世相を斬る あいば達也

民主主義や資本主義及びグローバル経済や金融資本主義の異様さについて
定常で質実な国家像を考える

●閣議決定に走る安倍内閣 ある日突然、自衛隊はウクライナの地で、血を流す

2014年02月28日 | 日記
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●閣議決定に走る安倍内閣 ある日突然、自衛隊はウクライナの地で、血を流す

 長谷川幸洋氏が、「集団的自衛権の行使容認めぐり安倍首相を批判する政治家は「さっさと本質論を議論せよ!」と題して、安倍晋三の憲法解釈の閣議決定の正当性を屁理屈でもって擁護している。同氏のジャーナリストとしての立ち位置を、政治的ウィングを固定化するような最近の振る舞いは、非常に残念な印象を持つが、一人の人間の人生の選択なのだから、敢えて非難するのは、やめておこう。ただ、同氏がこのコラムを書くにあたって、重大なヒントは、NYTの社説において、語り尽くされている。謂わば、NYTの社説の長谷川バージョンに過ぎない。

 同氏のコラムを引用した上で、NYTの社説も連続で引用しておくので、その趣旨が同じであるが、その最終結論で望んでいることが異なる点は、明瞭だ。まぁ、一応いっぱしの書き手なのだから、卑近な実例を引っ張り出し、政治的非難もつけ加えるあたり、商売人としては、見習うべき点も多い(笑)。読者にもっとらしさを印象付ける。しかし、今さら機能してもいない三権分立の原理を主張しないと、国家の意思決定が正当化できない、という事こそが問題なのだろう。屁理屈ではなく、なぜ、安倍政権においてのみ、憲法解釈の閣議決定が筋論になってしまうのか。この部分の掘り下げが稚拙だ。

 仮に、安倍内閣の憲法解釈閣議決定が、正当なものであるなら、内閣法制局長官の人事を弄繰り回したり、最高裁長官の健康的理由と云う、疑問を挟みにくい理由づけで、早期退職を決意させているような出来事は、何のために起こっているというのだ。上述のような人事が合法的であるが無理筋で行われている事実は、そもそも、安倍内閣が、憲法違反となり得る、内閣による閣議決定を行おうと確信的に決意している表れだろう。その上で、憲法違反なら、最高裁が裁きなさい。

 しかし、最高裁における判断が、予定調和な流れで「事情判決」を出すことは判り切っているのだから、やはり、現実的な論争の対応は、理屈に関係なく、国会の議論が初めにありき、と云う選択が、現実には則している。長谷川の言説は、最高裁の事情判決を前提で語っているし、NYTはそこまで、日本の司法が腐っていないという認識で語っている。同じような論旨でありながら、長谷川氏は、安倍内閣の好き勝手がまかり通ることを望んでいるし、NYTは、最高裁で歯止め掛けられると、未だ日本の三権分立に、一縷の望みを抱いている。


 ≪ 集団的自衛権の行使容認めぐり安倍首相を批判する政治家は「さっさと本質論を議論せよ!」

  集団的自衛権の行使容認を目指す安倍晋三首相の憲法解釈手続きをめぐって、与党である公明党の漆原良夫国対委員長が自分のメールマガジンなどで痛烈な批判を展開している。ポイントは次の部分だ。
「ある日突然総理から『閣議決定で憲法解釈を変えました。日本も今日から集団的自衛権を行使できる国に変わりました』などと発表されても国民の皆さんは、 到底納得されないと思います」「『なぜ変更する必要があるか』『変更した結果、何が、どのように変わるのか』など、国会で十分議論をして国民的合意を得る 必要があると思います」(いずれもhttp://urusan.net)。

■与野党の議員から似たような「安倍批判」

同じような批判は野党である民主党の岡田克也元代表も、国会質問や自分のブログで次のように展開している。 「内閣で決めるときに与党との調整、そして何よりも国会での議論が必要だ。内閣で決めてから議論するのではなく、案を固め、それを示し、国会でしっかり議論すべきである」(http://blogos.com/outline/81186/)。

安倍は憲法解釈の変更手続きについて、政府の「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇、柳井俊二座長)が4月に出す報告書を受けて、内閣法制局を中心にまず政府内で議論し、それから与党とも協議して、最後に政府が閣議決定するという段取りを想定している。 漆原と岡田の批判は「政府が閣議決定する前に国会で議論せよ」という主張だ。

これをどう考えるか。 まず予備知識として閣議決定について説明しておきたい。そもそも「憲法解釈を閣議決定する」などという話がこれまであったのか。 民主党政権時代に私も加わった超党派議員・有識者による「憲法円卓会議」で事務局長役を務め、いま慶応義塾大学大学院法学研究科講師の南部義典によれば 「憲法解釈を閣議決定した例はありません。とくに憲法9条をめぐる解釈は、これまで内閣法制局長官の国会答弁や答弁書などによって定まってきました」という。 そうした国会答弁や答弁書の積み上げによれば、いまの政府解釈は「集団的自衛権を保有しているが行使は認められない」となっている。

たとえば次のようだ。 「我が国は主権国家である以上、国際法上、集団的自衛権を保有しているが、憲法第9条の下で許容される自衛権の行使は自国を防衛するため必要最小限度の範 囲にとどまるべきことから、集団的自衛権の行使については、この範囲を超えるため、憲法上認められない」(1981年5月29日「稲葉誠一衆院議員の質問主意書に対する答弁書」など。参議院憲法審査会ホームページ) つまり、これまでは実質的に内閣法制局が憲法解釈を示し、それを歴代の内閣が追認してきた。それで内閣法制局の解釈が定着した。これが実態である。言い換えれば、官僚が憲法を解釈し、首相を含む政治家が後で認めてきたのだ。

■「手続き」的には安倍首相の主張に問題なし

今回の問題は解釈を官僚ではなく、行政府としては最終的に「政治家である首相と大臣たちが閣議で決める」という話である。それに何か問題があるか。ない。 当然だ。もしも官僚が憲法解釈を決めてしまって、首相も閣僚も異論を唱えられないとなったら「この国の政府で一番エライのは、内閣法制局長官=官僚だ」と いう話になってしまう。とんでもない事態である。 念のために言えば、憲法解釈を最終的に決めるのは行政府でも国会でもない。もちろん最高裁判所である(憲法81条)。 これまでは内閣法制局が憲法解釈を示して、それに内閣も異論を唱えなかったから、政府全体として整合性がとれていて、何も問題はなかった。しかし今回、安倍政権は内閣の責任において解釈を変えようとしている。それは行政府のふるまいとして問題はない。

問題があれば、最終的には最高裁で決着をつける。それが三権分立である。 従来は政府の解釈を国会答弁で示してきただけなのに、今回は念を入れて閣議決定しようとしている。国会答弁より閣議決定のほうが重みがあるのはもちろん だ。憲法解釈を「官僚まかせにせず政治家で構成する内閣が責任をもとう」という話なのだから、民主主義統制の観点からみても、閣議決定で明確にするのは結 構な話である。

■国民に誤解をまき散らす「批判」

そこで漆原・岡田の批判になる。2人は「内閣が閣議決定する前に国会で議論を」と言っている。それは妥当か。私はおかしいと思う。国会で議論するのは当然だが、そのとき政府が自分たちの方針を決めていなかったら、どうやって質問に答えるのか。 内閣が首尾一貫した答弁をしようと思ったら、まずは自分たち内閣が方針を決めていなければならない。そうでなかったら、答えようがない。答えたとしても支離滅裂になりかねない。そういう方針決定こそが閣議決定である。 岡田は国会質問で「(政府が閣議決定で方針を決めて)既成事実が積み重なってから国会で審議するわけにはいかない」と述べているが、こうなると、何をか言わんやだ。 政府が決めた方針について追及するのが野党の役割である。

「政府が決めたら追及できない」などと言い出すのは、自分たちの責任放棄そのものではないか。岡田の議論を聞いていると、民主党はここまでダメになったか、とあぜんとする。 漆原は「政府が解釈を変えたら、集団的自衛権を行使できる国になる」とも言っている。これも、とんでもない勘違いだ。 政府が憲法解釈を変えたところで、肝心の法律が変わらなければ、集団的自衛権は行使できない。たとえば自衛隊法とか、もっと大事なのは自民党が用意してい る国家安全保障基本法案である。そういう既存の法律を変えたり、新たに作るかどうかを決めるところが国会である。そこにこそ与党と野党の出番がある。

問題があれば、政府が出してきた法律を変えればいい。そもそも憲法解釈は根本思想のようなもので、具体的に物事を動かすのは、あくまで法律だ。漆原は政府 が解釈を変えたら何でもできるようになる、と思っているのだろうか。政府と国会の役割を根本的に誤解していないか。あるいは国民に誤解をまき散らしてはいないか。

■「集団的自衛権の見直し」そのものをすぐに議論すべき

そこで本題である。漆原と岡田の批判のポイントは「政府が決める前に国会で議論せよ」という点にある。これはあくまで政治の手続き論にすぎない。なぜ政策の本質を議論しようとしないのか。 安倍政権の政策はまず「北朝鮮や中国の動向から東アジア情勢が緊迫している」という現状認識が出発点にある。それに対応するには、日本の安全保障体制を見 直す必要がある。その一環として集団的自衛権の解釈を見直して、関連法制を整える必要がある、と考えている。

現状認識から対応策へ、という当たり前の政策展開だ。 国会で議論が必要だというなら、こういう安倍政権の考え方こそを真正面から問い質せばいいではないか。たとえば、東アジア情勢をどう考えるのか。それに対応するには何が必要で、何が必要ではないのか。政権はどう考えるのか、自分たちはどう考えるのかを正々堂々、ぶつけるべきだ。 そういう本質論を避けて「政府が決める前に国会で議論を」などという手続き論に逃げ込むのは、はっきり言えば、自分たちこそ方針が定まっていないからだろう。

民主党も公明党も集団的自衛権とその先にある憲法改正について、党としての方針が決まっていない。だから本質論を展開できないのである。 それで「議論を、議論を」などと言っている。そんなセリフは、どこかの新聞の社説にまかせておけばいい。国民が政治家に託しているのは、はっきりした方針とそれに基づく論戦である。 東アジア情勢は緊迫している。つまらぬ手続き論はいい加減にしてもらいたい。そんなことより、なぜ集団的自衛権の見直しが必要なのか。具体的な中身の議論をさっさと始めてほしい。それができないようなら、与党だろうが野党だろうが、国会議員の資格はない。 
≫(現代ビジネス:長谷川幸洋)


≪ 憲法を個人の意のまま変えようとする安倍首相を最高裁で裁けと警鐘!
http://www.nytimes.com/2014/02/20/opinion/war-peace-and-the-law.html
戦争と平和と法 2014年2月19日 論説委員会

 日本の安倍晋三首相は、正式な修正によらず、彼自身の再解釈をもって、日本国憲法の基本理念を改変するという暴挙に出ようとしている。
  日本国憲法では日本の軍隊(自衛隊)の活動は日本の領土内での防衛に限り許されているというのが一般的理解だが、これに反して安倍氏は、同盟国と協力し日本の領土外で攻撃的な活動を可能とする法律を成立させたがっている。これまで何年にもわたって削減されてきた自衛隊を増強するため、彼は精力的に動いてきた。そして他の国家主義者たちと同様に、彼は日本国憲法の条文にうたわれた平和主義を否定する。
 憲法には「日本国民は…、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と記されている。日本がより広範な役割を果たす前に、憲法の修正がまず必要とされることを、歴代の政権は合意してきた。総理府の内閣法制局は、権力の乱用を防ぐため新しい法律の合憲性を監視する機関だが、これまでこの解釈に同意してきた。
 法制局に立場を反転させるよう圧力をかけるため、安倍氏は8月に通常の手続きを踏まず、法制局長官に部外者の小松一郎を指名した。小松は集団的自衛という考えに同調する外務省官僚であった。安倍氏の選んだ専門家の一団[訳者注:「安全保障の法的基盤 の再構築に関する懇談会」のこと]はこの問題に対する報告書を4月に発表し、安倍氏を後押しするであろうと見られている。安倍氏は先の国会で、国民は次の 挙で彼に審判を下すこともできると暗に示したが、それは立憲主義の誤った見方である。安倍氏は当然、日本国憲法を修正する動きに出ることもできるはずである。そのための手続きが面倒すぎるとか、国民に受け入れられないといったことは、法の支配を無視する理由にはならない。
 最高裁は日本国憲法の平和主義的な条項について見解を示すことを長らく避けてきた。安倍氏がもし自らの見解を日本の国に押し付けることに固執するのなら、最高裁は安倍氏の解釈を否定して、どんな指導者でも個人の意思で憲法を書き替えることはできないことを明らかにすべきである。
 ≫(NYT社説: @PeacePhilosophy (翻訳:酒井泰幸)

 多少蛇足になるが、米国軍事産業勢力やネオコンは、安倍内閣が早期に「戦争のできる日本」の実現を待ち望んでいるだろう。オバマは、望むべきものではないが「背に腹は変えられぬ」心境で、その方向性を利用するだろう。ウクライナにおけるネオナチ的動きは明らかで、憎きプーチンを世界の政治シーンから追い出すためなら、「悪魔とでも手をつなごう」とアメリカと云う国独特の発想に至っている筈。北アフリカ、シリアにおけるアルカイダの利用と云い、ウクライナのネオナチ利用と云い、アメリカと云う国は、そういう策略で生きている国だ。

 早晩、ウクライナは内戦になる可能性が強いが、安倍内閣の集団的自衛権解釈閣議決定後、ウクライナ内戦に、準NATO軍として、ネオナチ性を帯びるEU加盟支持軍に加勢させられる可能性は大いにある。イスラム勢力の抬頭に、真っ当に対峙する能力・気力を失った西側陣営の戦略は、アルカイダであれ、フセインであれ、ファシズム安倍であれ、西側に住むネオナチであれ、あらゆる悪魔を利用しようというわけだが、そんなに戦略がズバリ的中と云うことはありえず、日本が酷い目に遭うだけではなく、西側陣営そのものが大混乱と崩壊に突き進むリスクを包含しているようだ。

プーチン 最後の聖戦 ロシア最強リーダーが企むアメリカ崩壊シナリオとは?
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●アベノミクスの大誤算 異次元金融緩和の” ツケ ”を一番多く払う国は円安日本

2014年02月27日 | 日記
日本経済撃墜 -恐怖の政策逆噴射-
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●アベノミクスの大誤算 異次元金融緩和の” ツケ ”を一番多く払う国は円安日本

 昨日からの思考の続きになるが、わが国のデフレ脱却の経済政策が正しいものであったのかどうか、改めて考えさせられる昨今である。円高がわが国製造業の国際競争力をスポイルしていると云う多くの経済学者の言説が、永久不滅の真実であるかのようにマスメディアで喧伝されたのは、ほんの少し前のことである。しかし、国の対策は20年以上無策だった為、民間企業は自力で、この円高に対する対策を講じていた。その結果、日本の輸出製造業においては、市場により接近した現地生産システムが講じられた。

 このような流れは、グローバル経済においては必然的流れであり、現地生産の経営方針は、必ずしも為替の“円高”だけが海外生産の要因ではなかった。組み立てなどの単純な作業を現地化することは、輸送コストの観点からもメリットが認められるし、顧客である地域の雇用を提供すると云う、“ウィン・ウィン”で貿易摩擦を生まない意味で、現地生産は欠かせない経営方針であったと思われる。おそらく、主たる輸出企業の心地よいドル為替相場は、90円前後だったと推量できる。その意味で、現在の102円前後の円安状況は、思わぬ副作用を生み出す結果を惹起している。マスメディアのプロパガンダ報道の行き過ぎと、経済団体首脳らの妄言に踊らされた帰結である。

 この経済団体の老人達と東大話法の腐れきった学者の罠に、安倍政権と黒田日銀が見事に嵌りこんだ図式に見えて来る。外国人投資家は、「アベノミクス」だとおだて上げ、日本政府と日銀に、円安為替誘導を唆したのである。唆す方も悪いが、その唆しに踊らされた日本の経済エリートこそ、最悪の人間達である。誰も、誰一人、現在の過度な円安状況を放置し、あたら国家の富を、たかが僅かな製造業を救うつもりで、逆に悪化させている現実に目を覆っている。“過ちを改むるに憚ることなかれ”孔子の教えも、馬の耳に念仏になっている。

 筆者のひねくれたモノの見方だが、2014年の消費増税を決定するために、幻の景気浮揚状況を作り上げなければならなかった、些末な事情でアベノミクスは始められた側面がある。その結果、輸入価格の上昇により、GDPはまさしく伸びた。笑わせるが、GDPが成長したおかげで、国家の富が国外に流出すると云う、本末転倒が起きているのが現状だ。市場原理主義的言説を弄する輩は、いまだに「規制改革こそ、経済浮揚の一丁目一番地」と捲し立てるが、規制改革が経済浮揚の決め手などではない。これ以上、円安状況が継続すれば、日本は唯一の経済国家である債権大国と云う地位から追い落とされるのである。債権大国の称号のなくなった日本など、世界最悪の老人国家と云う醜態だけが晒されるのは必定だ。

 昨日のコラムでも言及したように、今や貿易赤字国であり、経常赤字国家として、恒常的になりつつあるのだ。アベノミクスの大誤算を、素直に認め、異次元の金融緩和政策を店仕舞いしないことには、収拾は殆ど不可能な状況にまで追い込まれている。新興宗教のような竹中平蔵の妄言につき合っていたら、本当に奈落の底で心中するようなものである。あのような“むくつけき小男”と心中とは、あまりと言えばあまりではないか(笑)。それこそ、“過ちを改むるに憚ることなかれ”である、素直に大誤算を緊急に修正するのがお国の為である。これをもって、国益という。

 円高不況が元凶だと言い立てた言説が、実はまったくの的外れであったことは、既に証明済みである。逆に円安による大不況の方が、どれほど怖いか、考えただけで背筋が寒くなる。唯一の取柄、債権大国からの凋落。内需主導の国家が、僅かな輸出製造業を再生させようと、“角を矯めて牛殺す”の典型的狂気の円安誘導政策なのである。詳細の数値は別にして、ざっくり見ても、日本のGDPへの寄与率は、内需が80%を超えているのだ。つまり、純粋に外需でGDPに寄与している率は10%前後になる。つまり、10%前後を優遇するために、80%以上の内需に不必要な負荷を掛けるわけである。正常な神経の持ち主には選択不可能な経済政策である。

 オバマがTPPでアジア回帰だと喚いていたのは、昨日のようだが、今まさにオバマの口から“TPPだ!”と云う言葉は封印された。何故かと云えば、急遽の言い逃れで、オバマは外需に言及したに過ぎないことが、次第に見えてきた。そもそも、アメリカの経済は典型的な内需国家であり、GDPの90%以上が内需に頼っているのだ。まぁ消費生活が大好きな国民性だから、その傾向も頷けるが、財政は常に逼迫するわけでもある。その上、中国や日本に国債を購入してもらって、息をしているのが米国経済なのである。ところが、マクロ経済の面白いところだが、この贅沢三昧の米国経済が世界一の経済大国だと云うのだから、勤勉が何なのか、倫理道徳的に考えると、間尺に合わない感覚になる(笑)。

 しかし、賢いオバマは、内需主導国家が、無理をして外需を伸ばす政策の誤謬に気づき、早速、FRBとの連携で金融緩和政策の緊縮に乗り出していると云うわけだ。世界金融勢力は、アメリカが降りるのであれば、次は日本がマネー供給を行う責務があると囃し立て、無尽蔵のマネー供給基地にさせようとして、黒田と安倍を褒めそやした。ドイツ、中国、韓国などはGDPに占める外需の割合が40%前後の国と同等の観念で、経済政策を行うことは、絶対的自殺行為である。

 ついでに、一言付け加えておくなら、原発停止により、火力発電等の稼働が顕著で、原油や天然ガスの輸入が増大して、貿易収支を悪化せていると云う言説も、嘘っぱちである。LED照明など省エネ等々の要因もあるが、2013年をピークに、燃料輸入数量は減少している。貿易赤字を引き起こしている原因の多くは、為替の円安政策である。小泉純一郎、細川護煕らが主張する再生可能エネルギーへのシフトで、内需は現在の80%から90%以上にまで跳ね上げる可能性があり、極めて世論を語っていた。まぁ貿易立国と云う記憶から抜け出せない、お馬鹿な国民が多数を占める以上、奈落を見て、負債大国になるのも、悪くはないだろう。最低でも、FRBに右習えするのが、唯一の救済の道である。

インフレどころか世界はこれからデフレで蘇る (PHP新書)
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●奇妙な動きの日経平均、誰がイタズラをしているのか? 円安は日本にとって不利?

2014年02月26日 | 日記
99%の国民が泣きを見る アベノミクスで貧乏くじを引かないたった一つの方法
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●奇妙な動きの日経平均、誰がイタズラをしているのか? 円安は日本にとって不利?

