世相を斬る あいば達也

民主主義や資本主義及びグローバル経済や金融資本主義の異様さについて
定常で質実な国家像を考える

●平成の楼閣は砂上にあるのか “安倍1強の秘密”を探る 1

2017年08月24日 | 日記

 

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●平成の楼閣は砂上にあるのか “安倍1強の秘密”を探る 1 

朝日新聞が安倍官邸を“平成の楼閣”と題して、様々な角度から分析検証している。筆者がとやかく解説を加えるよりも、かなりの長文特集なので、先ずはお読みいただくだけで充分なのだろう。安倍官邸の堅牢な楼閣を作り上げていった経緯などが詳細に分析されている。ひと言で言い表すなら、安倍第二次政権は、日本国憲法下で培われた、戦後70年の「日本の民主主義国家」において、秘密裏に無血クーデターが実行されたと言っても過言ではないと云うことだ。

正直、安倍官邸内において、平成の楼閣を構築した人々は、少なくとも戦後70年間の日本人と異なる肌感覚で権力を堅固なものにしたようだ。極めてアングロサクソン的乃至は長州人的、朝鮮半島的である。この辺にも、朝鮮戦争が終結していない“澱”のようなものを感じるのだが、皆さまはどのようにお読みになるか、人それぞれなのだろう。

最近は、加計学園問題がお友達政権批判を世間から受け、内閣支持率も、この特集時に比べれば20%前後下げており、内閣改造後も、支持率が大きく改善することはなかった。森友加計問題が、安倍政権の楼閣を崩すことになるとすれば、やはり、平成の楼閣も砂上のものであったと云うことに、なるのかもしれない。以下、飽きずにお読みください。


第1部・平成の楼閣
≪ 安倍首相、1強の余裕 支える菅氏、霞が関の人事掌握
 官庁街に囲まれた東京・日比谷公園にある洋食の老舗・松本楼。1月24日夜、自民党の役員約20人が集まった。安倍晋三首相の通算在職日数が歴代6位になったことを祝う会合。あいさつに立った首相の口調は、なめらかだった。
 「山口出身の総理は私以外に7人います。そのうち在職期間ベスト10人に入っているのが5人います」
 そして続けた。「長ければ良いってものではありませんが、一番長いのは、桂太郎です。こんなことは東北では言えませんが」
 明治から大正にかけて3度も首相を務めた桂。長州・山口の出身で、通算在職日数2886日は歴代1位。戊辰戦争では官軍の一人として東北で戦った。安倍流の「お国自慢」で笑いに包まれた宴席は乾杯に移り、安倍首相は牛ヒレ肉のステーキを平らげた。
 その姿を眺めながら、幾人かが同じ感慨を抱いた。「ずいぶん余裕なんだな」
 その後も日米首脳会談ではトランプ氏との蜜月をアピールし、内閣支持率は安定。自らを直撃した学校法人「森友学園」への国有地売却問題でも「私や妻が関係したとなれば、首相も国会議員も辞める」と言い切るほどの自信をみせた。
 3月5日の党大会で総裁任期の延長が決まり、安倍首相は来年の総裁選で3選をめざす立候補が可能になる。強力なライバルが見当たらず、党内では勝利が確実視されている。国政選挙で勝ち続けることが前提とはいえ、2019年11月に桂を抜き、21年9月まで通算10年、3500日超という憲政史上例のない超長期政権も射程に入る。
 この「1強」はいかにして生まれ、この国の政治に何をもたらしているのか。それを探るには、首相の権限を強めるための改革を積み上げた「平成の楼閣」に迫らなければならない。(山岸一生)
 ■平成の改革、官邸に権力集中
 自民党常設の最高意思決定機関である総務会。17日、党における「1強」を象徴する場面があった。  来年の総裁選で安倍首相への対立候補になるのか注目される石破茂・前地方創生相が「懇談会は我々にも意見を出せと言ったが、あれから全然話がない」と口火を切った。
 天皇陛下の退位をめぐり、首相に近い党執行部で固めた懇談会が、一代限りの特例法で退位を認める案をまとめた。総務会はそれから4日後。皇室典範改正を主張する石破氏が、執行部の進め方に疑義を呈したのだ。
 懇談会の座長代理を務める茂木敏充政調会長が、不機嫌な口調で「だから、いま説明しているじゃないですか」と返すと、村上誠一郎・元行革相が怒鳴った。「石破さんが質問しなければ、俺たちは何も知らされなかったじゃないか」
 だが、25人いる総務から、発言は続かなかった。村上氏は「これが本来の自民党のあり方なのか」と怒りをこらえられずにいた。
 安倍首相の総裁任期延長を決めた時も、高村正彦副総裁や茂木氏ら執行部が案をまとめ、異論がほとんど出なかった。天皇退位のとりまとめは、これをなぞる経過だった。党総裁たる首相、そして天皇の地位。いずれも国のありように直結するテーマだが、表だった議論がない。
 執行部が打ち出せば、ベテランも含めてひたすら追認する。石破氏のような異論があっても、言えば少数派として相手にされず、黙っていれば賛成とみなされる――。「1強」の前に、こんな風景が当たり前のようになっている。
■解散権、与党内の異論封じる  
「1強」を形成した最大の要因は選挙だ。自民党の国会議員は衆参で414人。このうち安倍総裁のもとで初当選した議員が4割を超える。彼らのほとんどが「安倍晋三総理・総裁」しか知らない世代だ。
 首相が解散権を初めて行使した2014年衆院選。小選挙区で自民党の得票率は48%だったが、75%の議席を得た。比例区とあわせて過半数を大きく上回る。首相のもとで戦った16年参院選では、89年以来となる単独過半数を回復した。
 89年こそ、平成が始まった年。ベルリンの壁が崩壊し、国内では竹下内閣が消費税を導入。リクルート事件の責任を取って総辞職した。このときの参院選敗北は、やがて政治改革へとつながっていく。
 「政治とカネ」を解決し、冷戦後の世界情勢に対応できる新しい日本の政治体制をつくる――。平成の政治改革は、首相が誰かを政権選択で選ぶ「小選挙区制導入」と、強い首相を支える「官邸強化」の積み重ねだった。安倍首相は、平成の改革が積み上げた楼閣の高みに立って、政権を運営しているとも言える。  改革を説いた政治学者は1強をどう見ているのか。
 「強い権力が必要だという認識があった。官邸への権力集中は90年代の制度改革がめざした姿。今でも間違いではないと思う」
 93年に「政治改革」を出版した山口二郎・法政大教授は、安倍首相の政策には一貫して批判的だが、こんな言葉を口にする。一方、民間政治臨調のメンバーとして旗を振った佐々木毅・東大名誉教授は「当時全然気づかなくて、後で大きくなった問題が、首相の解散権だ」。首相が自らの判断で、都合のいい時に解散権を行使することが、野党を牽制(けんせい)し、与党内の異論を封じる効果をもたらしたことへの反省である。(安倍龍太郎)
 ■事務次官退任「菅さんが代えた」
 首相官邸への権力集中。その象徴は人事だ。政治改革の一環として官邸強化は平成の歴代政権の課題となり、内閣官房スタッフがこの30年で5倍近くの1千人超に膨らんだ。各省の局長以上の人事を了承する「人事検討会議」は橋本政権が設置。主宰する内閣官房長官の権限は、絶大なものとなった。
 第2次安倍政権で菅義偉官房長官が就任して3カ月ほどの2013年3月。防衛省の金沢博範事務次官が退任した。定年ではあったが、通常国会会期中の交代は異例。霞が関には「菅さんが代えた」と衝撃が走り、民主党政権から続ける金沢氏を菅氏が嫌ったとの見方が広がった。菅氏は今月25日、朝日新聞の取材に交代させたことを認め、「人事は適材適所が基本方針です」と振り返った。
 菅氏の人事権行使はこれにとどまらない。
 金沢氏交代の翌年、当時の下村博文・文部科学相は自らが了承した局長人事が官邸の意向で覆されたことを報告に来た事務次官に尋ねた。「なぜ、この職員がダメなのか。理由を知りたい」
 次官は、菅氏から直接言われた言葉を伝えた。「やる気がない。事なかれ主義のタマは使えない」。菅氏には、職員が、その場しのぎの対応をするタイプでふさわしくないとの判断があったという。
 人事に関わる情報管理も徹底している。ある省の事務次官が菅氏を訪れ、後任次官の案を口頭で伝えた際、了承した菅氏は次官にこう言った。「それで構いません。紙にして下さい。その紙は、あなたが作ってください」。次官の秘書官にさえも、人事情報を見せない意図だった。
 小泉政権の福田康夫氏、中曽根政権の後藤田正晴氏ら、長期政権には長期にわたって支えた官房長官がいた。野党時代の党総裁選で当初は必ずしも有力ではなかった安倍氏を推し、政権復帰とともに官房長官となった菅氏は、歴代1位の在職日数を更新中だ。
 与えられた権力ではダメだ。自らつかんだ権力でないと権力ではない――。そんな権力観を持つ菅氏は、平成の改革で積み上がった官房長官の権限を存分に使っている。「慣例のみに従って人事はやるべきではない。私は当たり前のことをやっているんです」(二階堂勇) ≫(朝日新聞デジタル)


 ≪ 霞が関の盟主、財務省から経産省へ 首相側近に出身者
 ■(1強・第1部)平成の楼閣
「江田さん、よく大蔵省の名前を変えられましたね。どうやって財政と金融の分離をやったんですか。すごいですねえ」  2013年12月20日。安倍晋三首相は、当時の結いの党結成であいさつに来た江田憲司衆院議員の「橋本行革」の話に食いついた。
 「既得権益を打破して欲しい」。橋本内閣で首相秘書官を務めた江田氏はエールを送った。
 国家予算を握る大蔵省は、中央省庁が並び立つ「霞が関」の中で、長きにわたり盟主と言われてきた。安倍首相の関心は、その名を「財務省」に変え、金融部門を分離した「橋本行革」。夕方の15分間、江田氏との間で、もっぱら互いの財務省に対する「不信感」を語り合い、盛り上がったという。
 江田氏は96~98年、当時の通商産業省から橋本龍太郎首相の秘書官に出向。官邸の権限強化とともに省庁再編で大蔵省を財務省と金融庁に分割する際、激しく抵抗した当時の大蔵官僚と渡り合った。「それまで大蔵省は自分たちが一番正しいと思っていた。どの政権になっても、財務省との間合いが一番大事」と語る。
 予算の配分を武器に、自民党と二人三脚で政権を切り盛りしてきた財務省はいま、増税を含む「財政再建」に重きを置いている。
 安倍首相は江田氏との会話より3カ月前、消費税の8%引き上げを決断した。しかし、10%への再引き上げには政権内にも反対論が強かった。首相の持論は「強い日本は、安定した成長する経済に土台を置く」。財務省の抵抗を押し切り、その後、再引き上げを2度にわたって先送った。そこで首相側近として動いたのが、経産省出身の今井尚哉首相秘書官だった。
 「2度目」の昨年5月。伊勢志摩サミット前に今井氏は「新興国の投資伸び率は、リーマン・ショック時より悪化」とするペーパーを作成し、消費増税先送りの流れを作った。財務省内では「今井と菅原(郁郎・経産事務次官)が首相をけしかけた」との恨み節が駆け巡った。
 首相は1月に出版された大下英治氏のインタビューで、真っ先に今井氏に言及している。「総理大臣だからといっても、なんでも一人ではできない。今井秘書官の存在も大きい」
 第1次安倍政権で経産省出向の首相秘書官だった今井氏を政権復帰後に筆頭の政務秘書官に起用。インタビューでは、政策企画担当の首相補佐官と内閣広報官を務める長谷川栄一氏、内閣副参事官でスピーチライターの佐伯耕三氏という、いずれも経産省出身の官邸スタッフをたたえている。
 アベノミクスの司令塔として内閣官房に置いた「日本経済再生総合事務局」も経産省出身者が中核を占める。その一方で安倍政権は、原発の再稼働を進め、昨年11月には、核拡散の懸念が残る中、核武装を続けるインドとも原子力協定を締結。成長戦略と位置づける原発輸出に道を開いた。原発の所管は、経産省だ。
 「官邸機能の強化は官邸官僚の強化につながると警鐘を鳴らしていた。財務省は相撲で言えば横綱の地位を追われた一方、原発行政は焼け太りしている」。橋本政権の連立与党幹部だった田中秀征・元経済企画庁長官は、「1強」によって霞が関の盟主が、財務省から「経産省」へと交代したことを、こんな表現で指摘する。(南彰)  ≫(朝日新聞デジタル)

