肩の凝らないスローライフ

ようこそtenchanワールドへ。「一日一笑」をモットーに・・・日常生活の小さなことを笑いに変えるtenchanの雑記帳

総合職の壁

2011-07-06 13:51:04 | 銀行員時代
女子大生の就職といえば、
一般職というのがお決まりだったバブル期。

卒業して結婚するまでの、2,3年で退職する人が殆どで、
「腰掛け」と比喩されるくらいだった。

女子にも総合職の扉が開かれたのは、平成になってから。

私が働いていた銀行では、
一般職から総合職へ転向するには
試験を受けることになっていた。

当時支店の中で、総合職試験を受けたのはただ一人。
長い間、支店長秘書を務めていたM先輩だった。

M先輩は、今時の言い方をすればアラフォー。
銀行員、妻、母、の3足のワラジを履くスーパーウーマン。
新人の私にとっては憧れの方だった。

フルタイムでお勤めなのに、
ちゃんと早起きして、お子様のお弁当も作っている、と聞いた。

様々な困難が立ちはだかるのを承知で
総合職になったM先輩だが、
待遇は一般職の時ほど変わらないのが不満そうだった。

仕事は相変わらず秘書のまま。

お客様へのお茶出し、
お礼状書き、
支店長のスケジュール管理、等々。
どれも、M先輩じゃないとこなせない仕事だった。
でも、
「営業でバリバリやってみたいのよ・・・・。」
というのが彼女の口癖だった。


銀行では定期的に「転勤」がある。
多くの場合、
辞令が出ると1週間以内に次の支店に着任しなければならない。
当人が先に向かい、
家族は後から引っ越し、
なんて話、よくあるでしょ。

半年に一度ぐらい、そういう機会があるので、
2,3年くらい支店にいる人は
「次は私かも・・・・」
なんて心積もりを始めるのだっだ。

M先輩は、辞令が出るのを待ちわびていた。
「秘書」から「営業」へのシフト替えを。

実は、幹部のほうからもそれとなく、
今度は出そうだ、との情報が聞こえてきたので
いやがうえにも期待は高まった。

そして、運命の日・・・・・
転勤の辞令が出たのは、
Mさんではなく、営業課のKさんだった。


その日、営業時間が終わると、
誰かれともなく、Kさんの栄転祝いをやろう、と言い出した。

じゃあ、最近出来たドイツビールが飲めるお店にしようか、
などと、メンバーで相談していると、

「私もKさんのお祝いがしたいの。参加させて。」

驚いたことに、Mさんが近寄ってきてこう言った。

それまで、Mさんが自然発生的な飲み会に参加することはまずなかった。

支店の懇談会などの公式(?)な宴会や、
あらかじめセッティングされた食事会にはいらっしゃることはあっっても、
思いつきで決まったようなカジュアル飲み会などは、
ご家庭の事情があるし、
お誘いしても、まず断られていた。



大ジョッキで乾杯~!の後、
Kさんへの賛辞で盛り上がる。

営業課のなかでもやり手だったKさんだもの、
赴任先でもきっとよい成績を修めるだろうね~。

それから話は、辞令の裏話へ。

「実は、内示があるかもって、上から言われてたのよね。」

Mさんが話し始める。

「別に秘書の仕事が嫌ってわけじゃないのよ。
でもね、せっかく総合職に変わったんだもの、
一度くらい営業やってみたいって、
思ったっていいじゃない。
私、支店長の側でずっと見てきたから
営業も出来る自信あるんだけど、
やっぱり、私じゃダメなのかな・・・・・・。」

Mさんはそこまで言うと、言葉を詰まらせた。

「ごめんなさい、Kさんのお祝いなのに。今日はこれで失礼するわ。」

目を真っ赤にしたMさんは、席を立って出て行ってしまった。

一瞬にしてその場がシーンとなり、
残された私たちは、しばらく誰も口をきかなかった。

ようやく男子行員が口を開いた。

「びっくりしたなぁ。
僕、Mさんのああいう姿、初めて見た。
いつもキリッとして隙を見せないって感じだもん。」


期待していた分、ガクッと落ちこんだんだよね。
Kさんのお祝い!って自分を奮い立たせてみたけど、
途中で耐えられなくなったのだろう。


翌日、出勤すると、
Mさんが、昨日の飲み会メンバーに
「取り乱してホントにごめんなさいね。」
と、一人一人頭を下げているのを目にした。

辛さを胸にしまい込み、
酒の席での失態を仲間に詫びる。

そんなMさんのことが、私はますます好きになったのだった。

最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Mrs.B様 (tenchan)
2011-07-08 15:40:30
そうそう、総合職という肩書きだけで、
仕事の出来ない人っていましたね。

記事、書けたら楽しみにしています。
返信する
Chun様 (tenchan)
2011-07-08 15:38:55
Mrs.Bさんの仰る通り、「前例」が大切ですよね。

私が入った頃は、「結婚」と同時に辞めるという風潮でしたが、
それが「出産」まで、になり、
「育休後復帰」というのも有りになりました。
返信する
うん。 (Mrs.B)
2011-07-06 18:51:59
「前例」ができるまでが大変なんですよね。
一度できてしまえば後は続いていく。
私もMさんと同じ経験をしているのでわかりますよ。
総合職になりたくて、仕事を男性社員なんかに負けないくらいしました。
それでも結局「女子はどうせ結婚や出産で辞めるから」と叶わず。
仕事もできないのに入社と同時に総合職で適当に毎日過ごしている人を見て悔しかったです。

Mさんは、その後も前向きにお仕事されていましたか?

これについて、自分の青春時代の1話がやっと書けそうですよ。
返信する
ありましたよー (Chun)
2011-07-06 16:21:23
私もあるわー、一度だけ。
やはりアラフォーの先輩に「あなたがどう仕事するかで
後輩の待遇が変わるのよ」と常々言われていたので、
寿退社しなかった以上、2、3年は子作りせずにと思いました。
結婚3年目にそろそろいいかなと思ったら、後輩から
「Chunさん、私妊娠しました。育休までとります。
お先にすみません」って言われました。

私、その晩初めて友達の前で泣きました。
なのに友達がげらげら笑うんです。
笑いながら差し出されたコンパクトにうつっていたのは
鼻血を出しながら泣いている私の顔でした(笑)
思いっきり泣いて、思いっきり笑って。
おかげですっきりしましたよ。
返信する

コメントを投稿