 2014年1月、ジョージ・ソロスが日本株は「売り局面、探し」と云う趣旨の発言をしたの、しないの噂が駆け巡って以降、安倍晋三登場以降、日本株の上げ相場を牽引してきた海外資金の動きに方向感がなくなったのは事実だ。必ずしも、売り一辺倒ではないが、以前のように全面買い越しムードは沈静化している。日経平均の上げ幅、下げ幅を観察していて思うことは、日経平均であるにも関わらず、仕手株のような値幅で、上下する点が目につく。

 個人株主たちの力量で、日経平均がこのような動きをすることは考えられないので、何らかの資金が株価を一定のレンジで買い支えているのではないか、と云う疑問が生じる。当然のことだが、巷にあって、このメカニズムの仕組みをあからさまにする能力は持ち合わせていないが、海外勢の買いでもなく、個人の買いが原動力と云うこともあり得ないとなると、その行為の主体がどちらの方向を指し示しているか、消去法に頼ることになる。証券会社の自己売買部門が動いている可能性もあるが、根拠なく彼らがリスクを負うと云うのは、地合いから考えてあり得ない。

 政府にせよ、金融当局にせよ、公的資金にせよ、株価が一定のレンジで安定的に動くことは好ましい状況である。しかし、法律上の問題点はクリアしているとしても、金融当局や政府が、その手持ち資金で株式投資が出来ると云うメカニズムには、何とも釈然としないものを感じる。倫理的な立場から眺めれば、このような行為はインサイダー取引の典型のようなものだろう。自ら、次に打つ経済政策を知ったうえで、株式投資をしている点では、個人の犯罪とされるインサイダー取引と構成要件は同じなのだ。

 勿論、相違点もある。個人のインサイダー取引による、ゲインは個人の懐に入るわけだは、政府や金融当局の行うインサイダーは、何らかの形で国家または金融当局の金庫に収まるので、まぁ国の財産が増えたともいえる。しかし、だから、そのような手法は正当性がある、と云う主張にも疑問はある。なぜなら、自由に民間資金が株式の売買を行うことを提供するために存在する株式市場の透明性や自由度を痛く傷つける惧れがあるわけで、市場の原理に公的な影響力が反映するのだから、本質を歪めることは確実だ。

 実際問題、どこの資金が、どれだけ株式市場に流れているか、的確に指摘する証拠はないが、仮にそのような流れで日本の株式市場が自由度を失った場合、国際的信用において、疑念を持たれるのは当然だろう。実際には、日本に限らず、多くの自由主義国家でも、なされている行為だとして、投入できるだけの資金が潤沢でない限り、その行為は出来ない。その点では、日本の金融当局、特に日銀は使い道のない資金が「ブタ積み」されているのだから、資金は無尽蔵と云う理解しても良い。投資信託系の資金も、NISAの運用開始以降、日本株に有利に働いているのも事実だ。

 しかし、日本国内経済の体質は、総体的に低下の一途を辿っているのは事実で、最終的に、此処の企業利益と株式価格の間に、大きな齟齬が生まれ、最終的には、大暴落と云う憂き目に遭う可能性は大いにある。この時、公的機関の株式投資の損害は、概ね国民の身に見えない財布に響くわけである。利益が国民の隠れた富であるなら、損害も隠れた瑕疵として残るのである。そして、このような仕組みにおいては、誰一人、その責任を負う者は不存在で、ただ虚しく損害だけが、取り残されるのである。

 以上の推測は、あくまで筆者の憶測にすぎないが、日銀であれ、各種投信扱い金融機関では、一定のルールのもと、そのような投資が可能なものになっているので、公に定めたルールに則って、運用がなされているかまでは、中々実体は掴みきれない。ゆえに、現実は日銀が大量に日本株を購入することは可能なのである。なにせ自己増殖させた「ブタ積み」の資金が日銀には眠っているし、民間金融機関が、突如必要だと騒ぎ出す心配などない場合は、如何様な運用も可能になる。ある意味で、このような裏ルールが、暗黙の了解事項になっているとすれば、民間投信機関も安心して株式に資金を流せるし、穿った観察力を持つ個人も参入可能となる。誰も損を蒙らないように見えるが、個人は、最終的に損を自己責任で消化しなければならない。

 日銀は、いまだに日本の経済成長は順調に推移していると強弁に努めている。まぁアナウンス効果への期待も含まれているのだろうが、そのアナウンスに踊った個人が馬鹿を見ると云うのも罪な話だ。自己責任だから、それはそれで構いやしないが、イケイケどんどんを喧伝するには、あまりにもお粗末な、貿易収支であり、経常収支を曝け出したうえでも、この強気姿勢には、ほとほと愛想が尽きる。しかし、国民の多くが「景気と雇用」に興味の殆どを集中させていると云う、阿保らしい世論を形成してしまった以上、今さら引くに引けない情勢なのだろう。

 26日に、日銀の石田審議委員は、わざわざ講演で「4月の消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減などで4─6月の経済成長率が一時的にマイナスに落ち込んでも景気回復トレンドが失われることはない」と強調している。一時的消費税導入の反動はあるが「基調的には緩やかな回復を続けていく」と強調している。あれだけの円安にも関わらず、輸出の回復が思わしくないのはタイムラグであり、「これまで今一つだった輸出や設備投資が伸びてくることが期待される」と語った。どうも、日銀の頭脳には、日本の製造業の地殻変動がかなりの規模で起き、定着している事実から目を背けているように思える。

 たしかに、為替の影響を受ける輸出産業の伸びにタイムラグがあるのは事実だ。しかし、その理屈が通用するのは、製造業が同一の生産構造においての話で、近時の製造業の生産構造の変化を過小評価している疑いがかなりある。最近の急激な円安誘導により、天然ガスの輸入額の増大が貿易収支の元凶のように喧伝されているが、将来的に見れば、再生エネルギーや水力の活用ひとつで、いずれ解決し得る問題であって、時節柄の要因と位置付けることが出来る。しかし、解決が容易ではない問題の方が元凶になろうとしている。これこそが、大問題なのだ。

 この1月の日本の貿易収支で目を引くのが、電機関連の輸入の急増なのである。太陽電池、半導体、スマートフォンなどの輸入が前年比34%も伸びていることだ。エネルギー関連の輸入が2.8兆円はさておき、電機関連の輸入が1兆円を超えていることは、今までの日本の産業構造上、あり得ない出来事なのである。貿易赤字額2兆8千億の中で1兆円の電機関連の輸入は、日本の製造業の構造変化を如実に表している。太陽電池や半導体の輸入が拍車を掛けたわけだ。面白い点は、この輸入が必ずしも、海外へ単純外貨が出ていくに構造ではなく、日本企業の海外生産地からの逆輸入の要素も大きく含まれるので、本当の貿易赤字なのか?と云う側面もある。

 半導体などは、日本企業が中機能半導体の生産を抑えていることにより、純然たる海外製品を購入しているのだが、数量はさして伸びていないのに、円安により、金額は大きく伸びる結果になっている。このように、日本の製造業の生産過程の構造的変化も為替政策を行っていかないと、思わぬ円安のマイナス効果が表れるような時代になっている。どうも、日本の金融関連の携わる人々は、口々に“グローバル化だ”と言う割には、その選択において、必ずしも、その口にした“グローバルに展開する企業実態”を考慮しない、ロジックで政策を行おうとしている惧れが多分にある。

製造業が日本を滅ぼす
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●ウクライナと東西対立 安倍首相は国益に沿う決断出来るか「日露首脳会談」(2)

2014年02月25日 | 日記
内心、「日本は戦争をしたらいい」と思っているあなたへ (角川oneテーマ21)
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●ウクライナと東西対立 安倍首相は国益に沿う決断出来るか「日露首脳会談」(2)

 余程、火事場泥棒のような行為に手を染め、気が引けているのかどうか判らないが、早速、オバマ政権のライス大統領補佐官が、「ウクライナ騒動」に関し、ぬけぬけと天使のような発言をしている。こんな発言を早速するからには、自分たちが裏から手を回したと白状しているようなもので、滑稽でさえある。その辺は、WSJの記事を参考に読んでもらおう。

 もうアメリカが軍事上の覇権を握る地位から降りたいとでも言わんばかりのNYTの記事も目についた。ヘーゲル国防長官が、現在50万人規模の陸軍兵力を1割近く削減する方針を近々発表するようである。軍備増強に血眼になった1940年レベルに戻ろうと云うのだから、かなりの削減である。正直、米陸軍は金食い虫であり、海軍、空軍に比べハイテク化が難しい人海戦術系なだけに、この削減は、99%の米国貧困層を直撃する衝撃的軍事と云うか、国家失業率悪化に拍車をかけることになるだろう。イラク、アフガンと云う二つの戦場からの撤退を念頭に入れた計画だろうが、おそらく、ウクライナ騒動でNATO軍への増派が迫るだけに、思い通りには行かないと見るのが妥当だろう。

≪ ライス大統領補佐官、ロシアのウクライナ派兵をけん制
 ライス米大統領補佐官(国家安全保障担当)は23日、ロシアが同国にとって適切と思う政権を復活させるために軍隊をウクライナに送らないようロシア指導部に警告、ウクライナの騒乱を東西間の闘争と見る冷戦時代的な見方をしないよう訴えた。
 ライス補佐官は、NBCの討論番組「ミート・ザ・プレス」で、「それは重大な誤りだ」とし、「ウクライナが分断されることはウクライナにもロシア、欧州、米国にとっても利益にはならない。再び暴力沙汰が起き、状況がエスカレートすることは誰の利益にもならない」と述べた。
 ライス氏の発言は、ウクライナでの流血の抗議を受けて親ロ派のヤヌコビッチ大統領が先週末、ウクライナの首都キエフを離れたのを受けたもの。
 同氏は、ヤヌコビッチ氏がどこにいるのかは「今のところ分からない」と述べた。また、ヤヌコビッチ氏は「国民を攻撃したことや平和的デモ隊に暴力 を使ったこと、それにウクライナ国民の意思を無視したことで正統性」をほとんど失ったとし、オバマ政権が同氏の失脚を遺憾に思っていないことを明確にした。
 ライス氏は、ヤヌコビッチ氏の歩調は欧州との関係を緊密化させたいと考えるウクライナ国民のそれとずれていると示唆し、「欧州に背を向けた彼の決 定は国民の選択ではなかった」と付け加えた。また、「ウクライナ国民は平和裏に意見を表明したが、暴力に遭い、このことがヤヌコビッチ氏にとって良い結果をもたらさなかった」と話した。
 ライス氏はヤヌコビッチ氏について過去形で話した。ヤヌコビッチ氏やクレムリンの支持者らはウクライナでの出来事を「クーデター」と呼んでいるが、ライス氏は彼が権力を放棄しなければならないかどうかという問題は非現実的だと述べた。ライス氏は「彼は行ってしまった」とし、彼は「整然と荷造りを し、家具やら何やらを持ってキエフを去った」と付け加えた。その上で、ヤヌコビッチ氏は「現在、指導者ではない」と述べた。
 ロシアのプーチン大統領はウクライナの騒乱を東西が影響力をめぐり争った冷戦時代の文脈の中で捉える可能性があるかとの質問に対してライス氏は「そうかもしれないが、それはウクライナ国民が考えていることを反映していない、ずいぶんと時代遅れな見方だ」と話した。
 さらに、「これは米国のことでもないしロシアのことでもない。これはウクライナ国民がその願望を実現し、民主的に欧州の一部になる機会を持てるか どうかということだ」と述べた。同氏はまた、米国は「近く」行われる選挙を受けて「挙国一致政権」が樹立されるのが好ましいと考えていると語った。   ≫(WSJ)

注:日経には、フィナンシャルタイムズの社説の和訳がわざわざ載せられていたが、プーチン大統領の行動をけん制するのに必死の論調だった。中身は、上記、ホワイトハウス、ライス大統領補佐官と同じだ(笑)。余程、プーチンの逆襲が怖いのだろう。

 アメリカおよびNATOがウクライナ問題でどのような選択をするのか判らないが、表立ってNATOがウクライナの西側陣営を支援出来るほどの余力を持っているとも思えないので、EU加盟支持派の連中の運動は、ロシアの介入により、散り散りになる可能性は大いにある。(1)で言及したように、ウクライナの国家分裂は、まだ穏便な道であり、内戦の継続と云う最悪のシナリオも予想できる。その時、アメリカを含む西側諸国が、本当に腰を入れてウクライナのEU加盟を支持し続けるかは、かなり危うい。西側諸国自体が、自国の経済をなんとか凌ぐのに精一杯な状況で、虎の子を吐き出し、ウクライナの為に命まで犠牲にする根性があるとは思えない。

 今回のウクライナ騒乱における、失業者へのバイト費用が、ロシア側から出ているわけはないので、西側乃至はイスラエル、サウジ等々の財布から出たと見るのが妥当だろう。壊す手伝いはするが、そこから先のことは判らない、と云うのが最近のCIA等々の勢力の行動原理であり、常に尻切れトンボな戦略しか持ちえないのである。イラク、アフガン、エジプト等々の国が、既存の枠組みを壊したのはイイのだが、その先に責任を持たない連中のチャチャに踊った国家は、ことごとく只騒乱の坩堝を出現させられただけである。あとはお前たちで好きにやれ、と言われて出来るくらいなら、あんな暴動事態を起こす国民ではないわけで、最後まで、茶々を入れるなら責任を取るべきである。デモクラシーのない国民に、これからはチャンと民主的に自己責任でやりなさい、なんて云うのは空理空論なのだ。

 まぁ他国の話はこの位にして、わが国がウクライナ騒乱で、どのような影響を受けるのか考えてみようと思う。世界の軍事的大国と言えば、先ず米ソが挙げられる。ソ連は崩壊し、ロシアとなったが、幾多の艱難辛苦を味わったようだが、最近では国際社会におけるプレゼンスも、プーチン大統領と云う稀有なリーダーの牽引で、かなりの力を保持し始めている。このロシアと中国の接近は、素知らぬ顔をしている割には、欧米諸国は相当神経質に、この社会主義的歴史を包含する二大国に、対峙している。一見、東西対立などなきが如き顔をしているが、西側諸国は、中露の覇権的傾向に神経をとがらせ、あらゆる地域紛争において、鍔迫り合いを展開している。

 現在起きているウクライナ騒乱も、シリア問題も、構図は似ている。シリアでは、オバマは完全にプーチンの横やりに敗れ、腰を抜かしてしまった。ウクライナで、プーチンの好きにはさせじと、西側陣営にハッパをかけている状況は、手に取るように判る。日本にまったく無関係のように思える、現在のウクライナにおける、EU対ロシアの綱引きは、想像以上に、わが国にとって重要な意味を持っている。現在の安倍政権が、唯一対等な立場で会話のできるビックネームがプーチンロシア大統領である事実は、非常に重要だ。仮に、安倍首相が、歴史に残る大事業をなしえた日本の総理として歴史に名を刻む絶好のチャンスは目の前にぶら下がっている。

 筆者の目から見る限り、到底安倍晋三が、世界の覇権の潮流が、海洋国家から大陸国家に回帰しつつある歴史認識など持っている訳はないと推量するが、米国の度重なる警鐘を無視して、靖国参拝を強行するなど、常人では理解しがたい行動をとる人ゆえに、東西のステルス性冷戦構造の醸成が始まっていることなど露とも知らず、唯一自分を認めてくれるプーチンに親和的心情を持つ可能性は大いにある。つまり、一貫した論理で外交防衛を行うと云うよりは、自分が、どちらの方が心地いいかと云う基準で行動する性癖があるので、日露関係でホームランを打つ可能性はある。これから佳境を迎える「日露首脳会談」は、東シナ海の岩礁に比べれば、驚くほど壮大な夢が実現可能な領土の確保に至る北方4島の帰属問題である。ビデオニュース・ドットコムのマル激トークエンドデマンドで東郷和彦、神保哲生、宮台真司の三人が、その可能性を探っている。


≪ 北方領土問題解決の千載一遇のチャンスを逃すな
 安倍首相は、2月7日の冬季オリンピック開会式に出席するためロシアのソチを訪れ、翌8日、プーチン大統領と首脳会談を行った。プーチン政権が進める同性愛規制などに対して、人権上の懸念から主だった欧米諸国の首脳が軒並み開会式を欠席したのを尻目に、安倍首相は五輪外交の機会を逃さなかった。それは日露関係が非常に重要な局面を迎えているからだった。

 日露関係は詰まるところ北方領土問題をどう決着させるのかにかかっている。その一点が解決できないために、日本とロシアは未だに第二次世界大戦後の平和 条約を結ぶことさえできていない。そして、それが戦後70年近くにわたり、日本とロシアという東アジアの2つの隣国の関係を進展させる上での決定的な足かせとなってきた。

 実はロシアは2000年代に入って、中国、ノルウェーなど周辺国との国境を積極的に画定してきた。2月18日にはバルト三国のエストニアと国境を画定さ せて、残る大きな領土紛争は日本との北方領土を残すばかりとなっている。更にロシアのプーチン大統領は日本に対して「原則引き分けで領土交渉をやりましょう」とまで発言している。

 一方の安倍首相も、向こう3年は大きな国政選挙が予定されない中で、領土問題のような腰を据えて取り組むべき政治課題に手をつけられる立場にある。外務省で一貫してロシアを担当してきた東郷和彦京都産業大学教授は「この機会を逃すと北方領土は二度と返ってこないかもしれない。これが最後のチャンスになるのではないか」と、日露関係が千載一遇の、そして最後のチャンスを迎えていると指摘する。

 歴史的に見ると北方領土といわれている4島(択捉島・国後島・色丹島・歯舞諸島)は、1855年の日魯通好条約締結以降、1945年のポツダム宣言受諾まで約90年間日本が統治してきた。しかし、同年2月のヤルタ会談でルーズベルト、チャーチルと対日参戦を約束したスターリンの下、日ソ不可侵条約を破ってソ連軍が満州に侵入。9月5日頃までに北方4島も支配下に治める。その後、サンフランシスコ講話条約で、日本は国際社会に対して公式に樺太と千島列島の放棄を宣言している。ところが旧ソ連がサンフランシスコ条約に調印しなかったため、現在までのところ北方4島の領有権は国際法上日本とロシアのどちらも有していないながら、一貫してロシアが実効支配をしているという状態にある。

 日本には、不可侵条約を破って対日参戦をし、日本のポツダム宣言受諾後も侵攻を続け、満州で民間人を相手に殺戮や強姦などの蛮行を繰り返した上に60万人の日本人をシベリアに抑留したソ連に対する特殊な感情もある。更に日本は少なくとも1956年以降、一貫して北方4島は日本の領土であるとの立場を貫き続け、積極的にそのような広報活動もしてきているために、国民の多くも政府のその立場を支持している。4島一括返還以外の立場を日本が取ることに抵抗が多いのは言うまでもない。

 しかしその一方で、過去70年近くもロシアの実効支配下にあり、4島にはひとりも日本人がいないまま、この先もそれが続くとなると、日本への返還は事実上不可能になってしまうことは想像に難くない。加えて、ロシアは2007年からクリル開発計画と称して5千億円規模の予算を投じて北方4島の開発に取り組んでいる。これらの事情を考慮すると、今、より現実的な解決策を探らない限り、北方領土が日本に戻ってくる見込みは事実上消滅してしまうと言っても過言ではないだろう。

 東郷氏は北方領土問題は2島+α(歯舞、色丹の2島返還と残る国後、択捉の2島についても何らかの将来につながる合意)が落としどころになるだろうと指摘する。「まず1954年の日ソ共同宣言に従って歯舞、色丹を返してもらう。残る択捉と国後は日本、ロシア双方が関わる特別共同経済特区のような仕組みを作った上で、今後も交渉を続けていく」というのが東郷氏の提案だ。これならロシアも乗れる可能性が高いと東郷氏は言う。4島一括返還にこだわり、何も手にできないまま、結果的に両国関係を進展させないこれまでの道を選ぶのか、4島一括返還にこだわらず、まず2島の返還を実現するとともに、とにかく北方4島に日本人が住めるようにすることで、その後の2島の帰属にも可能性を残していくのかのいずれかの選択になるのであれば、これがベストな選択ではないかと東郷氏は言う。

 日露両国が北方領土問題を解決させ、友好的な隣人として新しい関係の構築に成功すれば、東アジア情勢はもとより国際的にも大きな意味を持つ。しかも、その時はこれまで両国間の対立の象徴だった北方領土が、友好と経済協力関係のシンボルとして機能することになる。

 果たして北方領土問題に決着をつけ、日露関係を大きく前進させることができるかどうかは、両国の問題であると同時に、日本国内の問題としての面が多分にある。東郷氏は、これまで日露関係が前進の兆しを見せるたびに、ある時はアメリカから、またあるときは日本国内の勢力から横やりが入り、期待が幻滅に終わるような苦い経験を繰り返してきたという。

 日露両国は、そして日本はこの千載一遇の機会をものにすることができるのか。北方領土問題と日露関係改善の前途に横たわる課題とその克服の見通しを、ゲストの東郷和彦氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。  
≫(マル激トークエンドデマンド:東郷和彦、神保哲生、宮台真司)

 ロシアが国境線問題を確定させる作業を着々とおこない、残されたのが日本との国境線であることが、日露交渉のキーであったが、前述のように“ウクライナ問題”の勃発で、NATO諸国との国境問題が再浮上したので、懸案の国境問題は二か所に戻ってしまった。この点は、幾分マイナスな要素だが、経済的発展が、プーチンの重大な興味である以上、北方4島のドラスティックな経済開発とシベリアの開発において、日本の協力は切り札のようなものである。筆者も、この機会を除くと、プーチン以上の実力者が、将来的にロシア政権に誕生する可能性は今後少なく、プーチン時代に一定の成果を上げるのはベターな選択だろう。

