民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「ひさの星に添えて」 斎藤 隆介

2014年02月14日 00時15分32秒 | 民話(語り)について
 「ひさの星」 斎藤 隆介 作  岩崎 ちひろ 絵  岩崎書店 1972年

 『ひさの星』に添えて  斎藤 隆介

 蛍は、濡れた草の葉にとまって、息をするように微(かす)かに光ったり消えたりします。
 とろうと手をふれると、ポロリともろくも水の上に落ちます。
 天の蛍―――、星は、青白くまたたき息づきますが落ちるようなことはなく、
人々はその輝きをふり仰ぎます。
 ひさは、蛍のようにかそけくしずかな少女でした。
そのひさがどうして水に落ちて流され、そして天の星になったか―――、それがこのお話です。

 小さいもの、弱いもの、仲間たちは、自分の命を捨てても守らなければならない!
と声高く叫んでその道をつき進む人は立派です。
 しかし、黙ってその道を歩いてゆく人もいます。
ひとにほめられたりしたら頬を赤くするのです。
 そういう人たちが、私には星のように輝いて見えます。
声高く叫ぶ人の声がかれ、歩くのをやめる時も、この人たちは黙って歩き続けます。
時には死に向かってさえも。
 今は声高く叫ばなければならぬ時かもしれません。
しかしその人たちの心のシンに、星のように黙って輝くやさしさが、本当の強さの核となって、
更にその歩みを続けさせてほしいと私は願います。

 その、ほんとうの強さのシンとなる星のしずくのようなやさしさを、
岩崎ちひろさんはひさの姿を通して見事に描いて下さいました。
 この「星の絵本」が、日本中の少年少女の手にとられ、胸に輝くことを願ってやみません。