「日本語の学校」 声に出して読む<言葉の豊かさ> 鴨下 信一 平凡社新書 2009年
はじめに その1
幸せなことに、父も母も声の良いのが自慢で、幼いぼくに絵本・童話を読んで聞かせるのを厭がりませんでした。といっても、戦前の東京下町の商家は一家総出で働かねばなりません。結局、ぼくの面倒を見るのはご隠居さんである祖母の役目になりました。
祖母は、ひどい悪声でした。昔は「塩辛声」といったガラガラ声です。ところがこの祖母が読んでくれたほうが、ずっと話がよくわかって面白い。読み手として、とても上手だった。
この時代の老人だから新聞も雑誌も口の中でブツブツ音読する。声に出して読むのに慣れていたんじゃないかと思います。それと芝居や寄席が大好きで、しじゅう出かけていた(必ずぼくを連れて行くので、おかげでぼくの年齢(とし)では見ているはずのない六代目菊五郎や十五代目羽左衛門といった名優をよく覚えています)この芝居好き、演芸好きが祖母の読みのレベルを高くしていたことは間違いありません。
なんといっても「間(ま)」がいい。子供心にも、巧い読み手は間がいいので声の良さじゃないな、ということがよくわかりました。
はじめに その1
幸せなことに、父も母も声の良いのが自慢で、幼いぼくに絵本・童話を読んで聞かせるのを厭がりませんでした。といっても、戦前の東京下町の商家は一家総出で働かねばなりません。結局、ぼくの面倒を見るのはご隠居さんである祖母の役目になりました。
祖母は、ひどい悪声でした。昔は「塩辛声」といったガラガラ声です。ところがこの祖母が読んでくれたほうが、ずっと話がよくわかって面白い。読み手として、とても上手だった。
この時代の老人だから新聞も雑誌も口の中でブツブツ音読する。声に出して読むのに慣れていたんじゃないかと思います。それと芝居や寄席が大好きで、しじゅう出かけていた(必ずぼくを連れて行くので、おかげでぼくの年齢(とし)では見ているはずのない六代目菊五郎や十五代目羽左衛門といった名優をよく覚えています)この芝居好き、演芸好きが祖母の読みのレベルを高くしていたことは間違いありません。
なんといっても「間(ま)」がいい。子供心にも、巧い読み手は間がいいので声の良さじゃないな、ということがよくわかりました。