 勿論、ロシアと中国の蜜月を考慮すると、日露関係だけを成功させても意味がないと云う主張もあるだろうが、安倍政権一代で行う歴史的快挙は一つで十分である。おそらく、株式の快調とは裏腹に、アベノミクスの副作用の方が際立ってきている日本経済の状況から、経済政策も失敗、日米同盟の深化も不確か、軍事大国に向かおうと云う幻想まで抱いているわけだから、10年も権力の座に居られるわけもないので、「日中露」と云うアジア的枠組みを夢見させる方向づけをすることは、外交上有益なポイントを挙げることになる。対中問題は、次の政権の宿題として残されて良いのではないだろうか。韓国はいずれ腰砕けになるのは自明、向きになる必要はないだろう。米国も、本気で日露交渉の邪魔立ては出来そうにない。

歴史認識を問い直す 靖国、慰安婦、領土問題 (角川oneテーマ21)
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●ウクライナ騒乱と東西冷戦構造の再構築 その中で行われる「日露交渉」(1)

2014年02月24日 | 日記
プーチン 最後の聖戦 ロシア最強リーダーが企むアメリカ崩壊シナリオとは?
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●ウクライナ騒乱と東西冷戦構造の再構築 その中で行われる「日露交渉」(1)

 21世紀は、世界のグローバル化現象の中で、昔から持ち続けた「国境」の概念を考えざるを得ない時代を迎えている。経済活動では、国境なき自由な行動を求められているわけだが、いざ国土と云う話になると、俄然、国境の線引きは人の心を捉え、感情の渦が巻き起こる。東シナ海に浮かぶ岩礁(尖閣諸島)を巡って日中は、一つ間違えば戦争の火ぶたを切ってしまうような鍔迫り合いを展開している。両国の、単純な愛国心と云うものは、相互依存の撚糸で編まれているグローバル経済システムのメカニズムを超えたところに存在する。理屈で無用な争いだと気づいていながら、その感情から生れ出るナショナリズムを制御する機能を持っていないのは、日本だけでなく、中国、米国、韓国、ロシアにもある。時には、地政や歴史によって、捻じ曲げられ、国境の意味すらが、曖昧な国家や民族も存在する。

 21世紀の国家の概念を超越したグローバル経済世界と国土の線引き係争は、単純な国土問題を含む外交防衛上の懸案事項になりつつある。おそらく、日本人の興味は、アベノミクスによる経済効果が廿浦浦まで行き渡り、己の生活にも恩恵があるかどうかの低レベルなものに矮小化されているようだが、世界の目は、まったく異なる問題に興味を示している。興味と云うよりも、口には出しにくい危惧である。ウクライナの係争を野蛮な行為だとか、到底民主主義国家の体をなしていないなど、知ったような口を利く巷の日本人やコメンテータもいるようだが、このウクライナ問題は、東西構造のシンボル的位置づけであり、21世紀の新たな世界の枠組みにまで影響を及ぼす重大事件なのである。

 そもそも、ウクライナは東南部ウクライナ(ロシア系)と西部ウクライナ(欧州系)に二分されているわけだから、ロシアとEU(NATO圏)の綱引き地域なのである。EU(NATO圏)には、米国やイスラエルなどの加勢もあり、2月23日時点では、ロシア系のヤヌコビッチ大統領が政権から追われ、牢獄の囚われていたティモシェンコ元首相が釈放され、復権しようとしている現在進行形の状態である。無論、このまますんなりデモ隊の中心であるEU(NATO圏)の帰属を支持する西部ウクライナの勝利で終わる保証は何一つない。なぜ今、ウクライナのデモが過激になったのか、または、軍が荒れ狂うう国民に対し傍観しているのかと云う問題は、ソチオリンピック及びパラリンピックの期間を選んで実施された点から見て、ロシアの動きが封じられている点が大きなポイントだ。

 つまり、3月16日までは、ロシア及びプーチン大統領はウクライナ問題で、発言や行動を縛られる状況にある点が、今回のデモ集団に勢いを与えていた。当然、その集団の行動を支援する国際的勢力があるわけで、彼らが、ロシア及びプーチン大統領が動きにくい時期を狙ってタイムリーに起こされた暴動(クーデタ)とみることが出来る。実際のところ、EUがウクライナを経済的に取り込むメリットは皆無に近い。単にお荷物を一つ加えるだけの話である。しかし、米国はNATO防衛圏での手抜きをする意味でも、ウクライナをNATO圏に組み込むメリットはある。つまり、政治経済的に問題を抱える国だが、防衛上の一線がどこに引かれるかと云う意味で、大いに重大な地点なのだ。

 この流れで、5月に大統領選が再び行われるとして、タイ同様、反対陣営の大統領降しが再燃する可能性は大いにあるし、東西ウクライナの対立が激化、内戦分裂の可能性まで視野に入ってきた。正直ウクライナの歴史をざっと学んでも、大陸国家独特で、国境など何時いかなる時に安定して存在したのか、定める事さえ難しい歴史的経緯があるので、今後ウクライナがどのような展開を見せるのか、簡単に語ることは出来ない。ただ、21世紀以降のウクライナと云う点では、EU(西側)なのかロシア(東南側)なのかと云う対立構造を窺うことも出来る。ウクライナが東西陣営のどちらに帰属するかと云う問題は、中国・ロシアの抬頭とEU及びアメリカの力の減少がバッティングしている現象として眺めておく必要があるだろう。

 マスコミに載らない海外記事氏のブログで紹介されている、元米国財務次官補であり、元WSJ共同編集者でコラムニストのPaul Craig Roberts氏のコラムを読むと、その辺の事情が相当理解できるので、紹介しておく。


 ≪ 内戦と大国間の対立に向けて漂流するウクライナ?
2014年2月20日 Paul Craig Roberts
 人々は解決策を求めているが、偽情報ばかり流されている世界では、解決等ありえない。ほとんどあらゆる場所の人々は不満を持っているが、実際の状況 を多少とも理解している人々はごくわずかだ。解決策を得る前に、人は問題についての真実を知らねばならない。それを伝えたいと思うむきの少数の方々にとって、概して報われない仕事だ。

 人間は理性的な動物だという前提は間違っている。男性も女性も感情の動物で、スター・トレックのドクター・スポックではないのだ。人間は、文化化と 教化とで洗脳されている。愛国者達は、自分達の希望であり、妄想である国、自国政府に対する批判に対しては、敵意で答える。例え耳に届いても、彼らの感情がそれを押しつぶしてしまう。願望と妄想が真実を凌駕する。

 多くの人々は、自分達が聞きたがっていることを、言ってもらいたがるものだ。その結果、彼等は 常にだまされやすく、連中の幻想と自己欺まんのおかげで、連中は、たやすくプロパガンダの犠牲になる。これは、社会のあらゆるレベル、そして指導者自身にもあてはまる。

 無分別な大学生や、アメリカ政府の世界覇権への衝動の手先が混じり合ったものが、雇われた抗議行動参加者や、国粋主義者中のファシスト分子と一緒になって、ウクライナに、大変な苦難を、そして恐らく、世界に、破壊的戦争をもたらしつつある西ウクライナで、我々はこれを目撃しつつある。

  抗議行動参加者の多くは、あぶく銭を稼ぐ失業者に過ぎない。無分別で、理想主義的な連中が、自分達の国の独立を破壊しているのだ。アメリカ世界覇権を狙いとするアメリカのネオコン国務次官補ビクトリア・ヌーランドが、ウクライナ国民に、彼らの今後の見通しについて、昨年12月13日に語ったのに、抗 議行動参加者は余りに妄想じみている為に、それが聞こえていないのだ。

  アメリカ・ウクライナ財団、シェブロンと、在ワシントン・ウクライナ人ロビー集団が後援した記者クラブでの8分46秒の演説で、ヌーランドは、ウクライナをEUにとりこむ為の動揺を醸成するのに、アメリカ政府が50億ドル使ったと自慢した。EUに捕獲されてしまえば、ウクライナは、IMFを通して影響を及ぼす欧米に“助けられる”ことになる。

 ヌーランドはもちろん、IMFを、ウクライナのあえいでいる経済から、あらゆる命を搾り取る、欧米による過酷な支配としてでなく、ウクライナを救援するものとして表現していた。 ヌーランドの話を聞いていた人々は、掠奪と、アメリカ政府が任命したウクライナ政権とのコネで豊かになる、あらゆる連中だ。演説するヌーランドの傍らの大きなシェブロンの看板をご覧になるだけで、これが実際には一体何者かおわかりだろう。

http://www.sott.net/article/273602-US-Assistant-Secretary-of-State-Victoria-nuland-says-Washington-has-spent-5-billion-trying-to-subvert-ukraine

 ヌーランドの演説は、ウクライナの独立を破壊し、自分達の国をIMFの手中に渡して、ラトビア、ギリシャや、IMFの構造改革プログラムの対象と なった他の国々同様に、掠奪ができるようにすると固く決意したウクライナ抗議行動参加者を目覚めさせはしなかった。抗議行動参加者が、アメリカとEUから 支払われている全ての金銭は、間もなく、ウクライナが欧米の掠奪によって“調整される”際、何層倍にもなって返還される。

 短い演説の中で、ネオコン扇動者ヌーランドは、その育成にアメリカ政府が50億ドル注ぎ込んだ抗議行動参加者は、残虐な政府に対し“計り知れない自制心で、平和的”抗議行動をしていると主張した。 アメリカ国務省(アメリカのイラク侵略をお膳立てする為、イラク大量破壊兵器の“証拠”を示しながらの、国連での国務大臣コリン・パウエル演説を覚 えておられよう。パウエル演説は後にブッシュ政権の虚偽情報として否認された)より遥かに信頼性の高いRTによれば、ウクライナの暴徒は、軍の武器庫か ら、1,500丁の銃、100,000発の弾丸、3丁の機関銃と手榴弾を捕獲したという。

  人権の訓練を受けたウクライナ警官は、暴力が手の付けられないほどになるのを許してしまった。多数の警官が火炎瓶で火傷した。最新の報道では、108人の警官が銃撃されている。多数の死者がでて、63人が重傷だという。

http://rt.com/news/ukraine-kiev-firearms-weapons-police-934/

 これらの死傷者は、ヌーランドの言う、計り知れない自制心で“平和的に抗議行動している抗議行動参加者”の産物なのだ。2月20日、選挙で選ばれた、独立したウクライナ政府は、暴徒の銃器使用に、自衛の為、警官に銃器の使用を許可して対応した。

  多分ロシア嫌いの西ウクライナ人は、IMFにふさわしく、恐らくEUは、ウクライナ政府を打倒しようとしている過激国粋主義者にふさわしいのだろ う。ウクライナ国民が欧米による掠奪を経験すれば、彼等はひざまずき、ロシアに助けを乞うだろう。唯一確実なのはロシア側のウクライナは、ウクライナの一部のままで残らない可能性が高い。

  ソ連時代、クリミア等ロシアの一部が、恐らくはウクライナ国内のロシア人住民の数を増やすために、ウクライナ社会主義共和国内に組み込まれた。言い換えれば、現代ウクライナの広大な部分、東部と南部諸州、は伝統的にロシア領土て、歴史的なウクライナの一部ではない。

  1990年代初期に、ロシアがウクライナの独立を認めるまで、ウクライナは、14世紀以来、ほとんど独立を経験しておらず、200年間、ロシアの一部だった。独立承認にまつわる問題は、ウクライナの多くの部分がウクライナではないことだ。ロシアなのだ。

  以前ご報告した通り、ウクライナがEU加盟国となり、NATOに加盟し、ロシア国境沿いに米軍基地ができるというような見通しを、ロシアは“戦略的 脅威”と見なしている。ロシア政府と、ウクライナのロシア語地域が、ウクライナに対するアメリカ政府の計画を受け入れる可能性は少ない。連中の狙いが何であれ、ジョン・ケリー国務長官の挑発的な声明は緊張を高め、戦争を煽っている。

 アメリカと西欧の国民の大多数は、“自由出版物”の報道しか知らない彼等全員、ネオコン・プロパガンダ路線派なので、本当の状況がどうなっているのか全く分かっていない。 アメリカ政府の嘘は、国内と海外諸国で、市民的自由を破壊しているのみならず、ロシア国内で、ロシアの安全保障に関する懸念を高めている。

 もしアメ リカ政府が、ウクライナ政府打倒に成功すれば、西部と南部の諸州は分離する可能性が高い。もし分離が円満な離婚の代りに、内戦となれば、ロシアも傍観してはいられまい。アメリカ政府の戦争挑発政治家連中は、西ウクライナを支援し、二つの核大国は軍事衝突紛争に投げ込まれる。

  ウクライナとロシアの政府は、両国とも、長年、何十億ドルも流入し、その資金が、教育や人権擁護団体を装って、両国を不安定化することが本当の狙いである第五列を創り出すのに利用されるのを無邪気に認めて、この危険な状態を進展するにまかせてきた。ウクライナ人やロシアが欧米を信頼した結果が、内戦や広範な戦争の可能性なのだ。

更新: ウクライナにおける状況に関して、リチャード・ロゾフがまとめている様々な外国ニュース報道
http://www.informationclearinghouse.info/article37700.htm
を読んで、無意味で破壊的な第一次世界大戦がどのように始まったのかという歴史を思い出した。

 民主的に選出されたウクライナ政府を打倒し、EU傀儡国家を押しつけたいという欲に目が眩んで、 アメリカやイギリス、フランス政府は真っ赤な嘘をついて、武力紛争に向かう状況を挑発している。 ロシア政府と国民が、ロシアに対するアメリカ覇権を進んで受け入れない限り、欧米がウクライナで準備しているクーデターはロシアには耐えられまい。

  欧米の軍事力とて、ロシア直近の場所ではロシア軍と対等にはなるまいし、独善的で、傲慢なアメリカ政府が敗北を受け入れることはできまい、腐敗した欧米諸国政府がそれに向かって突進している紛争は、核戦争になる可能性がある。

 世界的な世論調査では、アメリカ政府は、常に世界平和に対する最大の脅威と見なされている。私が再三書いてきた通り、アメリカ政府は、平和に対する単なる脅威ではない。アメリカ政府と卑劣なヨーロッパ傀儡諸国は、地球上の生命の存在に対する脅威だ。本質的に、アメリカ政府は精神異常で、ヨーロッパ “指導者連中”は、アメリカ政府の精神異常を擁護するため報酬を受け取っているのだ。 支払えない欧米の借金の返済期限が来る前に、世界は終わりかねない。
 ≫(マスコミに載らない海外記事氏のブログより抜粋)


 ウクライナ情勢を通して、21世紀における、東側と西側陣営の力の対立構図の再来を予期しているわけだ。現時点では、西側陣営が優勢な状況を保持しているが、今後もその優勢が保証されるほど安定しているかと云うと、そうでもない側面もかなりある。中国共産党独裁と云う政治体制でありながら、経済成長力を餌に、自由主義的グローバル経済の力学の枠内で経済的には生きると云う離れ業を演じている中国は、成長力が弱まることはあっても、5%以上の経済成長を続けるであろうことは、世界の共通に認識にある。つまり、欧米諸国や日本、韓国よりも成長のパワーは優勢だ。50年先かもしれないが、米国の経済と肩を並べる可能性もあるだろう。中国の経済は極めて実体経済に近いものなのに、米国の経済の中身は金融に特化せざるを得ないだろうから、並んだ瞬間に覇権は中国が有利かもしれない。

 軍事力の面があるので、覇権が移行すると云うのは言い過ぎかもしれないが、中国が全面的にロシアとの協調路線を打ち出せば、そこに巨大な勢力が出来上がる事も想像外の話ではない。歴史的に、世界の覇権は、内陸国家から海洋国家に移ったわけだが、再び内陸国家の出番という事もあり得る。既に、このことは多くの論者が指摘している。昨日の拙コラムで紹介したフィナンシャルタイムズのコラムのように「安倍首相を望んだことを悔やむ米国政府」で指摘されているように、安倍の選択肢がどこに向かっているか、ワシントンは理解不能に陥っているし、日本の論者も定まった方向性を捉えきれずにいるようだ。無論、筆者も捉えきれない。

 上記のような東西冷戦構造の再構築と云う枠組みを踏まえながら、行われるであろう日露の平和条約締結に向けた“安倍・プーチン会談”は、単に北方領土交渉云々の次元を超えた外交交渉になろうとしている。安倍官邸が、どこまでこの問題の根の深さを理解して交渉に当たろうとしているのか定かではないが、今までのように、単に米国をけん制するツールとして扱うようだと、重大な日本の歴史的転機と云うチャンスを失うことになるのだろう。この問題は、一回のコラムで語り切れないので、明日、日露交渉問題を、東西冷戦構造の再構築と云う枠組みの中で、考えてみようと思う。

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●日本に怪訝な目を向ける欧米先進諸国 “ 野に置くべきだった亜細亜のあだ花 ”

2014年02月23日 | 日記
日米同盟と原発 隠された核の戦後史
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●日本に怪訝な目を向ける欧米先進諸国 “ 野に置くべきだった亜細亜のあだ花 ”

 “ごめんで済めば警察いらない”と云う比喩的俗語があるが、最近の安倍晋三ご本人、そして、そのお友達らの口から、暴言、妄言の類いが連発されている。「あれは個人的見解、あれはオフレコ、あれは…。ゆえに撤回する」と云う無教養な珍事が頻発している。安倍本人に至っては“立憲主義”の意味すらはき違えているのに、サジェストしてくれる人間が周りにいないので、平気で非常識な認識を披露したままに捨て置いている。

 正常にメディアが機能していれば、このような無教養な発言は、直ちに訂正乃至は撤回されるものだが、マスメディア自体が、この無教養首相と夜な夜な酒を酌み交わしているのだから、サジェストしてくれる人がいない。しかし、勘違いの権力志向が、是正されないまま突っ走る、国家レベルの出来事というものは、案外、このような事態の積み重ねで、一気に火を噴くものなのだろう。僅かに数人の論者が、この危機にまっしぐらの安倍政権に警鐘を鳴らしているが、お茶の間のニュースバラエティ番組に出演することはないし、全国紙で取り上げられることも稀だ。つまり、多くの国民は、彼らの暴言、妄言の類いの根底にある問題など、理解不能なのである。

 安倍晋三、籾井NHK会長、百田・長谷川NHK経営委員、衛藤晟一首相補佐官、本田悦朗内閣官房参与、麻生太郎財務大臣、森喜朗元首相等々の発言は、それぞれ政権を揺るがす重大発言の数々なのだが、まったく内閣支持率に影響を及ぼしている気配がない。なぜここまで鈍感な、政治空間や言論空間が誕生したのか、明確なことは判らないのだが、民主党の野田政権辺りから、この流れが出来上がっていたようだ。所謂、既得権勢力の逆襲と言えるのだが、誰が逆襲のトリガーを引いたのかと考えてみると、どうも霞が関官僚組織とマスメディアに行き着く。

 「原発問題」は発電に関する諸問題関連として、或は人体に与える放射能リスクとして議論されているが、実は一部の人々にとっては、生活基盤を失う、戦後の国家の体制をチェンジしてしまう、核開発の基盤を失う、経済活動に本当に重大な影響があると思い込んでいる人々に多大な影響を及ぼす問題なのである。上述の人々と云うのは、立地自治体、電力会社、電力労連、原発及び周辺産業企業、霞が関官僚組織、経団連等経済団体、そしてそれに連なる勤労者の人々にとって不都合な問題が起きるのが、「原発問題」である。

 経済的問題だけにスポットを当てれば、原発には廃炉ビジネスと云う膨大な産業が残されるわけで、大慌てする必要はない。立地自治体の人々も再生可能エネルギーへのシフトによる雇用経済の恩恵は同様に受けられるわけで、世界的革新産業(実は最も根源的産業)を生み、国家の一大産業にもなり得る。まして、貿易赤字、経常収支赤字体質の国家にとって、富が国外に出ない為の政策こそ、国益そのものなのである。筆者から見れば、単に既得権勢力で生きていたいと云う妄執のようなもので、理などないに等しい。あるのは詭弁の連鎖だ。

 原発問題を通して眺めるだけでも、日本社会は変わることを怖れ、なんとか小手先で、その変革を後ろへ、後ろへ繋ぎつづけた。これこそ、まさに官僚体制の体質、性癖と言っても良いだろう。変わらないこと、変えないことが、彼らの使命なのだ。アベノミクスの馬脚が現れる原因も、実は彼らの抵抗にある。しかし、国民の多くも、この官僚らの方が、腰の落ち着かない政治家たちよりはマシなのではないかと云う、幻想を抱いているので、より話は複雑になる。複雑になると云えば、安倍政権の正体を見せられ、ヘドモドしているのがオバマ政権だ。否、もしかすると、欧米先進諸国すべてが、安倍政権にヘドモドしているし、その政権を支持する国民が過半数以上を占める、東洋の島国・日本と云う国は、アジアのあだ花だと思いはじめているようだ。

 中韓メディアは当然として、NYT、WSJはじめ米国メディアも、安倍政権への違和感を伝えているが、今回のフィナンシャルタイムズのコラムは日米を英国人らしい皮肉な目で、的確に語っている。意外なのだが、中国、韓国、米国と云う、日本との関係が密な国ほど、トンチンカンナ論評を語ることが多い。おそらく、損得勘定が強く介在するためなのだろうが、数歩離れた英国やフランス辺りの論説の方が、全体像を正確に捉えるのかもしれない。以下は、フィナンシャルタイムズのコラムである。


