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風刺としてのパリス・ヒルトン

 少し重っくるしい話題が続いたので、いい加減な話をしましょう。
 どこの記事で読んだのか忘れましたが、あの世界環境男、アル・ゴア氏が、アメリカ人は、パリス・ヒルトンのことばかり見ていないで、少しは環境のことを考えてくれ、と言っていたという記事を見た覚えがあります。先日も、飲酒運転で収監されて、刑期を終えて出所する様が大々的に報道されていました。
 6月27日の日本の朝の情報バラエティー番組でも、彼女の出所の模様をトップニュースに持ってきて、オープニングから大々的に流していた局がありました。

 何年か前に、何かの記事で、パリス・ヒルトン嬢の存在を初めて知ったときには、大金持ちの娘が、その立場とお金を使って、有名になろうとしているのだな、というコンテクストで見たわけですが、正直に言って、こんなに有名になりたい人なのに、もう少し容姿に恵まれていれば良かったものを、可哀想に、と思いました。いわゆるブスではないとしても、どう見ても女優で通用するような美人とは思えないし、まあ、アメリカ人の平均的な若い女性の容姿なのではないでしょうか。
 また、これは、現在まで変わらない彼女の一貫した印象ですが、大金持ちのお嬢様の割には、上品な感じというものが一欠片もありません。有り体にいって、少々下品で、どことなく不衛生な感じさえあります。紙媒体の写真集のモデルに喩えるとすると、ビニールに包まれてその種の本の専門書店の片隅にあるか、或いは、自動販売機で売っているか、という「ビニ本」(この頃は見かけませんね)のモデルくらいのイメージです(近年のAV女優とか、雑誌のグラビアモデルは、彼女とは比較にならないくらい整った容姿をしています)。
 しかし、この、どうしても漂う彼女の下品さは、ある種の生々しさにもつながっていて、すっかり「その気」になって有名人として振る舞っていることとのアンバランスな感じと共に、妙に、心に引っ掛かりました。怖いもの見たさ的な感覚といってもいいでしょうか。その後、彼女のメディアでの露出が増えるに従って、かなり「見慣れて」は来ましたが、基本的な印象はそのままです。
 尚、例の出所の映像では、普通に嬉しそうにしていて、それは良かったのですが、髪の分け目のあたりの濃い色が目立ちました。刑務所内では髪が染められなかったので、伸びた部分が黒っぽく目立ったのでしょう。私が見ていた限りでは、情報バラエティー番組のコメンテーターは誰もこの点を指摘しませんでした(仮に、私がコメンテーター席に座っていたら、真っ先にこの点を指摘してしまいそうな気がしますが、視聴者には髪を染めている人もいるわけで、そういうことは、言わない方がいいのかも知れませんね)。

 さて、パリス・ヒルトン嬢を商品として見ると、最初は、たぶんかなりお金を使って、話題を作り、徐々に知名度を上げていったのでしょう。言わば、投資の段階です。
 しかし、世間の関心を集めるようになると、彼女の映像で視聴率が取れるし、彼女の写真やインタビューは高い値で売れるようになり、アメリカのメディアは彼女を無視できなくなりました。
 今回の騒動でも、空中にはヘリコプターが舞い、TVカメラとスチルカメラ(キヤノンが多いようですね)が大量に群がって、彼女を追わざるを得ない状況になりました。メディアも最初は面白半分に彼女について報じていたのかも知れませんが、彼らも商売である以上、注目度の高い彼女を追わざるを得ない訳で、今では、主客がすっかり逆転しています。
 もちろん、アメリカは広くて多様なので、彼女には報道価値なし、と判断する立派なメディアがあるのかも知れませんが、日頃は偉そうにしているアメリカのジャーナリズムも所詮商売でやっている限り、あのような目立ちたがりの小汚い人物に振り回されるのか、と思うと、ある種、痛快であります。
 腕のいい記者やカメラマンで、自分はこんなネタは本当はやりたくないのだ、と思っている人は少なくないでしょうが、今や、彼らに、パリス・ヒルトンを無視する自由はありません。有名なTVキャスター達も、彼女にTVインタビューしたようで、彼女が、自分に都合の良い情報をばら撒くのに利用されているわけですが、これを止めることができません。
 今や、パリス・ヒルトンという存在そのものが、アメリカ社会及びジャーナリズムに対する風刺として機能しているように見えます。
 商品としてのパリス・ヒルトンは、注目を集める(≒メディアが集まる)ことで商品価値を増し、それによってさらに注目を集めて(≒メディアがもっと集まる)、価値を高めるという、ネット・バブルの頃に一世を風靡した「収穫逓増」型のビジネス・モデルになっています。ヒルトン家の収支決算がどうなっているのか分かりませんが、場合によっては儲かっているのかも知れません。
 彼女の跡目のパーティー・クイーンを狙ってパーティーに血道を上げる女性がハリウッドに何人もいるとの報道がありましたが、この収穫逓増ぶりを見ると、当然、同じことを狙う人はいるだろうなあ、と思えます。

 報道によると、出所したパリス・ヒルトン嬢は、「私は、もうバカなふりをするのは止める」と語っています。メディアは、彼女のバカな振る舞いに振り回されていた、という意味になるわけですが、メディアの側には、これに反論するすべもなく、彼女の言葉を伝えるしかありません。

 アメリカでの話であり、馬鹿馬鹿しさの全体像を他人事として客観視できる距離があるので、日本のメディアは、「商売でやっているジャーナリズム」の弱点について、反省を深めるいい機会だと思うのですが、そんな気はなさそうで、ちょっと残念です。

(※ブログで「パリス・ヒルトン」を取り上げると、大半は自動で送られてくるものと思われますが、大量のトラック・バックが送られてきそうで、ちょっと憂鬱です。意見を論じたものは受け付けて公開しますが、画像だけのもの、商業目的のみのもの、ニュース記事のコピー&ペーストだけのものは、削除します)
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