5522の眼

ゆうぜんの電子日記、2021年版です。

ロゴスキーの閉店

2016-03-15 21:59:40 |  文化・芸術
若いころ好きだった洋食に「ビーフストロガノフ」というロシア料理がある。

ホテルのグリルメニューで初めて知って嵌った。牛肉とマッシュルームのバター炒めを煮込み、たっぷりのサワークリームで仕上げたシチウだ。それをサフランライスにかけて食べる。サワークリームの酸味でくどさが消えて旨いのである。

今でもレストランのメニューにはあるのだろうが、評判を余り聞かなくなった。やはり時代の流れと流行なのか。

ロシア料理が流行したことが戦後の高度成長期前に一度あった。満州のホテルで西洋料理を習ったコックやウエイターたちがオリンピック前の日本のホテルで活躍したのも、ビーフストロガノフがホテルの高級一品料理として定着した理由なのだろう。

街の歌声喫茶ではダークダックスのロシア民謡を皆が斉唱し、ピロシキやボルシチを食べ、ウオッカやジャム紅茶を飲んだ。引き揚げ者たちの味覚ノスタルジーもあってのことだったのかもしれない。

名古屋駅前で半世紀以上にわたってロシア料理を出して来た老舗の「ロゴスキー」が今月末で閉店するという大きな囲み記事が中日夕刊の社会面に載った。

1951年開業の東京渋谷のロゴスキーの兄弟店として1963年にのれん分けで栄錦三に名古屋ロゴスキーを始めて以来だという。自分は駅前ではなく錦3の店で生まれて初めてのロシア料理を食したのである。

ドライカレーの揚げパンをココイチが売っているが、ロゴスキーのピロシキを始めて食べたときは、ちょうど最初のカレーパン経験と似ていなくもない。期待したほどの濃さはなく、結構あっさり味だったのだ。ボルシチのスープも同じだが、これがロゴスキーの(嫌味のない)味なのだという。

閉店理由は名駅正面の好立地にあるテナントビルの建替え。65歳の二代目オーナーもレストランと一緒に定年を迎えるという訳である。

平成も30年近くになった今、飽食に狎れた日本人たちは、どこか野暮ったいロシア料理に見向きもしなくなった。様変わりした名古屋駅前にはそぐわないということだろう。

しかし残念だというのは限られた常連客だけ。ロシア料理を知らず「ロゴスキー」に行ったことのない者たちには所詮他所事だ。味覚とは個人個人の持つ記憶なのだ。

満州組も東京五輪組もすでに亡く、歌声喫茶組もリタイアした今となっては、「惜しまれつつ舞台を降りる」のがよいのである。


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