≪ 安倍首相を望んだことを悔やむ米国政府
 安倍晋三首相が率いる日本と習近平国家主席が率いる中国との関係を評価するのは極めて簡単だ。どちらも相手をあまり好 きではない。日中双方が、政策目標を推し進める道具としてナショナリズムを利用している。どちらも恐らく、相手側に押しがいのある「タフな男」がいることは都合がいいと考えている。
 評価するのがそれほど簡単でないのが、日米関係の状態だ。本来であれば、日米関係は日中関係よりもはるかに容易に読み解けるはずだ。結局、日本は 米国にとってアジアで最も重要な同盟国であり、第2次世界大戦の終結後、米軍の戦闘機と部隊を受け入れる「不沈空母」だったのだから。

 緊張する日米関係
 そして今、数十年間にわたり米国から促された末に、ようやく強固な防衛態勢を築き、平和主義の日本が長年大事にしてきた「ただ乗り」の国防政策を見直す意思を持った安倍氏という指導者がいる。
 だが、長年求めてきたものを手に入れた今、米国政府はおじけづいている様子を見せている。
 その兆しの1つは、安倍氏が昨年12月に靖国神社を参拝した後に米国政府が「失望」を表明したことだ。靖国神社は中国と韓国から、自責の念がない日本の軍国主義の象徴と見なされている。
 以前は、米国政府は内々に靖国参拝への不満を述べたが、公然と日本を非難することはなかった。日本政府は今回、米国が日本語できつい響きのある失望と訳された「disappointed」という言葉を使ったことに驚かされた。
 ほかにも緊張の兆候が見られた。米国の政治家は、安倍氏の歴史観に対する懸念を表明している。バージニア州の議会は、学校教科書に日本海を表記す る際には韓国名の「東海」を併記するよう求める法案を可決した。米国政府は、安倍氏の指揮下で、やはり米国の重要な同盟国である韓国と日本の関係も悪化し たことを懸念している。
 日本の観点から見ると、論争になっている島嶼に対する日本の支配権に対し、中国政府が防空識別圏設定の発表で巧妙に対抗してきた時、米国政府は十分な力強さをもって日本を支持しなかった。
 米国政府は確かに中国の防空識別圏内に爆撃機「B52」を2機送り込んで不満を表したが、米国のジョー・バイデン副大統領は北京を訪問した時に、この問題をことさら取り上げなかった。
 東京の多くの政府関係者は、米国政府は事実上、中国の一方的な動きを黙って受け入れたと考えている。また、彼らは常日頃、中国にどっぷり染まった 人々を周囲に置く傾向のあるバラク・オバマ大統領の回りに「ジャパンハンド」がいないことも嘆いている。米国政府が日本を支持することは、もはや当てにで きないという感覚が広まっていると語る日本政府関係者は1人ではない。
 このような背景には、安倍氏にも当然分かる皮肉がある。1950年以降ずっと、米国政府は日本に対し、再軍備し、現在安倍首相が提唱しているよう な国防態勢を取ることを迫ってきた。ダグラス・マッカーサー元帥の命令で書かれた1947年の平和憲法のインクが乾くや否や、米国人は日本に「交戦権」を 永遠に放棄させたことを悔やんだ。
 米軍による占領終了の交渉を任じられたジョン・フォスター・ダレスは日本に対し、30万~35万人規模の軍隊を構築するよう迫った。中国は共産主 義国家になり、米国は朝鮮半島で戦争を戦っていた。東アジアに無力化された「従属国家」を抱えることは、もはや米国に適さなくなっていたのだ。
 何年もの間、日本はこうした圧力に抵抗してきた。日本政府は米国の核の傘を頼りにし、ビジネスを築く仕事に勤しんだ。日本の唯一の譲歩は、戦闘を禁じられた自衛隊を創設することだった。
 あれから60年経った今、日本には、米国を言葉通りに受け止める指導者がいる。安倍氏には、日本の憲法解釈を見直し、場合によっては平和主義を謳った憲法第9条そのものを覆す個人的な信念と地政学的な口実がある。
 
中国を挑発しかねない日本のナショナリズムへの不安
 しかし、その瞬間が訪れた今、一部の米国政府関係者は考え直している。ある元ホワイトハウス高官によれば、ジョン・ケリー国務長官は日本を「予測不能で危険」な国と見なしているという。
 日本のナショナリズムが北京で対抗措置を引き起こすとの不安感もある。オーストラリアの学者で元国防省高官のヒュー・ホワイト氏は、これが意味することは明白だと言う。「米国としては、中国と対立する危険を冒すくらいなら日本の国益を犠牲にする」ということだ。
 安倍氏が靖国神社を参拝した時、米国政府にメッセージを送る意図もあったのかもしれない。日本の右派の奇妙なところは、最も熱心な日米同盟支持者 でありながら、同時に米国政府が敗戦国・日本に強いた戦後処理に憤慨していることだ。米国の望みに逆らって靖国を参拝することは、日本は常に米国政府の命 令に従うわけではないという合図を送る1つの方法だ。
 ワシントンで見られる安倍氏への嫌悪感は、決して普遍的ではない。
 ある意味では、安倍氏はまさに米国という医師が命じた日本の首相そのものだ。同氏は日本経済を浮揚させる計画を持っている。沖縄の米海兵隊基地の 問題を解決する望みが多少なりともある日本の指導者は、もう何年もいなかった。日本は長年、国防費に国内総生産(GDP)比1%の上限を自ら課してきた が、安倍氏は国防費を増額する意思がある。
 だが、これらの政策には代償が伴う。ワシントンの多くの人が不快に感じる修正主義的なナショナリズムである。

米国のジレンマと日本の悩み
 「中国が成長するにつれ、日本が中国の力に不安を感じる理由がどんどん増え、日本を守る米国の意思への信頼がどんどん薄れていく」とホワイト氏は言う。
 同氏いわく、米国は日本の中核利益を守ることをはっきり確約するか、さもなくば、日本が「1945年以降に放棄した戦略的な独立性」を取り戻すの を助けなければならない。このジレンマに相当する日本の悩みは、一層強く米国にしがみつくか、米国から離れるか、という問題だ。
 ≫(フィナンシャルタイムズ:David Pilling)

アメリカの大変化を知らない日本人
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●わが国の根源的問題は人口減少 その解決は七分目な共同体構築か移民導入の選択

2014年02月22日 | 日記
里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21)
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●わが国の根源的問題は人口減少 その解決は七分目な共同体構築か移民導入の選択

 日本の根源的問題にスポットをあてた対談が目についたので、紹介しておく。昨日の「反知性主義」の逆張り、「知性主義」な論者の対談。株価が上がり、経済が成長しているように見えても、「人口減少国家」の姿をイメージしながら、政治を行うべき時が来ていることを明確に語っている。つまり、又我田引水になるが、欧米型近代国家を目指した、明治維新が日本と云う国の本来の姿を歪めたわけで、戻るなら、文明開化以前の日本国のイメージを呼び戻すことである。筆者の社会哲学は最近、的を得ているのではないか?と一人悦に入っている(笑)。引用が長いので、本日はこれにて。


 ≪ 声に出して言いにくい「日本の大問題」藻谷浩介×湯浅誠 人口減少社会  日本人が「絶滅危惧種」になる日
【地方が消滅し、都会は認知症の老人ばかり 毎年20万人以上が消える「人口減少社会」となった日本。このまま人は減り続け、地方は消滅してしまうのか。「絶滅」を避けるためにすべきこととは。地域振興と貧困問題の専門家が激論を交わした。】

 介護離職が激増する

藻谷 団塊の世代 が生まれた直後の'50年には、日本には0~4歳の乳幼児が1120万人もいました。団塊ジュニアが生まれたばかりの'75年には、1000万人です。そ れが、2010年には530万人。生まれる子供の数は半分になってしまった。今の日本はまさしく「人口減少社会」だと言えますね。 例えばトキの雛の数が半分になったら、これは絶滅危惧種として保護しようという話になる。それなのに日本では、子供の数が半減しても、誰も自分たちが「絶滅するかもしれない」とは言わない。

湯浅 危機感が足りない。

藻谷 子供が生まれなくなったのに伴って、15~64歳の生産年齢人口もどんどん減っています。今、日本には就業している人が2人に1人しかいないんです。正規でも非正規 でも、パート、アルバイトでも、1週間に1時間でも働いておカネをもらっている人は、日本人の半分弱しかいない。高齢者が増えて、若い人が減っているからです。

湯浅 人口減少によって、社会はどんどん疲弊している。それはこれからもっと深刻になります。その大きな要因の一つが「介護離職」です。今、40代後半から50代の人たちが親の介護のためにどんどん仕事を辞めている。'12年のデータでは約15万人に上りました。

藻谷 まだ働けるのに、仕事を辞めざるを得ない。

湯浅 ええ。もし要介護となっても、介護保険だけでは足りないので、子供が離職して親の面倒を見るしかない。ところが、戦後続いた人口減少で核家族化が進み、今では日本のほとんどの高齢者は子供が1人か2人しかいません。つまり、「親なんて知らない」と言えなければ、仕事を辞めざるを得ない。
 しかも介護は、終わりがいつ来るかわからない。ようやく介護が終わって復職しようにも、年齢が足かせになって仕事が見つからない。介護中から親の年金に頼るようになって、亡くなっても仕事がないから、死亡届を出せなくなる。そうして起きたのが、年金不正受給事件でした。

藻谷 '10~'15 年の足元5年間には、団塊世代が退職していくため、就業者が220万人減ると推計されます。そして、75歳以上の人口は230万人も増えるので、介護の担い手は到底足りない。介護離職も、5年間で80万人にはなるでしょう。220万人と合わせれば、300万人も働く人がいなくなることになる。

湯浅 それだけで はありません。中高年の独身の問題も広がっているんです。'05年の国勢調査で40~50代の独身者で親と同居している、いわゆるパラサイトシングルが 200万人を超えたんですが、彼らは概ね'60年頃までに生まれた人です。比較的、ちゃんと就職して、結婚して、子供を作ることが幸せだと考える、「自立」が善だという価値観で育っている。でも、実際にはそうできなかった人が200万人もいる。'05年の調査から10年たって、パラサイトシングルはもっと増えたと言われています。
 さらに、その後にはフリーターとか、非正規雇用が広がった団塊ジュニア以降の世代が控えている。経済的な理由から、子供を作るなんて考えられない人が激増しているんです。

藻谷 東京五輪が開催される2020年頃には、その人たちが45歳以上のパラサイトシングルとなって、社会問題として顕在化するでしょう。そして働いている人たちも、その時期から親の介護が始まる。働けるのに、介護でやむなく働けなくなる人が増えていく。

みんな見て見ぬふりだけど

湯浅 街に認知症の老人が溢れて、その介護のために現役世代が働けなくなるわけです。経済が滞り、年金保険料の負担は増え、支給は減額。介護の虐待事件がいたるところで起こって、町が暗くなってしまう。
 経済も社会も不安だし、支える制度もないから若者は子供を作ろうと考えない。この負のスパイラルが少子高齢化、人口減少を加速させていく。そうな ることは、みんなわかっているはずです。これだけ統計的なデータが示されているのですからね。わかっていながら、見て見ぬふりをしている。

藻谷 私は今の 「経済成長が何よりも大事」という風潮自体が問題だと思っています。日本のGDP(国内総生産)は戦後ずっと成長しっぱなしでした。不景気だったはずのここ20年を見ても、総じて横ばいで減っているわけではない。貿易額に至ってはバブル期の1・5倍に増えている。その一方で子供の数は半減しています。カネを基準にすれば成長はしていても、人を基準にすれば衰退です。これが幸せと呼べますか。それなのに今の安倍政権は、まだGDPを押し上げる政策ばかりを旗印にしている。

湯浅 株価が上がっても、人口は増えない。

藻谷 アベノミクスで「円安だ、株高だ」と言っていますが、その円安のせいで日本の経常収支は昨年後半から、ついに赤字基調になった。日本からどんどんカネが出て行っているのに、「これから内需回復だ」と言っている。円安で輸入している燃料や原材料も値上がりし、国民の生活コストは上がっている。しかしほとんどの人の賃金は上がっていない。ですが、家計から支払われるコストが増えるとGDPは上がるんです。おかしいでしょう?

湯浅 介護や子育てのコストも、上がるとGDPが上がる。子供が増えない社会を進めたほうが、成長していることになる。

藻谷 欧州では子供に対して日本の4~5倍の予算をかけ、少子化を食い止めています。一方、日本では、輸出大企業を優遇して経済成長というのが最優先のまま。
 これはアメリカの銃規制問題の議論に似ていると思いませんか。オバマ大統領が「銃規制をしよう」といくら叫んでも、共和党保守派は反発しています よね。日本人なら銃規制して、町に銃がなくなるほうが、銃犯罪は減ると思うでしょう。でもアメリカでは「銃犯罪を減らすために銃を増やして自分を守るんだ」という理屈がまかり通る。これと同じで、日本では、いくら経済成長しても子供の減少は止まらないという現実に目を背けて、GDPが上がれば何でも解決するという理屈がまかり通っている。 精神論では解決しない

湯浅 日本にはもの凄く強い「勤労イデオロギー」があるからでしょう。「働かざるもの食うべからず」の精神です。現役世代が多い時代はそれで良かったかもしれませんが、今の日本には働ける人が2人に1人しかいない。
 高齢者や障害者に対してはいたわりの精神があり、介護離職者にもそれなりの理解があるけど、そうではない現役世代で仕事がない人間や妻子を養えて いない人には「人間失格」という烙印を押してしまう。こういう考えの人は年配の富裕層に多くて「私たちは戦後の酷い状態でも子供を生んで子育てをした」という自負心がある。

藻谷 だから頑張りなさいと。しかし彼らもこれから必然的に年金も減るし、介護も受けられないという問題に直面する。現実を目の当たりにすれば、勤労イデオロギーが通じないことは、わかってくれるんじゃないでしょうか?

湯浅 いや、それは難しいと思いますね。なぜなら、彼らは必死に働いて、戦後の貧しい時代を生きぬいてきた。勤労イデオロギーを否定することは、自分の人生を否定することになるからです。今後10年間で団塊の世代が後期高齢者になって、要介護者が激増し、そのために介護保険や年金が崩壊しても、彼らはそのリスクを受け入れる覚悟はあると考えている 。

藻谷 そこで出てくるのが、自己責任論ですね。

湯浅 はい。自己責任論は、働けないということも含め、うまくいかないのはすべてその人個人の責任だという考え方。日本人の根っこには勤労イデオロギーがあって、それが近年の経済第一の競争社会の中で強まってしまった。働けない奴は振り落としてしまえと。仕事がないのも子供が作れないのも、介護が受けられるだけのカネがないのも、「結局その人の頑張りが足らなかったからでしょう?」という風潮になった。

藻谷 自己責任論を唱える人たちは、結局は介護離職や子育て、人口減少という問題を解決できるとは思っていない。ただ、若者に頑張れと精神論を振りかざし、マイナスを押し付けているだけ。こんな状況で、若者が子供を作りますか?

湯浅 自己責任論が蔓延する社会になって、成果主義がエスカレートし、ブラック企業がはびこって、うつ病になる人が激増したのに、対策は取られなかった。「できないやつが悪いんだ」「若者がたるんでいる」と言って押し切られる。

藻谷 地方の若者も、まじめな人ほど勤労イデオロギーに染まって、未だに東京に出てくる。

湯浅 ええ。「地方消滅」と言われるのも、本来地方が支え、地方を支えるべき若者が、アテもなく東京に出て行っているという側面がある。地方の若者が東京に来るのは、「地方の疲弊」という言われ方で、東京の生活のほうがいいんだという価値観を植え付けられているのでしょう。
 仕事を求めて地方から出てくる若者は、「地元は針のむしろだった」と言うんですね。30代で定職につけなくて、結婚をする見通しも立たない。この段階で「人間失格」と烙印を押されて、引きこもりになるか、アテもなしに東京に出てくる。でも東京は家賃も高ければ、物価も高い。それなのに得られる仕事 はアルバイトなどの低賃金。それでどうにもならなくなって、生活困窮者になる人が多い。

藻谷 しかし、 「地方の疲弊」と言っている人たちは何を見て疲弊したと言っているのですかね。東京のマスコミが地方のシャッター通りを映して、地方の疲弊と言いますが、じゃあ東京にはシャッター通りはないんですか。ちょっと駅から離れたところは軒並みシャッター街になってますよ。
 確かに、地方消滅は危ぶまれます。でも、東京だって状況は厳しい。ブラック企業を除けば、仕事がないのも似たようなものです。地方の疲弊を言う人 は「東京は地方よりましなんだ」と信じたい東京の人間と、「地方の疲弊を言うことで東京からカネが来る」と思っている地方の人なのでは。

湯浅 本当は地方で生活するほうが家賃も安いし、物価も安い。
 実は2~3年前までは、僕は地方経済が良くなり、人口減少に歯止めがかかる芽が生まれ始めてきたと楽観していたんです。地方を見て回ると、闇雲に経済成長を目指して箱物を作っても今後はやっていけないと、人々が気づき始めていた。藻谷さんが提唱する「里山資本主義」のように、地域の循環型経済を目 指す機運が高まってきていた。

藻谷 しかし、アベノミクスでまた逆戻りしてしまった感がありますね。陳情に行けば、また公共事業で食えるんじゃないか。そう思う人が再び増えてきた。

湯浅 全然、地方は儲かってないのですけどね。地方の事業のカネが東京に戻るようなカラクリになっていて、地域での循環経済にならない。日本はまた、暗礁に乗り上げてしまった。

藻谷 「里山資本主義」には大きな反響がありました。自然豊かな地方で、例えば製材工場から出る木くずでできたペレットを燃料に使えば、乱高下する原油価格に悩まされなく てもすむ。地域独自の少量の農産品をブランド化する。小さな企業も年々増加し、都会から移り住む若者も増えている。東京より賃金は安くても、食べ物も近所の人たちで融通しあったりして生活しやすい環境がある。人口減少社会を乗り切るのにふさわしい、低コストで楽しい生活が実現できるのです。
 そもそも、東京は出生率が1・1しかない。それに対し、地方の出生率は1・5前後です。地方が活性化すればもっと子供が増える。

 「消費者」がいなくなる

湯浅 それに地域の元気なおじいちゃんおばあちゃんが子育てや介護に参加してくれる仕組みができれば、介護離職、子育て離職も減らせ経済も活性化する。そのためには核となるコミュニティが必要です。  例えば、東北の被災地ではコミュニティ作りのためにいろいろな試みが行われています。こんな例があります。学生が中心となって、仮設住宅のベンチ や棚を作る日曜大工を請け負うという活動があったんです。そしたら、力仕事だから、おじさんたちも参加してくれて、それでおばあちゃんたちが感謝して。日曜大工のチームを作るということになった。役割って与えられるだけではダメで、その仕事で感謝されることが大事なんですよね。でもその活動は、結局は自治体から勝手にモノを作るな、とストップがかかってしまったそうです。

藻谷 それは残念ですね。しかし、こういうことはやっぱり地方のほうがやりやすい。東京は人を集めるだけで施設の利用料などでカネがかかってしまう。

湯浅 何か地域でやろうとすると、いろいろな抵抗勢力がいる。さらに、目先の経済成長がすべてだという価値観では、結局カネにならないことは何もしないほうがいいということになる。この価値観を払拭しないと。

藻谷 そうですね。私たちは何も経済成長そのものを否定しているのではありません。しかし経済成長だけを求め続けると人口減少に拍車がかかり、消費する人がいなくなって、結局は経済成長の足かせになる。このパラドクスに日本人は気付いていない。
 でも日本にも稀有な例はあるんです。長野県の下條村では20年前から生産年齢人口が減っていません。そして子供の数も増えています。一定の数の子供がいるから、保育所や小学校の数も増やしたり減らしたりしなくいい。下條村では30年も前から村を上げて子育て支援をやっています。我々も今からでも遅 くはない。社会全体で子育てしたり、介護したりする仕組みを考えるべきです。

湯浅 同感です。途上国型の成長ビジョンから、成熟型の成長ビジョンへの転換が必要です。自己責任論で誰かを排除するのではなく、みんなで支えあう包摂社会を目指したいですね。

【もたに・こうすけ/'64年生まれ。日本総合研究所調査部主席研究員、日本政策投資銀行特任顧問。地域振興の各分野で研究、講演を行っている。著書に『デフレの正体』『里山資本主義』など ゆあさ・まこと/'69年生まれ。社会活動家。'08年末「年越し派遣村」村長として一躍その名を知られる。日本の貧困の現実を記した『反貧困』で大佛次郎賞受賞。'14年度より法政大学教授就任予定】
 ≫(現代ビジネス:オトナの生活・賢者の知恵*週刊現代2月21日)

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●ためらうな、奈落の底まで突っ走れ! 反知性主義・安倍政権の末路をみせろ

2014年02月21日 | 日記
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●ためらうな、奈落の底まで突っ走れ! 反知性主義・安倍政権の末路をみせろ

