●保守対リベラル 護憲(保守)改憲(リベラル)と云う逆転現象
安倍首相が野党の要求で嫌々応じた所信表明演説は手抜きが目立つ手短所信表明だった。憲法改正や北方領土など、厄介な所信は飛ばすか、触れる程度で低い熱意を示していた。無論、憲法改正の衣の下の鎧は、国民投票で過半数絶対の自信がない限り、首相自身が陣頭指揮を執っているようには見せないのが電通広報方式である。
それでも、なにか目新しいことが言いたかったのか、“改革”“革命”と云うニアンスが目立つ所信表明演説だった。すかさず、立憲民主党の枝野代表が突っ込みを入れていた。
≪ 枝野氏「自民は『革命政党』、正統保守は我々」
自民党は保守政党と名乗っていたと思うが、いつのまにか「革命政党」になったみたいだ。やたら「革命」「革命」と言って、革命政党なんだなとよく分かった。我々は寛容で多様な、リベラルな日本社会を守る。我々こそが正統な保守政党であることをしっかりアピールしたい。
何か政権を担うというエネルギーを失っているんじゃないかと心配になった。党や意見が違っても、総理大臣として仕事をして頂く以上は、エネルギッシュにやっていただかないと困るので、覇気のない状況はちょっと心配している。
問いただすべきことが多岐にわたっているので、どうメリハリをつけるかは戦術的に詰めていきたい。野党間では党が違う以上は立場の違う所が多々あるが、同時に共通する所もある。各党ごとに共通する所は連携していこうと思う。(安倍晋三首相の所信表明演説後、国会内で記者団に) ≫(朝日新聞)
現在の自民党のバックボーンである経団連や霞が関の面々の多くは、市場原理主義に則って、今後の日本の針路を決めたいのだから、当然、戦後の日本社会を構築した枠組みは邪魔なのである。また、宗主国であるアメリカも、と乱歩大統領の出現で混乱はしているが、市場原理主義の教祖でもある。此処20年は世界は市場原理主義で突っ走ってきた、と云うのが現実だ。しかし、ここ数年の世界的動きを観察する限り、グローバリズムな市場原理主義が、99%の人々を幸福にするものではない事実が、数多く証明されてきて、局地的で、濃淡はあるが、鮮明に、人々をマネーの奴隷にさせるグローバリズムと市場原理主義という観点の動きも多数みられるようになってきた。
乱暴な分け方をすると、グローバルマネーの奴隷国家か、社会民主的な共生国家か、経済的縮小もいとわない自主孤立国家か、そんな感じのイデオロギーがあるように思える。無論これらの概念が混合的なものになるだろうが、軸足は、どちらかに置かれるものと考える。安倍首相の場合、どうも戦後レジュームのなかで入手した日本の経済力は是としつつ、それを可能にした農村社会を崩壊させて都市住民を肥大化させた現在の日本社会の構造問題には大ナタを振るおうとしているように見える。無論彼らの犠牲の下で得た経済力は温存のままにと云う“良いとこ取り”の考えだ。
経済と云う果実は貪り、その木々が生えている大地の国民連中には犠牲を強いる政策は、まさに“革命”である。いや、筆者から見れば“国民へのクーデター”として目に映る。米国においては、政府が社会や市場に対して積極的に介入して大きな政府を志向するのがリベラルであり、対して、市場での自由競争を重視し、減税や小さな政府を志向するのが保守なわけだが、日本においてはこの概念に加えて、改憲派、護憲派、右派、左派などイデオロギー的な要素も加わり、定義自体が無茶苦茶になっている。
その意味で、色分けは難しいのだが、最近の安倍自民党の動きを見ていると、リベラル政党化に向かっているように思える。都市部やネット空間で生き残りをかけているようなので、気がつけば、リベラル政党になる日も近いのは確かだ。それに対して、日本憲法の精神に則り、今まで通りに民主主義を動かそうと云うのが立憲民主党なのだから、同党を、社会民主主義を堅持する保守政党と位置づけることも可能になるだろう。右派左派とは劇的に距離のある、このようなリベラルと保守の色分けも可能だ。