 ≪ 民主党政権後に加速した官邸主導 省庁の発信「消えた」
■(1強・第1部)平成の楼閣
首相官邸には中庭がある。広さ380平方メートル。2階から首相執務室のある5階を超えて開閉式の屋上まで、ぽっかりと広がる吹き抜け構造だ。
 元民主党参院議員で、鳩山政権で官房副長官を務めた松井孝治・慶応大教授は、中庭に、かつての政治家と官僚の関係をみる。
 「首相は各省の神輿(みこし)に乗って、上手に操作をすればいいというのが、先人の知恵だった」  松井氏は1994年、通商産業省から官邸に出向。当時のスタッフは少なく、政策といえば省庁が積み上げたものをまとめるのが仕事。政治家のトップたる首相が座る官邸が、空洞のように感じられたという。  その後、官邸に権力を集中させ、政治家が物事を決めるシステムをめざす改革が続いたが、10年前は、まだ官僚に発信力があった。
 「大きな省を作るのではなく、規制と振興の分離をまず考えるべきだ」
 第1次安倍政権だった2007年1月。現在は官房長官を務める菅義偉総務相が打ち出した「情報通信省」構想に、経済産業省の北畑隆生事務次官が記者会見で公然と反対したのだ。総務省と経産省にまたがる情報通信行政を一本化するこの構想は、安倍晋三首相の退陣で頓挫。北畑次官は08年7月まで次官を続けた。
 ■政治主導が加速
 首相にも近い閣僚の方針に官僚が公然と反対する。そんな姿が完全に消えたのは、「政治主導」を掲げた09年の民主党政権誕生からだ。各省庁の事務次官が法案や政令、人事などの閣議案件を事前に調整する事務次官会議を廃止。事務次官など官僚の定例記者会見も取りやめた。各省庁の発信は、官僚ではなく、政治家が行うことを原則とした。
 その後を継いだ安倍政権は、民主党政権のやり方を一部踏襲。事務次官による会議は復活したが、事前調整の場ではない。官僚の記者会見は容認したが、定例の記者会見を行っている事務次官は一人もいない。
 こうした流れが、徐々に官邸1強につながったことを、歴代政権の首相秘書官は感じ取っている。
 警察官僚として小泉官邸にいた小野次郎氏は「力のある官僚は、役所のルートを通すより、強い政治家に提言したほうがいいというマインドが生まれた」とみる。衆院の小選挙区制導入で、「強い政治家」とは、解散権を持つ首相に他ならない。麻生官邸で首相の日程調整を切り盛りした総務省出身の岡本全勝氏は、各省庁の発信と報道機関の取り上げ方に注目。「役所が発信しなくなった。新聞の1面に個別の省庁が発表した記事が載ることは、統計資料を除いてほとんどない」と分析する。
 旧大蔵省出身の宮沢洋一氏は、宮沢政権で首相秘書官、安倍政権で経済産業相を務めた。各省の政策決定は「官僚が事前に官房長官なり総理に説明して、感触を確かめながら進めることが多くなった」と認める。官邸は空洞どころか、今やあらゆる政策決定の中心にいるというのだ。
■責任はどこまで
 首相、そして政治家が主導する政治は「1強」体制で確立した。その一方で、権限と裏腹であるはずの結果責任をどこまで負うのか。例えば、文部科学省の天下り問題では、前川喜平・前事務次官だけが引責辞任した。安倍首相はもちろん、松野博一文科相の進退問題にさえなっていない。政権内に問題が生じた時の責任の取り方については、十分な整理がついていない。(二階堂勇)  ≫(朝日新聞デジタル)


 ≪最高裁人事、崩れた「慣例」 その意味するところは
■(1強・第1部)平成の楼閣
 第2次安倍政権発足後、しばらくした頃。首相官邸で、杉田和博・内閣官房副長官が、最高裁の人事担当者に向き合って言った。
 「1枚ではなくて、2枚持ってきてほしい」
 退官する最高裁裁判官の後任人事案。最高裁担当者が示したのが候補者1人だけだったことについて、杉田氏がその示し方に注文を付けた。杉田氏は事務の副長官で、こうした調整を行う官僚のトップだ。
 このとき、退官が決まっていたのは、地裁や高裁の裁判官を務めた職業裁判官。最高裁は出身別に枠があり、「職業裁判官枠」の判事の後任は、最高裁が推薦した1人を内閣がそのまま認めることがそれまでの「慣例」だった。これを覆す杉田氏の判断について、官邸幹部は「1人だけ出してきたものを内閣の決定として『ハイ』と認める従来がおかしかった。内閣が決める制度になっているんだから」と解説する。
 憲法79条は、最高裁判事について、「内閣でこれを任命する」と定める。裁判所法で定めた任命資格をクリアしている候補であれば、憲法上、内閣は誰でも選ぶことができるが、2002年に公表した「最高裁裁判官の任命について」というペーパーでは、最高裁に最適任候補の意見を聞くことを慣例としていた。
 このような最高裁判事をめぐる「慣例」が、安倍政権が長期化するにつれて徐々に変わりつつあることを示す出来事もあった。
 今年1月13日、内閣は弁護士出身の大橋正春判事の事実上の後任に、同じく弁護士出身の山口厚氏を任命した。「弁護士枠」を維持した形ではあるが、山口氏は日本弁護士連合会が最高裁を通じて示した推薦リスト7人には入っていなかった。
 その6日後。日弁連の理事会で、この人事が話題に上った。中本和洋会長は「政府からこれまでより広く候補者を募りたいとの意向が示された」「長い間の慣例が破られたことは残念だ」と語った。
 それまで最高裁判事の「弁護士枠」は、日弁連が示した5人程度のリストから選ばれており、最高裁で人事を担当していた経験者も今回の人事について「明らかに異例だ」と語る。一方、別の官邸幹部は「責任を取るのは内閣。内閣が多くの人から選ぶのは自然だ」と意に介していないようだ。
 最高裁人事を巡っては、かつて佐藤栄作首相の意向で、本命と目される候補を選ばなかったことを佐藤氏自身が日記に記している。労働訴訟などの最高裁判断に自民党が不満を募らせていた1969年のことだ。
 「政治介入」がその後もあったかどうかは判然としない。米国のように大統領が指名した判事が保守派、リベラル派と色分けされるわけでもない。
 しかし、「日本の最高裁判所」の編著書がある市川正人・立命館大法科大学院教授(憲法学)は、今回の弁護士枠の人事の経緯に驚きを隠さない。「慣例は、政治権力による露骨な人事介入に対する防波堤の役割を果たしてきた面がある。今後、最高裁が過度にすり寄ってしまわないかが心配だ」。慣例にとらわれず、憲法上認められた権限で人事権を行使する安倍政権の姿勢に対する戸惑いだ。
 日弁連は安倍政権が進めた特定秘密保護法や安全保障関連法への反対声明を出してきた。元最高裁判事の一人は「日弁連が今後、安保法に反対する人を判事に推薦しにくくなるのではないか」と指摘する。
 自民党総裁の任期延長で安倍晋三首相が3選されることになれば、19年3月までに、最高裁裁判官15人全てを安倍内閣が任命することになる。(藤原慎一、南彰)  ≫(朝日新聞デジタル)


≪国会強硬路線でも内閣支持率は維持 野党に冷たい反応も
 ■(1強・第1部)平成の楼閣
 2014年2月、高知市で「葬儀」があった。追悼されたのは「国会」。壇上には国会議事堂の「遺影」が掲げられ、約250人の参列者が花を手向けた。
 前年の臨時国会で、与党が採決を強行して成立した特定秘密保護法への抗議の意味を込めた企画。国会職員や民主党議員として40年以上過ごした平野貞夫元参院議員らが催した。
 この法律は、安全保障に関わる情報を漏らした公務員や民間人に厳罰を科す。平野氏は「国政調査権を侵す法律を国会がすんなり通した。民主党も問題提起する質問をせず、議長も何も言わなかった。こんな国会はおしまいだと思った」と述懐する。
 実際、法律の運用をチェックする国会の情報監視審査会は「秘密」の壁に直面している。政府が特定秘密に指定した情報の管理簿に記された概要があまりにもあいまいで、昨年3月、審査会は改善を求めた。
 しかし政府は「日本が何を調べているか、手の内を明かすことになる」などと説明を拒む。秘密指定が適切かどうかさえ、国会は十分な判断ができる状況ではない。自民の審査会委員の大塚高司衆院議員さえも「政治家に言えば秘密が漏れる、と信頼されていない。大事な法律だと思って通したが、役所の壁が高くてもどかしい」と話す。
 衆参で自公が過半数を握り、「安倍1強」と言われるようになった13年以降。この秘密保護法をはじめ、集団的自衛権行使を容認する安全保障法制、環太平洋経済連携協定(TPP)承認、カジノ解禁法が次々と採決強行や強気の国会運営によって成立した。
 TPPもカジノ解禁法も、14年衆院選で自民党が掲げた26ページの政権公約で3行ずつ触れただけ。世論の反対意見も根強かった。
 それでも政権が国会を強硬路線で進められた明確な理由が一つある。内閣支持率が4~5割台で安定し、一時的に3割台に落ちてもその後、持ち直しているからだ。朝日新聞の世論調査でTPP承認の衆院通過直後は3ポイント上がり、カジノ解禁法の採決直後も1ポイント減にとどまった。第1次安倍政権が、改正教育基本法や年金特例法で採決強行を連発して支持率を落とし、07年参院選の大敗につながった軌跡とはまったく異なる。
 野党の抵抗に対する評価も変わった。民進党の柚木道義衆院議員は、第1次安倍政権のころから一貫して採決の強行時にプラカードを掲げて抗議する役回りを担っているが、有権者の反応が冷たくなったという。「今は『審議拒否は税金泥棒』みたいな批判を受ける」
 「1強」主導の国会は、採決だけではない。
 昨年9月の臨時国会で、自民党衆院議員の4割を占める当選1、2回生ら若手が安倍首相の所信表明演説中にスタンディングオベーションで応えた。萩生田光一官房副長官の「演説をもり立ててほしい」との依頼が、自民党国会対策委員会を通じて伝わった結果だ。
 その萩生田氏は、野党の国会対応を「田舎のプロレス」と揶揄(やゆ)し、その後謝罪し、発言を撤回。山本有二農林水産相の「強行採決」発言もあり、与野党は批判の応酬に明け暮れた。
 大島理森衆院議長がこの臨時国会の反省を求めて宿題を出した「国会審議の充実策」。自民と公明は「いたずらに日程闘争を繰り返さないよう、与野党ともに丁寧な協議に努める」と野党の責任を問うた。  民進も「一義的には与党の強権的な国会運営および政府関係者による不適切な言動に原因があった」と指摘。互いを批判し合う構図はそのままに、いずれもA4紙1枚に10行程度の記述に終わった。大島氏がいう「立法府の矜持(きょうじ)」は、1強国会からは見えてこない。(田嶋慶彦)  ≫(朝日新聞デジタル)


