民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「わたしが一番きれいだったとき」 茨木 のり子

2013年12月14日 00時21分45秒 | 名文(規範)
 「わたしが一番きれいだったとき」  茨木 のり子

 わたしが一番きれいだったとき
街々はがらがら崩れていって
とんでもないところから
青空なんかが見えたりした

 わたしが一番きれいだったとき
まわりの人達がたくさん死んだ
工場(こうば)で 海で 名もない島で
わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまった

 わたしが一番きれいだったとき
だれもやさしい贈り物を捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか知らなくて
きれいな眼差しだけを残し皆発っていった

 わたしが一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光った

 わたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた
そんな馬鹿なことってあるものか
ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた

 わたしが一番きれいだったとき
ラジオからはジャズが溢れた
禁煙を破ったときのようにくらくらしながら
わたしは異国の甘い音楽をむさぼった

 わたしが一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしはめっぽうさびしかった

 だから決めた できれば長生きすることに
年とってから凄く美しい絵を描いた
フランスのルオー爺さんのように 
              ね


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