 国会の状況を眺めていると、政権側を追及する野党の姿勢もパワー不足だし、答える政府側も、時間つぶしの予算委員会で、答えになっていない答えを語り、ついでに我田引水な方向に話を持っていく始末。筆者が知る限りにおいて、まったく反対意見に配慮しない政権を見たのは初めてだ。嘘でも、間違いでも、堂々と力強く言い放てば、テレビの絵面は好印象を与える効果に頼り切った安倍晋三の政権運営である。しかし、国民の7割前後は、首相は自信をもってことに当たっていると云う印象を持つ。

 14金曜日からの東京周辺を襲った大雪が、各地域に孤立集落を生み、幹線道路では何百台かの車が身動き取れず、数日を送る羽目になり、水・食糧・燃料等の枯渇が生命にかかわる一歩手前であった。そんな時に、支持者を集めて高級天ぷら屋で歓談をしていたわけだから、叩かれるのは当然だろう。理屈上、担当大臣に「遺漏なきよう命じていた」と言い逃れているようだが、陣頭指揮をとっている姿を見せるのは、安倍晋三の十八番であった筈だ。折角、露出度向上の機会を見逃すとは、官邸のミスである(笑)。「私が最高責任者だ」と云う言行が一致していない。自衛官と一緒に迷彩服を着こみ、雪中行軍の勇姿を見せるべきであった。

 衆院予算委で、憲法改正ではなく解釈変更により集団的自衛権の行使を容認できるかとの質問に、内閣法制局の答弁を押しとどめ、自ら立ち上がり「最高の責任者は私だ。政府答弁に私が責任を持って、その上で私たちは選挙で国民の審判を受ける。審判を受けるのは内閣法制局長官ではない。私だ」と、完全にお山の大将状態になっている。夜になれば、マスメディア幹部を呼び出し、夕飯その他を振る舞い、“変なことを書くなよ”と、報道機関を統制下に置くことに躍起になっている。こうするのが、マスメディアが望んだ「決められる政治」だとすると、トンデモナイ売国を助長したのは、報道機関と云うことになる。

 直近の馬鹿げた話は、首相補佐官を務める衛藤晟一が安倍の靖国参拝に対し「失望した」のコメントを引用、“こちらこそ、同盟国アメリカに失望した”と動画まで添えて、念入りに主張した。集団的自衛権、TPP、原発推進、辺野古移設決定等々、日米同盟の深化の為に、これほど必死で汗を掻いているのに、何という冷たい仕打ちだ、と言いたいのだろう。まさに、官邸内で安倍晋三、菅官房長官らが、常日頃嘆き、訝っている空気をストレートに表現したわけだが、腹の内を晒すのは未だ早い。4月にオバマが訪日すると云うのに、タイミングが悪すぎる。慌てふためいた菅官房長官が、個人的見解程度でお茶を濁すのは無理。全面的に撤回し、動画等々も削除せよ、といきり立った。

 この辺、今さら糊塗しようとしても無理だろう。オバマ政権が、安倍自民党政権と大きく距離を置いているのは事実である。当然、そこには安倍晋三と云う政治家への重大なる懸念があるからだ。ただ、アメリカの経済状況は、好調を装っているが、実態は相当病んだままだ。防衛にせよ、経済にせよ、日本に貢献してもらうしか選択の余地が残っていない。下品で厭らしい客であっても、ホステスとしては、作り笑いをしてお酌をしなければならない、とオバマ政権は決めている。オバマは、あんな反知性的政治家に出会ったことがないと、驚嘆しているに違いない(笑)。

 NHK人事では、「東京裁判は(米軍の)大虐殺をごまかすための裁判だった」と云う3流作家・百田尚樹や「女は子を産み育てるのが務め」なんちゃっての長谷川某とか云う学者らしき女史を経営委員に送り込み、とどのつまりが会長人事の籾井の出現だ。安倍本人は、何をやってもスンナリ通過、“俺って天才?俺の権力って凄いんだ。やりたかったこと、この際全部やっちゃおう”と云う気分になっても不思議ではない。世界中から顰蹙を買っていることも知らず、右巻きお友達で周りを固め、権力に弱い奴らを掻き集めて夕飯を食う。正直、完璧に井の中の蛙状態であり、井戸の温度が徐々に茹でるべき温度になっている事に気づかないのだろう。

 ここまで、民主政治が劣化してしまった以上、どこから手をつけて収拾するのかといった生易しさで補正の効くものではないだろう。官邸にいる教養、感情、徳を劣化させている己を見つめられず、その正体に親密性を感じている支持者の強烈な大声に支えられ、内輪で「俺たちは間違ってない。間違っているのは、一部のはみ出し者だ。そして、日本の繁栄を快く思わない国々の奴らの遠吠えだ」と唯我独尊状態なのだろう。もう打つ手はない。行くべき処に至り、国家もろとも一旦地獄を見るのが早道だろう。そうであれば、安倍政権には、政治の邪道の限りを尽くし、如何に感情に走り、時には政治に無関心でいることの恐怖を味あわせる方が、国益にかなうと云うものだ。

 このような状況を、宮台真司は「教養の劣化、感情の劣化、徳の劣化」と表現していたが、19日の朝日新聞では、≪ 「反知性主義」への警鐘 相次ぐ政治的問題発言で議論 ≫と云う見出しで語られている。この記事を書くきっかけは「週刊現代」特集記事を引用するかたち、と云うから朝日のオリジナルではない。まぁそれでも、朝日が取り上げたことで「反知性主義」と云う概念に対する認知には、若干貢献しているだろう。朝日のサイトに同記事の抜粋があったので掲載しておく。


≪ 「反知性主義」への警鐘 相次ぐ政治的問題発言で議論 

「反知性主義」という言葉を使った評論が論壇で目につく。「非」知性でも「無」知でもなく「反」知性――。政治的な問題発言が続出する現状を分析・批判しようとする意図が見える。

■自分に都合のよい物語 他者に強要  
 「嫌中」「憎韓」「反日」――首相の靖国神社参拝や慰安婦問題をめぐり日・中・韓でナショナリスティックな感情が噴き上がる現状を、週刊現代は問題視して特集した(1月25日&2月1日合併号)。  元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は対談で、領土問題や歴史問題をめぐる国内政治家の近年の言動に警鐘を鳴らした。その中で使った分析用語の一つが「反知性主義」だ。この言葉を昨年来、著書などで積極的に使っている。

 どう定義しているのか。

 「実証性や客観性を軽んじ、自分が理解したいように世界を理解する態度」だと佐藤氏は述べる。新しい知見や他者との関係性を直視しながら自身と世 界を見直していく作業を拒み、「自分に都合のよい物語」の中に閉じこもる姿勢だ。とりわけ問題になるのは、その物語を使う者がときに「他者へ何らかの行動を強要する」からだという。

 反知性主義という概念を使おうと考えたきっかけは、昨年の麻生太郎副総理の「ナチスの手口に学んだら」発言だった。「ナチスを肯定するのかという深刻な疑念が世界から寄せられたが、麻生氏も政権も謝罪や丁寧な説明は必要ないと考えた。非常に危険だと思った」

 異なる意見を持つ他者との公共的対話を軽視し、独りよがりな「決断」を重視する姿勢がそこにあると氏は見た。「反知性主義の典型です」。週刊現代の対談では、靖国や慰安婦に関する海外からの批判の深刻さを安倍政権が認識できていない、とも指摘した。
 自分が理解したいように世界を理解する「反知性主義のプリズム」が働いているせいで、「不適切な発言をした」という自覚ができず、聞く側の受け止め方に問題があるとしか認識できない。そう分析する。

■「知的」へ憤りと疑惑 背景にポピュリズム
 フランス現代思想研究者の内田樹氏も昨年12月、反知性主義が「日本社会を覆い尽くしている」とツイッターに書いた。参考図書を読もうとしない学生たちに、君たちは反知性主義的であることを自己決定したのではなく、「社会全体によって仕向けられている」のだと挑発的に述べた。

 同じ月、米国の歴史学者ホーフスタッターの著書『アメリカの反知性主義』の書評をネットの「書評空間」に寄稿したのが、社会学者の竹内洋氏(関西大学東京センター長)だった。ホーフスタッターが同書を発表したのは半世紀前。邦訳されたのも10年前だ。

 なぜいま光を当てたのか。「反知性主義的な空気が台頭していると伝えたかった」と竹内氏は語る。  反知性主義の特徴は「知的な生き方およびそれを代表するとされる人びとにたいする憤りと疑惑」であると同書は規定する。米国社会を揺るがした1950年代のマッカーシズム(赤狩り)に直面したことで、ホーフスタッターは反知性主義の分析に取り組んだ。

 竹内氏がこの概念に注目したきっかけは、いわゆる橋下現象だった。「橋下市長は学者たちを『本を読んでいるだけの、現場を知らない役立たず』と口汚くののしった。ヘイトスピーチだったと思うが、有権者にはアピールした」

 なぜ、反知性主義が強く現れてきたのか。「大衆社会化が進み、ポピュリズムが広がってきたためだろう。ポピュリズムの政治とは、大衆の『感情』をあおるものだからだ」   

   ◇

 同じ「反知性主義」に警鐘を鳴らしても、佐藤・内田・竹内氏の主張は力点が違う。だが佐藤氏は、3人には共有されている価値があると語る。「自由です」

 反知性主義に対抗する連帯の最後の足場になる価値だろうとも言う。「誰かが自分に都合の良い物語を抱くこと自体は認めるが、それを他者に強要しようとする行為には反対する。つまり、リベラリズムです」(塩倉裕) ≫(朝日新聞デジタル)


 しかし、このような記事を読む人々は僅かであり、数行目を通し、「俺の考えとは違う。多分、こいつらはアカに違いない」そういう、それこそ反知性的態度に終始するだけである。昔から、馬鹿につける薬はないと言われていたが、大宅の総白痴ならまだしも、総ゴロツキ化に向かってまっしぐらなのだ。まして、これら総ゴロツキの基礎票に支えられた政権が、あらゆる暴力装置を携えて、国会を占拠しているのだから、何をかいわんやである。NHKが力を込め、マスメディアが煽りに煽った高梨沙羅、カーリング女子、浅田真央の不調は報道の圧力、ある意味で「ポピュリズム報道」の犠牲者と言えるのだろう。

幼児化する日本社会―拝金主義と反知性主義
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●中国海軍が尖閣に侵攻した時のシミュレーション 何を伝えたいのか毎日新聞

2014年02月19日 | 日記
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●中国海軍が尖閣に侵攻した時のシミュレーション 何を伝えたいのか毎日新聞

 以下は、毎日新聞が唐突に出してきた、「尖閣諸島:侵攻ある?ない? 可能性を探る」という記事だ。庄司哲也という記者の文章能力が稚拙なのか、元統合幕僚学校副校長(海将補)の川村純彦氏の解析が間違っているのか、“あり得る”と云う前半の説には、論理的な飛躍がみられる。軍事専門家の、為にする分析のような分析には頭をひねる。しかし、記事にした以上、記者の責任なのだろう。

≪ 尖閣諸島:侵攻ある?ない? 可能性を探る
 ◇ある 南シナ海支配の足がかりに
 ◇ない 部隊駐留難しく戦略的意義薄い

 日本政府による国有化、反日デモ、中国による一方的な防空識別圏の設定……沖縄県・尖閣諸島を巡る日中の対立は、もはや引き返せないチキンレースのように刻々と緊張の度を高めてきた。行き着く果ては最悪の事態、すなわち「中国軍の尖閣侵攻」なのか。あってはならないことが起こる可能性を、あえて探った。【庄司哲也】

 201×年×月。第11管区海上保安本部(那覇市)所属の巡視船のレーダーが尖閣諸島最大の魚釣島(うおつりしま)に向かう中国漁船10隻の姿を捉えた。巡視船は日本領海に侵入しないように無線で警告しつつ、中国漁船団に並走しながら航行。だが漁船団は警告を無視し、領海内に入った。

 魚釣島が目前に迫ると突然、1隻の漁船が体当たりを仕掛けてきた。巡視船の船体に穴が開き、両船は停止。その隙(すき)を突いて他の漁船が魚釣島西側の船着き場に接岸した。乗り込んでいた約90人の漁民が上陸。野営のための用具、食料に加え小銃や機関銃など武器らしきものも陸揚げした。実は、上陸したのは漁民を装った軍の工作員や民兵だった。目的は島の占拠で、船底には対空ミサイルや機関砲も隠されていた−−。

 中国による尖閣諸島への上陸について著書「尖閣を獲(と)りに来る中国海軍の実力」(小学館101新書)でそうシミュレーションするのは、元統合幕僚学校副校長(海将補)の川村純彦さんだ。中国は「海洋強国」を掲げる習近平国家主席の下、尖閣諸島周辺で艦船の航行を常態化させ活動を拡大している。その狙いを川村さんは「米国並みの核抑止力を持つため南シナ海を完璧に支配下に置くこと」と説明する。

 川村さんの解説はこうだ。尖閣諸島自体は東シナ海にあるが、中国は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM) を唯一の報復手段としており、水深が深く潜水艦の活動に適した南シナ海を制しようとしている。だが、その北方に位置する台湾を統一しなければ南シナ海での 潜水艦の安全は確保できない。もし、台湾の武力統一に踏み切れば中国が最も恐れる米国の介入を招くのは必至。空母を含む米太平洋艦隊を阻止するには東シナ海を勢力下に置いておかねばならず、その足掛かりが尖閣諸島の奪取なのだという。

 シミュレーションの続き。「反日過激派の独断で政府は関与していない」との中国の言葉に欺かれた日本政府が自衛隊の出動をちゅうちょする間に中国が尖閣諸島の 「実効支配」を世界に宣言。ついに日本政府も奪還を決断し武力衝突へ。航空機の性能やパイロットの能力に優れた日本側が制空権を握り、海戦にも勝利して尖閣を奪い返す。「現状では自衛隊が優勢だが、そもそも中国側にその気を起こさせないようあらゆる準備をすべきです」と川村さん。

 「グレーゾーンの事態への対応の必要性が認識されている。自衛隊が十分な権限でタイムリーに対応できるか、法整備で埋めるべき隙間がないか、十分な検討が必要だ」。4日に開かれた首相の私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」で安倍晋三首相はそう発言した。武装集団に対して自衛隊が出動する場合、相手が外国の軍隊であり、その国の戦争の意思がはっきりしていれば自衛隊法の「外部からの武力攻撃」に該し、首相は武力が使える「防衛出動」を命じることができる。一方、偽装漁民のように正体不明の武装集団による破壊活動は、 同法の「一般の警察力をもっては治安を維持することができないと認められる場合」に当たり「治安出動」が適用される。このケースは警察活動の延長と解釈されるので武器の使用は制限される。

 実際、1978年には中国沿岸から約100隻の漁船が尖閣諸島周辺に押し寄せ、その多くに機関銃が装備されていた。安倍首相が「グレーゾーン」の一つと指摘したのはまさに川村さんの想定したようなケースであり、安保法制懇はこうした事態への対処を検討している。

 そもそも中国に尖閣上陸の意思があるか、疑問視する声がある。「尖閣諸島に は飛行場も港湾もない。最大の魚釣島ですら大規模な部隊を駐留させ維持するだけの大きさがない。そんなところを中国が攻める戦略的な意義を見いだすのは難しい」。軍事評論家の神浦元彰さんはそう見る。上陸部隊への食料の補給をどうするのか▽日米安全保障条約が発動し在日米軍が介入したら▽中国同様、尖閣諸島の領有権を死活問題と考える台湾の攻撃をどうかわすか−−といったハードルがあるからだ。

 日本政府は2002年に離島防衛を主な任務とする西部方面普通科連隊(長崎県佐世保市)を創設するなど離島防衛強化を進めているが、神浦さんは 「米ソ冷戦期に日本ではソ連軍が北海道に侵攻するという説がありました。だが『なぜ北海道にだけ侵攻してくるのか』を明確に説明できる人はいなかった。それと同じで政府は都合のいい想定で自衛隊の存在意義をつくり出そうとしているのでは」と冷ややかだ。

 元在中国日本大使館防衛駐在官で東京財団研究員の小原凡司さんも「中国による尖閣侵攻」には否定的だ。「中国が軍事力の拡張を続けているように見えるのは、グローバル化した自国の経済活動を保護するためです。その意味では、中東からの石油などの海上輸送路 となる南シナ海の方が、東シナ海よりもはるかに重要です」と指摘する。

 2012年9月、国営通信新華社系のニュースサイト「新華網」はロシアの軍事専門家による中国軍の尖閣上陸シミュレーションを掲載した。それによると航空兵力は日中拮抗(きっこう)しているが、ミサイル艦を大量保有する中国軍は自衛隊の艦船に打撃を与え、日本側が中国の尖閣諸島上陸を阻止するのは難しい。しかし、米国が日米安全保障条約に基づいて介入する可能性が高く、そうなれば中国は撃退されるので「中国は軍事行動を控える」と結論づけている。

 また、中国政府管轄下のウェブサイト「中国網」は昨年3月、故・劉少奇元国家主席の息子で中国人民解放 軍総後勤部政治委員の劉源・上将(大将)の発言を伝えた。習近平主席と同じ太子党(党高級幹部子弟)出身で習氏が信頼する軍人の一人とされる。そのインタ ビューで、緊張が高まる日中関係について問われた劉氏は「戦争とは何なのか。それはとても残酷なもので代価も大きい。別の方法で解決できるならば極端な暴力的手段で解決する必要はない」と非戦の考えを明らかにした。

 劉氏の発言こそが「中国の本音ではないか」とみるのは小原さんだ。「中国の尖閣諸島に対する戦略的な関心はむしろ薄く、日本側に中国を意識しすぎる面がある。自衛隊と中国軍対話のチャンネルはほぼ閉ざされており、信頼醸成こそが急務ではないでしょうか」。尖閣を「戦場」にしてはならない。
 ≫(毎日新聞)


 軍事力で、“日中”どちらが優勢かと云う論争は、2チャンネル的だが、折角毎日新聞が“敢えて探る”と断ってでも書きたかったのだろう。どこに動機があったのかも知りたいところだが、ここでは、その疑問への寸借はやめておこう。あくまで、“日中戦わば”という視点で考えよう。否、その前に、日中が戦う理由が本当にあるのかどうか、その視点から見れば、筆者は「日中戦争なんて、起きるわけない」と云う考えだから、無意味な論争に嵌っていくことも承知で、毎日の記者につき合うことにする。

 尖閣にまつわる日中戦争を議論する場合、日本側の関係者の前提には、幾つか都合のいい解釈が、まず前提にあることを知っておこう。第一の都合の好い前提は、中国は絶対に核ミサイルを使用しない、と云う極めてご都合主義な前提が土台にある。第二の都合の好い前提は、戦火を交えるのは尖閣諸島に限定され、沖縄、九州及び本土への拡大はあり得ない、という事だ。第三の都合の好い前提は、米軍が日米安保の発動で、共同歩調を取ってくれるに違いない、と云うものである。

 以上の三つのご都合主義な前提で、戦闘のシミュレーションをすることは、殆ど意味をなさないのだが、もう少しだけ、戦争したい連中につき合っておこう。仮に、尖閣諸島だけで局地戦が行われたとして、中国軍が公然と尖閣に上陸しない限り、自衛隊が尖閣奪還に動けるかどうかは法的に疑問だ。海上保安庁と沖縄警察管轄の仕事になる。安倍君と石破君なら、中国海軍の侵略と勝手に見做し、自衛隊の出動を命じるかもしれない。以上のように、戦争大好きさんらの思い通りの状況で、ドンパチが始まったらどうなるのか?これは、実はやってみないと判らない。

 たらればが幾つも前提にある、戦闘シミュレーションに意味があるかないか判らないが、漁民に成りすました尖閣上陸の人々が武器を携帯していた場合、単純に警察による強制拘束、退去処分と云う前例通りには行かないだろう。この場合、中国政府も、上陸者が軍関係者であったとしても、軍の動きではない立場を維持するだろうから、表立った支援は出来ない。つまり、兵站の都合がつかず、1か月を待たずに問題は解決する。

 問題は、偶発的に起きる海上保安庁と漁船の小競り合いがエスカレートした場合だろう。その漁船の乗組員が武器を携帯、海上保安庁に発砲してきた時、その攻撃に海保が応戦してしまった場合、漁船側の銃弾は尽きるだろうから、そこで海保の拿捕となるのだが、双方に死傷者などが出た場合は、話は複雑になる。こうなると、両国政府は粛々と手続きに従う慣例よりも、吹き上がる世論に配慮する行動をとることもあり得る。ここまで書いてきて思ったのだが、この事例だけでも、漁船に機関銃が搭載されていた場合とか、多数の前提条件が出て来るし、このシミュレーションだけでも10ケースくらい想像できる。

 日中という枠組みで見たら、無数のケースが考えられるだろうから、考えの限界がなくなる。オタクな人々なら、永遠にこの論議で話す満足は得られるだろうが、筆者の場合、無限に近い想定問答に時間を割くわけにはいかないと気づいた。今日のコラムの落ちではないが、折角実効支配していた尖閣諸島を、都有化すると石原が言い出し、慌てた野田が国有化してしまった、馬鹿の標本みたいな処理が、すべての始まり。石原と野田が中国に安倍政権の特使として、中国に行って話し合ってくるのが良いだろう。やはり、筆者は軍事オタクではなさそうだ(笑)。

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●日銀の役割が変貌しつつある 世界のマネー製造機への変身と経常収支赤字転落

2014年02月18日 | 日記
日本経済撃墜 -恐怖の政策逆噴射-
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●日銀の役割が変貌しつつある 世界のマネー製造機への変身と経常収支赤字転落

