安倍「壊憲」政権に異議あり: 保守からの発言 | |
クリエーター情報なし | |
河出書房新社 |
応援に感謝、励みになります!
●外務は害務 やっぱり、安保マフィアの掌で踊っていた安倍
たしかに、安保法制に関して、政府答弁は二転三転していた。中谷がしどろもどろだ、安倍は自分が出したテロップの意味が分かっていない。それに、安倍と中谷の言っている事も違っていた。マスメディア、特に公共放送NHKが、この矛盾を指摘する意思は皆無で、籾井会長のファシズムは相当に浸透している事を窺わせた。NHKが殆どの人間が寝静まってからの「時事公論」(零時から10分間)の中では、安倍政権へ手厳しい評論を加えていたが、7時のニュース、9時のニュースの絶対影響力に比べれば、月とスッポンだ。
孫崎氏は、幾分煽り気味な表現を使うので、胡散臭さが目立ってしまうのが残念だが、殆ど彼の言う通りだ。外務省条約局(現国際法局)のODA外交と云うツールが弱まったので、同じく弱まった米軍の下請け(警察犬、軍用犬)をさせて、その補完を試みていた。都合のいいことに、安倍の集団的自衛権の行使を政治的実績にするという目論見を都合よく利用した点で、極めて狡猾だ。外務省にしてみれば、外交には何らかのツールが必要であり、ODAツールが中国勢の勢いに牛耳られているとなると、宝の持ち腐れ(彼らの目から見れば)をフル活用するのは論理的であり、正義だ。
しかし、彼らの外交基軸は、永遠にアメリカンスクールであり、アメリカから一寸たりとも離れない思考停止集団だと云う点も忘れてはならない。現状認識までは、あまり間違っていないのだが、そこからの未来予測戦略にかけている。親亀こけたら、孫亀までこける事を知っていながら、その時はその時、少なくとも我々の時代には起きない地殻変動だ。その時は、その時の勢力図を勘案して、次の手を後輩らが打てば、それで良い。官僚にとって、未来への歴史認識は不要であり、それを考え国民の支持を得るのは、政治家の責任だ。我々は、今現在の現状と省庁の利益を破壊しないように動かなければならない。
外務だけではないが、官僚とは所詮そう云うものだ。マックスウェバーが明言している。だから、政治家の姿勢が民主主義では、極めて大切なわけで、安倍のような尋常ではない個人的執着を持った政治家が内閣総理大臣になるような、永田町の勢力図を成立させてしまっては、民主主義の敗北になる。つまり、主権者である国民が敗北したと云うことだ。この狂ってしまった歯車を、最低限、民主主義的手続きが踏めるだけの状況を作るのが野党政治家務めである。こと此処に至っても、自党の利益相反に配慮した民主党岡田のような政治家がいる限り、実は党内での民主主義を行っているだけで、国家を巻き込む民主主義からは、どんどん遠ざかっている。そういう事である。魚住氏の今夜のコラムは値千金だ。
≪ 安保法制、デモ隊も見逃した「陰の主役」〜外務省条約局マフィアの狙いと画策
【デモ隊も見逃した「陰の主役」たち】
■外務省の超エリート
条約局マフィアという言葉を聞かれたことがおありだろうか。外務省の超エリート・旧条約局(現国際法局)の局長経験者を中心に形成された人脈のことだ。
たとえば安保法制懇の柳井俊二座長。国家安全保障局の谷内正太郎局長。外務省一の切れ者とされる兼原信克内閣官房副長官補。安倍首相が法制局長官に起用した小松一郎氏(昨年病死)。みんな条約局長(国際法局長)経験者で、条約局マフィアの代表格と見なされている。
安保法制を執拗に画策してきたのは彼らである。彼らこそ官邸の主役だと言っていいだろう。私はこれまで官僚の掌で政治家が踊る姿を何度も見てきたが、今ほど官僚が政治を思うままに動かす局面を見たことがない。
先月末、河出書房新社から出た『安倍「壊憲」政権に異議あり 保守からの発言』(佐高信編著)で山崎拓元自民党副総裁がこう語っていた。
〈いまの内閣はまたぞろ官僚支配内閣になっている。自民党支配の内閣ではない。(中略)官僚が好きなようにやっているという状況が出来している〉
ご承知のように山崎さんは自民党タカ派(改憲派)の有力者だった人で、防衛庁長官もつとめた安保政策の専門家だ。 山崎さんは、安倍首相には集団的自衛権の行使を政治的実績にするという目論見があり、それに官僚が従って法制化した――という部分ももちろんあるのだがと断って、こうつづける。