 ≪膨張自民、労組にも接近 民進は退潮 2大政党制どこへ
 ■(1強・第1部)平成の楼閣  
民進党が12日の党大会で決める今年の活動方針案に、こんな表記がある。
 「強大で横暴な安倍政権と対決し、政治の流れを変えていく」「安倍政権の強大化に歯止めをかける」  衆参で圧倒的多数を握る「安倍1強」を意識した内容だが、一方で政権の「再交代」をめざすような直接的な表現は見当たらない。
 政治改革で1996年の衆院選から導入した小選挙区制は、政権交代可能なシステムをめざした制度だった。09年で民主党に、12年に自民党に交代し、その意味では機能した。
 しかし、民主から名を変えて再出発した民進が自民にとって代わる機運はみえてこない。支持率は1ケタ台で自民の5分の1だ。対する自民の国会勢力は前回衆院選後も膨張を続ける。民主と協力してきた新党大地の鈴木宗男代表は、昨年の国政選挙から自民との協力に転じ、長女・貴子氏も自民会派に入った。かつて自民を飛び出した平沼赳夫氏、園田博之氏も復党し、日本のこころも自民と統一会派を組んだ。
 世代交代が進み、もともと自民議員で今も民進に残るのは、岡田克也前代表と増子輝彦参院議員だけになった。90年代もいったん離れた議員が徐々に自民に回帰する現象はあった。岡田氏は「野党より与党の方が良いと言う人はいつの世でも出てくることだ」というが、自民膨張の理由はそれだけではなさそうだ。
 2月13日、自民の茂木敏充政調会長は党本部で、全国化学労働組合総連合(化学総連)の幹部と会談した。昨年5月末に民進の支持母体である連合を離脱し、約4万6千人の組合員を抱える化学総連。茂木氏は安倍政権が取り組む「働き方改革」について話した。化学総連の広報担当は「意見交換をした」と説明。このところ目立つ政権と労働組合の接触の一コマになった。
 安倍政権は「同一労働・同一賃金」など、民主や民進、労組が当初主張してきた政策を次々と採り入れつつある。民主で政調会長を務めた松本剛明氏は「自民の守備範囲が広すぎて、自民以外というポジションがなかなかない」と語る。
 自身は15年に民主を離党し、昨年からは自民会派に入った。「2大政党は対立でなく競争すべきなのに、メジャーとマイナーの対決になっている。対立を続ける限り、自民がやらない課題を見いだすしかない。その究極が共産との連携だ」という。
 昨夏の参院選で民進は共産と連携。32ある1人区の11選挙区で野党候補が勝った。31選挙区で擁立を見送った共産票の上積みによる共闘が、一定の成果を収めたことは間違いない。
 その一方で見逃せないのは、勝利した選挙区は、保守地盤を背景に持つ候補者が目立ったということだ。青森の田名部匡代氏は父・匡省氏が元自民議員。福島で勝利した元自民議員の増子氏は「野党共闘だけでは勝てない。保守層への食い込みが重要だ」と語る。
 90年代以降の「非自民政権」の主役の多くが細川護熙、羽田孜、鳩山由紀夫の各氏ら元自民出身議員だった。その立役者で、今は野党結集を訴える小沢一郎氏も昨年、自らの党名を自由党に変更した理由を「保守の人たちの支援を得られる政党名。自民党以外の保守の票を取らなければ政権は取れない」と説明した。
 新潟や東京の知事選で自民推薦候補が敗れたように、「1強」にも死角はある。「脱原発」や「都政改革」といった有権者の共感を得るテーマで争点化に成功すれば、自民支持層が大きく動くこともある。それが政権をかけた衆院選で通用するのか。所属議員の大半が共産との政権構想に否定的で、原発だけみても腰が定まらない民進が、抱える悩みは深い。(関根慎一)  ≫(朝日新聞デジタル)


≪自民結党以来の二つの潮流、どちらも支持基盤にした首相
■(1強・第1部)平成の楼閣
 自民党の二階俊博幹事長が、1月23日の衆院代表質問で最も力を込めたのが「国土強靱(きょうじん)化」だった。
 「強くしなやかな国づくりは、安倍政権の最重要課題だと認識している」  防災事業への投資を経済成長や地方振興につなげる二階氏の持論で、公共事業費は安倍政権から増加に転じた。安倍晋三首相も「オール・ジャパンで国土強靱化を強力に進めてまいる」と答弁で応じた。
 二階氏と安倍首相。
 もともとは、自民党結党以来の大きな二つの潮流で別の流れに属していた。
 「私は角栄さんの人柄に揺るぎない信頼感を今も持ち続けている」  
そう語る二階氏は、1983年に初当選。田中角栄元首相に師事した最後の世代だ。「列島改造論」を引っさげ、社会の安定と地方や弱者への再分配を重視。現在の二階派はこの系譜ではないが、国土強靱化は、いわば田中流自民政治の「平成版」といえる。
 田中元首相が支えた佐藤栄作元首相と共に、高度経済成長を牽引(けんいん)した池田勇人元首相を源流にした「宏池会」は今年60周年。軽武装・経済優先という戦後日本の基本政策を決めた吉田茂元首相以来、連なる系譜として、自民では長く「保守本流」と言われてきた。
 これに対し、安倍首相の出身派閥である細田派は、首相の祖父で日米安保改定に政権を賭けた岸信介元首相が源流だ。憲法改正を掲げ、「国のかたち」にこだわる。長く政権から遠ざかっていたが、2000年以降は、森、小泉、安倍、福田の4人の首相を輩出。田中派や宏池会の系譜が分裂を繰り返し、相対的に弱ったのとは対照的に、今や主流の地位を確立した。
 安倍首相は、党内の二つの潮流の支持を完全にまとめ、むしろ自らが属さなかった潮流の側からも分厚い支持を受ける。田中直系である二階氏は、幹事長就任直後に安倍首相の任期延長を最初にぶち上げた。2月20日には「総理が進める外交は非の打ちどころがない。支持に何らちゅうちょはない」と来年の総裁3選支持を早々に打ち出した。
 麻生太郎副総理らは、分裂した宏池会系派閥の再結集を模索。これも安倍首相への対抗手段では決してなく、あくまで「ポスト安倍」の備え。岸田文雄外相も「安倍総理の時代が終わった後、私にできることがあれば考えてみたい」と述べ、首相と戦う気はない。
 わずか1年で倒れた第1次政権と何が違うのか。当時、官房副長官として首相を支えた下村博文氏は「お友達内閣と言われたように、なんか意気込んでやっているという冷めた目で見られていた。その失敗から学んだ」と振り返る。
 人事では、閣僚や党役員に派閥の会長クラスを配置。内閣改造でもその骨格を維持した。「成長と分配の好循環を回す」として、かつての保守本流のような経済政策を前面に出して選挙を戦い、そこで得た議席の力で、特定秘密保護法や集団的自衛権の行使を認める安全保障法制の整備といった「地金」の政策を進めた。当然、批判があるが、党内は許容した。
 国政選挙4連勝で生まれた「安倍チルドレン」が党所属国会議員の4割を超え、1次政権のころ参院自民で力を持っていた青木幹雄氏ら実力者の多くが引退。自らを脅かす存在は、党内には見当たらない。自民の二つの潮流が一つに重なり合う「平成の楼閣」で、安倍首相は一人二役の主演を続けている。(山岸一生)  ≫(朝日新聞デジタル)


「軍学共同」と安倍政権
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●日米市場、北朝鮮危機は去ったのか? 中露韓の危機感を探る

2017年08月20日 | 日記

 

韓国左派の陰謀と北朝鮮の擾乱
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金正恩の核が北朝鮮を滅ぼす日 (講談社+α新書)
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独裁国家・北朝鮮の実像――核・ミサイル・金正恩体制
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●日米市場、北朝鮮危機は去ったのか? 中露韓の危機感を探る

安直なテロ手段として定着の感がある車両テロがスペイン・バルセロナでも発生し、13人の死者と100人以上の負傷者を出した。銃や爆弾によるテロに比べ、極めて日常的な車によるテロは、取締当局にとって事前察知が相当に困難な凶器となっているようだ。この事件で、NY株式市場は大きく下げた。東京市場も円高を背景に大きく下げている。北朝鮮危機が安定方向に向かっていることを好感した株式市場も冷や水を浴びせられた模様だ。

しかし、株式市場の右往左往は、テロも戦争も大きな区別なく動く代物だが、テロと戦争では大きな違いがある。戦争で発生する死傷者の数は、テロのそれを、大きく上回ることが多い。シリアやウクライナ・ドンバスで今も起きている諍いレベルの戦闘でも多くの死傷者が生まれ、多くの家屋が灰燼に帰している。いま世界が注目している米朝のいがみ合いは、一食触発の状況にあるが、世界の識者の概ねの意見は、双方の強がり口論の範囲で収まると読んでいる。

日欧米の主たる関係機関や報道各社は、米朝危機は、当面遠のいたと判断しているようである。上述において、筆者は米朝危機と表現したが、実際は、米韓日対中朝(露)問題と云うのが、事実関係国上の見方でもある。我々は、日米欧のメディアから得る情報で、なるほど、米朝危機は当面大丈夫かな?と云う印象を持つわけだが、果たして、その通りかどうかは、中露や韓国の情報も吟味しておくべきなのだろう。ここは敢えて解説抜きに、中韓露の情報などを参考掲載しておきますので、各位において吟味いただきたい。少々長めの掲載になりますが、メディアリテラシーの観点から、中国、韓国、ロシアの情報を主に抜粋しました。


 ≪ 習近平国家主席が米統合参謀本部議長と会談
 習近平国家主席は17日、ダンフォード米統合参謀本部議長一行と人民大会堂で会談した。新華社が伝えた。
 習主席は「中米は地域と世界に重要な影響力を持つ大国、世界第2・第1のエコノミーとして、世界の平和・安定の維持、世界の発展・繁栄の促進に重要な責任を負っている。中米関係発展の大きな方向をしっかりと把握することは、両国及び両国民の根本的利益に関わるのみならず、国際戦略の全局に深い影響を与える」と指摘。
  「中米両軍関係は両国関係の重要部分をなしており、両国関係の重要な安定化要因となるべきだ。近年、両軍は各レベルの交流・対話の強化、軍事的相互信頼メカニズムの構築推進、実務協力の深化などの面で絶えず新たな進展を得ている。今回『中米両軍統合参謀本部対話制度枠組文書』にも署名した。これらは両国関係の発展促進に積極的な役割を果たす。双方が同じ方向に向かい、現有の協力制度・プラットフォームを活用して、両軍関係にプラスのエネルギーを蓄積することを希望する。われわれは米側と共に努力し、尊重し合い、協力に焦点を合わせ、さらに多くの成果を積み重ね、両国民及び各国の人々に幸福をもたらすことを望む」と強調した。
 ダンフォード統合参謀本部議長は「トランプ大統領は年内の訪中を心待ちにしている」と指摘。「米中両軍関係はすでに成熟した関係だといえる。米側は軍事分野で中国と率直でプロフェッショナルな対話を行ない、交流・協力分野を拡大し続け、リスクをしっかりと管理・コントロールし、相互信頼の増進に努め、米中両軍関係の安定的発展を共に推し進めるべく尽力している」と述べた。(編集NA)
 ≫(「人民網日本語版」2017年8月18日)


≪ 外交部、米高官による朝鮮関連の積極的発言について
中国外交部(外務省)の華春瑩報道官は15日の定例記者会見で「中国側は外交的手段を通じた朝鮮半島核問題の解決に尽力するとの米高官の積極的な姿勢表明に留意しており、朝鮮側に相応の呼応を呼びかける」と述べた。
【記者】米国のティラーソン国務長官とマティス国防長官はウォール・ストリート・ジャーナルに連名で寄稿し、米国にとって朝鮮に方針転換を促すうえでの第1選択肢は外交的手段であり、平和的に圧力をかけるのは朝鮮半島の非核化が目標であり、朝鮮の体制転換や朝韓統一の加速の意図はなく、朝鮮国民を害する考えもないとした。これについてコメントは。
【華報道官】中国側は報道に留意し、外交的手段を通じた朝鮮半島核問題の解決に尽力するとのティラーソン国務長官とマティス国防長官の積極的な姿勢表明に留意している。米側がこの姿勢表明を具体的な対朝政策に移すことを希望する。同時に、朝鮮側に相応の呼応を呼びかける。
朝鮮半島核問題における中国の立場は一貫した、明確なものだ。中国側は終始朝鮮半島の非核化を堅持し、朝鮮半島の平和・安定維持を堅持し、対話と交渉を通じた問題解決を堅持し、このために長い間多大な努力を払ってきた。
中国側は、朝鮮半島問題の核心は安全保障問題であり、問題解決の鍵は朝米双方が握っていると終始考えている。関係各国が中国側の示した「相互停止」提案を真剣に検討し、互いの合理的な安全保障上の懸念に配慮し、朝鮮半島核問題の対話を通じた平和的解決の突破口を見出すことを希望する。(編集NA)
≫(「人民網日本語版」2017年8月16日)


 ≪ 中国の米国債保有額が5ヶ月連続で増加 日本を抜いてトップに
 現地時間8月15日、米財務省が発表した資料によると、中国の米国債保有額は5ヶ月連続で増加した。6月末の米国債保有額は1兆1500億ドル(1ドルは約110.6円)近くに上り、増加幅は2015年3月以来最高で、国別保有額は9ヶ月ぶりに記録を更新した。中国が再び日本を抜いて9ヶ月ぶりに保有額で首位の座を奪還した。
 6月、中国の米国債保有額は443億ドル増加し、1兆1465億ドルとなった。一方、日本の6月の米国債保有額は205億ドル減少し、1兆908億ドルとなった。
2016年、中国は米国債を合計で1877億ドル売却し、過去最大の保有額減少となった。日本は4月に小幅に増加したが、2016年7月から2017年6月まで米国債を合計で638億ドル売却し、米国債の国別保有額も2年連続で減少した。 また、米国の6月の国際資本流入額は77億ドルとなり、86%減少した。6月の米国の長期資本流入は344億ドルであり、5月に比べ65%が減少した。
 中国人民銀行によると、7月の中国の外貨準備高は239億3000万ドル増加し、3兆807億2千万ドルとなった。これは今年1月に外貨準備高が「3兆」の大台を割り込んで以来、6ヶ月連続で3兆ドル超えとなった。同時に、米ドル指数は3月から値下がりし始め、現在は94ポイントにまで値下がりした。だが、人民元・米ドルの為替レートは再び持ち直し、安定している。(編集HQ)
≫(「人民網日本語版」2017年8月16日)