 今日の東京株式市場は、日銀の金融機関への貸出支援基金への拡充を決定したことで、大きく上げている。一種の金融緩和の追加政策と云うところだが、残念ながら金の流れの実態は、俗にいう「ブタ積」(日銀から流出したマネーが金融機関内に留まる)になるのだろう。ただ、FRBが金融緩和縮小方向になる中、世界唯一の金融緩和中央銀行として、日銀が“まだ降りないよ”と宣言した点が好感されているのだろう。しかし、市況的には円ドル相場が1円近く円安に動いたことへの連動の方が勝っているのだと思う。株式アナリスト達の目からは、金融株の出遅れ感が充満していたので、そのはけ口市況かもしれない。

 増税前の駆け込み需要も一部高額品の波及が見られたが、総じて消費の弱さが際立つ。過去の増税前の駆け込み需要のような力強さからは程遠い。根本的に消費の力が弱まっていることに原因がありそうだ。消費税2%上げの1997年には1.1%個人消費が伸びたのに比べ、今回は3%も上がるのに0.5%しか伸びていない。この現象は、明らかに個人消費マインドの底の基準が切り下がっていることを示している。想像だが、民主党時代のエコポイント等々の政策で高額商品への購買意欲は減退しているだろうし、少子高齢化の波も、確実に鮮明化している証明でもあるだろう。いまの個人消費は、金融政策で踊らず、魅力的一発の商品群によって喚起されると云う、今までとは異なる消費マインドになっているのかもしれない。

 たしかに、出遅れていた金融株に割安感が出ていたのは事実だが、日々の枝葉末節な買い材料に過ぎないのだろう。面白い点は、日本の大手製造業の殆どが、円ドル相場が80円近辺でも生き残れる体制つくりを成し遂げたと言われているので、この辺の評価が再確認される相場もあり得るだろう。しかし、新興国バブルが弾けた現在において、FRBの緩和縮小方向と重ねあわせた場合、輸出の金額ベースではなく、本来の伸びを示す数量において、輸出の拡大が現れる確率は、かなり低そうだ。しかし、G8、G20などで、日銀の超金融緩和策が為替誘導政策でないと認めさせた世界の認知の中には、米国に代わって日本がマネーを放出する番だと云う暗黙の了解があったような気がする。

 しかし、日銀の異次元緩和が、為替誘導政策でないことを世界に認めさせるために、世界のマネーの輪転機になる暗黙の約束が、日本経済を奈落の底に突き落とすリスクを抱えだしたようである。輸出製造業を守らんがための、過度の円安誘導が、即刻劇的な貿易収支の赤字を生み、どうにか持ち堪えていた経常収支にまで影響を与えだした。最近の発表を見るかぎり、国の経常赤字体質は定着化の方向に向かっている。つまり、財政赤字と経常赤字と云う双子の赤字国家が鮮明になる現実が近づいた。デフレ脱却であり、為替誘導ではないと云う日本の主張は、実は世界金融の罠であった可能性すら感じる現在の状況だ。この辺に関しての心配事を山田厚史氏が以下のようにコラムで心配している。


 ≪ 景気回復腰折れか 五輪バブルか? FRB出口戦略の肩代わりは日銀に

 イエレンFRB(米連邦制度準備理事会)議長の登場と共に金融の量的緩和縮小が米国で鮮明になった。真っ先に反応したのが新興国経済。マネー逆流を恐れ通貨が売られ、世界の株式市場に衝撃が走った。

 リーマンショック後を支えた新興国ブームが終わろうとしている。ドルを世界に送り出すFRBの政策が反転すれば、じゃぶじゃぶな金融による「覚せい剤効果」は減衰する。世界経済は「空気が抜けた風船」になりかねない。注目されるのが日本、黒田緩和によるFRBの肩代わりである。米国が「出口」を探れるようになったのは「お後の用意」が整ったからだ。日銀は、より大きな責任とリスクを背負い込むことになる。

新興国は「仕手銘柄」

 マネーに国境は無くなった。国ごとに規制や統制はあっても、カネはあの手この手で儲かるところに集まる。そしてカネは臆病だ。損を恐れ、危険を察知すると逃げ出す。インド、ブラジル、トルコ、インドネシア、南アフリカ、アルゼンチン、ウクライナ……。これらの国は成長が期待され、投資利回りを稼げる国としてもてはやされた新興国だ。ところが米国の緩和縮小におびえた投資家が通貨を売り、逃げ出そうとしている。慌てた新興国の通貨当局は金利を引き上げて防戦するが不安は解消されない。

 これらの国に共通する経済構造がある。経常収支の赤字、対外債務の膨張、外貨準備の不足である。成長が期待され先進国から資金が流れ込んだ。流入 を維持するため通貨を高めに維持した。金利も高くした。輸出競争力は落ちる。貿易(輸出)は伸びず経常収支は赤字に。赤字で足らないカネを外国から呼び込み対外債務が膨張する。通貨安になる。無理な水準で為替を維持しようと、外貨を売り自国通貨を買う。結果、外貨準備が減る。そんな悪循環だった。

 投資ファンドにとって絶好のカモだった。見かけの成長が進んでいる時は投資利回りを稼ぐ。新興国ファンドなどと称する金融商品を先進国の客に売りまくった。だが長続きしないことは分かっている。密かに通貨の売りポジションを用意し、下落局面でまた儲ける。

 規模が小さい新興国市場は株式でいう「仕手銘柄」だ。相場が激しく変動するから儲けやすい。情報を先につかんだものが儲ける。世界にネットワークを持ち、新興国の政治家や官僚機構に情報源を持つ米国金融マフィアの独壇場である。

イエレンFRB新議長の懸念

 2008年のリーマンショックで米国の投資銀行や金融機関は壊滅的打撃を受けた。住宅市場も破たんし「ゼロからの出直し」といっても過言でない状況だった。そこに始まったのがFRBによる救済・金融量的緩和である。

 バブル後の日本経済と同じで、米国でも不況期は資金需要がない。目を付けたのが新興国である。ブラジル・ロシア・インド・中国を「BRICs」と 名付けて売り出したのは最大手投資銀行ゴールドマン・サックスだった。今ではsをSにして南アフリカを加えた。トルコ、インドネシアなど投資国を増やし、 株や通貨だけでなく、企業買収や投資ファンドの組成など新興国を餌場に儲けを増やした。

 こうしたビジネスを可能にしたのがFRBによる金融の量的緩和である。旗を振ったのはリーマンショックの直前に就任したベン・バーナンキ議長だ。 第一波は、2008年11月から1年8ヵ月で1兆7250億ドルを市場に供給、第二波は2010年11月から8ヵ月間に6000億ドル。それでも足らず第 三波は2012年9月から月額8500億ドルという大量供給を始めた。

 マネーは経済の血液だ。ドクドク注ぎ込めばまわり回って元気が出る。大盤振る舞いは通貨の価値を低め、インフレを起こす恐れがあるが、そのような「従来型の常識」にこだわらない大量の輸血がアメリカ経済を再生する、という考えで進められた。

 その甲斐あって米国の経済指標は好転している。新技術が確立したシェールガス開発が本格化したことも幸いしたが、株価は史上最高値を更新し、雇用者数でも回復の手応えが出ている。

 FRBは膨張しすぎたマネーを正常軌道に戻す政策を模索する。2月10日、米議会でイエレン議長はこう述べた。 「低金利が長期間続けば、利回りを追う意欲を刺激する可能性をあると認識している。われわれは資産バブルの形成やレバレッジの拡大、急速な信用の伸びなど金融安定への脅威を抱えている」

 つまり「経済のバブル化が心配です」と言っているようなものである。FRBが量的緩和を段階的に縮小する政策に切り替えたのは、リーマンショックでバブルが崩壊したように、金融を脅かす事態が起こると懸念しているからだ。

 アメリカ経済が本当に立ち直ったのか。それは疑わしい。雇用は増えているが低賃金の非正規労働である。豊富な資金で株式投資や新興国融資で金融は賑わっているが社会に貧富の差が広がり、オバマ大統領が年頭書簡で「最大の課題は格差解消だ」と指摘する経済状況だ。

 労働経済が専門のイエレン議長は、雇用の現状を憂慮しながら「膨張マネーの縮小」に舵を切った。このまま続ければ「金融安定への脅威」を意識している。登山は頂上に立っても無事下山できなければ成功とはいえない。量的緩和も同じだ。下山できなければ遭難だ。

 米国最強のビジネスは金融である。政策も人材も向かうところは金融だ。産業の発展と共に生きてきた銀行・証券は、世界がまるごと市場経済になった20世紀末から投機ビジネスに変貌した。

 FRBが供給する緩和マネーが飯のタネ。機敏に動かすことで膨大な利益を生む。世界はカジノになり、いち早く情報をつかみ、自らが描く相場のシナリオにそって、政府や投資家を動かす力のある金融資本が勝者となるシステムになった。

 新興国ブームを作った金融資本は、緩和縮小も新たなチャンス。市場が激しく動けば商機となる。

黒田緩和にお鉢が回って来る

 新年になって日本の証券市場が下降局面に入った最大の理由は「外人売り」である。昨年、東証ダウは56%の上昇を記録した。「外人買い」で日本株は上昇した。東証の調べではこの一年、外国人投資家は15兆1196億円の買い越し。売っていたのは日本の個人投資家で8兆7508億円の売り越しだった。企業も株上昇を収益に取り込もうと活発に売った。つまり、昨年は日本人は株を手放し、仕込んでいたのは外人投資家、その多くが投資ファンドなどプロ集 団だ。FRBのじゃぶじゃぶマネーを日本で運用して株価を押し上げた、と見ることもできる。

 彼らもまた「出口」が必要だ。安く仕込んだ日本株を高値で売り抜けて成功である。

 政府はアベノミクスを囃し立て「東証ダウ2万円へ」などという景気のいい声がアナリストから上がっている。底値だった保有株が上昇し、思わぬ「資産効果」を実感した人もいただろう。

 年が代わって外人が売り始めた。緩和縮小で潮目が変わった。日本人に買わせるセールストークが必要になる。証券会社の中には、自己売買や得意客に 儲けさせるため、大衆投資家に損をさせることを平気でする者もいる。「まだ上がります」と勧めながら売り抜ける、そんなこともあるので注意したほうがいい。

 話は逸れたが、FRBの緩和縮小は日本も無縁ではない、ということだ。心配なのは黒田緩和にお鉢が回って来ることだ。  安倍首相が「日銀の輪転機をまわしてジャンジャンおカネを発行して景気対策を」と叫び、黒田東彦日銀総裁が誕生したのが昨年4月。「2年で通貨発行を2倍にし、2%のインフレを実現する」と宣言した。

 ところが途上国にまでドルがまき散らされているFRBを違い、日銀マネーは市場に出ていない。  日銀統計によると、黒田緩和が始まった4月から年末まで日銀が増発した資金(ベースマネー)は58兆円あった。ところがそのうち53兆円が、日銀にある大手銀行の口座に溜まったままになっている。銀行は日銀から供給されるマネーを持て余しているのだ。

 大企業は借りてくれない、中小企業は怖くて貸せない。海外のことはよくわからない。大量の資金は市場に回らず、日銀口座に積まれたまま。無意味な残高の膨張を関係者は「ブタ積み」と呼ぶ。 「非伝統的な金融緩和」とか「2年で2倍」と叫んでも、日銀からカネが流れ出ない。外部環境がこの状況を変えようとしている。アメリカが通貨膨張 を絞る。新興国や金融資本から悲鳴が上がる。世界がマネーを必要としているのなら「日本が供給すればいい」という声がやがて高まるだろう。 「クロダは2年で2倍といっている。なのに市場にカネが流れていない。借りたいところはたくさんある。日本の銀行はもっとリスクを取れ」。そんな要請がアメリカから押し寄せてくるのではないか。

 インフレはデフレの中で芽吹く

 翻って日本を見てみよう。政府は景気は回復軌道に、というが本当だろうか。好材料は円安と株高だった。円安は貿易収支の赤字拡大という危うい現実の反映である。

 円安で輸出産業は円建ての儲けは膨らんだが、輸出数量そのものはちっとも伸びていない。消費は株高の資産効果で高級品が一時伸びたが、総じて低調 だ。賃金がへこんでいるからだ。春闘で輸出産業などはベアなどをはずむ構えだが、恩恵は大企業の正社員に留まる。非正規労働者の比率は増え、人件費の総額は伸び悩んでいる。企業側も中国を含む新興国のビジネスに不安を募らせている。

 そんななかで4月から消費税が上がる。財政による公共事業は消化できないほどの満腹だ。景気対策として「一段の金融量的緩和」が浮上するだろう。実態は、ブタ積みだ。これを解消する方策が日銀や銀行に求められる。

  「緩和したいが続けると不良債権をつかみかねない」という心配から、量的緩和を縮小するのが米国の立場だ。浮沈する経済で金融が儲けるのは「上昇 局面で貸し、下降する前に回収」が鉄則だ。バブル崩壊でも後から出て行った銀行がババをつかんだ。逃げる米国の跡を任されリスクを取らされる、金融・通貨を巡る米国との関係は、いつもそんなものなのか。

 もう一つ、心配がある。インフレである。デフレ脱却が目標の時にインフレの心配をするのは見当違い、という主張があるが、私は「インフレはデフレ の中で芽吹く」と思っている。インフレは、通貨を過剰供給するという人為的な手段があって初めて可能だ。インフレになってもいい、という政治判断が必要なのだ。今の日本は円安で物価が上がる「好ましくない物価高」が起きている。それなのに「物価が上がった」と政府・日銀が喜ぶ。異常ではないか。

 資金需要がない今は日銀マネーはブタ積み状態だが、儲かりそうな案件が見えれば一気に流れ出す。ダムに溜まった水が一気に噴き出すように。

 目を凝らすとインフレは芽生えている。土木労働者の人件費高騰はそのひとつだ。建築資材も上がっている。土木・建築市場は過熱し入札不調が相次い でいる。自治体の予算では受けられないほど事業費が高騰しているから。舛添都政が始まり東京五輪ブームがやって来る。払底した資材や労働力の中で兆円単位の事業が始まる。湾岸エリアのマンションが高騰し始めた。不動産会社も投資用物件の扱いを始めた。一極集中の東京という局部での過熱に終わるのか。それとも金融超緩和を背景に投機が全国に広がるのか。  米国の量的緩和縮小で世界は縮み、日本は景気回復の腰が折れる、という見通しが一方にあり、他方で東京五輪を契機に黒田緩和が本格化し、ブタ積みされた資金が投機経済を煽るというシナリオも頭の隅に置いて置く必要はあるだろう。

 2014年は金融資本主義の喘ぎが世界を不安定なものにするだろう。

≫ (ダイアモンド オンライン:山田厚史の「世界かわら版」

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●沖縄で旧石器時代の大発見、日本人の起源に迫る この報道と辺野古基地を考える 

2014年02月17日 | 日記
先生と私
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●沖縄で旧石器時代の大発見、日本人の起源に迫る この報道と辺野古基地を考える 

 以下の朝日新聞の日本人の起源に迫る大発見の記事を読みながら、筆者の気持ちは“沖縄の遺跡で日本人の起源”と云う言葉に、わだかまりを含む感じが去来した。沖縄県の南城市と云う洞窟のある場所は、最南端に近い。誰が考えても、日本人の起源論などに興味のある人間であれば、南洋系のDNAが日本に入ってきた経路の道筋という推論には至る地である。方や、北方系人種の経路もあるわけで、その二つのDNAが現在の日本人に受け継がれていることは承知している。ゆえに、特に違和感はないはずだけど、朝日の見出しには違和感を覚えた。

 なぜ筆者に違和感があるかと云えば、民族のルーツを探る意味では、特に異を唱える気はないが、日本人の起源に迫る大発見というのには抵抗感がある。筆者は、朝日が言うところの日本人という部分が正確ではないと思っているからだ。人種の成立の系統立てとして問題ないが、“日本人”と束で括る安易さに異論はある。琉球王国と云う立派な王国が存在していたわけだし、1609年に薩摩藩により実効支配され、王国の血脈は華族とし遇され、現在も「尚家」は存続している。(但し沖縄在住ではなく東京在住のようだ)

 まぁ琉球王国の祖“舜天”は、「おもろそうし」や「椿説弓張月」などによれば、源為朝(鎮西八郎)だと云う説が正史となっているので、まさに日本人とも言えるが、真偽は不明だ。源義経=成吉思汗説が江戸時代の林羅山、新井白石らによって、本気で議論されたのだが、現在では、学術的には一笑にふされている。何ともロマンのない話だが、概ねの史実であれば致し方ない(笑)。琉球王国の祖“舜天”=源為朝の話もロマンはあるが、嘘くさい。その辺の余談はさておき、沖縄諸島には琉球王国が存在した事実を重視した場合、沖縄の遺跡から、2~3万年前、旧石器時代の貝器と人骨が発見されたことが、日本人起源と直結させる考えに、短絡的に反応することは出来ない。

 ≪ 沖縄で旧石器時代の貝器発見 国内初、日本人起源論迫る
 日本最古の人骨が密集する沖縄地域のサキタリ洞遺跡(沖縄県南城市)で、約2万年前の旧石器時代の貝製道具(貝器)が国内で初めて見つかった。県立博物館・美術館が15日、発表した。同時に人骨も出土し、骨と道具がそろった国内最古の例となる。骨はあるのに文化遺物が出ないといわれた沖縄旧石器時代の謎を氷解させ、人骨と道具の両面から日本人起源論に迫る成果だ。

 出土したのはマルスダレガイ科やクジャクガイなどの貝の破片39点。道具の証拠となる使用痕が確認できた。同じ地層から人間の歯と足の骨も出た。 同じ層の木炭を測った放射性炭素年代をもとに計算すると2万~2万3千年前の値が出た。ツノガイの破片2点はビーズのように使ったとみられ、旧石器時代では国内初の貝製装飾品だという。

 サキタリ洞遺跡の南1・5キロの八重瀬町からは、国内で唯一全身骨格がそろう「港川人」が見つかっている。今回の貝器の時期もほぼ同じで、当時の人類が身近な貝を利用して環境に適応した生活を営んでいた様子がうかがえる。

 石灰岩質の沖縄地域は酸性土壌の本土に比べて骨の残りがよく、本土にほとんどない旧石器時代の人骨が複数確認されているが、使われたはずの道具が見つからないという不思議な状態が続いていた。今回の発見はそれを埋める成果で、同博物館の山崎真治主任は「石器だけではない道具を使った旧石器時代文化の多様性を物語る」と話す。

 サキタリ洞遺跡では同館による近年の調査で、9千年前の沖縄最古の土器や1万4千年以上前の人骨や石器が見つかっている。(編集委員・中村俊介)

 西秋良宏・東京大教授(先史考古学)の話 沖縄には旧石器がないので旧石器文化の存在を疑問視する見方もあったが、それに解答を与える大発見だ。貝を使う南方文化とのつながりを考える材料が出てきた。日本人の系統論を骨ばかりではなく文化的にも語る材料といえる。  ≫(朝日新聞)

 上記の記事を読んだ後から、佐藤優の対談形式の辺野古基地移設問題への言及を読むと判るが、彼が好むと好まざると、沖縄県民と琉球民族と云うテーマでは、奥歯に物が挟まったように言葉を濁している。この対談を読んでいて、直接的に“目から鱗”の部分もあったし、奥歯に物が挟まった言葉じりに、民族問題も、実は含んでいることを窺わせている。佐藤優は、独立運動に結びかないことを支持しているようなので、言わぬが花と云う処なのだろう。筆者の深読みかどうかは、皆さんのご判断次第である。

≪ 名護市長選に負けた石破氏の態度はまるでイソップ寓話。なぜ沖縄県民が辺野古移設反対なのかその現実を見よ!

