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保険法改正に望むこと

 ご本人に迷惑が掛かるといけないので、「ある生保関係の」とだけ申し上げておくが、知人の話で、目下、法制審議会で、保険法の改正について審議が行われていることを知った(毎回の討議資料と議事録はネットで見ることが出来ます)。
 生命保険会社は、先般、保険金の不払い問題があり、一応は陳謝して、多くの保険契約を自ら調査して、契約者に対応することを約束した。その後に問題が浮上した社会保険庁の様子があまりに酷かったということもあるが、割合真面目な対応だと思ったのだが、これは、ことによると、保険法の改正という、保険会社にとっての大イベントを前に、波風を避けたい、ということだったのかも知れないと後から思った(邪推であれば、スミマセン!)。審議会には、学識経験者(生保の社員総代などを引き受けている人がいれば、問題だと思うが、まだ調べていない)や消費者代表(本当にそう言えるかは分からないが、一応)、損保関係者も含まれるが、これまでのところ、議事は、概ね事務局と生命保険会社のペースで進んでいるらしい。生命保険会社は、この種の対官公庁・法律対策には伝統的に熱心だ。
 議事録や資料を読み込む時間がないので、大まかな話しかできないが、特に生命保険については、今回の保険法の改正で盛り込んで欲しい点が幾つか思いつく。知人によると、8月中にはパブリック・コメントの募集が始まるらしいので、重要事項が見つかれば、コメントを送ってみるのも一興かも知れない。
 今、筆者が、思いつく限りの、保険法改正への要望事項を幾つか並べてみる。尚、私は、現在、保険会社とは何の利害もないし(社員総代なんて、やっていない、ということ。もっとも、頼まれる筈もないが)、民間の生命保険は、20年近く前に入った、団体保険のガン保険の払いが月々1500円程度あるだけで、生保には過去二社にお世話になった(=勤務した)が、死亡保険や医療保険を始めとして、民間の生命保険会社の保険はこれ以外に何も契約していないし、これから契約する予定も一切ない。

(1)保険料の計算根拠の明示(付加保険料の投信並み開示)

 保険に対する最大の要望はこれだ。「命のデリバティブ」とも言うべき生命保険のプライシングは非常に複雑であり、契約の損得勘定が難しいし、異なる会社間の商品比較も難しい。せめて、支払った保険料のうち、どれだけが保障や貯蓄に使われているのかを知るために、それ以外に使われるもの(付加保険料)の率(或いは額)と内訳(営業費見合いで、幾ら、等)を知りたい。また、営業費見合いの付加保険料は、契約の最初の2年間程度で集中的に徴収されるが、これは、乗り換え営業を誘発する原因にもなっており、契約者としても、いつ解約するか、また契約してもいいのか、ということの判断に必要な情報だから、付加保険料は内訳の開示も必要だ。
 たとえば、もっと単純な商品である投資信託では、販売手数料、信託報酬、さらには信託報酬の内訳(販売会社に幾ら、運用会社に幾ら、等)も明らかにされているし、ファンドの中で運用の際に支払った手数料や、監査の費用等も、受益者にディスクローズされている。
 内容が複雑で、しかも、金額も大きく、契約期間も長い、生命保険の場合(日本人の場合、家の次に大きな買い物らしい)、消費者保護の観点からも、付加保険料の開示は必須だと思うが、残念なことに、とても実現しそうにない情勢らしい。
 かつて生保関係者から聞いた話を順不同に組み合わせると、(A)「先に、経費を取ってしまうという今の仕組みは、先輩達が、実に都合良く作ってくれた、旨みのある仕組みだ」という本音と思える声があったし、これを開示すべきでは、という意見に対しては、(B)「トヨタの車だって、原価を明示して売っていないやろ。商売なんやから、(開示しないのが)当然や」という声もあれば、(C)「保険が不利に見えるような情報をいたずらに開示すると、保険契約が減って、本来だったら救われていたはずの契約者が救われなくなる」という意見も聞いたことがある。
 (C)は非営利・相互扶助の観点を感じさせるのに対して、(B)は、保険会社の内勤社員にとって、保険が「商売」であるとの現実に立脚している。特に、相互会社形式の生命保険会社の場合、生命保険が公共的な性格を帯びた相互扶助であるということと、保険会社が現実には「商売」であることとが、都合良く使い分けられているような気がする。
 もっとも、私が付加保険料を問題にするのは、生保の経営哲学の問題からではなく、一重に、顧客に判断上必要な情報を与えるべきだという、消費者保護の観点からだ。手数料の高い商品、あるいは窓口でも、投資信託が売れているように、手数料を明示したからといって、生命保険が売れなくなるものではないだろうし、そもそも、日本人は生命保険に過剰加入の傾向があるから(世界人口の2%で、生命保険料の25%を支払っている、と聞いたことがある)、手数料について「投信並み」に開示することは、是非とも必要なことだと思う。それに、契約者のために、もう少し直接的に価格競争してくれてもいいのではないか。
 また、保険商品を設計する際に使った「予定利率」と「生命表」(あるいは死亡確率に関するデータ)も、きちんと開示・説明した上で、保険契約を締結すべきだと思う。