 ≪ 【時視各角】金正恩に完敗した「火炎と怒り」
結論から言うと、トランプは金正恩の「手」に負けた。少なくとも今まではそうだ。「火炎と怒り」「軍事行動の装填完了」を云々してすぐにでも空襲に出るように大声を張り上げたが、金正恩は鼻で笑っただろう。
 「ブラーフィング(虚勢)」が奏功するためには相手方が「これは冗談じゃないな…」と信じさせるような情況が備えられる必要がある。事業も、賭博もそうだ。ところで、事業家出身のトランプはこれができなかった。別々だった。ワシントン・ポスト(WP)がそれを正確に把握した。
最初に、ジョセフ・ダンフォード米合同参謀本部議長が当初の予定通りに韓日中3国の歴訪を始めた。トランプが言う通りに戦争が差し迫ったとすれば、そのような隙間なんかない。第二に、北朝鮮の圧力のために韓半島(朝鮮半島)周辺に留まっていた航母「ロナルド・レーガン」がむしろ先週、横須賀基地に戻った。
 韓半島の軍事行動を控えてはあり得ないことだ。韓国内米国人約20万人にもいかなる待避命令がない。そのうえに、国防・国務長官いずれも「トランプレトリック」とはかけ離れている。口先だけが騒がしい、精緻ではない「ハリウッドアクション」だった。
 大陸間弾道ミサイル(ICBM)を手に握った金正恩がだまされるわけがない。圧力向け見せ掛けであることを即座に気付いた。だから、超強力な攻勢で立ち向かっているわけだ。その間、世界証券市場では1700兆ウォン(約164兆9445万円)の損をした。 
  どうすればよかったのだろうか。軍事的緊張が漂っていた1994年、ビル・クリントン政府の国防長官だったウィリアム・ペリーの最近の告白だ。
  「我々は一度も核兵器を使うという『無駄な脅威(empty threat)』をしたことがない。意図的に沈黙した。そのタイミングで外交大物のブレント・スコウクロフト元米国家安保補佐官がワシントン・ポスト(WP)に『クルーズミサイルで北朝鮮を攻撃せよ』と呼びかけるコラムを載せた。金日成(キム・イルソン)は私がその文章を書かせたと思っていた。先制打撃の準備が差し迫っていると考えたわけだ。数日後、北朝鮮は交渉に入った」
 68年1月、米海軍情報艦「プエブロ号」が北朝鮮によって拿捕された時も同じだ。リンドン・ジョンソン元大統領は「軍事行動」を全く口にせず、電撃的に東海(日本名・日本海)に艦隊と戦闘機100機を送った。同時に、ソ連に「軍事行動が差し迫る」という虚偽情報を流した。それで勝負は終わり。交渉はすぐに妥結した。表現を控える中で交渉力は倍増した。トランプ完敗の理由だ。
 暴言対決はトランプの「対北朝鮮カード」が切れたということを表した。逆説的に北朝鮮との協議に入らざるを得なくなった。オバマ政権の国家安保補佐官だったスーザン・ライスが「韓米に核兵器を使わないという確証を得れば、北朝鮮の核保有を容認しよう」と主張した。
「戦略的忍耐」の張本人がそのような話を口にするとは腹立たしい。だが、意味深長だ。「次悪」を選択するしかない現実が我々の目の前に近寄っている。韓半島専門家のパトリック・クローニンはトランプがこれまで「その者(he)」と呼んだ金正恩を先週初めて「Kim Jong-Un」という名前で呼んだことに注目する。時が変わっている。
 米朝の顔色をうかがいながら交渉を躊躇する間、我々には我々の役割がある。主導権は握れなくてもどうにか米朝間接点のためのアシストでもしなければならない。
今月予定された韓米合同軍事演習の規模縮小も我々が先に提起すれば米国が応じない理由がない。北朝鮮が最も望むことかもしれない。
認めたくないがこれから核保有国北朝鮮とどうすれば共倒れせずに共生するかを激しく考えなければならない時点だ。今日、光復節(解放記念日)のメッセージが注目される理由だ。
ところで、このような厳しい状況で外交長官が「文在寅式休暇文化」を云々しながら休みを取ったが急きょ復帰したとは、この政権の安易な認識にあっけにとられるばかりだ。  
 ≫(中央日報: 金玄基(キム・ヒョンギ)/ワシントン総局長)


≪ 【中央時評】平和のための緊急呼び掛け=韓国
  危機だ。韓半島(朝鮮半島)軍事対決が爆発直前の「瞬間的ピーク」に上がったり下がったりし続けている。国政介入はロウソクデモで正したが、安保の現実は差し迫った「危機悪化」と「爆発未然」の二重状況が続いている。 
  ロウソク弾劾と政府交替以降もずっと自らと世界を戦争危機で不安にさせているとは世界に対して恥ずかしいばかりだ。韓国戦争を通じて自分たちと世界を地獄のような火の中に追い詰めたのに韓民族は果たして何を習んだのか、新たな戦争爆発危機に惨たん・悚然たる思いを抱くばかりだ。韓国戦争による自国の惨状と世界惨禍に対する絶対的な反省なくしては韓国人は平和の先駆者どころか21世紀の世界の罪人になるかも知れない。
 構造的に話せばスターリン(ソ連)+毛沢東(中国)+金日成(キム・イルソン、北朝鮮)の3者連帯によって可能だった1950年の戦争は、現在の習近平主席とプーチン大統領が当時のスターリンと毛沢東の役割をするわけがない/することはできないため不可能だ。韓国の国力も実に大きくなった。しかし現在は①金正恩(キム・ジョンウン)+核+大陸間弾道ミサイル(ICBM)の3要素がただ1人に集中し、②中国とロシアが直接統制できず、③北朝鮮と米国の偶発的衝突状況を通じて直ちに世界最先端戦争への上昇が可能だという点から、より一層危険なのも事実だ。
 今は戦争を防ぎ、平和のために死力を尽くさなければならない。危機解決の突破口を悩んでみよう。それは堅固な韓米同盟に基づく韓米連合軍事演習の中断だ。前者が確固たるものであれば、後者をしばらく中断するのは問題にならない。今は中国と北朝鮮の小さな要求を受け入れて韓国と世界のより大きな価値を実現しよう。ヴィリー・ブラント元西ドイツ首相の先例を見てみよう。
 「平和が全てではないが、平和がなければ全てのものは無となる」すなわち「平和が全てではないが、平和なしにはどんなものも存在できない」という信念を守り、欧州の平和と欧州統合の礎石を置いたブラント元首相は韓国戦争の「北朝鮮侵略ねつ造」後、その時まで世界社会主義陣営の善戦攻勢に過ぎなかった「平和談論」「平和共存政策」を、米国との信頼に土台を置いた西ドイツ・西欧・西側世界のものに変えてしまい、ドイツの問題と欧州平和の構図を決定的に転変させた。ブラント元首相は東ドイツと社会主義陣営の主張と提案は全て「ノー」と対応してきた当時までの欧州の外交タブーを破った。平和共存、それは戦慄が走るような逆平和の攻勢だった。 
  韓米連合訓練の中断は相手の要求を受け入れて相手の役割と責任を高める「引き落とし」戦法になるだろう。韓米が先に演習を中断することにより中国は「双中断」ではなく北の核・ミサイル試験中断を要求する一方行圧迫の局面になるだろう。中国の役割論・中国責任論を主張してきた米国にとっても中国のより大きな責任と役割を要求することになる。高高度ミサイル防御(THAAD)体系配備によって疎遠になった韓中関係の回復、すなわち経済・文化・人的交流、観光部門の報復に対して撤回を要求することもありえる。北朝鮮は当然核とミサイル活動中断を最もより強力に要求されることになるだろう。北朝鮮が最終的に拒否すれば、中国は今までは別に非核平和に向かった対北朝鮮の最大圧迫に参加するほかはなくなる。
 韓国は過去に南北関係改善のための北朝鮮の執拗な「3大先決要件」(駐韓米軍撤収、国家保安法廃止、国家情報院撤廃)の主張、「ソウル火の海」発言、北の核「多者(6者)会談拒否」という不動の姿勢の路線を、全て韓国側の主張のとおり「貫徹」「謝罪」「受け入れ」させた輝かしい水面下の努力と成功事例を持っている。当時、「北朝鮮が応じるはずがない」と悲観的な時に深い知恵と高度な戦略と粘り強い努力でついにやり遂げた。
 韓米連合軍事演習の先制的中断は北朝鮮・米国・中国と世界に北の核解決および韓半島の平和のための韓国の「運転手」の役割を十分に回復して見せる初めての契機になるだろう。更に韓米同盟と信頼と協力の鉄のような連帯を北朝鮮と中国と世界と我々自らに誇示することはもちろん運転手の熟練した手法により助手と乗客と観客の全てに深い安定感を植えつけるだろう。
 劇的突破による明敏な安保外交は帝国の間で中堅共和国と小国が長期生存した人類最高の秘法だった。中堅之路・中庸之道(modo mezzano)の国家戦略だ。北朝鮮まで中堅国家以上で-少なくとも軍事力面では-変転された現状から、民主主義・経済・技術・国力を筆頭に中堅国家以上に跳躍しようとする今こそ米国と中国と北朝鮮を一気に抱いて越える大韓民国の総体的外交の力量と平和戦略が切実だ。安保の不安が国家と国民の暮らしの足かせとなる慢性疾病だけは必ず乗り越えよう。危機のピークに永久安全と永久平和の劇的突破を成し遂げてみよう。切実に、より一層切実に。
  ≫(中央日報:パク・ミョンニム/延世(ヨンセ)大学教授・政治学)


 ≪ 米韓合同演習、北朝鮮が注視 緊張緩和探り合い
 【ソウル=鈴木壮太郎】米韓両軍は21日、朝鮮半島有事を想定した定例の合同演習「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」を韓国で始める。31日まで続く演習は机上のシミュレーションが中心。米軍は演習への参加人数を昨年より絞り、緊張緩和を模索する米国の姿勢が反映されているとの見方もある。北朝鮮は演習内容を注視しており、米朝対立の先行きを占う節目となる。
 米韓両軍は18日夕、南北軍事境界線がある板門店で北朝鮮に演習の実施を通告したとみられる。拡声器を使って演習時期や目的を伝えたようだ。
 「フリーダムガーディアン」は米韓両軍が毎年3回実施する合同演習の一つ。北朝鮮が戦闘を仕掛けてきた場合の対応をコンピューターで分析し、実戦的なシナリオに基づいて両軍の指揮系統を確認する。米軍の原子力空母や原子力潜水艦などは参加しない方向だ。
 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長は演習を凝視しているもようだ。金正恩氏ら指導部の排除を狙う「斬首作戦」が含まれる可能性があるからだ。17日付の朝鮮労働党機関紙、労働新聞は「むやみに襲いかかってくるなら、目にものを見せてやる」と米国をけん制した。昨年は同演習の3日目に潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射を強行した。
 演習は核・ミサイル問題を巡る米朝の思惑が交錯するなかで行われる。
 北朝鮮は8日に米領グアム周辺に弾道ミサイルを「包囲射撃する作戦計画を慎重に検討している」と威嚇したが、15日には「米国の行動をもう少し見守る」との金正恩氏の発言が伝わった。トランプ米大統領も「非常に賢明な決断」と評価し、威嚇の応酬はひとまず小休止している。
 韓国内では米軍が抑制的な対応をするとの見方もある。演習に参加するのは韓国軍約5万人、米軍1万7500人。米軍の参加人数は昨年に比べて7500人減った。米韓両軍は「演習規模は例年通り」と口をそろえるが、韓国では「米朝間の緊張緩和を狙った事実上の縮小」との観測も浮上している。
 演習への対応は北朝鮮にとっても負担が重い。演習開始にあわせて軍に「戦闘動員体制」を敷くとされ、休暇中の軍人も部隊に復帰する。人の移動も制限され、経済活動にも支障が出る。
 韓国の専門家は、米国が抑制的な対応をすれば、北朝鮮も重大な挑発を控えると予測する。慶南大の梁茂進(ヤン・ムジン)教授は「米軍が原子力空母や原子力潜水艦などを展開しなければ、北朝鮮の反応は短距離ミサイルを発射する程度ではないか」と話す。
 韓中大の金正奉(キム・ジョンボン)教授は大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射や核実験強行の可能性はあると指摘するが、「米国は対話の条件を示しており、北朝鮮も演習中の挑発を控えて水面下で対話を模索する可能性が高い」と分析している。
 ≫(日経新聞)


