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おとらのブログ

観たもの、見たもの、読んだもの、食べたものについて、ウダウダ、ツラツラ、ヘラヘラ書き綴っています。

女の一生 杉村春子の生涯

2013-09-25 23:43:59 | 読んだもの
 新藤兼人さんの「女の一生 杉村春子の生涯」を読みました。

 内容紹介です。
杉村春子は夫や愛人の死に際にも舞台に立って演じ続けた。1906年、広島生まれ、21歳のとき新劇を志す。生涯抜けなかった広島弁、演技への凄まじい執念、貪欲に奪い取る愛、劇団経営の嵐、すべてを乗り越えて、代表作「女の一生」947回、「欲望という名の電車」594回公演。1997年死去。病名は頭部膵臓癌。

 杉村春子先生の本、5冊目です。実はさらにもう1冊買ってありまして、ここまでくると“意地”になっているような、そんな気がします。ただ、この本は、これまでの聞き書き、自叙伝と違って、映画監督の新藤兼人さんが書いていらっしゃるので、他の本とは少し趣が異なりました。

 新藤兼人さんは杉村春子先生の劇団葬で弔辞をお読みになっています。以下その全文です。
杉村春子さん
午後の遺言状の 蓼科のロケで
午の弁当を白樺の林の中で ひらいたとき
あなたは 芽をふいたぜんまいを見て
だれにもいのちがあるのね
でもわたしはいまがあるだけ
きのうもあすもないわ
と明るい顔でおっしゃった
新潟の寺泊の海岸で
ラストカットを撮ったとき
青い海を見て
あなたは
ひきこまれそうな深い色ね
このまま ずんずん はいって行けたらね
と笑っておっしゃった
杉村春子さん
あなたは広島の人
花崗岩土壌が太陽にはねかえり
大輪の向日葵が
天に向かって
顔をあげるのです
女優ひとすじの道を
まっすぐに歩みつづけられました
悔いはないでしょう
あなたのその姿を
わたしたちは忘れないでしょう

 この弔辞に沿って、本を書き進めていらっしゃいます。杉村春子先生の最後の映画「午後の遺言状」のお話から始まります。映画の「午後の遺言状」は結構話題になっていましたが、もともと“映画を見ない人”なので、見逃しています。新藤さんはもちろんこの映画の監督さんですが、シナリオも書いていらっしゃいます。杉村先生は、撮影時は既に88歳杉村春子先生の老いを隠さず、老いを生かしたいという思いで、杉村春子先生そのものを描かれました。主人公は新劇の老女優、ほんとそのままですね。そうそう、この映画は共演の乙羽信子さんにとっても最後の映画でした。撮影に入る前に癌とわかり、余命1年から1年半と言われての撮影となったそうです。そして、撮影終了後、スタッフ試写をごらんになって、旅立たれたそうです。これもまたすごいドラマですよね。

 第1章は弔辞のぜんまいと寺泊の部分(「午後の遺言状」のこと)、第2章以降が広島の人以下の部分なります。そこからは副題の「杉村春子の生涯」のとおり、先生の生涯をなぞっていくことになります。これまで私が読んだ杉村春子先生の“生涯”は繰り返し出てきす。ついこの前読んだ「振りかえるのはまだ早い」や大笹吉雄さんの「女優杉村春子」からの引用が多数あり、おそらく半分くらいはその引用で、初めてお読みになる方にはいいんでしょうが、何冊も読んでいるとちょっと損した?気分になってしまいました。スミマセン、貧乏性で…。

 とは言え、単になぞるだけでなく、そこは新藤さんらしい解釈とか芸術論とかが間に入ってきます。杉村先生、「情熱の人」だったんですね。とにかく誰か愛する人がそばにいないとダメ、激しく生きていらっしゃいます。

 私が「杉村春子」という女優さんを知ったのは当然テレビのほうが先です。テレビドラマの名脇役、品のいい控えめなおばあさんというというイメージがありました。文学座を見るようになって、実は新劇の大女優、舞台ではいつも主役で、座員やファンの人からは崇め奉られていると知って、非常に驚いた覚えがあります。「女の一生」も「欲望と言う名の電車」も「華々しき一族」も杉村先生が主役の舞台をいくつも見ています。舞台は、テレビのイメージと正反対です。どんどん前へ攻めてこられる、出てこられます。そして、舞台だけでなくプライベートでも本当に華やかな女優人生なんですが、なぜか私の中ではテレビのほうの品のいいおばあさんのイメージのほうが強く、こういった伝記を読むと、いつもとても不思議な感覚?戸惑い?を感じてしまうんですが…。

 特にこの本は、シナリオライターの新藤兼人さんらしく、杉村先生の恋愛事情をかなり激しくドラマチックに描かれてありました。相手はいつも年下で、愛されもしたけれど、それ以上に杉村先生のほうがむさぼるように愛する、相手を吸い尽くしてしまう、そういう恋愛だったそうです。とてもそうはお見受けしないのですが、例えば、杉村先生のお弟子さんにあたる太地喜和子さんなら「あぁ、そうかなぁ」って納得できるんですけれどね…。まあ、70年近く、第一線の女優であり続けた理由はそのあたりにあるのでしょう。「This is 女優」です。
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2 コメント

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Unknown (たむ)
2013-09-26 10:07:34
杉村春子さん、早口でシャキシャキとした人で
北村和夫さんがトイレで悔し泣きしたとか、加藤武さんはあなたの台詞は歌舞伎役者の声色と言われたとか
エピソードが沢山あって、興味深い女優さんですね、
最後に入院した時に私は何をすれば良いのと?聞いたほど生涯現役女優だったのですね、素晴らしい人でしたね、
返信する
美しい佇まい (おとら)
2013-09-28 00:59:27
杉村春子さんは、決して美人女優というわけではありませんでしたが、話し方やしぐさがとても美しい女優さんでした。いつも自分を美しく見せるのかを考えていらっしゃったんでしょう。

映画の小津監督は杉村春子さんと原節子さんだけには演技指導をなさらなかった、全ておまかせだったと聞いたことがあります。
返信する

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