以下の毎日新聞の記事も示唆的だ。それぞれの事例が適時適切かどうかべつにして、一つのケースとして参考になる。記事のように、多くの側面で有利な立場にある自民党と対峙していくには、どのような戦略が必要なのか、大いに悩む部分だと言えるのだろう。筆者自身、色々な角度から、その戦略を考えてみるのだが、良案が浮かばない。既得のエスタブリッシュメントが、グローバルな市場原理主義的傾向で動いており、いわば無自覚のマネーの奴隷状態なのだから、この流れに楔を打つことは容易ではない。
自然災害による天変地異や戦争など、日本社会を取り巻く環境が劇的に変る事態が起きた時が楔の一種なのは判るが、それでは犠牲が大きすぎる。社会民主主義的共生社会は、必ずしも独り勝ちを生まなかったわけで、日本のような少子高齢化が過激な国では、そこ(戦後50年体制)のシステムに一旦戻るべきなのだろうが、現在進行形のグローバルな市場原理主義的傾向、いわば無自覚のマネーの奴隷状態の流れの中で、これに歯止めをかけるのは容易なことではない。
おそらく、現在進行形のグローバルな市場原理主義的傾向、いわば無自覚のマネーの奴隷状態の流れに楔が打てる期間は、60歳以上が生存している今後15年間くらいが限界に思われる。楔の処方箋を提示できないことは心苦しいが、立憲民主党を中心にした社会民主主義な共生社会(国家)と云う理念を堅持して、次世代の国民層を動員できる戦略を練って貰いたい。一つのヒントは、現在の18~20代が自民系なら、15~17代を立憲民主のファンにする戦略を練るのも一考かと思う。
≪ 自民勝たせた若者の意識 「青春=反権力」幻想に
若者は「保守化」しているのだろうか。そんな疑問が湧く。先月の衆院選では、10代、20代の自民党支持が他の世代に比べて突出して高かったからだ。「自民支持」の背景を探った。【庄司哲也】
若者の投票行動は数字に表れている。まず、共同通信が投票日に行った出口調査を見てみよう。比例代表東京ブロックの投票先では、10代の47・2%、20代の42・1%が「自民」と回答。一方、30代~70歳以上の世代では20%台後半から30%台だった。60代では「自民」が28・3%だったのに対し、「立憲民主」は28・4%とわずかだが逆転した。若者が自民を支持する傾向は他の比例ブロックでも見られた。
なぜ、自民支持の若者が多いのだろう。「選挙で野党は『森友・加計(かけ)学園問題』を訴えたが、政策の議論とは言えない。三権分立なのに、立法府に属する議員の候補者たちが司法の独立を侵食しているようにも見え、支持できませんでした」。慶応大1年の野上奨之輔さん(19)はそう話す。投票しなかったが、どちらかといえば「自民支持」という。
若者特有の事情ものぞく。早稲田大2年の桑原唯さん(20)は「最大の関心事は就職です。一時に比べれば就職状況は改善しており、政権交代でこの状況が変わるようなことは避けたい」と、胸の内を明かした。
自民大勝は、有権者が離合集散を繰り広げた野党に嫌気が差し、よりましな選択肢として自民に投票したと説明できそうだ。さらに、若者に関する気になる調査結果を見つけた。
大阪大特任教授の友枝敏雄さん(社会学)の研究チームが、2001年から6年ごとに3回にわたり、福岡などの高校生延べ1万人超を対象に行った意識調査だ。グラフを見てほしい。例えば「校則を守るのは当然か」という質問に「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた生徒の合計が、68・3%(01年)▽75・4%(07年)▽87・9%(13年)と大幅に増加。さらに「日本の文化・伝統はほかの国よりも優れている」への賛意は、29・6%(01年)▽38・7%(07年)▽55・7%(13年)と年々伸び続けているのだ。
友枝さんは「リスクの多い社会では、従来の規律から逸脱するよりも同調した方がいい。そのため今の若者は縦社会を好む傾向にあり、秩序の維持を大切にするのです」と分析する。「空気を読んで従順」という姿が浮かぶ。
また、友枝さんは、今の若者には、従来の「公共空間」に加え、ネット世界の「炎上空間」という二つの空間があることに気がついた。「若者は自己保身の意識が強い。公共空間で目立ってしまうと、そこでは面と向かって言われなくても、炎上空間でたたかれてしまう。だから論争を起こすことを避けるのです」
