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「民俗学の旅」 宮本 常一

2012年11月27日 00時15分20秒 | 民話の背景(民俗)
 「民俗学の旅」 宮本 常一 旅立ちの日に 父から授けられた 十か条

 1、汽車へ乗ったら 窓から外をよく見よ、田や畑に 何が植えられているか、育ちがよいかわるいか、
村の家が大きいか小さいか、瓦屋根が草葺きか、そういうことを よく見ることだ。
駅へついたら 人の乗り降りに注意せよ、そして どういう服装をしているかに気をつけよ。
また、駅の荷置き場に どういう荷がおかれているかをよく見よ。
そういうことで その土地が富んでいるか貧しいか、よく働くところかそうでないところかよくわかる。

 2、村でも町でも 新しくたずねていったところは かならず高いところへ上って見よ。
峠の上で 村を見下ろすようなことがあったら、お宮の森やお寺や目に付くものをまず見、
家のあり方や田畑のあり方を見、周囲の山々を見ておけ、そして 山の上で 目をひいたものがあったら、
そこへは かならず いって見ることだ。
高いところで よく見ておいたら 道にまようようなことはほとんどない。

 3、金があったら、その土地の名物や料理は たべておくのがよい。
その土地の暮らしの高さがわかるものだ。

 4、時間のゆとりがあったら、できるだけ 歩いてみることだ。
いろいろのことを教えられる。

 5、金というものは もうけるのは そんなにむずかしくない。
しかし、使うのがむずかしい。それだけは忘れぬように。

 6、私はおまえを思うように勉強させてやることができない。
だから おまえには何も注文しない。すきなようにやってくれ。
しかし 身体は大切にせよ。三十才までは おまえを勘当したつもりでいる。
しかし 三十過ぎたら 親のあることを思い出せ。

 7、ただし 病気になったり、自分で解のつかないようなことがあったら、郷里へ戻ってこい、
親はいつでも待っている。

 8、これからさきは 子が親に孝行する時代ではない。親が子に孝行する時代だ。
そうしないと 世の中はよくならぬ。

 9、自分でよいと思ったことはやってみよ、それで 失敗したからといって、親は責めやしない。

 10、人の見のこしたことを見るようにせよ。その中に いつも 大事なものがあるはずだ。
あせることはない。自分の選んだ道をしっかり歩いていくことだ。