  【本コーナーは、佐藤優さんが毎月第1金曜日と第3金曜日に出演している文化放送「くにまるジャパン」での発言を紹介します。今回は1月31日放送分をお届けします。野村邦丸(のむら・くにまる)氏は番組パーソナリティ、伊藤佳子(いとう・よしこ)氏は金曜日担当のパートナーです。】

邦丸: いつもはここでニュースを取り上げるのですが、今日は佐藤さんが最近いろいろなメディアに寄稿されているものから取り上げたいと思います。テーマは2つです。一つ目は「沖縄」、そして「日本とロシア」。まずは「沖縄」から。(……略)

佐藤: この「くにまるジャパン」の放送内容をメールでも流していますけれど、沖縄の選挙に関しては録音していた人もけっこう多かったということです。「佐藤さんの予測どおりになりましたね」と言われるんです。沖縄ツウと言われる人のほとんどは、ギリギリで末松文信候補がひっくり返すのではないかと予測していた。 東京からそうとう応援もするし、カネも入れて振興策も入れるし。石破茂(自民党幹事長)さんが500億円というおカネを名護につけるという話も直前にした。それから、公明党が最終段階のところにおいては末松さんに行くんじゃないかと。こういうような情報が流れたんですが、私だけが一貫して、そうはな らないと言っていた。しかも大差がつくと予想していました。
(…略…)

佐藤: 今回重要なのは、どうも東京からは、沖縄で意見を申し立てている人たちというのは左派、日米安保に反対しているリベラル派じゃないかと見てしまうんですが、そうじゃないんだということなんです。普天間飛行場の辺野古移設に反対しているのは保守派なんです。
(…略)
沖縄の保守派が、「東京の言っていることにとにかく従わなければならない」というグループと、「保守というのは土地の利益に合致してなけれ ばいけないのでこれはもう過重負担で無理だ」というグループに分かれていて、後段のグループは、これ以上無理なことをすると、「ふざけるなよ、これは差別だ」ということで、逆に「嘉手納基地を封鎖しろ」とか「日米安保自体を棄損しろ」という事態になったら大変だから、もう歩留りをつけておいたほうがいいと考えているんです。 こちらのグループのほうが今、保守派の中心になっているんですね。仲井眞弘多(なかいま・ひろかず)知事の今回の転換(辺野古への移設のための埋め 立てを承認)は、ものすごい圧力をかけられて知事が壊れちゃったんだと思うんですよ。それで、もうまったく沖縄で影響力がなくなった。翁長雄志(おなが・ たけし)那覇市長に求心力がグッと移っています。この人も保守系で、辺野古移設反対をずっと言い続けている。ですから、沖縄と沖縄以外の日本とのギャップ が辺野古の問題で広がっているので、これが今後どうなるか心配です。

邦丸: 政府が今後、この辺野古移設に関しては「粛々と進める」と言っていますね。地元名護市の権限は尊重しながらも、それがすべてではないんだと言っています。「粛々と」というのは「強引に」ということなんですね。

佐藤: 選挙の前までは、「名護市長選挙は絶対に勝たなければならない」と言っていた。それは市長権限があるからということでした。それを獲らないことには、円滑に進まないんだから、これは決戦だと言った。

邦丸: はい、そうでしたね。

佐藤: 石破さんの話を聞いていると、イソップ寓話の「すっぱいブドウ」を思い出すんですよ。
(…略…)
キツネが森のブドウを取ろうとしていた。ところが高い所になっているので取れない。何度頑張っても取れない。どうしても取れなくて、キツネは最後に捨て台詞を吐く。「あのブドウは酸っぱいんだ」と。 (…略…)
佐藤: 選挙の前は「勝つんだ」「勝つんだ」と一生懸命言っていた。つまり、ブドウを取ろう、取ろうとしていた。ところが選挙に勝てなかったら、「市長権限なんか関係ないんだ。国が粛々とやるんだ」と言い出した。そういうイソップ寓話みたいなことをやっていてはダメですよ。

邦丸: 辺野古移設に関しては、以前から佐藤さんは「沖縄人同志、同胞同志が血を流し合うような事態だけはなんとしても避けなければならない」とおっしゃっています。

佐藤: 要する に、東京の保守派の人は、本土から行っているプロの新左翼とか、過激な考えを持った活動家が辺野古移設に反対しているんだというイメージを持っているんですね。しかし、移設反対の中心になっているのは沖縄の地元の人たちなのであって、特に「戦争は二度と繰り返したくない」という80代、90代の沖縄戦経験者の人たちが、基地をつくるとなれば座り込みをすることになるんです。それを沖縄県警の機動隊がゴボウ抜きにする。機動隊員は沖縄出身の青年たちですよ。 となると、沖縄出身者の間で流血が起きて、高齢者からは死者が発生することが十分考えられます。そうなった場合、沖縄のなかでは怒りが沸点に達しますよ。

邦丸: ふむ。

佐藤: (略)国際的に見ると、民族問題の初期段階なんですよ。ですから、これは分離の可能性すらある、大変な段階なんです。この問題について、私は自分の立場ははっきりしているんです。沖縄は日本のなかにあったほうが、日本のためでもあるし、沖縄のためでもあると強く思う。だから、中央政府はやり過ぎてはダメですよ。「過ぎたるは及ばざるが如し」とは、こういうことだと思うんですよ。

邦丸: 沖縄県内の世論調査を見ると、なぜ辺野古移設に反対なのかというと、「新たなる基地をつくることになるから」という回答に、ああ、そうかとハッとします。

佐藤: そういうことなんです。実は、沖縄の基地というのは、地元の同意を得てつくられたものは1つもないんです。そこが原発とは違うところなんです。原発は一応、設置するときには地元の同意を得ているわけです。 沖縄の基地は「銃剣とブルドーザー」と言われるように、占領下に無理やりつくられちゃったものなんです。もし、辺野古に新基地ができると、これを地 元の人が認めたということになっちゃう。そうすると、沖縄の基地の位置づけも変わるんだということも、沖縄の人たちの危機感をもたらした原因で、この流れはもう変わらないです。 いくらおカネを積まれても変わらない。だから、沖縄はおカネで最終的には転ぶんだという発想から、自民党本部も首相官邸も早く決別するべきですね。
(…略…)

邦丸: 佐藤さん、以前おっしゃっていましたけど、過去の自民党政権のとき、時の総理大臣、時の政府重鎮が何度も沖縄に足を運んだということでした。おカネ、振興策ももちろん持っていくんだけれど、何度も何度も足を運んだ。

佐藤: ぜんぜん提案の内容が違うんですよ。沖合にあんな巨大基地を永遠に置いておくということではなくて、今あるキャンプ・シュワブの滑走路を延ばして、しかも15年の 期限付きでその後は民間に渡すというものだったんですよ。それが今は、普天間よりもずっとデカい基地をつくって永久に置いておこうという。話がぜんぜん違うわけです。それも沖縄の不信感の原因なんです。……

*この続きは「佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」」でお読みいただけます。 ≫(現代ビジネス:佐藤優直伝 インテリジェンスの教室)

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●アベノミクスの副作用が顕著に 輸出大国だと勘違い、製造業が日本を滅ぼす

2014年02月16日 | 日記
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●アベノミクスの副作用が顕著に 輸出大国だと勘違い、製造業が日本を滅ぼす

 何度か似たようなテーマのコラムを書いているので、もう判ったよ、シツコイ!と叱られそうだが、またまた「円安」誘導の愚かさを書かざるを得ない。なにせ、日本経済が生きながらえている、肝中の肝、経常収支が、3か月連続で赤字を出したことである。日本の財政が、借金1000兆円超えの財務省プロパガンダ報道も、愚民たちは鵜呑みにするのみで、本当はどうなの?という疑問さえ持たないのだから、書くだけ無駄だろうが、己の精神安定剤の為に書いておく。信州大学経済学部教授の真壁昭夫が今更のようなコラムを書いている。一応、参考に目を通して置いて貰おう。

 ≪ 円安続くも輸出伸びず、減少し続ける経常黒字
足下の為替市場ではドル・円のもみあい状態が続いているが、わが国の経常収支の黒字の減少傾向に歯止めがかからない。2月10日、財務省が発表した12月の経常収支は、過去最大の6386億円の赤字になった。 それによって、単月ベースの経常赤字は3か月連続で続いたことになる。
2013年暦年で見ると、経常収支は僅か3兆3千億円の黒字と前年対比でマイナス31.5%の大幅減少になった。 本来、円安傾向が進む中で輸出が増加傾向を辿り、貿易収支の赤字が減少することは期待されたのだが、実際には輸出が思ったように伸びない。こうした状況が続くと、今後、経常収支が赤字化することも懸念される。それは、中長期的に円安要因となるはずだ。

 貿易赤字が拡大する三つの理由
わが国の経常収支の黒字幅が減少している最も大きな要因は、貿易収支の赤字幅が拡大していることだ。2013年の貿易赤字は約10兆6千億円に上り、前年対比で4兆8千億円余りも増えた。2011年から3年連続の赤字に落ち込んだことになる。
貿易収支が赤字基調になっている主な理由は三つある。
一つは、原発休止による天然ガスの輸入急増だ。それだけで、貿易収支を4兆円余り悪化させている。
二つ目は、日本企業が生産拠点を海外に移転したことだ。製品を海外工場で生産すると、当然、日本からの輸出は減少する。
三つ目は、わが国企業の製品の競争力が低下していることだ。特にスマホ等のIT関連機器に関して、この傾向が目立つ。IT以外にも高級衣料品や宝飾品、さらには掃除機などに至るまで、日本の消費者が海外製品を求める傾向が鮮明化している。

将来的には〝双子の赤字〟の懸念も
わが国の経常収支の悪化傾向をみると、今後、財政赤字と経常赤字が重なる〝双子の赤字〟の懸念が現実味を帯びる。
消費税率引き上げの駆け込み需要で輸入品が増加している面はあるものの、今後、貿易収支の赤字幅は一段と拡大する懸念は残る。 また、海外投資家の国内株式保有の増加は、海外向けの配当金の支払いの増加を通して、所得収支の悪化に繋がる。
所得収支の悪化によって経常収支の黒字幅が減少すると、いよいよ〝双子の赤字〟が現実的になる。 そうなると、今までわが国が蓄えてきた富が海外に流出して、為替市場ではさらなる円安が進むことが考えられる。そして最終的に、日本経済の活力が失われ、国民の経済活動が不安定化することになりかねない。  ≫(現代ビジネス:企業・経済:真壁昭夫)

 2012年に野口悠紀夫が書いた「製造業が日本を滅ぼす」(ダイヤモンド社)、の中で、最近の日本経済における重大な懸念、“双子の赤字”への警鐘は、鮮明に語られている。同氏は“「超」整理法シリーズ”がベストセラーになり有名になったが、経済学者としてもホンモノであるが、経済学界では傍流の扱いになっている。しかし、視点は異なるが植草氏同様、慧眼の徒である。彼の「製造業が日本を滅ぼす」における論点は、目次を読むだけでも理解可能だ。参考に以下に目次を羅列しておく。

 第一章 日本の輸出立国は大震災で終わった
 1、貿易赤字が定着する
 2、貿易赤字の定着は「ニューノーマル」
 3、貿易赤字の定着は通念の変更を迫る

 第二章 日本の貿易構造は変化している  
 1、自動車産業は「農業化」した
 2、日本の電機産業は生き残れるか?
 3、対中国輸出は日本経済を支えられるか?
 4、ドル建て価格を上げられれば、円高は問題ではない

 第三章 円高について通念を変えるべきとき
 1、円高は日本の国難なのか?
 2、円高の利益を冷静に評価する必要
 3、5時間で300億円超!FX投機で空前の利益
 4、貿易赤字になっても円安にはならない

 第四章 電力問題に制約される日本経済
 1、電力供給は需要に対応できるか
 2、発電コストが上昇する
 3、電力問題で加速する海外移転
 4、電力会社は、地域独占と総括原価方式で支えられていた

 第五章 縮原発は不可能ではない
 1、エネルギー計画の見直しは、電力需要の再検討から
 2、経済成長率を見直せば、原発依存度は半減する
 3、産業構造が変われば、電力需要は減る
 4、環境基準と縮原発の同時達成は可能

 第六章 製造業の事業モデルを変える
 1、正念場を迎えている日本の製造業
 2、成長モデルを全体として入れ替える
 3、新しい製造業モデルを構想する 

 第七章 海外移転で減少する国内雇用をどうするか
 1、製造業の海外シフトが加速している
 2、怒涛のようにアジアにシフトする自動車産業
 3、製造業が国内のとどまっていても、雇用は減少する
 4、日本経済の活性化には、高生産性サービス業が不可欠

 第八章 TPPで本当に議論すべきは何か? 
 1、TPPは貿易自由化ではない
 2、TPPによる輸出増加効果はわずか0.4%
 3、中国の出方次第で、日本の製造業は大打撃を受ける
 4、TPPやFTAは、輸出振興策として時代遅れ
 5、世界に開かれた日本をめざせ

 第九章 欧州ソブリン危機は日本に波及するか?
 1、対照的なギリシャとアイルランド
 2、イタリア国債で問題が生じたのはなぜか?
 3、欧州ソブリン危機は日本国債に波及しない
 4、経常収支赤字でも国債消化に支障は生じない
 5、日本国債のリスクは確実に高まっている 以上


 野口氏の著書に全面的に賛意を示しているわけではないが、単純に、日本は貿易立国だからと云う観念を振り払う必要性の考えは同じ。縮原発と云う表現は腰が引けているが、経済学者としてギリギリの表現なのだろう。日本国債のリスクは、経常赤字が恒常化すれば、実際は理屈ではなく、現実のマーケットでは下落し、金利高を招き、国債償還に支障をきたすであろう。同氏の目線が製造業に向かっているのは、今まで稼がしてくれた製造業への義理立てだろう。これから重視すべきは、内需市場の質的転換と規模の拡大がポイントだろ。また、既成観念を取り払った、製造とサービス業の混合産業構築も、日本独自の世界を生み出せるだろう。

 アングロサクソン系やユダヤ系に真似のできない必ずしも合理的ではないないが、最終的に合理に至る、日本人独特の文化の再生を通して、世界に独自の産業構造を見出すことは、明治維新以降の欧米追随精神を破棄することによって、展望は拓ける。円安で経団連の延命の為に、国民生活を犠牲にして、悪しき医療処置をしているに過ぎない。大きく変わることは、誰しも怖い。しかし、明日から世界が変わることもない。一つ一つのシーンが徐々に、独自、否、維新によって取り入れられた誤った近代国家観念から脱却は、本当の希望の光を見出すだろう。世界経済は、総体的に行き詰っているわけで、彼らと同じ手口を使う限り、日本の再生はありえない。我々は、アングロサクソンでもユダヤ人でもない。宗教も八百万の神、自然が神なのだ。この神が、誰が考えたって一番確かだ(笑)。

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●不都合な真実、不快な謝罪、敗者に求められる態度 日本はどこに行きたいのか

2014年02月14日 | 日記
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●不都合な真実、不快な謝罪、敗者に求められる態度 日本はどこに行きたいのか

 安倍晋三にせよ、百田尚樹にせよ、長谷川三千代にせよ、在特会の連中にせよ、敗者の自虐史観をキープする忍耐の限界が来たような言動、その心情が判らないほど野暮な筆者ではない。韓国の異様な政治ロビー活動は目に余るし、“糞くらえ”と云う気分になるのは、誰しもである。中国の経済・軍事の抬頭と“愛国無罪”の価値判断にしても、あまりいい気になるなよ、と鬱陶しささえ感じるのも同様である。

 ただ、筆者のように“鎖国準拠の日本”が理想だと考える立場の人間を除き、国際社会の中で経済的成長や繁栄を望むのであれば、厳然たる事実である「戦後世界の枠組み」に親和的な対応をしなければならないのは合理的思考の結論でもある。現時点では、「国際連合」と云うものは、第二次世界大戦の、主たる戦勝国が安保常任理事国の地位を独占し、常に拒否権と云う伝家の宝刀を有しているのだ。残念ながら、これが「戦後世界の枠組み」だと云う不愉快な事実は黙認せざるを得ない。この事実に目をつぶり、自虐な謝罪姿勢をキープすることに疲れ果て、“やってられない”と感情を爆発させても、何一つ得るものはないだろう。筆者とて、怒りを爆発させたいのは山々だが、得るものがなさ過ぎる。

 自由市場の原理と金融資本主義が世界経済の主流だとするなら、国家と云う枠組みは、その輪郭を不鮮明なものにせざるを得なくなる。物理的国境の線引きは「人・モノ・金」を国内循環だけで動かすことになり、極めて不利な非合理な経済体制にならざるを得ない。国家を超えて「人・モノ・金」がダイナミックに動くことで、経済成長を生み出し、豊かな世界を作るのが正しいことだと思い込んで、グローバル経済は動いている。このグローバル経済は、国境を無視して動き回るベクトルを持っているので、国家と利益が常に一致するとは限らなくなっている。

 国家よりも企業資本、グローバル企業が優越な地位を獲得する傾向は、先進国において顕著で、この流れは当分続きそうだ。ただ、企業は本質的に貢献すべき目標は利益の追求であって、国や国民に利益の再配分をする機能は備えていない。その為、これら企業は、所属する国家や国民が潤うかどうか、寸借する意思は本質的に持っていない。精々、納めた税金の範囲で、国家が考えてくれ、と云うものである。つまり、アベノミクスでいうところの、トリクルダウン現象は、納める税金分だけの義務ですよ、と言っている。しかし、このトリクルダウン効果は、途上国や資源国家の低賃金など生産コストを劇的に削減できる競争の中に注ぎ込まれる資金に化けることが多く、20世紀のような、企業の社員や労働者に回される配分は僅かにならざるを得ない。

 このような企業が国家を凌駕する現象を是正しようと云う動きが、幾つかの国家が集合してブロック化することで、国家の力を温存しようとする動きに繋がる。その典型がユーロ圏であり、今まさに交渉たけなわのTPPなのである。しかし、これとても、苦肉の策であり、弥縫策と言っても構わない領域の話だ。ただ、苦肉の選択であっても、世界のグローバルの流れから抜け出し、独自の国家づくりに向かうには、欧米的価値観の転換をしない限り、その流れに身を任せ、なるようにしかならないと思考停止するしか選択はない。無論、「国際連合」と云う戦勝国の枠内で生きるという事でもある。

 ところが、このような戦後の枠組み「国際連合」に則って拡大した、いわゆるグローバル経済は、上述のように国家と云う枠組みを企業が超えることを意味しているので、どうしても、この流れとは相いれない「国家の存在」と云う観念を明確なものにしたい欲求が生まれる。これが、現在わが国や中国、韓国で起きているナショナリズムの動きである。この論理的な矛盾現象は、物理的国境線のある国家の“政”を担う人々(政治家・官僚)」にとって、避けて通れない自己矛盾現象なのである。卑近な例を見てもわかる通り、思考の原点である「価値観」の問題をさて置いて、選挙で重視することは「介護・福祉、景気・雇用…」といった具合の要求に対し、「そう、その通り。だから、私に一票を」不可能な公約を背に、有権者に訴え、権力を握るのである。

 21世紀の日本の政治家は、この自己矛盾(国家と企業益)の狭間で、嘘八百を語り、直面する企業からの具体的圧力に対応しながら、国民の要望には、「いずれ、いずれ恩恵は日本廿浦浦に届きます!」とアナウンスすることになる。安倍晋三にせよ、誰にせよ、そのような自らの願望(約束風)を国民に語る羽目になる。しかし、彼らの多くは、その願望(約束風)が実現できるとは思わないので、国民の視線をあらぬ方向に導きたい衝動に駆られる。これがナショナリズムと云う“空気”である。

 このような整合性のない思考が、今の日本と云う国である。どういう皮肉の神がいたのかわからないが、その自己矛盾を起こしている国に、自己矛盾に気づくこともない安倍晋三と云う政治家に政権を任せた状態が、今の日本だ。アベノミクスの最大のテーマ、「第三の矢・規制改革」は言葉だけが、勇ましく先行してるが、官僚らの権益は守られるどころか、より強化されて具体化されていくに違いない。現存する既得権は温存して、新たなシステムを重ねるという事は、官僚らの天下り先を3重4重にするだけである。本気で規制改革に手をつける気のない霞が関は、悉く法案を骨抜きにするのは当然だ。

 以上のように、戦後体制そのものが、戦勝国の論理で構成されている以上、敗戦国と指摘されている国々は、その間隙を縫う回り道で対抗するしかないのである。歴史認識などと云うものは、そもそも極めて個別の情緒によるところが多いもので、正解などないと考えるのが妥当だ。正解のない設問に、口角泡を飛ばしても、答えは出てこない。俗に言われる「小田原評定」になるのは自明である。黒田如水の織田か、毛利かの選択に似ている。しかし、官兵衛の時代の単純さでない21世紀の評定は容易なものではない。

 同じ敗戦国であっても、ドイツの評定は、政治哲学が優越する。そもそも哲学も宗教も存在しないわが国の場合、寄る辺となる大黒柱となる思想が不在なのだから、小田原評定にならざるを得ない。ドイツは、現在の世界が戦勝国の論理で進んでいることを百も承知で、戦略を得ている。力を表立てず、自国の目先の不利にも動ぜず、実力を溜め込むのである。おそらく、そもそもドイツに、哲学が国民間にも根付き、精神的強さも宗教に裏付けされている土壌が存在する。その上、国家を二分管理されていたのだから、敗戦国と云う実感もひとしおだったに違いない。

 ところが、わが国は歴史の皮肉にも、東西冷戦の対立構図と朝鮮戦争により、急激な復興をとげ、その勢いのままに高度経済成長路線のレールに乗っかるこことが出来た。このような現象は、わが国が自主的に導いた路線ではなく、天から舞い降りてきたものなのである。つまり、心からの自省をする間もなく、日本と云う国は経済大国にまっしぐらに進んでいった。経済が閉塞してきている現在でも、その名残でどうにか生き延びている、と言っていいだろう。戦争の反省も、衝撃と云う感情の赴くままだけの、個人的自省の範囲にとどまった。

  しかし、戦後の世界の枠組みが、戦勝国優越の論理で構築されているにも関わらず、ソ連(ロシア)、中国などは経済的不遇時代が続いた。準戦勝国である韓国も、軍事的に米国の庇護にありながら、不遇が続いた。彼らの側の感情と理屈を想像するに、戦勝国の我々が貧乏で、敗戦国の日本が豊かなのだ!と云う疑問は、彼らの反日言動と云う形で具現化されていったと考えることが出来る。国それぞれに、歴史認識なんて変わるものだし、まして個人レベルでは百人百様なものになる。それを誹謗中傷しあっても、何にもならない。