 ≪【社説】在韓米軍撤退論、聞き流すことではない
 在韓米軍撤退論がトランプ米大統領の最側近から公開的に出てきたのは意味深長だ。スティーブ・バノン米大統領首席戦略官・上級顧問(筆者注:後にバノン氏はトランプ政権を離脱した)進歩性向のオンラインメディア「アメリカンプロスペクト」のインタビューで「中国が北朝鮮の核開発を凍結させる代わりに米国は在韓米軍を撤収する内容の交渉を考慮することができる」と述べたのだ。もちろんバノン氏は自ら「そのような取引ははるか遠い」と認めたうえ、在韓米軍が撤収するからといって北朝鮮が核を放棄する可能性はないだけに、在韓米軍撤退論の現実性は大きくない。
 しかし米政権が提示する対北朝鮮対話の条件が「非核化」から「核凍結」や「挑発中断」に低まる状況で、米軍撤収の声が米国内で少なからず出てくるのは懸念される。米国に常数だった在韓米軍の存在がしだいに変数になるのではと考えられるからだ。これに先立ちヘンリー・キッシンジャー元国務長官らも北核廃棄と在韓米軍撤収の交換カードを提示したりもした。
 このように微細ではあるが明確な米国の変化は、米国も北朝鮮の核問題に確実な解決法を持っていないことから始まる。米政権内の対北朝鮮政策をめぐる食い違いもそのために出てくる。こうした状況では代案がないと判断される場合、韓国を排除した朝米間の対話が行われる可能性があり、我々には考えたくもない最悪の状況に直面するケースも考えられる。
 大騒ぎすることではないが、決して軽く聞き流すことでもない。我々には「リンチピン(核心軸)」と呼ばれる韓米同盟をさらに強化し、より円滑に進むよう整えることしか選択肢がない。
 少しの摩擦音も逃さず点検し、わずかな亀裂も精巧に補修する必要がある。それだけが「韓半島(朝鮮半島)で戦争は必ず防ぐ」という文在寅(ムン・ジェイン)大統領の国民との約束を守る道でもある。  ≫(中央日報)


 ≪ 米国 北朝鮮との対話開始条件を挙げる
 米国務省のヘザー・ナウアート公式報道官は、朝鮮民主主義人民共和国は米国との交渉を開始するためには非核化への本格的な姿勢を示さねばならないとの声明を表した。
 「我々は時期が到来すれば金正恩氏と交渉を行いたいと思っている。相手が非核化の方向へ本格的に向かうところを見せてくれた時には。我々は今のところこうした動きを目にしていない。」ナウアート報道官はブリーフィングでこう語った。
 こうした一方でナウアート報道官は交渉開始のための前提条件については具体的に何も語っていない。ナウアート報道官はこうしたことのために北朝鮮に米国のグアム島に攻撃を仕掛けない義務を負わせることで十分かという問いに対しては明確な回答を避け、「彼らは何をすべきは知っている」と答えるにとどめている。
 先に伝えられたところ、ティラーソン米国務長官は米国は朝鮮民主主義人民共和国との間で両国の危機の悪化に関する対話を行うことに関心があるとする声明を表した。
 ≫(Sputnik)


 ≪ウクライナが軍事機密を売り渡した? 北朝鮮のミサイル技術の足跡はキエフへと続く
北朝鮮のミサイル開発が驚くべき進歩を見せているのはウクライナのおかげかもしれない。The New York Timesが米国のインテリジェンス・コミュニティと国際戦略研究所(IISS)の専門家の情報として、このようなセンセーショナルな推測を行っている。
 米国のインテリジェンスと一連の公開組織(IISSはそのひとつ)で見解が共通しているのは、北朝鮮が発射実験を行った新たな大陸間弾道ミサイルのエンジンは「おそらく」ウクライナ製であるという点だ。記事によると、この技術はドネプロペトロフスクにある「ユージュマシュ」の工場から入手したものである可能性がある。
 ウクライナ製エンジンが北朝鮮の手に渡ったことが最初に示唆されたのは、専門家らが北朝鮮での新型ミサイルエンジンの地上実験を確認した2016年9月のことである。それからほぼ1年が経過している。物事の論理に従って、Sputnikはロシアの主要な軍事専門家に次の疑問をぶつけた
 どうして米国は今頃になって、このことを気にするようになったのだろうか?
 専門家のウラジミル・エフセエフ氏は次のように言う。「北朝鮮のグアム島に対する核ミサイル攻撃が現実問題となったとき、米国はこの状況をゆるした犯人を探さざるを得なくなりました。そして、実際のところ、北朝鮮の弾道ミサイル開発がこれほど急速な進歩を遂げた原因として、最も有力なのがウクライナなのです。」
 専門家らは、2014年のマイダン革命後の混乱の中、まさにウクライナからミサイル技術が漏えいした可能性が高いと考えている。既に「ユージュマシュ」としては、生き残り競争のために工場が潜在的に危険な技術を外国に、とりわけ中国に売り渡したことはないと否定している。しかし、専門家のコンスタンチン・シフコフ氏はこの声明を信用していない。
 シフコフ氏は言う。「ウクライナがソビエト時代から持っていた技術は、機密であるにもかかわらず、すべて売り渡されてしまいました。「アントーノフ」社が、現在のウクライナ指導部によって文字通り消滅させられ、その中味がすべて中国に売り渡されてしまったことは周知の事実です。北朝鮮にも、支払いが良ければ、何かを売り渡していたことは間違いないと私は考えています。そして、グレーなスキームを通じて何らかの核技術がウクライナから北朝鮮に流れたのです。」
 核兵器を搭載できる実用可能なICBMの開発という北朝鮮の事業が、予想よりもはるかに急速に進んでいることも、この考えを後押ししている。元CIA長官のレオン・パネッタ氏はCBSの番組『Face the Nation』のインタビューで次のように語っている。 「どうやって彼らがこのような進歩を遂げることができたのか。正直なところ、米国にとっても、全世界にとっても驚きです。」
 「ウクライナから北朝鮮への軍事技術の漏えいは、ただ発生していただけでなく、記録にも残っています。マイダン以前にも、ベラルーシで北朝鮮国籍の2人が逮捕され、大陸間弾道ミサイルの第一段ロケットエンジンの文書を持ち出そうとした試みが阻止されたことがあります。彼らと積極的に協力していた人たちは逮捕され、投獄されましたが、漏えいは起こっていたのです。また、「ユージュマシュ」の敷地から、長距離弾道ミサイルに使われる所謂ステアリングアクチュエーターが持ち出されたこともありました。こうした事件が2014年以前にも起こり得たのであれば、国内が危機に陥り、多くの人が技術の違法売却で儲けたいと強く願うようになったとき、どれほどの「技術漏えい最盛期」が訪れ得たかは想像に難くありません。北朝鮮ミサイル開発への関与も、儲けの手段としてあり得たことでしょう。というのも、「ユージュマシュ」で働いていた専門家たちは、固形燃料のミサイルだけでなく、液体燃料のミサイルの開発にもアクセスすることができたからです。その中には、火星12や火星13のような最新型も含まれます。」
 ちなみに、聯合ニュースが伝えたところによると、北朝鮮はグアム島(米国)攻撃のために、まさに「火星12」ミサイルを4基準備したという。総合ニュースによると、北朝鮮は中距離ミサイル4基を使って、米空軍の主要施設が置かれているグアム島への攻撃を真剣に検討しているという。
 もし、この状況をゆるした原因がウクライナにあると証明されれば、それは、国際的に最も高い水準でウクライナに深刻な制裁が科される原因となってしかるべきでものある。ウラジミル・エフセエフ氏は深刻な制裁に至る可能性もあると考えている。
 エフセエフ氏は次のように述べている。「北朝鮮危機の先鋭化を受けて、欧米が遂に、ミサイル技術が違法輸出されている事実に目を向け、ウクライナがミサイル技術不拡散管理体制に違反していることに目を向けるかもしれません。思い出していただきたいのですが、ウクライナの領土からは長距離巡航ミサイルIKS-55が持ち出されたことがあります。これらのミサイルは中国とイランに持ち込まれました。これも事実として証明されています。2014年には、トルコがウクライナから大陸間弾道ミサイル「ヴォエヴォダ」製造のための設計文書を購入しようとしたことがありました。
軍事専門家として言いますと、トルコの買い取りの目的は核ミサイル開発だった可能性があります。この試みはまさに米国によって阻止され、その後、「ユージュマシュ」の設計文書は米国人によってウクライナから持ち出されました。ウクライナがミサイル技術不拡散管理を破ったことは明白です。ただし、米国は極めて長期間、これに気付かないフリをしてきました。
しかし、グアム攻撃の脅威を受けて、もうこれに目をつぶることはできません。私は、証明された事実に基づき、国連と安全保障理事会がウクライナに厳しい制裁を発動すべきだと考えています。なぜならミサイル技術の漏えいでは、どの国が攻撃対象となってもおかしくないからです。」
 ユージュノエ設計局の主任設計士であるアレクサンドル・デグチャリョフ氏は、どこかの国が「ユージュマシュ」で製造しているウクライナ製ミサイルエンジンをコピーした可能性はあると述べている。しかし、ウクライナの罪を問うThe New York Timesの記事については、概して「フィクション」であるとしている。しかし、米国の専門家らはこの発言をあまり信用していないようだ。というのも、ペトロ・ポロシェンコ大統領のウクライナ政府が「ユージュマシュ」内部の事態をコントロールできているという証拠が一切ないからだ。
 国際戦略研究所 のミサイル問題の専門家マイケル・エレマン氏によると、北朝鮮は、ウクライナの「ユージュマシュ」が製造したミサイルエンジンを「ブラックマーケット」で手に入れた可能性があるという。The New York Timesは、このスキームが証明された場合、ウクライナは欧米のパートナーの支持を失うことになるだろうと考えている。
 ウクライナでもこれが既に理解されつつある。全ウクライナ連合「祖国」の党首を務めるユリヤ・チモシェンコ氏は、もしもウクライナが北朝鮮に兵器と軍事技術を売却したという情報が真実だと証明されれば、ウクライナを待っているのは「制裁と大惨事」だと述べている。ウクライナは先進国からの支援を一切得られなくなり、しかも、北朝鮮の「親友」というレッテルを貼られることになる。
 ≫(スプートニク日本:タチヤナ フロニ)


 ≪ 中国外相「危機終わってない」 米朝問題で協力呼びかけ
 ミサイル問題をめぐって対立を深めていた米国と北朝鮮が緊張緩和に向けた発言をしたことを受け、中国の王毅(ワンイー)外相が15日夜、ロシアのラブロフ外相、ドイツのガブリエル外相と相次いで電話で協議した。王氏は21日から始まる米韓の合同軍事演習を念頭に「『8月危機』はまだ終わっていない」と述べ、対立回避に向けて協力を呼びかけた。
 中国外務省が発表した。トランプ米大統領は北朝鮮問題をめぐる中国の対応について「非常に失望している」と不満を表明。14日には中国を対象に「通商法301条」に基づく調査の検討を指示した。中国側には両国をまきこんで米朝に自制を促すとともに、積極的な対応をアピールしてトランプ政権の対中批判をかわす狙いがありそうだ。
 外務省の発表によると、王氏はラブロフ氏に対し「北朝鮮と米国の応酬にブレーキをかけるのが急務だ」と述べた。ラブロフ氏は「米韓軍事演習で再び情勢が悪化するおそれがある」と懸念を示し、外交による解決に協力する姿勢を見せた。ガブリエル氏は「関係国は欧州の悲惨な歴史の教訓をくみ取るべきだ」と訴えたという。 ≫(朝日新聞:北京=延与光貞)


