載。
リーズナブルな価格もあって、高級車市場では健闘しました。
駆動方式はコンベンショナルな後輪駆動です。
V4エンジンはその後P7(四代め大タウヌス)まで使用されました。
タウヌス17M。笑っているような個性的な顔以外は実はとってもコンサバなデザイン。
いっぽう前述のようにドイツとはまた違った英国流に彩られていたイギリス・フォードでも、
ドイツ・フォードにならってV4エンジンを開発。
前者がケルン製のため、イギリス・フォードのV4は製造地の名前をとって
「エセックスV4」と呼ばれました。
イギリス・フォードではこのエンジンをそれまで直4を積んでいた
「
コルセア」に1965年以降搭載しています。
排気量は1.7L(1.66L)、と2Lだったので、その数値でケルン製かどうかを見分けられました。
このほかV4エンジンは、ドイツとイギリス両フォードが統括されたのち
両国での生産を考慮して1969年に登場したスペシャリティカー「
カプリ」にも積まれています。
V4はケルン製が1.3L/1.5L/1.7L、エセックス製が2Lでしたが、ドイツ製には
前者が、イギリス製には後者が搭載されました。
カプリといえばV6エンジンを搭載したRSが欧州のレースシーンを席巻したことで知られますが、
最初のころはV4エンジンだったのは意外ですよね。
また、共通設計により両国で製造され同じくV4エンジンを載せたクルマに、
商用バンの「
トランジット」があります。1.7Lはケルン製、2Lはエセックス製で、
まさにドイツ/イギリス・フォードの統一を象徴するような
ラインナップとなったのが特徴です。
マッチボックス製かな?子供のときミニカー持ってたなー。
そしてこのコンパクトなV4エンジンは、
フォード以外の「エンジン搭載に関して制約のある車種」にも供給されました。
それがサーブ96とそれをベースにしたスポーツカー、「ソネット」、
フランスのマトラのスポーツカー「M530」です。
欧州ではメジャーブランドだったフォードのV4エンジンは彼の地では部品供給等にも
問題が無かったこと、また、前輪駆動用のコンポーネンツもあったことが、
このエンジンが選ばれた理由であるはずです。
いかにもヒコーキ屋が作りました!という奇抜な設計が特徴の
サーブ96には、
当初2ストロークの3気筒エンジン(!)が積まれていたのですが、
時代が移り変わり排ガス規制に対する対応に迫られた際に
2ストロークエンジンでは限界が出てしまいました。
その小さなエンジンを置き換えるには、フォードV4エンジンはまさに最適でした。
サーブ96には1.5L(ケルン製)が1980年の製造中止まで供給され続けています。
サーブでは「
ソネット」というアメリカ市場向けに開発された2座スポーツカーにも
V4エンジンが積まれました。
ソネットは
ソネット2で市販化に成功していますが、
もとは96をベースにしたクルマですので、
96が「96 V4」に移行したのに伴い、ソネット2も96と同じ1.5Lを積むことになります。
ソネット2は1970年にボディをスキンチェンジして
ソネット3に進化しますが、
エンジンは同じく、1.5LのV4のままでした。
これがソネット3。カクカクしててかっこいい!
マトラM530は、世界初の量産型2+2ミッドシップカーという栄誉を持つ、
フランスの小型スポーツカーですが、このクルマにもフォードV4が選択されています。
純然たるスポーツカーというよりは
2+2のスポーティカーのイメージをもって開発されたM530なのですが、
小さいボディで2+2ミッドシップを実現するためには、フォードV4の存在は必須だったのでした。
M530にはケルン製の1.7Lが用意されています。
フランス以外からは絶対に登場しない不思議なデザインのM530ですが、
一時期はアルピーヌよりも売れそこそこの成功を収めることになりますが、
1969年、マトラがクライスラー系の一企業になったことにより、
「ライバル会社フォードのエンジンを使うなぞまかりならん!」ということになり
数年後の1973年に惜しくも製造を中止することとなりました。
M530の後継が、比較的我が国でも前席3座で有名な
「マトラ・シムカ・バゲーラ」になります。
エンジンは、もちろんシムカ(クライスラー系)でした。
霧の中のマトラ・シムカ・バゲーラ。
ああ、こういうシチュエーションたまらないです。もやもやした風景が好き(汗
今回はそんなクルマたちを集めて、描いてみました。この投稿の赤い車名が描いたクルマです。
カー・マガジン副編集長Uさんの「スポッターズガイド」風にしてみては?という
アイデアを戴いたことで(ありがとうございます!)、
あえてクルマの下の影を取り、
クラシカルな感じを出すためにフチを淡く、べた塗り気味で描いています。
ちょっと新しいでしょ?^^
スポッターズガイドってこれです!見たことある方も多いかも!
WEBの画面よりも本誌のほうが綺麗に掲載されています(*^^*)ので、
カー・マガジン最新号2014年7月号(5/26発売)を
書店/通販などにてぜひぜひお手にとってご覧くださいませ(≧∇≦)
>>小林旭の「自動車ショー歌」にも「タウヌス(タウナス)」が出てきますし、
ドラマ「ザ・ガードマン」にもタウナスが劇中車として印象的に登場しています。
当時は正規輸入もニューエンパイヤモータースなどで行われていて、
比較的よく売れていた外国車だったようです。
>>楕円ライトが特長のタウヌス17M(P3。大タウヌスの二代め)。ザ・ガードマンで活躍。
タウヌスといえばこの顔、というイメージがありますね。
>>そして宮城のとある中古車屋さんには...
当時の正規もののタウヌス17M(P5)が
売っているのです...
ううう、見に行きたいーーー!