蒼穹のぺうげおっと

-PEUGEOT in the AZURE- マンガ・小説・アニメの感想を書き流すファフナーとエウレカ好きのサイトです

小説版 『蒼穹のファフナー』 感想

2005-01-19 12:52:00 | 蒼穹のファフナー
小説版、いや冲方版『蒼穹のファフナー』読みましたよ。
これちょっと良過ぎです。TV版見ていた人で小説版を読んだ人はこの良さを実感しているんじゃないですか?
今年も冲方先生にはやられそうです。

■これで『蒼穹のファフナー』のピースは全て揃った
ずっと失われたような感じがしていた蒼穹のファフナーの前半パート、そこにすっとこの小説がはまって蒼穹のファフナーという作品が完成した・・・、それがこの小説の第一印象でした。
冲方先生の好きに書いていいよ、と言われて書き上げたこの作品、そういうことかと唸りました。
自分が執筆できなかった前半パートだけにフォーカスを当て、登場人物とその背景を克明に描写することで脚本家:冲方丁による『蒼穹のファフナー』を完成させたかったんだ・・・。
読者としては全ての脚本を冲方先生が書いた物語か、小説で最後まで書いてくれる物語を期待せずにはいられませんが、たぶんそれはやらないんじゃないかな・・・。
もうこれだけで『蒼穹のファフナー』という物語が完成した、そんな気がするから。

■登場人物たちが抱えるバックグラウンドの描きこみ
TV版では第13話以降、次々とそこまで描かれていた伏線が展開し始めるわけですが、小説版ではその伏線部分や、分岐点を迎えるまでの登場人物たちが抱える心情を克明に描きこんでいます。
特に平和な時間を過ごしていたときの心情から徐々に戦闘によって変貌して行く様子、またそこまでに周到に準備されていた刷り込みなど、TV版で違和感を感じていた部分を見事に描ききっています。
特に戦いの中で一騎と甲洋が変貌していく様子はテーマである「対話」と全く逆行し、冲方先生が得意とする落ちるところまで落とす手法で心情をえぐっています。

■対比構造によるテーマの顕在化
冲方先生はこういう対比構造を構築する手法が秀逸で、これによってテーマを明確に浮かび上がらせるんですね。
一騎たちが戦闘の中で少しずつ心を失っていき、破壊衝動に身を任せることで何が本当は大切なのか、失ってはいけないものは何かという問いかけをしてくるわけです。

一騎たちが心を失って行く様子はまるでフェストゥムと同列化してしまうようですし、そこに「対話」は無くただ「無」に返すだけ。
またこの時点で描かれる「受け入れる」とは理解することではなく、「理解」を捨て「自分を無くす」こと、「そこから居なくなる」こと。
そこには「対話」も「理解」も「受け入れる」ことも無いんです。

こうした対比構造を描き、その中で一騎が島を出る決心をするところまでを描いて終わるというのは本当に作家として潔くてしびれますね。
この対比構造の先にあるものは一騎が島を出た後、総士との本当の会話を経て感動的に描かれていくのですから。

■サヴァン症候群=ある一点における天才と真矢のポジション
ここで「サヴァン症候群」の呼び名を聞くとは思ってなかったのですが、こういう設定があると一騎や甲洋の特性も納得できるし、なにより真矢の能力なんかは後半、特にラストに差し掛かるにあたってなるほどと唸るものがあります。

そういう意味で真矢のポジションはやはり非常に重要で、最終回の感想で真矢がパイロット達の腕に書いた座標こそが真矢自身であり、真矢がいるから帰ってこれるということを書いていたのですが、その思いに間違いはありませんでした。
モノを見るという能力に特化した才能を持つ真矢、皆のことを覚えている存在となる真矢、こういうラストにつながる描写を丁寧にしてくれているところが嬉しくもあり、感動指数も倍化してしまいます。

「サヴァン症候群」は西尾維新の戯言シリーズを読んだことがある人には馴染み深いワードですね。
玖渚友がまさに「サヴァン症候群」ですからね。

■一騎と総士の関係性と「対話」
蒼穹のファフナーを語るうえで絶対に外せないのが一騎と総士の関係性の変化ですよね。
蒼穹のファフナーにおいて、初めて一騎と総士が本当に「対話」をしてお互いの気持ちを確認しあったのは第15話まで進まなければならなかったんですね。

それまでの一騎は総士に(負わせたと思っていた)目の怪我とそこから逃げ出したことにずっと負い目を感じていて、戦争という契機で再び親友とまみえることになるわけですが、実はこの二人はすれ違ったままで、一騎も総士も戦うことで、そしてジークフリードシステムを通じて一体化していると思い込むことで大事なことから逃避しているんですね。
「対話」をしてしまったらせっかく戻ってきた(と思っている)関係性=絆を失うのではないか、負い目に負けて再び相手を失ってしまうのではないかという思いから踏み込めないでいるんですよ。

そんな一騎が総士を理解したいという想いで島を出ようとする、その決心が第15話で徹底的に自己の内面に踏み込み、そして総士と「対話」することによって互いの関係性を再構築するというプロセスに繋がるわけで、ここにやはり大きなポイントがあったんだと感慨深く思うのです。

■全てを小説で書かなかったからこそ完成する蒼穹のファフナーの世界
小説版『蒼穹のファフナー』は第11話までの一騎が島を出る決心をするところまでを描きます。
TV版を見た人は是非読んでください。するときっともう一度『蒼穹のファフナー』を第1話から見直したくなりますから。
TV版を見たことない人はまず小説を読んでみてください。『蒼穹のファフナー』を全話見たくなるりますから。
#小説版だけでは完結しませんから、小説だけで止めちゃうともったいない。
小説とTVはセットでこの世界観を完成させていて、この小説版を読むことでただでさえ感動指数の高い第13話以降のストーリーに大きく影響を与えることは間違いありません。
ああ、今年も冲方丁先生の文章から離れられそうにありません。

■ご参考までに
・各テーマの総括を兼ねた最終話「蒼穹」の感想(書き終わった後燃え尽き症候群になるかと思いました)
・冲方丁先生の代表作『マルドゥック・スクランブル』感想(日本SF対象受賞作、冲方丁の文章が読みたかったらまずこれを)
蒼穹のファフナー公式HP

またこういう作品に出会えるといいなぁ・・・。


電撃文庫
冲方丁 蒼穹のファフナー


蒼穹のファフナー Arcadian project 01(DVD)
「あなたはそこにいますか」全てはここから始まった