アナーキー小池の反体制日記

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#2233 小説 『武四郎遭難一件』

2017年02月26日 | 教育・文化・芸術・スポーツ
#2167~2169で紹介した作家不破俊輔の小説です。
不破氏からいただいた”北の文学2016”にその小説が載っていました。

タイトルの武四郎は、もちろん松浦武四郎です。
来年は蝦夷地(えぞち)が”北海道”と命名されてから150年目の節目を迎えます。
150年前、北海道と命名したのが松浦武四郎です。
北海道の各地に武四郎の足跡がありそれなりに知られた存在でしたが、北海道が8月15日を”北海道の日”と定めるなど近年宣伝?に努めていることから脚光を浴びているのです。

小説を読んでの感想です。
なんとこの小説、主人公は武四郎ではないのです。
そして小説の舞台も北海道ではなく、江戸(東京)なのです。
明治十年代ですから、武四郎は隠居してのどかな生活です。

主人公は昌義、字彫り版木屋木村嘉平四代目で実存の人物のようです。
字彫り版木屋とは、江戸時代にかわら版などを摺るための版木を作る職人商売ですが、明治維新とともに入ってきた活版印刷に職を奪われ、好事家用に古書の模倣などを行っていたのです。

好事家でもあった武四郎との交流があって事件に巻き込まれるんだけど、明治10年代の様子がこと細やかに記されています。
民衆の生活ぶり、マチの風情、職人の仕事ぶりなどが丹念に描写されています。
また、維新から十数年後のことなので、倒幕派・佐幕派の確執、新政権内の権力闘争もあり、暗殺事件も多発していた時代だったことを教えてくれます。

そんな状況を丁寧に記しながら、中盤から一気にテンポアップします。
ミステリアスな展開は、ミステリーではないか?と疑うほどです。
氏はミステリーだと言われるのを嫌うのかもしれませんが、近年の純文学はミステリーやSFなどの手法を取り入れているのが多いのです。
小説は面白くなくてはならない!と信じているボクは、この作品の意外な展開に驚き一気に読み終えたのです。

・・・
その冊子の巻末に書評(選評)が載っています。
それなりに知られた作家4人が意見を述べています。
この作品について全体的には好意的に評してはいるけど、選者の一人は”躍動感に乏しい”と述べているのです。
ボクはその選者は、この作品を最後まで読んでいないのではないか?と思うのです。
前半部は確かに静かな展開ですが、後半は躍動感に溢れています。

また別の選者は、松浦武四郎なのに蝦夷地が出てこないのは期待がそがれる!との指摘をしています。
蝦夷地のことも後半には結構記されていて、武四郎が松前藩から刺客を送られていた、なんて事もボクは初めて知ったほどです。
そもそも不破氏にすれば、あえて蝦夷地探検のことを極力抑えたのだと思います。
北海道の宣伝?が功を奏し、今になってわいのわいのと蝦夷地探訪を論じるものが現れているのを、皮肉っているのかもしれません。
蝦夷地探訪を主眼に据えなかったのは、不破氏の矜持でしょう。

この作品、受賞をめぐって意見が分かれたのだそうです。
苦言を呈した選者がこの作品を最後まで読んでくれていたら、佳作でなく受賞したのに、と思い残念なのです。
佳作も立派な評価ですが。

不破氏はボクと同じく、まだ前期高齢者です。
まだまだ先があります。
芥川賞目指して頑張ってください。


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