〈むしろこの機会にとにかく自衛隊を海外へ外交のツールとして展開させたいという、外務官僚の宿願が安保法制を推し進めるようになってきた。これは 大変危険な事態です。もちろん集団的自衛権の問題ではあるのですが、集団安全保障のほうに官僚たちの宿願があるわけで、積極的平和主義という名のもとにそれをやろうとしている〉
山崎さんの言う外務官僚とは即ち条約局マフィアのことだろう。ちなみに集団安保とは、国連決議に基づいて侵略国を叩く措置だ。同じ武力行使でも「守る」ことを目的とする集団的自衛権とはまるで次元が違う。
■彼らが集団安保に拘る理由
条約局マフィアが集団安保にそこまで拘る理由は何か。山崎さんによればこういうことだ。
日本は今までODA(政府開発援助)で外交をしてきた。だが、1998年に1兆円をはるかに超えていたODA予算が、今はその4割しかない。
一方、アフリカや発展途上国へのODA支援では中国の力が強い。人海戦術もあって支援が厚いので日本は対抗できなくなっている。また中国の軍事力膨張に対しASEAN10(東南アジア諸国連合10ヵ国)が怯えてきている状況もある。
〈そこで我が国も自衛隊という軍事力を外交のツールとして駆使したいということです。これは外務官僚の意志であり、同時にアメリカの要請でもあります。世界の警察官としてふるまってきたアメリカは、軍備が老朽化して、軍事費も減らして足元が弱っている。そこでアメリカは警察犬が欲しいということで、 日本という警察犬を引きまわそうとしている〉
山崎さんの解説には説得力がある。彼は(1)安倍首相の目論見(2)外務官僚の意志(3)米国の要請――という3つの視点から法案を分析している。
そのうえで実は「軍事力を外交のツールとして駆使」するための集団安保こそ条約局マフィアの狙いなんだよと重大な警告を発している。
では、彼らはどうやって宿願を果たしたのか。その手口の一端を朝日新聞が連載「検証 集団的自衛権」で書いている。
昨年5月の会見で首相は外務省が求める集団安保への参加を否定し「湾岸戦争やイラクでの戦闘に参加することは、これからも決してない」と明言した。
集団安保まで認めるのは「憲法の論理として無理」との意見が礒崎陽輔首相補佐官(国家安全保障担当・総務省出身)らを中心に政府内で強かったからだ。
ところが外務官僚は諦めなかった。集団的自衛権をめぐる与党協議にこっそり集団安保を潜り込ませようと画策した。たとえば議論の叩き台となる事例集。ホルムズ海峡の機雷除去のケースではイラストに米国旗とともに国連旗を並べた。
二つの旗から自衛艦に矢印がのび「機雷掃海活動への参加要請」と記されていた。米国を守るための機雷除去は集団的自衛権だが、国連から要請されると集団安保になる。それを見て集団安保推進派の「ヒゲの隊長」こと佐藤正久参院議員は外務省の仕掛けに気づき、ニヤリとしたという。
事例集作成の中心になったのは条約局マフィアの兼原信克副長官補だった。朝日は外務省の狙いを〈1991年の湾岸戦争で国際社会から「カネだけ出した」と批判されて以来、自衛隊の活動範囲を広げて「外交カード」を増やしたい考えがあった〉と説明している。
■画策はさらにつづく
その後の与党協議で配られた「高村(自民党副総裁)試案」では従来の「自衛権発動の3要件」が「武力行使の3要件」に変わった。自衛権を逸脱する集団安保を加える含みを持たせたのである。それと並行して首相の国会答弁も軌道修正された。
決戦場となったのは6月16日の自民側と政府側の会議だった。集団安保をめぐって推進派と慎重派の意見が対立した。その議論にじっと耳を傾けていた高村正彦副総裁は最終的に推進派に軍配を上げた。朝日はこう締めくくっている。
〈反発する公明党に配慮し、閣議決定文に「集団安全保障」の文字は書き込まれなかった。しかし、国家安全保障局が作った想定問答には、武力行使の3 要件を満たせば、「憲法上許容される」と記された。/密室で繰り広げられた集団安保をめぐる暗闘。外務省の悲願であった武力行使への道が開けた〉
法案採決を目前にして私は自衛隊員の心情を思う。外務官僚の「カード」や「ツール」にされてしまったら、彼らの浮かぶ瀬はどこにあるのだろうかと。
*参考:朝日新聞2014年7月6日付朝刊〈検証 集団的自衛権〉(同連載は『安倍政権の裏の顔』(講談社)で書籍化される)
≫(現代ビジネス:わき道をゆく~魚住昭の誌上デモー『週刊現代』2015年9月26日号より)
安倍政権の裏の顔 「攻防 集団的自衛権」ドキュメント | |
クリエーター情報なし | |
講談社 |