5522の眼

ゆうぜんの電子日記、2021年版です。

プールで泳ぐ男

2008-06-21 21:46:37 |  文化・芸術
写真家・森山大道の「プールで泳ぐ男」という作品が気に入っていると、女流詩人の井坂洋子が、新聞のコラムだったかに書いている。詩人のセンシュアルな感覚でその写真に何を見つけたのかが気になった。 

ならば見てみようと、「ハワイ」という写真集(月曜社・2007年出版)を、ほうぼうの書店で探していたのだが、今日やっとイオンのテナント書店で発見して、ラッキーな立ち読み(写真だからたち眺め)をさせてもらう。なにせ、A4変型で400ページ、300点近くを収めたものだから、年金生活者には、お値段がお高いのである。

「ダイナーでランチを食べる男」の白黒写真に「ハワイ・森山大道」とタイトルがあるシンプルな表紙の帯には、こんなことが書かれている。

  *日本との時差19時間
  *東京からホノルルまで6200Km
  *在留邦人数2万人(永住者1万人)
  *日本からの最初の移民148人(1868年)
  *在ハワイ日系人21万人(総人口127万人)
  *ヒロの人口4万人
  *ホノルルの人口90万人

表紙裏の写真家のコメントでは、「ヒロは雨ばかり。その寂しい市街地の大通りや並ぶ家々の廃れかけた居住まいや雑然とした食品マーケットや自分と同い年の古いアーチ橋までのすべてに、奇妙ななつかしさ、ここにいたことのあるような《デジャヴュ》を感じた。自分でも知らない深い記憶の糸でつながれた、まだ見ぬハワイを映像化した」と言い、クレジットによると、04年7月~07年1月まで5回で、ハワイ、オアフ、マウイ、アウアイの諸島を撮影したとある。

開いたページには、白黒の荒れた映像ばかりが並んで、コマーシャル化されて見慣れたワイキキの総天然色とはずいぶん違ったハワイ風景が現れる。

「プールで泳ぐ男」はちょうど中央あたりの見開きで見られるが、北島康介のイルカ姿を想像していたのでえらく裏切られた。ややメタボ気味の髪の長い男が潜水で体を伸ばしたシーンである。北島の潜水泳法とはまるで違う。詩人が何に惹かれたのかはかえって不明。

見開きはほかにもたくさんあって、「壊れた鉄道客車」や「草叢のフォルクスワーゲン」、「ワイキキ遠景」、「マウナケア火口」、「路の孔雀」、「イーチンの庭」など、「泳ぐ男」よりもインパクトの強い映像ばかりである。

「ハイウエイの横の墓地」や「デッキにしゃがむ年寄り」、「ハワイの平等院」などは、日系のシンボルとして撮られたものだろうし、「マリリン・モンロー」、「デジャヴュのポスター」、「古いウインドウの店」などは、アメリカ文化のシンボルとしての被写体なのだ。南の島らしく、繁茂する植物を写したものもたくさんあるが、皆なんとなく「エロチック」な雰囲気がする。

ハイコントラストや粗い画面が森山のトレードマークらしいから、トライXのフィルムでソラリゼーション効果なども狙ってあるのだろう。WBで調べてみると、彼はリコーのGRという小型の35mmカメラをご愛用なのだそうだ。写真集の中には、日付が写りこんでいるものもあるから、ひょっとするとなつかしのバカチョンカメラも使ったのかも知れない。

こうしてみると、ヒロには、こちらが30年近く前に訪れたホノルルの雰囲気が未だに残っているらしい。写真家とは違った「デジャヴュ」を感じられ写真集だった。粗い画面に優しさも感じられるのは、撮影者の年齢にこちらが近いこともきっとあるのだ。

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