 ≪全米各地で反人種差別集会 ボストンに4万人
【ボストン=共同】米南部バージニア州で起きた白人至上主義者と人種差別反対派の衝突から1週間となる19日、東部ボストンや南部オースティンなど全米各地で人種差別に反対する集会が行われた。最大の規模となったボストン中心部の集会には、警察発表で約4万人が参加。白人至上主義者とみられる保守派グループの数十人も姿を現したが、圧倒的多数の反対派に追い出される形で早々と立ち去った。
 同公園では地元警官約500人が警備に当たり、厳戒態勢が取られた。反対派と白人至上主義者とみられる一団との間を複数のフェンスで仕切り、十分な距離を取ったため衝突は回避されたが、反対派約30人が拘束された。
 反対派は「KKK(白人至上主義の秘密結社クー・クラックス・クラン)やネオナチは米国から出て行け」などと書かれたプラカードを掲げ「人種差別反対」を叫んだ。
 ≫(日経新聞)


 ≪トランプ政権、安定選択 最側近バノン氏解任 ケリー氏起用、分岐点
 米ホワイトハウスは18日、バノン首席戦略官兼上級顧問の退任を発表した。政権内の権力闘争に敗れて去る形で、米主要メディアは「事実上の解任」と伝えた。バノン氏は昨年の大統領選終盤で選対最高責任者を務め、トランプ大統領の最側近の一人だった。政権発足当初は「影の大統領」と呼ばれた実力者が去ることで、政権運営の大きな転換点になる可能性がある。政権発足から7カ月、ホワイトハウス中枢を去った側近は6人目だ。
 「解任劇」の幕開けは7月末、ケリー大統領首席補佐官(退役海兵隊大将)の就任だった。歴代の米政権は、首席補佐官が面会相手や報告内容を管理する「番頭」役を務め規律を保った。だがトランプ政権では、執務室にバノン氏や娘婿のクシュナー上級顧問、長女イバンカさんらが自由に出入りする。プリーバス前首席補佐官は、重要事項を発表後に知る事態が起き、政権は「カオス」に陥った。
 ケリー氏は、まずイバンカ夫妻らも含め、自由に執務室に出入りしないよう申し渡す。一方、国家安全保障問題担当のマクマスター大統領補佐官(現役陸軍中将)には「部下の人事は、自分の思う通りにせよ」と指示した。勝負がついたのは今月4日、トランプ氏は夜11時前、「私とマクマスター氏は非常にうまく仕事をしている」と異例の声明を出した。バノン氏が率いてきた右翼メディア「ブライトバート」はその数日前からマクマスター氏の辞任を強く求めていた。声明は、トランプ氏が政権安定を選んだことを意味した。追い込まれた格好のバノン氏はその3日後、大統領とケリー氏に辞意を伝えたとされる。
 バノン氏は、国際協調が米国の覇権を揺るがすとの考えに立ち、「米国を再び偉大な国に」と訴えるトランプ氏に通じる。ただ、2人をつないだのは主義主張だけではない。保守強硬派の大富豪の存在があった。大統領選でトランプ氏はじめ共和党候補に2000万ドル(約22億円)以上を献金したヘッジファンド経営者ロバート・マーサー氏(71)だ。「ブライトバート」の経営も支える。
 12日に南部バージニア州での白人至上主義者と反対派の衝突で1人が死亡。白人優位的な主張の「ブライトバート」を率いてきたバノン氏にメディアの批判が集中した。バノン氏は15日に雑誌に電話をかけ、中国に融和的に傾く通商政策を批判したりしたことが17日に明らかになり、政権内部から猛反発を受けた。
 トランプ氏とバノン氏は騒ぎが拡大した先週、マーサー氏とニューヨークでそれぞれ会談した。バノン氏の退任発表が18日にずれ込んだのは、再選を見据えるトランプ氏が、バノン氏の後見人でもあるマーサー氏と調整する手続きが必要だったとの見方がある。
 ≫(【毎日新聞:ワシントン会川晴之、ニューヨーク國枝すみれ】


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●“身も蓋もなくなる話” 敗戦国日本はいまも健在、半分主権国家

2017年08月12日 | 日記
知ってはいけない 隠された日本支配の構造 (講談社現代新書)
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米中激突 戦争か取引か (文春新書)
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●“身も蓋もなくなる話” 敗戦国日本はいまも健在、半分主権国家 

矢部宏治氏著作の『知ってはいけない――隠された日本支配の構造』は、薄々理解していた日米関係の強靭な裏条約のようなものを、米国公文書など情報の裏づけ付きで、整理整頓して、読者に気づきを促している。矢部氏が書いているように、6,70歳を過ぎて満足な人生だと思っている場合は読まない方が幸せかもしれない、筆者もそう思う。気鋭の憲法、国際政治学者諸氏も、憲法論議が根こそぎ馬鹿げた行為のように思える日米関係の事実を知ることは、兎に角、とても痛い出来事である。

このような事実関係を認めてしまうと、日本に国会があることも馬鹿げや事実になってしまう。司法機関にも同様なことが言える。戦後の日本と云う国は、安保関連と国際関係をつかさどる権利をはく奪された、見せかけの独立国家だということが言えるのだろう。まぁ、多少の自治は認めてやる準国家と云う位置づけなのだろう。民間の国民や外国人に対する自治は認めるが、米国占領に関わる部分の決定権は、現在においてもアメリカに存在すると云うことだ。

つまり、日本の外交防衛(日米安保・日米地位協定)の主権は米国にあり、日本にはないと云うことだ。無論、表向きは日本政府が独自の判断で意思決定した上で行動しているように見えるように設えてある。日本国にあるのは、“国政”のみと言って良いだろう。外交安保はアメリカの差配及び官僚行政の忖度で実行されていると云うことになる。考えてみると、アメリカは、敗戦国である日本を支配する形態を徳川幕府に学んだようだ。

江戸時代も、お飾りの天皇(象徴天皇的)【注:大日本国憲法だけが天皇に主権があると主張した例外】が存在し、徳川幕府(横田幕府)があり、各藩が存在した。各藩は自治の権限を与えられ、各藩の藩主(大名・県知事)は、一定範囲の自治権を与えられ、藩政(国政)をつかさどった。或る意味で、マッカーサーは、江戸時代の幕藩政治を参考にしたのではないかと推量できる。265年間も日本国に根づいていた制度を参考にすることは理に適っていたわけで、長州テロ集団による大日本帝国憲法など、単なる一時のあだ花だと簡単に見破ったのだろう。鎌倉幕府から始まった制度だと思えば、日本国に680年間存在した制度なのだから、日本人のDNAに合っていたと考えるのも理にかなっている。

おそらく、半分以上の国民が、見たことも聞いたこともない“天皇”と云う“八百万の神的”存在を、意味もなく太陽を拝むように崇め奉ったわけだが、日本人には、そういう見えないものを信じる一種の国民的性癖あったのではないのだろうか。そういう存在が、あると云うことにして、日々の問題で解決不能な問題が起きると、その見えないものからの啓示を待ち望む精神構造があるのかもしれない。

それゆえに、アメリカが主権を持っていると薄々知っているが、見たことも聞いたこともない事にして、国政(藩政)の範囲で、ああでもない、こうでもないと、から騒ぎしながら、独立国の振りをして、白々しく生きているのかもしれない。小泉や安倍や菅や野田のような内閣総理大臣が出てきて、国家を滅茶苦茶にしようとしても、アメリカが歯止めをするに違いない、俺たちは許された範囲で、銭儲けに奔走すればいいのだから。そんな小狡い考えと云うか、肌感覚で生きているのかもしれない。

考えてみると、アメリカの主権で生きていると云うことは、アメリカの国際支配の枠組みの駒になるわけで、生かすも殺すもアメリカ次第だ。ただ、今まではアメリカに余裕があったので、生かさず殺さずの支配下にあったと認識して良いだろう。しかし、アメリカに余裕がなくなったらどうなるのか、まだ、誰も経験したことのない事柄が出現すると云うことになるわけだ。トランプのような大統領が生まれたことは、そのような時代が近づいていることを示唆している。

アメリカも、国務省と国防省の意見衝突は日常茶飯事で、本質的なアメリカのあり方についても、イデオロギー的な対立が存在している。国防省或いは駐留米軍にとって、朝鮮戦争の最中に得た、世界に類を見ない超優遇環境の日本における駐留は竜宮城のようなものなので、手放すなど狂気の沙汰だと信じている。何度となく、国務省側が、世界標準と比較して、常任理事国としての矜持に欠けているのだから、改善すべきだと意見しても聞く耳を持たない。この対立に、積極的に関与したアメリカ大統領は誰もいない。唯一、アイゼンハワー大統領が、軍産複合体が将来のアメリカにおける最大の脅威だと言った程度のものである。

かたや日本政府の側の対応はどうなのかと眺めてみると、以下のことが判る。朝鮮戦争以降、世界全体が東西冷戦構造の中で、自国の国家のあり方を構築していった。この構築が堅固な国ほど、東西冷戦終結後も冷戦構造から脱皮できず、同様の国家構造を維持したし、エスタブリッシュメントにとって、自分のキャリアを最大限に生かせる都合の良い枠組みなので、改革するどころか、その強化に勤しむという皮肉な現象になっている。安倍がプーチンと良好な関係を維持しているように見せているのは、一見、アメリカ何するものぞのパフォーマンスであり、支持母体“日本会議”向けのスタンドプレーに過ぎない。

日米の同盟は、簡単に言えば“占領支配と緩和協定”のようなものだから、肝心の憲法判断や、国土に関する主権問題や、安保関連は、米軍幹部と外務・防衛官僚によって決定される状況なので、日本政府が独自で行える外交や安全保障は、極めてローカルで些末な問題だけに限定されている。そのような状況下なのだから、北方領土返還交渉など絵に描いた餅である。交渉に入る前に、すべての日本の領土に、米軍基地を置くことが出来ると云う部分にメスを入れてから出なければ、交渉はあり得ないのだ。尖閣諸島も竹島も、同じようにアメリカの決定する核心であって、日本政府が何かできると云うのは、お飾り程度のお茶濁しと云うことだ。

以上、日米の関係を主に見てきたが、それでは、アメリカの力も落ちてきたのだから、外交安保の核心部分の決定権を日本政府に返還されれば、物事が思うように推移するかと云うと、そこが判らない。現時点における日本国民の政治リテラシーを勘案すると、より悪くなり、制御不能に陥るリスクも内包する。宗教、イデオロギー、哲学等々、目に見えないもの、手で触れないものへの関心を長いこと忘れてしまった国民国家において、人権を基礎とした自由主義、民主主義に則り、外交安保まで判断する能力があるか、はなはだ疑問だ。ゆえに、官僚機構は国民の主権行使の結果生まれた日本政府に主権に関わる重大な問題になるとイニシアチブを取ろうとしている。

自然や農業を半ば捨ててしまった国民。豊かさは、ことごとく金銭に変えられるものと受けとめている国民の体質があるわけだから、この重大な、外交安保の主権を手に入れることは、悦ばしいことのように見えて、実際は相当に怖い結果をもたらすという皮肉が内在している。欧米的価値観を普遍的だと叫びながら同化するアジアの民族が(安倍政府)が、極東地域において、他の国々から尊敬の念で見られるのか、そういうことに気がまわる国民でない限り、アジアの中心で一番輝く星になるわけもないし、なろうとしてはいけない。日本の国民が、金銭に換算出来ないものに価値を見出さない限り、安穏な主権国家の国民になることはない。


≪ 内閣改造でも絶対に変わらないこと
なぜ日本はアメリカの「いいなり」なのか?知ってはいけないウラの掟
私たちが暮らす「戦後日本」という国には、国民はもちろん、首相でさえもよくわかっていない「ウラの掟」が数多く存在し、社会全体の構造を大きく歪めてしまっているという。 たとえば2016年、安倍晋三首相による「北方領土返還交渉」が、大きな注目を集めたが、日本での首脳会談が近づくにつれて事前交渉は停滞し、結局なんの成果もあげられなかった。なぜ、いつまでたっても北方領土問題は解決しないのか。
はたして、この国を動かしている「本当のルール」、私たちの未来を危うくする「9つの掟」とは? 『知ってはいけない――隠された日本支配の構造』の著者・矢部宏治氏が、「戦後史の闇」を解き明かす。