(2)解約返戻金で「含み」を返す方法を定めて欲しい

 保険契約から生じる保険会社の利益のうち、利差益、死差益は、基本的には、契約者のものだろう(特に、相互会社の場合、契約者は、社員であり同時に株主的存在でもある)。運用で生じた含み益は、一定の運用リスクのための準備金的なバッファーを持っても良いとは思うが、もともと、保険商品は、これで成立すると確信できる余裕をもって設計すべきものであって、「一定のバッファー」はそれほど大きな物でなくて良い筈だし、それこそ「一定」の歯止めが必要だろう。
 区分経理がしっかりできているなら、解約の際には、解約返戻金の支払い時に、契約者の契約期間に応じて、相応の「含み」を返還すべきではなかろうか。契約者配当で、取りすぎた保険料をチビリと返すだけでは不十分だ。

(3)セールス時に解約返戻金のテーブルを提示して欲しい

 先の営業費見合いの付加保険料を前倒しで取る仕組みの関係もあって、生命保険の解約返戻金は、なかなか見当が付かないし、「それにしても、少ない」という声をよく聞く。
 解約返戻金の多寡については、商品設計上の努力を期待したいところだが、決まっているものは仕方がない。しかし、たとえば、「・・・、6カ月で解約すれば幾ら、7カ月で解約すれば幾ら、・・・」といった情報は、契約する前にあらかじめ知っておきたい情報だ。
 将来変化する可能性がある、というなら、その可能性の具体的な説明も必要だろうし、この点を伏せたままの保険販売は、後味が良くない。

(4)保険金支払いの遅延行為の責任を明確化して欲しい

 先般、保険金の不払い問題で明らかになったような、入院特約の請求があった場合に、通院費用の特約も請求が出来ると説明しなかった場合の生命保険会社の責任を明確化して欲しい。保険契約者は、基本的に情報弱者なので、保険会社側に、ある程度の義務を課すべきだと思う。
 保険金を請求する時に、保険会社の担当者(又は募集に従事する者)によって、(1)間違った説明がなされたり、(2)保険金の請求書が渡されなかったり、(3)何らかの「保険金の請求を延期させる話法」などが介在して、保険金の請求が断念・延期され、その後、消費者相談や苦情処理などを経て、最終的には「保険金を支払うべきだった」と判断された場合、などに、保険会社の責任を明確にする規定を作らないと、「請求主義」を基調とする、曖昧さの残る行政指導の下では、保険金の速やかな支払いが、場当たり的な努力目標にしかならない可能性があるのではないか。
 どのように規定したらいいのかは、私の手には余るが、「保険金支払いの遅延行為」を保険法できっちり規定して、保険会社の責任を明確化して欲しい。

(5)子供や知的障害者などの死亡保険契約の制限をして欲しい

 たとえば、小さな子供に保険を掛けて、事故に見せかけて、殺す、といった、凄惨な事件がある。この世知辛い世の中では、子供や、知的障害者などの、判断能力のない弱者に対する一定額以上の死亡保険契約を認めることは、いかにも危険で、また、必然性が乏しい。せいぜい葬式代くらい(200万-300万?)が子供(小学6年生以下)に賭けられる死亡保険の上限だと思うが、どうだろうか。
 この規制の反対派には、「現実にニーズがある」から(どんな、ニーズだ?)という恐ろしい声もあるようだし、「子供にお金をかけて、松坂投手や、荒川静香選手のような選手に育てようとしている親もいるし」という屁理屈と思えるような理由も聞くのだが、「子供が死んだら、大金が入る」という状況の親子は、もう、これ以上作らないで欲しい。
 
(6)保険金の部分支払いが可能な規定を作って欲しい
 
 たとえば、告知義務に違反があった場合、保険金が全然下りないというのは、酷な場合があると思う。オール・オア・ナッシングではなく、過失の程度に応じて、たとえば、8割払うとか、5割払う、といった選択が、可能であるべきではないだろうか。もちろん、裁判所なり第三者機関(生保の息のかかっていない中立な機関である必要はあるが)が介在してもいいと思うが、どんなものか。



 保険というものは、リスクをヘッジする仕組みであり、本来、私のような、大した資産がない割に、家族への責任は大きい、かつ臆病で悲観的な人間の場合、積極的に利用を考えるべきものだろう。しかし、現行の日本の生命保険会社の商品は、付加保険料が大きすぎて(商品にもよるが、払った保険料の6割くらいしか保障や貯蓄に使われていないものがざらにある、と言われている)、あまりに割が悪いので、これを使わない工夫が大事だと思うし、事実、多少の経済的余裕があれば(貯金で言えば数百万円レベル。国民年金には遺族年金もあれば、健保には高額医療費制度もある)、無しで済ますことができるものだ、というのが、基本的な考え方だ。
 ただし、たとえば、付加保険料が10%程度の死亡保障の保険が出来れば(ネット証券ならぬ「ネット生命」の登場と新商品に期待している)、自分でも積極的に利用を考えるし、他人にも勧めるかも知れない。保険そのものが悪いのではなくて、現在の保険商品が余りに悪いのだ、というが私の基本観だ。

 何はともあれ、保険法の改正には注目しよう!
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