5522の眼

ゆうぜんの電子日記、2021年版です。

鵜飼のあはれ

2020-05-19 21:36:23 |  文化・芸術

<新型コロナウイルスが1300年以上続くとされる岐阜の夏の風物詩、長良川鵜飼を揺さぶっている>

というのは昨日の朝日新聞の中見出しだ。鵜舟を使った鮎漁は、緊急事態宣言が終了し休業要請も解かれた為、予定より11日遅れて今週の金曜日から始まるが、観覧船の運航は当面延期のままだ。岐阜は今年の大河ドラマ<麒麟がくる>の舞台。多くの観光客を期待した関係者の落胆は大きい。開幕へ向け、感染防止策を練るなど頭を悩ます日々だとある。

「水くぐる鵜のいさましさあはれなり」

あきらかに鵜飼での所見だが、句を詠んだ森鴎外はいったいどこの鵜飼を見物したのだろうか。やはり長良川だったのかもしれない。関森勝夫の「文人たちの句境」に掲載されている。

「上川七艘、下川七艘」という長良川の鵜飼は、長良渡しから十瀬渡しまでを上川、それより下流三里を下川と呼び、十四艘の鵜舟が川を下りながら漁を行う。各舟には鵜を使う鵜匠が1人、舳当が1人、鵜は12羽が乘る。昔は満月の夜は篝火の効果がなかったために、漁を行わなかったという。

ほうほうという鵜匠の掛け声や舳当が叩く舷側の音に昂った鵜たちが水中を縦横に潜る。素早い動きと精悍な顔は勇者の様相だ。しかし、雄々しく勇ましいだけに、使役されていることも知らぬ性を「あはれ」と感じられもするのだ。

「おもしろうてやがてかなしき鵜舟かな」

鴎外のいう「あはれ」は、この芭蕉の「かなしき」と同じ観想であろうと関森は書いている。

鵜飼とは水中で繰り広げられる殺しあい。それも自らが生きるための採餌ではなく、人間のために行う営為だ。逃げ惑う鮎を追いつめていく鵜の本能を「あはれ」と表現したのは、鴎外が戦争を実際に経験した軍人だったということと関係があるのかもしれない。

 

 


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