5522の眼

ゆうぜんの電子日記、2021年版です。

左うちわは使わせる

2013-08-16 22:30:50 | ことば
街中の通行客に配られるものにはいろいろあるが、ウチワもそのひとつだ。最近では駅前で「薬物乱用はダメ。ゼッタイ!」と印刷されたPRウチワを貰った。厚生労働省、警察庁、都道府県、麻薬・覚醒剤乱用防止センターの合同キャンペーンのようだ。

近頃のPRうちわは、昔のように木の骨でつくったものではなく、骨はプラスチック、紙も撥水処理をした紙をつかってある。このまま使っていれば壊れることなどほとんどなさそうだ。ウチワを貰っても暑い空気をかき混ぜるだけだし、プラ製では簡単に捨てるわけにもいかないと思って、いつもは受け取るのを遠慮するのだが、これはなんとなくその場のハズミで受け取ってしまった。

このブログを書こうと、探し出してよく見ると「このウチワは、紙も骨もすべて土や水の中で分解され、燃やしても有毒ガズが出ない地球にやさしい《エコ》ウチワです」とある。可燃物ゴミ箱に捨ててもよかったわけだ。

さて金田一先生の「ことばの歳時記」に「左うちわ」という項がある。夏のPR品と化したウチワとしてしか馴染みのない若い人達には「左うちわ」という言い方はなんとも古い表現ということになるのかもしれない。

金田一先生の辞書には「左手でうちわをつかうこと。安楽な生活をすること。」とあったらしい。実際にうちわを左手で使っても、ギッチョでもないかぎりは、あまり涼風がくることは期待できないのだから、どおうやら、これは左手でうちわを使うということではなさそうだとまず結論。

夏の夕暮れ、庭に面して開いた部屋の床の間を背にして座り、右手にもった杯に、左手から美女に酌をさせる。左手には二人目の美女がうちわを持ってこちらに涼風を送り続ける。これこそが「左うちわ」、つまり「左からうちわで扇がせること」の意ではないかという説があるというのである。

「ラストエンペラー」など、皇帝の宮殿生活を映画で見ると、玉座に座った皇帝の左後ろ側から長い柄の扇で風をおくる従者の様子を映した場面もたしかにある。利き手が右の従者が玉座の右後ろから扇を煽いだなら皇帝の頭を叩く無礼なことにもなりかねない。ここは皇帝の左側から右へ風を送るのが理にかなったプロトコルというわけだろう。こんなところが金田一先生説のもともとの出所ではないのだろうか。

「左うちわ」は使うのではなく使わせるのである。









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