集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法を巡って反対運動を続けた学生団体「SEALDs」(シールズ、昨年8月解散)の元メンバーらで設立した新団体「未来のための公共」に加わる大学3年生、馬場ゆきのさん(20)も「自分の主張を話すのはよくないという風潮があると感じます。私もこうした活動をしなければ、デモに対して悪いイメージを抱いていたかもしれません」と、目立ちたくない若者の特徴を説明する。
昔からの習慣や制度を守ることを大切にし、不満を口にせず、現体制の維持を望む。政治的な変革も好まずに与党の自民党に票を入れる--。今の若者の意識を知ると「青春=反権力」はもはや幻想なのかもしれない。
■国への執心、空虚感の裏返しか
自民支持が増えたのは若者の右傾化が要因という論調もある。一時期、右翼団体で活動していた作家・社会活動家の雨宮処凛さんに意見を求めると、加入動機から語り始めた。「右翼団体に入るまでは社会の息苦しさを自分一人で抱え込んでいました。でも、右翼団体の人が『お前のせいじゃない』と言ってくれたことで、気持ちが楽になりました」
雨宮さんは「就職氷河期」の1993~05年ごろに社会人となったロストジェネレーション(失われた世代)だ。バブル崩壊後、希望していた美大への進学を諦め、フリーターになった。その職場では外国人労働者と競わされた。「ここが日本の底辺と思っていました。『日本人に比べ外国人は時給が安いのによく働く』と言われた。私と外国人との違いは、日本人であるということ以外になかったのです」と、右寄りの思想になった背景を説明した。
現在の日本はどうか。雇用状況の改善は、非正規雇用の増加が主な要因だし、人口減の日本社会は経済成長のシナリオを描けない。若者はフラストレーションをためているのではないか。「自分には何もないと感じるから国に過剰な思い入れを持つ。閉塞(へいそく)感をぶつけるように改憲を訴える若者の姿はかつての私のようです」と雨宮さんは感じている。
06年から10年間、新入生のゼミを担当した首都大学東京教授の谷口功一さん(法哲学)は、憲法9条に関するリポートを書かせてきた。これまでの学生の意識は6対4で改憲派が護憲派を上回っていた。中には「北朝鮮にミサイルを撃ち込め」と書いた女子学生もいた。だからといって谷口さんは、単純に「若者の保守化が原因」と決め付けることには懐疑的だ。最近、学生に「リベラルな政党はどの政党か」という質問をしたところ、立憲民主、共産、自民、希望の党と、全くばらばらの回答だったからだ。
そもそも日本ではリベラルや保守の定義が明確ではない。「米国では経済政策の対立軸について、政府が社会や市場に対して積極的に介入し、増税や大きな政府を志向するのがリベラル。これに対し、市場での自由競争を重視し、減税や小さな政府を志向するのが保守です。でも、日本では護憲か改憲かなどといったイデオロギー的な側面が強調されています」
さらにいわゆる「55年体制」からの考えにとらわれ過ぎだと指摘する。「今の学生たちはそんな考え方に縛られていません。保守=右派、リベラル=左派と位置付けてはいないのです」と話す。
慶応大に在学しながら学習塾を経営する今井美槻さん(25)は「かつて『革新勢力』と呼ばれた野党は対案を示そうとしません。日の丸や君が代に反対するが、代わりの国旗や国歌を示したことがあるでしょうか。それでは議論のしようがない。新たな動き、変化の足を引っ張る政党こそ、もはや『保守』と見るべきでしょう」と話した。
安全保障を見直し、消費増税、改憲といった改革を訴える自民こそ、若者には「革新」に見え、護憲を訴える共産党などは「保守」に映るのかもしれない。
このまま若者が自民を支持していく傾向は変わらないままのようにみえるが、慶応大1年の大倉康寛さん(20)は「私たちの世代は物心ついた時に民主党政権ができ、投票で政権が代わることを知っている世代でもあるんです」と答えた。決して若者の自民支持は盤石ではないのだろう。
高齢者中心の「シルバーポリティクス」が言われる。新たな若者の意識を上の世代はくみとれるだろうか。 ≫(毎日新聞)