リンボウ先生から「女たちへ! 」 林 望 小学館文庫 2005年
「世の中に絶えて化粧のなかりせば」 その1 P-101
私は化粧ということが大嫌いである。世の中に化粧なんて下らないことがなくなってしまわないかと思う。
それは、反動でも石頭でもなく、「女は化粧」という「常識」の中に、悲しい差別が内在していると思うからなのだが、いっぽう、清潔であること、それは、ただ垢や汚れにまみれていないという物理的な清潔さのみをいうのではない。己というものに、真剣に対峙して、自己を受容するところから自信を持って等身大に生きる、その潔さこそがもっとも尊いのだ。
テレビに、まるで歌舞伎の女形(おやま)みたいに真っ白に顔を塗りたくったオバサンが出てきて、彼女の作った白塗り化粧品を塗れと勧めるのを見た。ところがまた、口元はニコニコしつつ、目はちっとも笑っていない強面(こわもて)風のオジサンが出てきて、肌の汚れを完璧に洗い流す高価な洗顔石鹸のセットを買えと勧めるのも見た。
これでは果たして、漆喰壁のごとく塗りたくったらよいのか、それとも、途方もなく高価な石鹸を用いて、素肌で勝負したらいいのか、世のご婦人方は甚だ迷うところではないかと思った。
私自身は、「化粧という行為」そのものを好まない。化粧などという野蛮な風習がこの世からすっかりなくならないものだろうかと、そう思って暮らしている人間の一人である。
中略
「世の中に絶えて化粧のなかりせば」 その1 P-101
私は化粧ということが大嫌いである。世の中に化粧なんて下らないことがなくなってしまわないかと思う。
それは、反動でも石頭でもなく、「女は化粧」という「常識」の中に、悲しい差別が内在していると思うからなのだが、いっぽう、清潔であること、それは、ただ垢や汚れにまみれていないという物理的な清潔さのみをいうのではない。己というものに、真剣に対峙して、自己を受容するところから自信を持って等身大に生きる、その潔さこそがもっとも尊いのだ。
テレビに、まるで歌舞伎の女形(おやま)みたいに真っ白に顔を塗りたくったオバサンが出てきて、彼女の作った白塗り化粧品を塗れと勧めるのを見た。ところがまた、口元はニコニコしつつ、目はちっとも笑っていない強面(こわもて)風のオジサンが出てきて、肌の汚れを完璧に洗い流す高価な洗顔石鹸のセットを買えと勧めるのも見た。
これでは果たして、漆喰壁のごとく塗りたくったらよいのか、それとも、途方もなく高価な石鹸を用いて、素肌で勝負したらいいのか、世のご婦人方は甚だ迷うところではないかと思った。
私自身は、「化粧という行為」そのものを好まない。化粧などという野蛮な風習がこの世からすっかりなくならないものだろうかと、そう思って暮らしている人間の一人である。
中略