5522の眼

ゆうぜんの電子日記、2021年版です。

雉か山鳥か

2020-05-20 21:38:27 |  文化・芸術

「ほろほろと鳴く山鳥の声聞けば父かとぞ思ふ母かとぞ思ふ」

奈良時代の僧侶、行基の和歌に成田為三が曲をつけた『ほろほろと』という学校唱歌を思い出した。伴奏ピアノの旋律を今でも記憶しているのはどうしてだったのか。「ほろほろ」と表現された山鳥の鳴き声はいったいどんな音だったのか。

「ヤマドリは、キジ科ヤマドリ属に分類される鳥類だ」とウイキにある。雉とちかい種類の鳥だから交配もするらしい。山鳥はめったに鳴かないというから、「ほろほろ」は雉の鳴き声だったのだろうか。

そんなことを考えたのは、中日新聞(5月16日)の愛鳥週間に関連した記事〈消えた鳥は今どこに 名古屋城本丸御殿の襖絵「雪中梅竹鳥図」〉を読んだからだ。

本丸御殿を飾る襖絵「雪中梅竹鳥図」は、江戸初期の絵師・狩野探幽(一六〇二~七四年)の代表作の一つで国の重要文化財だ。御殿は空襲で焼失したが「雪の梅に雉子」が描かれた襖絵は難を逃れた。幸いだったといいたいところだが、何故か鳥の描かれた部分は尾羽根と翼の先端を残して剥取られ、今も行方知れずのまま。いったい、誰が、何時、何故かは不明だ。御殿復元にあわせて襖絵も復元模写され2018年からは一般に公開されている。

日本鳥類学の第一人者、東大名誉教授の樋口広芳さんは「雄の雉を斜めから描いたというこの復元画はおかしい」と物言いをつけた。

雉なら尾羽根の裏側は黒く、原画にある横縞模様はない。尾羽根の裏側に横縞がある鳥といえば同じキジ類のヤマドリが考えられる。江戸時代にはヤマドリを雉子と呼ぶこともあったのだから、ならば、原画の「雉子」をヤマドリと見てよいかといえば、そこにも問題がある。原画に描かれた尾羽根ではキジともヤマドリとも断定できないという。

それに、復元画の胴体と尾羽根の付き方などを見ても「何とも妙な描き方をした鳥の絵でこれをこのまま『探幽の絵』として展示するのはよくない」という主張だ。

一方、管理側の名古屋城の総合事務所は「復元画の通り雉の絵で間違いない」という役人的立場。「狩野派の作品の中には、胴体と尾が離れた絵もある。必ずしも生物学的な正確さを重視して復元をしているわけではない」とつれない。

「今回の問題提起を機に、どこかで原画が見つかってほしい」という樋口教授だが、さて、雪のふる梅木の上で「ほろほろ」と歌っていたのは雉なのだろうか、それとも山鳥なのだろうか。

 


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