  逆に言うなら、そのような解のない問題でいがみ合っても、無意味だし、議論が徒労に終わることは判っている。歴史認識で、外交政策の選択にまで波及させたり、軍事的次元まで影響を及ぼすなど、ただの愚かである。戦後の戦勝国優越の世界的枠組みと云う事実認識と、歴史的僥倖による経済発展の恩恵を、どのように自分たちの問題として捉え、進むべき道を模索するのが、本来の国家の役目だし、国民の賢さでもある。その思考の端緒が「価値観のチェンジ」であることは、論理的に考えれば当然なのだ。感情のフックに拘泥して、誤った道に迷い込むほど日本人は愚かなのだろう。損な行動をとっても、得になる道があると云うのに…である。その損に思える選択が、世界からリスペクトを得られるのも判っているのに…。

道徳感情論〈上〉 (岩波文庫)
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岩波書店


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●“敗戦国”は何時まで謝罪すべきか? 議論の前に“歴史を確認する必要がある

2014年02月13日 | 日記
戦後史の正体 (「戦後再発見」双書)
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●“敗戦国”は何時まで謝罪すべきか? 議論の前に“歴史を確認する必要がある

 東京新聞の夕刊に、「国境なき記者団」による、世界各国の報道の自由度ランキングが報告されたそうである。それによると、世界の先進主要国の中で唯一「顕著な問題」のある国家に格付けされた。大変名誉なことである。福島原発事故の透明性への疑念と、国会で成立した特定秘密保護法案への、自由諸国から、疑問符を突きつけられた。驚くべきは、韓国、台湾以下の報道の自由度と海外からは見えるようである。今回は米国も“不適切なNSA情報収集活動”の恩恵で、自由度46位にランクを下げたが、わが日本は59位で、西側諸国と思い込むのも恥ずかしいほどの地位に陥落した。今後は、NHKの経営委員や会長の言動を含め、中国、ロシアと肩を並べるのかもしれない。

 舛添新東京都知事が得意満面の面持ちで、記者会見。質問者を指さし気分上々、あの不快で狡猾で気味の悪い笑みを始終浮かべていた。まぁ2,3か月は蜜月かもしれないが、その先は不明だ。昨日時点では、そつなく記者の質問に答えていたが、今後は週刊誌ネタものが出回り、どのような窮地に陥るか愉しみでもある。問題の多くが、彼の人格に関わるわけだが、法に抵触しない限り、舛添知事にとって、人格の卑しさは、彼にとって、勲章であるかもしれない。

 本日は多忙のため、取りあえずWSJの、敗戦国の謝罪姿勢にウンザリしている日本を、多少揶揄しながら表面をなぞるように評論している。この記事への筆者のコメントは、金曜日に書くつもりだが、WSJは、現在表面的に起きている幾つかの事象を、一面的に見ているきらいがある点だけは、つけ加えておく。皆様も、WSJの見方をどのように評価するか、記事の内容を吟味していただきたい。

 ≪ 過去への謝罪にうんざりな日本  
【東京】学者で評論家の秋山信将氏の言葉を借りれば、日本は第2次世界大戦で負けたことをはっきりと認め深く謝罪する「グッド・ルーザー」役を演じ続け、久しく二級国家としての地位に甘んじてきたが、その役回りにすっかりうんざりしている。
 秋山氏によれば、それが安倍晋三首相の国内政治における目を見張るような成功の一因である。安倍首相は、過去について謝罪することに嫌気がさした国民の上に戦後ずっとのしかかってきた汚名を返上しようとしている。
 だがそれはまた、中国や韓国が安倍氏に対しあからさまな反発を示す理由でもある。中韓は、日本がアジアで2000万人弱、中国だけで約1000万〜1500万人の犠牲者を出した戦時中の残虐行為を十分に謝罪していないと非難する。
 日本を「普通」の国家にするという安倍氏の取り組みの中には、戦後の占領時代に制定された他に類のない「戦争放棄」をうたった憲法の改正に向けて の取り組みもある。安倍首相は、ごくわずかではあるが防衛費を増額し、地域を越えた外交の立役者として派手に振る舞っている。一橋大学国際・公共政策大学 院の秋山信将教授は、「日本のナショナリストは『グッド・ルーザー』として扱われることに飽き飽きしている」と指摘、「もうこれ以上敗者ではいたくないと思っている」と話す。
 安倍氏がナショナリストであるのは疑いない。日本の過去に対する誇りと将来に対する自信を回復しようという彼のキャッチフレーズは、終戦後約70年間の敗北の重荷を背負い続けたくないと思っている日本の若い世代に特に共感を呼んでいる。
 例えば、先週末行われた東京都知事選で、元航空幕僚長の田母神俊雄氏は20歳代の有権者から驚くほどの支持を集め、表情の暗さや硬さにもかかわらず同氏は16人の候補者のうち4位と善戦した。田母神氏は、2008年に日本が行った朝鮮半島の植民地化や中国の一部占領を正当化するとともに日本は米国の謀略で開戦に追い込まれたとの考えを示唆する論文を執筆し航空幕僚長を更迭された。
 しかしながら、こうした見解は安倍首相が昨年12月に参拝した靖国神社に併設された遊就館の展示品の説明にもみられる。
 安倍氏の参拝は東アジア諸国に衝撃を与え、ワシントンでは同氏の政治的な判断に疑問が投げ掛けられ、中国からは同氏は戦後のアジアの平和に挑戦する頑固な軍国主義者だと非難を浴びせた。
 だが、日本国内では靖国参拝は安倍氏に大きなダメージを与えなかった。最近の世論調査では、安倍氏の靖国参拝を支持するとの回答が41%で、反対は46%だった。
 支持者が全員、右翼というわけではない。世論調査の専門家や学者によれば、支持者の多くは現職の首相の言動について中韓から命じられる筋合いはな いとの考えから支持したのだという。つまり、日本の国民は日本が近隣諸国にもう十分に悔恨の情を示したとのメッセージを送っているのだ。
 だが近隣諸国では、日本が永久に謝罪を続けることを広く期待している。そうした感情を配慮している日本の政界、学界、報道界の多くの人は、安倍氏 の靖国参拝に失望のため息をついた。これらの人たちは、参拝は道徳的な観点からは必ずしも間違ってはおらず、やり方がまずいだけと言う。それは、台頭する地域の覇権国、中国をけん制する力の一つになることを自らの新たな役割とすることで、過去の戦時のイメージから脱するという安倍氏の本当の課題に暗い影を投げ掛けた。
 一方、安倍氏は軍国主義者であるとの中国の見方に対して、日本では共鳴する人はほとんどいない。東京大学の高原明生教授(政治学)は、国防費を爆 発的に増加させ、ミサイルや潜水艦を増強している中国と、最近わずかばかり防衛費を増やした日本のどちらが軍国主義者なのかと疑問を呈する。
 安倍氏自身は、「グッド・ルーザー」としての日本の地位に終止符を打つという彼の使命を多少違うやり方で明確にしている。「戦後レジームからの脱 却」という表現を使っているのだ。だが、安倍氏の政策課題の問題点は、日本の歴史上の罪の大きさゆえに、これ以上少しでも申し訳ないという敗北の姿勢から離れると、東アジア地域に計り知れない不安をもたらすことである。
 ワシントンは、安倍氏の憲法改正の方針をおおむね支持している。また、日本が自衛のためより多くの責任を持つことを歓迎している。だが、安倍首相 が近隣諸国をいら立たせていることには警戒感を抱いており、彼がナショナリズムを振りかざしてどこに行こうとしているのか漠たる不安を持っている。
 外交問題評議会(CFR)の日本担当上級研究員であるシーラ・スミス氏は、「我々の問題は、安倍氏がどういう人物で、彼の戦略的目標が何であるのか分からないことだ」と話す。スミス氏によれば、「安倍氏は自分に力があることを分かっている。だが、彼にシナリオがあるのかどうかは私には分からない」 と語った。 ≫(WSJ日本版)

この日本で生きる君が知っておくべき「戦後史の学び方」 池上彰教授の東工大講義
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文藝春秋


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●小泉の怒りは、“打倒アベ” 国家戦略特区で「寄る辺なき人々」増大の危機

2014年02月12日 | 日記
生きるための論語 (ちくま新書)
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●小泉の怒りは、“打倒アベ” 国家戦略特区で「寄る辺なき人々」増大の危機

 今回の都知事選で判ったことは、都内の自民公明の組織票、及びそのシンパの票が200万票程度あると云う事実だ。それに対抗し得る勢力も同数近くあるという事実でもある。小沢一郎が「負けていない」と言った趣旨は、そういうことだ。ただ、この自公勢力に対抗する勢力の団結は理屈上は成り立つが、実現は、ほぼ絶望的と考えておいた方が良いだろう。また、今回宇都宮候補が善戦したように見えるが、先回同様、共産党の組織票が基礎票として、7割を占め、残りが社民党とシンパによる得票と考えられる。

 細川候補の陣営は、内部分裂などもあったらしく、一枚岩ではなかったが、細川、小泉と云う連帯が示した「脱原発」と「腹七分目の共生社会」の主張にシンパシーを感じた都民の浮動票と考えてよい。(一部に感情のフックに掛かっている人々も混じっていたが)組織票なしで90万票はかなりの票数であり、愕然となる必要はない。田母神候補の60万票も浮動票である点は同じだが、感情のフックに釣り上げられた人々(寄る辺なき民)と漫画やネット社会の“面白いこと、暇を潰せること、憂さを晴らせる”の表現の場でもあったが、浮動票なのはたしかだ。

 この東京都知事選における田母神候補の善戦は、遅れてきたネオナチの抬頭で、欧米では下火になっているが、日本も同じ運命を辿るかどうか、現時点で即断は出来ない。ただ、この「寄る辺なき人々」の層は、“国家戦略特区”の本格的稼働次第では、益々増加の一途をたどる可能性もあるので、要注意だろう。ブログランキングの傾向などを見ていると、安倍系ネトウヨ張り切りようは目を見張るが、田母神候補の60万票に勇気百倍になり、ネトウヨ勢力(嫌中・嫌韓)の動きが一層勢いを得ている。人気ブログランキングを参照すると、ベスト30の内、26サイトが嫌中・嫌韓などを主張するネトウヨ系で占められている。植草氏のブログが必死で10位をキープするのがやっとの状況だ。

 リアルの世界では、既得権益勢力の復権は着々と進行しており、政治家と官僚がタッグを組んで、パラダイムをシフトさせるわけにはいかない、と勢いを増し、NHKを含む、殆どのマスメディアまでを無言、有言の圧力支配も功を奏している。現時点で、状況を判断すると、世の中は益々悪い方向に流れていきそうだ。勿論、田母神支持票がイコール保守層とみるのは間違いで、若い世代の怒りのはけ口と云う要素も考慮すべきだ。もっとも、若い世代の怒り層が増えるのは当面自明なので、この層を吸収できると田母神的存在も無視できなくなる。

 ネットのない時代であれば、世の中で“ケンモホロロ”な扱いを受けている層は、政治への無関心に向ったが、ネット社会においては“怒りのはけ口化”する可能性はかなりある。北アフリカ諸国で起きたツィッターFB革命と同じ原理の行動だが、その方向性が日本では、個人の自由とか民主主義への希求ではなく、ヤケクソや怒りのはけ口として、他人や他国を誹謗中傷し、悦に入る層に求心されるのである。

 政治家・官僚・マスメディアのタッグと経済界が同心円運動を重ねれば、既得権益勢力温存と労働者の使い捨て行政は、勢いを増すのは確実だ。安倍政権が主張する“国家戦略特区”は見せかけの「第三の矢」であり、経済成長に必要不可分な“既得権益改革”に踏み出すことはないのも判っている。ただ、“国家戦略特区”における労働者の地位だけには、改革が起きるだろう。上に行くのではなく、下に行く改革がだ。単純労働者の外国人労働者への門戸が開かれれば、現在の派遣労働者だけではなく、日雇い派遣も、地位の低下を招くであろう。

 上述のような連想を重ねると、「寄る辺なき人々」の層が分厚くなることは十分に考えられる。無関心層に向かえばまだしもだが、怒りの層に向かえば、トンデモナイ政党の力が急伸する可能性さえ捨てきれない。そのような層が勢いを得てしまったとき、右巻きの保守政権であっても、取扱いに苦慮するに違いない。安倍政権のファシズム志向は「ファシズムごっこ」だが、この「寄る辺なき人々層」の行動原動力は“怒りと憂さ”であり、彼らには失うものがない。既に命と肉体と感情以外は奪われているのだから、「寄る辺なき人々層」が25 %を超えた時は、手が付けられないかもしれない。

 なんだか、ひどく暗い話になってきたので、AERAの連想的希望の記事でも紹介して、本日の締めにしておこう。

≪ 終わらない「小泉劇場」 官邸がおびえる小泉元首相の「次の一手」
 元首相連合が参戦した17日間の東京都知事選は、2月9日の投開票で終わりだが、小泉氏が仕掛けた「脱原発」ムーブメントは、まだ序章にすぎない。(編集部 鈴木毅)
* * *
「脱原発」は地方選挙の争点になりうるのか──東京都民の考え方が問われた都知事選が終盤を迎える頃、新たな注目選挙が幕を開けた。安倍晋三首相のお膝元である山口県で6日、知事選(23日投開票)が告示されたのだ。
 年明けに山本繁太郎前知事が病気辞職したことに伴うこの選挙には、元総務官僚の村岡嗣政氏(41、無=自民・公明推薦)、元衆院議員の高邑勉氏(39、無=生活推薦)、前山口県周南市議の藤井直子氏(61、共産)の新顔3人が立候補を届け出た。

●脱原発で山口入り!?●

 地元の自民党関係者が言う。
「県内では、病気で辞職した前知事に『志半ばで可哀想に』と同情する声が大きい。ご存じのように保守王国ですから、大勢が動くようなことはないでしょう。 とはいえ、自民の後継候補は山口出身ですが、ずっと東京にいたような人。選挙戦としては盛り上がりもなく、低調な滑り出しです」
 しかし、この粛々と進むはずの選挙が、「脱原発」の次なる主戦場になるかもしれない。地元で計画中の上関原発(中国電力)建設の是非が、争点に浮上する可能性があるのである。
 脱原発を前面に掲げる高邑氏は元民主党議員で、今回の都知事選で細川護煕元首相擁立のキーマンとなった木内孝胤・前衆院議員と当選同期。しかも、ともに メリルリンチ日本証券出身という関係にある。まさに、都知事選と同じ「原発推進派の自公陣営」 vs.「脱原発陣営」という構図だ。
 「注目は、やはり小泉純一郎元首相の動向です。都知事選では原発ゼロを掲げて細川氏と一緒に都内を駆け巡りましたが、当初、ピンポイントの応援を考えていた陣営に対し、『全部まわる!』と決めたのは小泉氏本人。連日の演説を聞いてもわかるように、彼は本気です。しかも選挙が進むにつれて、いよいよ生き生き としてきた。この勢いのまま小泉氏が脱原発候補の応援に山口に入るのではないかと、官邸は警戒心を強めています」(政治記者)

●舛添氏を抜いた瞬間●  

確かに、都知事選が終わって、急に小泉氏がおとなしくなるとは考えづらい。一度スイッチの入ったこの男を止めることはできないからだ。  都知事選で苦戦したとはいえ、もともと小泉氏は、決して“常勝”ではない。思い起こせば、小泉氏は自民党総裁選に3度目の挑戦で勝利し、首相になった。 無謀だと言われながら出馬した前の2回では大敗。首相時代の国政選挙でも、あの郵政選挙で大勝したインパクトは大きいが、参院選などでは民主党に苦杯をなめている。そう、小泉氏の真骨頂は、思いを定めたときの“しつこさ”にある。
 今回の都知事選で明らかになったのは、いまだ小泉人気が健在であることだ。細川氏と行脚した街頭演説は連日、数千人を集め、どこも大盛況。投開票前の最 後の日曜日となった2日の銀座では、安倍首相と公明党の山口那津男代表という与党ツートップが舛添要一氏の応援に立ったが、同じ場所に入れ替わりで登場した細川・小泉陣営のほうが圧倒的な聴衆を集めた。
 メディアなどの情勢調査では、一貫して細川氏の劣勢が伝えられたが、なぜこんな“ねじれ”が起きたのか。実は、調査の数字をよく見ていくと、浮かび上がってくることがある。
「細川陣営では、メディア担当だった上杉隆氏のところで、昨年末から定期的にインターネットで支持傾向を調査してきた。その結果を分析すると、都知事選はもっと優位に進められたはずでした」(細川陣営関係者)
 その数字は一目瞭然だ。年末から年明けにかけて舛添氏10%弱、細川氏1~2%という結果だったのが、1月14日に細川・小泉両氏が会談して出馬表明した直後の調査では、舛添氏19%、細川氏15%まで迫った。
「間違いなく小泉効果です。元首相2人が並んだ映像がメディアで流れ、完全に舛添 vs.細川の2強対決の形ができあがった。陣営では細かな調査データをもとに、細川さんの知名度が極端に低い20代女性を特に意識して、ネット戦略などの 対策を立てた。さらに小泉さんの息子、進次郎氏の『舛添氏を応援しない』発言もあって、一気にボルテージが上がった。この後の予備調査では、舛添氏を抜いた瞬間もあったのです」(同前)

●官房長官の情報戦●

この時点で細川・小泉陣営の勢いを知った官邸は、かなりの焦りをみせていた。菅義偉官房長官と政治部記者たちとのオフレコ懇談での発言が、それをよく表している。
「(細川陣営には)木内とか馬渡(龍治・元衆院議員)とか、不完全燃焼したやつがついているだろう。今の取り巻きはそんなもの。負ける気がしないね」
 官房長官が、わざわざ都知事選についてこんなコメントをするのは異例中の異例だ。というよりも、翻訳すれば「細川陣営にはロクな奴がいない。君たちも騙されるなよ」というメッセージにほかならない。別の細川陣営関係者が言う。
「これも情報戦の一端。官邸は、自民党議員や内閣情報調査室などを使って細川陣営の情報収集をしていた。信頼できるスジから『選挙資金で警察が狙っている から気を付けろ』とも忠告されました。メディアも、こうした官邸の意向を忖度したのでしょう。結局、告示後の数字は再び開いて、舛添氏18%、細川氏9% のダブルスコアに引き離されてしまったのです」
 郵政選挙であれほどヒートアップしたテレビ各局は今回、「公正な報道」という大義名分のもと、小泉氏の存在を徹底的に無視し、「小泉隠し」にまわった。代わりにコメンテータたちは、細川氏の「政治とカネ」問題を執拗に指摘する。
 そこでブレ始めたのが、細川陣営だった。強まるネガティブキャンペーンに、陣営は選挙方針をめぐって分裂し、それまで距離を置いていた民主党や労働組合 に支援を要請する始末。1月31日夜、細川・小泉両氏がそろって国会議事堂前の反原発デモに参加した際の一幕が、その混乱ぶりを象徴していた。
「細川さんは壇上に立って演説する予定でしたが、ギリギリになって陣営スタッフが反対したのです。電力系労組に気を使ったのでしょう。結局、細川さんはマイクも握らず、下から聴衆に大声で呼びかけるだけ。小泉さんは『しゃべれないなら、オレがいる必要はないな』と、さっさと車に乗って行ってしまった。腹が 据わらない細川さんに、さすがにイラついた様子だった」(細川陣営幹部)
 本来だったら小泉人気をうまく使って、リベラル層から保守層まで幅広く支持を広げることができたはずである。それが、陣営の方針が定まらないまま、迷走に迷走を重ねた。

●7月の滋賀、11月の福島●  

もっとも、「脱原発」選挙の本番は、むしろこれからといえるだろう。冒頭の山口県知事選の後にも、3月には志賀原発(北陸電力)が立地する石川県で知事選(2月27日告示、3月16日投開票)があり、7月には滋賀県知事選もある。2012年末の総選挙で日本未来の党を率いた嘉田由紀子知事の再出馬は未定 だが、おのずと原発が争点になるのは間違いない。
 さらに11月には、福島第一原発事故の現場である福島県知事選も予定されている。国政選挙は2年後の参院選までないとみられるが、地方では「脱原発」をめぐる重要選挙がめじろ押しなのだ。
「こうした選挙に小泉さんが応援に駆け付ける可能性は、多分にあります。もちろん最終的に本人次第ではありますが、少なくとも福島では何かしら仕掛ける用 意がある。小泉さんが『脱原発』を掲げて全国の選挙を行脚することにでもなれば、一刻も早く再稼働を進めたい政権にとって“悪夢”というほかないでしょう ね」(小泉氏周辺)
 安倍政権は都知事選の終了を待ち、原発推進を明記する「エネルギー基本計画」をさっそく閣議決定する方針だ。選挙期間中の原発論争を封印するために、予定されていた1月から延期した代物である。安倍首相は1月28日の衆院本会議で、
「そう簡単に原発をやめるわけにはいかない。(再稼働について)徹底的に検討する」と答弁した。都知事選では議論を避けながら、着々と再稼働に向けて駒を進めているのだ。
 その先には安倍首相がこだわる集団的自衛権の解釈変更、武器輸出3原則の撤回、憲法改正、教育改革といった“タカ派路線”の政策が待っている。これらは、すべて一本の線でつながっている。こうした“安倍色”が不安にさせるのは、そこに「人よりも国家」といわんがばかりのギラついた「国家主義」が見え隠れするからである。  国の方向性を問うのは国政選挙だけではない。一つ一つの地方選挙で民意が問われている。 ≫(AERA)

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