 ■事実か、それとも「特大の妄想」か
それほどしょっちゅうではないのですが、私がテレビやラジオに出演して話をすると、すぐにネット上で、「また陰謀論か」「妄想もいいかげんにしろ」「どうしてそんな偏った物の見方しかできないんだ」などと批判されることが、よくあります。 あまりいい気持ちはしませんが、だからといって腹は立ちません。自分が調べて本に書いている内容について、いちばん「本当か?」と驚いているのは、じつは私自身だからです。
「これが自分の妄想なら、どんなに幸せだろう」いつもそう思っているのです。 けれども、8月17日発売の新刊『知ってはいけない――隠された日本支配の構造』をお読みになればわかるとおり、残念ながらそれらはすべて、複数の公文書によって裏付けられた、疑いようのない事実ばかりなのです。
ひとつ、簡単な例をあげましょう。 以前、田原総一朗さんのラジオ番組(文化放送「田原総一朗 オフレコ!」)に出演し、米軍基地問題について話したとき、こんなことがありました。ラジオを聞いていたリスナーのひとりから、放送終了後すぐ、大手ネット書店の「読者投稿欄」に次のような書き込みがされたのです。
<★☆☆☆☆〔星1つ〕 UFO博士か? なんだか、UFOを見たとか言って騒いでいる妄想ですね。先ほど、ご本人が出演したラジオ番組を聞きましたが(略)なぜ、米軍に〔日本から〕出て行って欲しいというのかも全く理解できないし、〔米軍〕基地を勝手にどこでも作れるという特大の妄想が正しいのなら、(略)東京のど真ん中に米軍基地がないのが不思議〔なのでは〕?>
もし私の本を読まずにラジオだけを聞いていたら、こう思われるのは、まったく当然の話だと思います。私自身、たった7年前にはこのリスナーとほとんど同じようなことを考えていたので、こうして文句をいいたくなる人の気持ちはとてもよくわかるのです。
けれども、私がこれまでに書いた本を1冊でも読んだことのある人なら、東京のまさしく「ど真ん中」である六本木と南麻布に、それぞれ非常に重要な米軍基地(「六本木ヘリポート」と「ニューサンノー米軍センター」)があることをみなさんよくご存じだと思います。 そしてこのあと詳しく見ていくように、日本の首都・東京が、じつは沖縄と並ぶほど米軍支配の激しい、世界でも例のない場所だということも。 さらにもうひとつ、アメリカが米軍基地を日本じゅう「どこにでも作れる」というのも、残念ながら私の脳が生みだした「特大の妄想」などではありません。
なぜなら、外務省がつくった高級官僚向けの極秘マニュアル(「日米地位協定の考え方 増補版」1983年12月)のなかに、
○ アメリカは日本国内のどんな場所でも基地にしたいと要求することができる。
○ 日本は合理的な理由なしにその要求を拒否することはできず、現実に提供が困難な場合以外、アメリカの要求に同意しないケースは想定されていない。
という見解が、明確に書かれているからです。 つまり、日米安全保障条約を結んでいる以上、日本政府の独自の政策判断で、アメリカ側の基地提供要求に「NO」ということはできない。そう日本の外務省がはっきりと認めているのです。
 ■北方領土問題が解決できない理由
さらにこの話にはもっとひどい続きがあって、この極秘マニュアルによれば、そうした法的権利をアメリカが持っている以上、たとえば日本とロシア(当時ソ連)との外交交渉には、次のような大原則が存在するというのです。
○ だから北方領土の交渉をするときも、返還された島に米軍基地を置かないというような約束をしてはならない。*註1 こんな条件をロシアが呑むはずないことは、小学生でもわかるでしょう。 そしてこの極秘マニュアルにこうした具体的な記述があるということは、ほぼ間違いなく日米のあいだに、この問題について文書で合意した非公開議事録(事実上の密約)があることを意味しています。
したがって、現在の日米間の軍事的関係が根本的に変化しない限り、ロシアとの領土問題が解決する可能性は、じつはゼロ。ロシアとの平和条約が結ばれる可能性もまた、ゼロなのです。
たとえ日本の首相が何か大きな決断をし、担当部局が頑張って素晴らしい条約案をつくったとしても、最終的にはこの日米合意を根拠として、その案が外務省主流派の手で握り潰されてしまうことは確実です。
2016年、安倍晋三首相による「北方領土返還交渉」は、大きな注目を集めました。なにしろ、長年の懸案である北方領土問題が、ついに解決に向けて大きく動き出すのではないかと報道されたのですから、人々が期待を抱いたのも当然でしょう。
ところが、日本での首脳会談(同年12月15日・16日)が近づくにつれ、事前交渉は停滞し、結局なんの成果もあげられませんでした。 その理由は、まさに先の大原則にあったのです。
官邸のなかには一時、この北方領土と米軍基地の問題について、アメリカ側と改めて交渉する道を検討した人たちもいたようですが、やはり実現せず、結局11月上旬、モスクワを訪れた元外務次官の谷内正太郎国家安全保障局長から、「返還された島に米軍基地を置かないという約束はできない」という基本方針が、ロシア側に伝えられることになったのです。
その報告を聞いたプーチン大統領は、11月19日、ペルー・リマでの日ロ首脳会談の席上で、安倍首相に対し、「君の側近が『島に米軍基地が置かれる可能性はある』と言ったそうだが、それでは交渉は終わる」と述べたことがわかっています(「朝日新聞」2016年12月26日)。
ほとんどの日本人は知らなかったわけですが、この時点ですでに、1ヵ月後の日本での領土返還交渉がゼロ回答に終わることは、完全に確定していたのです。
もしもこのとき、安倍首相が従来の日米合意に逆らって、「いや、それは違う。私は今回の日ロ首脳会談で、返還された島には米軍基地を置かないと約束するつもりだ」などと返答していたら、彼は、2010年に普天間基地の沖縄県外移設を唱えて失脚した鳩山由紀夫首相(当時)と同じく、すぐに政権の座を追われることになったでしょう。
 ■「戦後日本」に存在する「ウラの掟」
私たちが暮らす「戦後日本」という国には、国民はもちろん、首相でさえもよくわかっていないそうした「ウラの掟」が数多く存在し、社会全体の構造を大きく歪めてしまっています。 そして残念なことに、そういう掟のほとんどは、じつは日米両政府のあいだではなく、米軍と日本のエリート官僚のあいだで直接結ばれた、占領期以来の軍事上の密約を起源としているのです。
私が『知ってはいけない――隠された日本支配の構造』を執筆したのは、そうした「ウラの掟」の全体像を、「高校生にもわかるように、また外国の人にもわかるように、短く簡単に書いてほしい」という依頼を出版社から受けたからでした。
また、『知ってはいけない』というタイトルをつけたのは、おそらくほとんどの読者にとって、そうした事実を知らないほうが、あと10年ほどは心穏やかに暮らしていけるはずだと思ったからです。 なので大変失礼ですが、もうかなりご高齢で、しかもご自分の人生と日本の現状にほぼ満足しているという方は、この本を読まないほうがいいかもしれません。 けれども若い学生のみなさんや、現役世代の社会人の方々は、そうはいきません。みなさんが生きている間に、日本は必ず大きな社会変動を経験することになるからです。
私がこの本で明らかにするような9つのウラの掟(全9章)と、その歪みがもたらす日本の「法治国家崩壊状態」は、いま沖縄から本土へ、そして行政の末端から政権の中枢へと、猛烈な勢いで広がり始めています。
今後、その被害にあう人の数が次第に増え、国民の間に大きな不満が蓄積された結果、「戦後日本」というこれまで長くつづいた国のかたちを、否応なく変えざるをえない日が必ずやってきます。 そのとき、自分と家族を守るため、また混乱のなか、それでも価値ある人生を生きるため、さらには無用な争いを避け、多くの人と協力して新しくフェアな社会をいちからつくっていくために、ぜひこの本を読んでみてください。
そしてこれまで明らかにされてこなかった「日米間の隠された法的関係」についての、全体像に触れていただければと思います。

*本書の内容をひとりでも多くの方に知っていただくため、漫画家の、ぼうごなつこさんにお願いして、各章のまとめを扉ページのウラに四コマ・マンガとして描いてもらいました。全部読んでも3分しかかかりませんので、まずは下に掲げたマンガを読んでみてください。


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≫(現代ビジネス>国際>内閣改造でも絶対に変らないこと・矢部宏治)


「日米合同委員会」の研究:謎の権力構造の正体に迫る (「戦後再発見」双書5)
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アジア辺境論 これが日本の生きる道 (集英社新書)
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知ってはいけない 隠された日本支配の構造 (講談社現代新書)
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●“腹七分目” パッとしないが、足が地についた定常な成熟社会

2017年08月06日 | 日記


 

縮小ニッポンの衝撃 (講談社現代新書)
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作家的覚書 (岩波新書)
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●“腹七分目” パッとしないが、足が地についた定常な成熟社会

安倍内閣が大幅な改造を行ったが、人がらに疑問符のついた首相と官房長官が変わらないのだから、どのように評価していいのか戸惑ってしまう。まぁそれでも、気味の悪い高市総務相の顔を見なくて済むのは嬉しい限りだ。安倍友達大臣が取りあえず一掃された印象を持つ低リテラシーな国民も多いので、幾分内閣支持率が上がるのは致し方のないことだと言えるだろう。しかし、加計問題の落としどころを打開するのは困難なわけで、改造効果は3カ月は持たないと見るべきだ。

民進党の蓮舫代表と野田幹事長が唐突にセットで辞任する。またしても、“野田豚”の安倍政権アシスト政治行動だ。これによって、傾きかけた“安倍政権”に態勢を整える時間を与えてしまった。これで国会閉会中の安全保障委員会を開く目はなくなったかもしれない。早期の臨時国会開会の要求も、野党第一党が代表のいない状態では、強く要求する勢いにはない。つまりは、9月中旬まで、臨時国会を開かない口実を自民党に与えてしまった。安倍晋三にしてみれば、ひっくり返る寸前に、またしても“野田豚”に救われたことになる。

まぁ、政局は早々に引き上げて、日本全体の行く末を考えてみることにする。戦後の日本の敗戦後の復旧復興は、東西冷戦構造による僥倖の連鎖によるところが大きい。この点に異論を挟む人は少ない。無論、ざるに水を注ぐような恥知らずな国民ではないので、与えられた構造を大いに利用したのだろう。どのような仕組みで国家が復興を遂げ、繁栄しているのか、そんなことは知らないが、目の前に降りてくる仕事を忠実に処理した結果、身に余る繁栄を得た、と云うのが、日本の戦後の復興と繁栄だ。

しかし、わずかな国土と人口で、資源もない国が、世界第二位の経済大国になるというのは、いかにも奇異。どれほど国民が優秀で努力家であったとしても、儲けすぎである。精々、世界のベストテンに入っているだけでも、たいしたものなのだ。つまり、現状の地位でさえ出来過ぎなわけで、世界3位や4位辺りを維持しようとすればする程、国体が破壊されていくと云うのは、常識的に考えて正しい。気張らず、肩ひじを張らず、自然体で、ギスギスした生き方を変え、“経済や景気”を神のように崇める態度を改めた時、この国の未来は明るく見えてくるのだろう。

明治のアルカイダ乃至はISであった長州レジュームが曲がりなりにも成功したのは、彼らが頭から否定した徳川幕府の幕閣官僚制度があったからに他ならない。彼らの多くは、善良で誠実で優秀でもあった。李下に冠を正さずの儒教の精神は脈々と生きていたのだ。贈収賄な出来事もあっただろうが、それが他の国のように日常茶飯事と云うこともなかった。ゆえに、油さえ注げば動きだすシステムがあったのだ。それが吉田松陰が嫌っていた徳川幕府のシステムなのである。

殊更に、その検証をする気にはならないが、少子高齢化人口構成の国家で、成長が期待できるとすれば、天地がひっくり返るほどのイノベーションが必要である。しかし、現時点で考えうるイノベーションは、人馬の力から水蒸気、電気の力と云うような産業革命が起きる可能性は見えていない。つまり、縮小均衡社会は、必然的に到来しているわけである。広義において、先進国の多くが縮小均衡の道を辿るのは必然なのではないのだろうか。

縮小均衡社会、つまり定常経済乃至は下降経済における経済政策が、実は、真剣に研究されなければならない時代背景の社会を抱えた国家なのである。しかし、成長することで国家像や社会像を考えてきた社会にとって、この研究や確認は忌避されがちな分野に属している。「成長」イコール「善」と云うは、逆に言えば、「停滞」「縮小」イコール「悪」と云う印象で受けとめられるからである。

考えてみて欲しい、“失われた20年”と言われて久しいが、今や30年に近づいているのが現状だ。アベノミクスと云う将来に禍根を残す異常な金融財政政策を動員しても、成就したことは株価のアップと円安誘導により製造業が一部潤っただけである。一方、内需は冷え込んだままで、消費意欲がない分目減りしている。つまり、日本経済を根幹にある内需を冷やしているとも言える。株価が上昇したと言っても、日銀が上場企業の1/4の筆頭株主になるなど、異常な経済状態を作りだしている。

