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比叡アルプスを歩く

2010-06-12 | 花と自然
家族の長期入院を機に、山へ行かなくなってちょうど一年が過ぎた。そろそろ山行きを復活させたくて、山歩きを始めた。京都周辺では高い山はないので、時間が限られていれば近くの低山を歩くしかない。昨日に続いて30度を超えた京都では、低山歩きは暑さとの闘いになるのを承知で、京都東山で歩くところを探していたら、比叡アルプスという名前に行き着いた。アルプスと名前が付いているが標高は500m未満の尾根歩きだ。しかし、ガイドブックにある落葉広葉樹の林が素晴らしいという言葉に惹かれた。なぜならこれまでいくつか歩いてきた京都東山はほとんどが杉と檜の人工林で、林床は昼なお暗いというあまりにも楽しくない山ばかりであったからだ。

 比叡アルプスという名前は聞いたことはあったのだが、どこにあるのか知らなかった。比叡山には何度も登っているが、比叡アルプスという名前を比叡山で見たことはなかった。きわめてローカルなガイドブックを見ると、自宅から近い瓜生山経由でいけることが判明。さっそく行くことにした。

 自宅から10分ほどで小川が流れている山道を歩き始める。登りもきつくない坂だが、早くも息が上がり始める。長い間歩いていないことや、体重が最大値に近いこともあって、体が重い。あえぎながら登ると40分足らずで瓜生山の頂上に到着。朝早かったためか、人影はない。休まず頂上を越えて地蔵谷に降りる道を進む。急な坂を20分くらいで不動寺川の地蔵谷に到着。そこから川を遡るが、道らしい道はない。川を横切り踏み跡を探しながら歩くと、そのうち登山道がはっきりしてきた。ぐんぐん急な坂を登ると尾根の末端にとりつく。そこが比叡アルプスの末端だ。そこから一本杉までの尾根が比叡アルプスと言われている。末端では標高はわずかに350m程度。

 比叡アルプスの行程は、2時間と書いてあった。少しずつ歩くテンポを取り戻してきた。尾根歩きなのでいくつかのコブを上り下りするのは少々うっとうしいが、アルプスといえども低山なので、緑の木陰が涼しくて良い。登りも多くないので、快調に飛ばす。このコース沿いは人工林はまったく見えないので、気持ちが良い。緑の森林浴をしながら歩く。このあたりの地質は周りの東山連山と違ってもろい花崗岩だ。昔、縄文時代に人間が住み着くよりもずっと昔に、このあたりにマグマが吹き上がったらしい。噴火を伴わないマグマの突き上げがあり、地表に出てきたマグマは急速に冷えて固まったため、きわめてもろい花崗岩ができあがった。そして比叡山よりも高い山ができたという。しかし、風化が早く、今では小さな山と尾根が残されているだけだ。ここからの川の流れが風化した花崗岩の砂を運び、川底は今も白い。白川の流れはこの花崗岩砂に由来する。近くの比叡山への登路には、雲母(きらら)坂と言う名前もあり、これも花崗岩砂から来ている。昔、京に都が作られて以来、公家や僧侶の家、寺院などの建築にこのあたりの花崗岩が切り出され運ばれた。今でも上賀茂神社や竜安寺など庭に敷き詰められる白い砂はこのあたりから取られている。比叡アルプスを歩いていると、尾根道は白い砂で明るい。子どもの頃歩いた故郷の山の風景がよみがえってきた。故郷の山では花崗岩で土壌は白く、そこに松の落ち葉が積もっていた。

 比叡アルプスを3分の2ほど来たところで、向こうからやってきた人に出会った。今日初めて会う人だ。しかし、その人は山歩きをしている風ではない。彼は私に比叡アルプスの行程を尋ねた。ここまで1時間ほどかかったと言うと、げっそりしたような顔をして、私が歩いてきた道を下りていった。話を聞くと、彼の友達が比叡アルプスの途中で滑落したという。その現場に行くところだという。そういえば、途中の木の枝に奇妙な形でタオルが結びつけられていたのを思い出した。まるで印を結ぶようなふうに。あれがそうだったのか。比叡アルプスは低い尾根道だが、痩せた尾根がところどころにあり、まったくの初心者が歩く山ではない。低い山でも滑落すればそれなりに危険だ。しかもこの地質は滑りやすい花崗岩の砂が尾根道に乗っている。ちょっと足を滑らせても、命を失う危険さえないことはない。

 比叡アルプスの終点は標高550mの登仙台である。そこではNHKのテレビ塔が立ち、その周りの立派なカシやナラの木がテレビ塔関係の工事関係者によってばんばん切られている。たとえ所有者であってもこの木の切り方は許されるものなのだろうか。NHKのテレビ塔の高さよりはずっと低く、しかも下に下った斜面の木が切られているのだ。

 登山道をテレビ塔が断ち切るように立てられているので、テレビ塔の金網の横の落ちかかったような登山道でテレビ塔を回り込みながら登仙台に到着する。そこには一本杉の名前の由来である立派な杉の木が立っていた。樹齢1000年くらいはあるのだろう。ひょっとすると平安の時代から京の都を見てきたのではないだろうか。しかし、周りはコンクリートで固められ、駐車場の片隅に押し込められたように立っていた。比叡アルプスの美しい広葉樹の林からいきなりコンクリートの塊に囲まれてしまったので、一本杉の下で昼食にしようと計画していたが、ただちに中止。もときた道に戻った。

 昼食のおにぎりを食べて、比叡アルプスとほぼ並行して尾根の中腹を走る別の登山道を歩いてもとの瓜生山まで帰った。この道は平坦で、まるで林道のようにのんびりと歩ける。その分、尾根道とは違った楽しみがある。もとの小川のほとりから街のなかに出てきたのは、12時半。今日は4時間歩いたことになる。家に帰ってみると体はくたくた。足は痛くてメタメタ。この程度の山歩きでこんなに疲れたのは初めてのような気がする。これでは高い山を長時間歩くのはとても無理だ。少しずつ歩いて、また遠く高い山を目指したい。

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2 コメント

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健脚ですね。 (mmadoka)
2010-06-18 22:50:19
学生時代はワンダーフォーゲル部で各地の山を重いキスリングを背負って登っていたのに、この20年以上、ハイキングぐらいしか行っていません。

普段運動「0」なので、きっと昔の様な登山をしたらヘリコプターのお世話になりそうです。
でも、たまにはコンクリート以外の上を歩かないと頭が柔軟になりませんね。
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健脚を取り戻したい (比呂志)
2010-06-19 10:21:04
いやいや、4時間くらいでこんなに疲れては、とても健脚とは言えない。8時間歩く登山を再開するには、もっともっと歩かねばと思っているが、ついつい出不精になる。年のせいかな。

コンクリートの上を歩くと、疲れますね。やはり緑があり、木の葉っぱがあり、土があり、落ち葉があり、石の苔水が流れているところを歩くと癒されます。
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