これはどう云うことかと考える時、日本経済の失われた20年は、実は失われていたわけではなく、高度経済とは言えない程度のものだったのだ。アベノミクス以前も、些少な経済成長はあったわけで、その成長は成熟国家の経済のあり方だったと云う評価の方が正しい。アベノミクスの後遺症を是正することは至難の業で、世界の誰も経験したことのない異様な痛みを伴う金融財政政策を余儀なくされる確率は相当に高い。

日本と云う国に神風でも吹かない限り、アベノミクスの金融財政政策による後遺症、副作用の是正は先送りの運命で、おそらく、2,30年後、日本経済は塗炭の苦しみを味わいながら、修正軌道に乗るのだろう。日本共産党が政権を取っても、このアベノミクスのツケ回しを逃れることは出来ない。まあ例外的に戦争経済が発生するとか僥倖がない限り、かなりの痛みを伴う是正政策が必須になるのだ。たぶん、誰もやりたくないので、どこまで先送りできるかと云う問題なのだろう。


*民主主義が本当に機能するための要素を、日本と云う国が備えているかどうか考える時、以下の内田氏の考えは、一考に値する。参考に以下に掲載しておく。序でに、アベノミクスに関しての毎日新聞の記事を同時掲載する。


 ≪ 内田樹「『もうすぐ到来する ぱっとしない時代』の予感」
 思想家・武道家の内田樹さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、哲学的視点からアプローチします。
*  *  *  
先日、朝日新聞から天皇制についてのインタビューを受けた。その中で昨夏の陛下の「おことば」を高く評価し、天皇制はすぐれた政治制度であると語った。
これについて「右」のメディアから好意的な反応があったのは怪しむに足りないが、「左」のメディアから批判的なコメントがほとんどなかったのは意外だった。同時期に私は兵庫県知事選で共産党が支持する候補者の推薦人になっていたので、誰かから「そういうことを言われては困る」と苦情を呈されるかと思っていたが、何も言われなかった。
 その少し前に「赤旗」が取材に来て、共産党の党勢はこれから伸びるでしょうかと訊かれた。「右」にウイングを広げればチャンスはあるとお答えした。かつては共産党の「左」に「極左」がいた。「極左」は共産党の市民政党化をことあるごとに批判し、「ブルジョア議会制への屈服」「俗情との結託」と罵った。共産党は「極左」からの批判など痛くもかゆくもないという顔をしていたが、やはりマルクス主義政党としては、誰からであれ「反革命」と罵られることは心痛む経験だったに違いない。
 その「極左」が消えた。「共産党より左」の政治勢力が事実上消滅したのである。もう何をしても「堕落」とか「裏切り」とか言われることがなくなった。この解放感と、それによってもたらされた政策選択上のフリーハンドは意外に大きなものだったと私は推察している。私のような武道と能楽を嗜み、神道の禊行を修するような公然たる天皇主義者に候補者の推薦を依頼してくるというようなことは、かつての共産党ではありえなかったことである。
 共産党がこの先党勢拡大を願うならヨーロッパの社会民主主義政党に近いものになるしかないだろう。経済成長が終わり、資源のフェアな分配と、社会的弱者を「とりこぼさない」政策を進めようとするなら、社会民主主義の古ぼけた旗の埃をはたき落として掲げ直し、「みんな同じくらい貧乏になる」社会をめざす以外に現実的な選択肢はないからである。ネトウヨたちの「左」に対するあの異常な憎悪は「もうすぐ到来するぱっとしない時代」の予感がもたらしているのである。
 ≫(AERA 2017年7月24日号)


≪ かすむアベノミクス 企業業績好調 なぜ賃金はそれほどでも…
 安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」がスタートしてから4年半が過ぎた。2%の物価上昇目標は達成できず、企業の業績は好調と言うが、給料は上がっているのか。そんな折、自民党内に「反アベノミクス」とも評される勉強会が設立された。もはや「道半ば」と悠長なことを言っている場合ではないのではないか。【葛西大博】
 まずは最近はあまり耳にしなくなったアベノミクスの「三本の矢」を復習しよう。第一の矢は日本銀行が進める「大胆な金融緩和」、第二の矢は「機動的な財政出動」、第三の矢は「民間投資を喚起する成長戦略」である。金融緩和の効果で円安・株高が進むことで、大企業中心に利益を押し上げる→企業の業績が改善→雇用の拡大や所得の上昇→個人消費が回復→企業業績がさらに上向く--。このような好循環シナリオが描かれた。
 このシナリオを順に点検しよう。2013年4月に始まったのは、日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁による「量的・質的金融緩和」。目標とした「物価上昇率2%」を達成するために、日銀が長期国債などを購入して市場に資金を供給する量を年60兆~70兆円に増やした。「異次元」とも呼ぶ大量の金を供給することで経済が活性化し、2年程度で物価上昇は達成できるとした。14年10月の追加緩和では、市場に資金を供給する量を年80兆円に引き上げた。
 しかし、いまだに目標は達成していない。今月20日の金融政策決定会合では、2%の物価上昇目標の達成時期を「19年度ごろ」に先延ばしにした。先送りは実に6回目になる。
 「異次元緩和」がたどってきた道について、元日銀理事で富士通総研エグゼクティブ・フェローの早川英男さんは「13年4月の金融緩和は、米軍に対する奇襲に成功した真珠湾攻撃、14年10月の追加緩和は日本軍が敗北したミッドウェー海戦のように思えてならない」と話す。
 「日銀の金融政策はショック療法であり、短期決戦型だった。短期で勝負がつくのならば問題はなかったが、今のように持久戦になったら勝ち目がありません」。「出口」が見えない金融緩和を続ける日銀は、まるで大局観に立った戦略を描けないまま戦争を続けた日本と重なって見えるというのだ。
 「現在の日本はゼロ成長で、物価上昇率2%は達成できません」と断言するのは、「資本主義の終焉(しゅうえん)と歴史の危機」などの著書がある水野和夫法政大教授(経済学)だ。「黒田総裁は物価上昇率2%を達成できない理由に原油価格の下落などを挙げています。原油価格が上がれば国民は困るのに、自分たちの目標達成を優先する。この発言から分かるように日銀は国民よりも安倍政権の方を向いている。これでは『安倍銀行』と言った方がいい」と批判する。
 第二の矢についてはどうか。早川さんは「公共事業で経済を持ち上げることはアベノミクス初期には成功したが、完全雇用の現状では、公共事業をやっても人手不足で事業が進まないので意味がありません」と指摘する。完全失業率が3%前後と低水準で、働く意思と能力のある人が原則として全て雇用されている「完全雇用」の状況では、公共工事を増やしても人手不足で工事が進まず、経済は活性化しないというのだ。第三の矢だが、安倍政権は毎年、成長戦略を盛り込んだ「日本再興戦略」を発表しているが、メニューだけ増えるばかりで、決め手に欠く。
 日銀が国債を大量に買い続けることの副作用も懸念されている。国債買い取りによって長期金利は低く抑えられているが、物価が上昇すれば金利も上がる。国と地方を合わせた借金が1000兆円を超える中、金利が1%上昇すれば利払い費も兆円単位で膨らんでしまう。低金利で利払い費が抑えられている現在でも一向に進まぬ財政健全化は、物価が上がると絶望的になる。
 早川さんは「政府にとっては日銀が物価上昇目標を達成できずに失敗し続ける方がいい。成功したら政府は困るんだよ」と、皮肉な見立てを披露する。
 政財界「蜜月」の限界
 安倍政権は、アベノミクスによって、日経平均株価は2万円前後を推移するまで回復、外国為替相場は1ドル=110円前後まで円安が進み、製造業を中心に過去最高の利益を上げる企業が増えていると、成果を強調する。さらに、17年度の最低賃金の目安となる額は、2年連続で3%以上の25円の引き上げが決まった。各都道府県の最低賃金はコンビニエンスストアのアルバイト時給と同額のことが多いが、国民の生活を左右する労働者全体の賃金の上昇は実現しているのだろうか。
 厚生労働省の毎月勤労統計調査(従業員5人以上の事業所)によると、16年度の実質賃金は6年ぶりに増加したが、伸び率はわずか0・4%増。人口減少による人手不足が起きているが、賃金の伸びにはつながっていない。
 なぜ社員の給料は上がらないのか。大和総研経済調査部エコノミストの小林俊介さんは「経営者からよく聞くのは『社員の給料を一度上げてしまうと(20代の社員が定年を迎える)40年先の投資につながる。40年後の企業環境を見通せない中で、賃上げには二の足を踏んでしまう』という回答です」と指摘する。先行きの不透明感が、経営者に賃上げをためらわせている。
 資本の力が労働者よりも強くなったことが、賃金の伸びない理由と解説するのは水野さんだ。「国民総所得に占める賃金・俸給の割合は1980年度は46・5%だったのが、15年度には40・5%に低下しました。本来は労働者に払われるべき賃金が企業の利益として内部留保などになり、ため込まれているからです」
 その背景の一つには、株主資本利益率(ROE)を高めようとする政府の方針がある。ROEは企業が株主の金(株主資本)をどれだけ効率よく使い、利益を高めたかを示す指標だ。14年に安倍政権が発表した「『日本再興戦略』改訂2014」では、高ROE経営を後押しする政策を前面に打ち出した。水野さんは「ROEを高めるには賃金を下げていくことが最も安易な方法だが、その一方で安倍政権は賃金を上げろと企業に要請しています。これでは明らかに矛盾しています。政府が要請しても、経営者は株主総会で再任されるために『モノ言う株主』の言うことを聞いてしまうのです」
 安倍政権は、これまでの春闘で大企業に賃上げを呼び掛け「官製春闘」を演出してきた。政権と財界との関係は“蜜月”とも言われる。それでも企業側が政権の思惑通りに動かず、賃上げは後回しにされているのだ。
自民・村上氏「ナニモナイミクス」
 生活者の視点に立つと成果が見えないアベノミクスについて、政権に厳しい目を向けている自民党の村上誠一郎元行政改革担当相はどう考えるのか。「金融緩和はこれ以上やっても効果がない。財政出動も限界。一番肝心な成長戦略もない。アベノミクスは賞味期限の切れた『ナニモナイミクス』なんだよ」と語り、大きなため息をついた。
 5月に自民党議員に呼び掛けて「財政・金融・社会保障制度に関する勉強会」を作った。「共謀罪」法案を巡る強引な国会審議などが影響し、内閣支持率が下がり始めた時期と重なっただけに、安倍政権に反旗を翻したのかとの見方が政界に流れた。「マスコミはすぐに政局的な話題にして『反アベノミクス』とはやし立てる。ほとんどの国会議員は財政、金融、社会保障にあまり関心がないから勉強会をやろうとしたんだ」。外野の見方を村上さんは意に介さない。「安倍政権は、財政、金融、社会保障を立て直すことを真っ先にやらなければならないのに、憲法改正や安全保障関連法、『共謀罪』法などを優先させている。財政、金融、経済政策などが後手に回っている」と強調する。
 勉強会はこれまで2回開催し、野田毅前党税調会長や額賀福志郎元財務相、丹羽雄哉元厚相、石破茂元幹事長らベテラン議員も参加した。各回の出席者は代理も含め約80人という。2回目の勉強会に講師として招かれた前出の早川さんは語る。「出席者にはアベノミクスに批判的な人もいるが、そうでもない人もいる。政局につながるかは別にして、政策を議論するのはいいこと。少し前の安倍自民党は中国共産党と同じで議論すらなかったから」
 これからアベノミクスをどうしたらいいのか。村上さんはこう考える。「金融緩和はもう限界なので、緩和縮小の『出口戦略』に一刻も早く取り組むべきではないか。また、これ以上、消費増税を延期したら財政はデフォルト(債務不履行)の危険性があるので、歳出カットをしながら財政を立て直していくべきだ。また、社会保障は次の世代にツケを回さないように、今の『高福祉・低負担』を、せめて『中福祉・中負担』にしなければならない」。そして言葉に力を込めた。「選挙があるから政治家は聞き心地のいいことしか言わないが、将来の世代にツケを押し付けていいのか」
 ツケ払いの代償を負わされるのは国民、特に若い世代の人たちだ。内閣支持率が下落し、安倍政権は岐路に立っているが、アベノミクスは継続していくのか。看板の経済政策も正念場だ。 ≫(毎日新聞)

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