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逃げた(?)投信協会長(週刊ダイヤモンド「金融商品の罠」)

 現在発売中の「週刊ダイヤモンド」(6月16日号)は、「金融商品の罠」が特集タイトルだ。先般出した、「『投信』の罠」が好評だったことを受けて、さらにパワーアップを目指した、金融商品の特集号である。
 私は、残念ながら「『投信』の罠」には、何も書いていないが、今回は、「商品開発の手練手管 人間心理のツボを巧みに突いた ずる賢い商品の跋扈に警戒!」というタイトルの3ページほどの原稿と「山崎元氏が問う! 日本の投信業界はなぜダメか はびこる三つの大問題」という1ページの文章を書いている。
 ご興味のある方は、是非、雑誌を読んでいただきたいが、前者は、たとえば毎月分配型ファンドのように、投資家にとって経済合理的には明らかに損な商品が、なぜよく売れるかを、主に行動ファイナンスで説明したもので、後者は、投資信託協会長である樋口三千人・大和証券投資信託委託社長に宛てた手紙の文章だ。

 ここでは、後者に関わる経緯に関して、補足説明しておこう。
 週刊ダイヤモンド編集部の方針では、はじめは、樋口氏と私の対談を載せる予定だった。私からの提案でもあったのだが、投信の商品や業界を、一方的に批判するだけではなく、商品を提供する側からも意見を聞く方がいいだろう、という意図だ。対談の相手として考えたのは樋口氏だけではなかったが、5月2日の時点で、これから交渉してみるというメールが担当編集者からあり、その後、5月10日時点では、交渉が不調であることの報告と共に「一度、振られた大和投信・樋口社長(投信協会会長)にターゲットを絞って、再度、正攻法で攻めています。」という連絡があった。
 しかし、5月16日の時点では、「樋口氏ですが、最終的に逃げられました。『文書で回答なら・・』だそうです。」という連絡があった。この時の担当編集者からの電話では、対談できない理由は「多忙であり、時間が取れないから」であり、それでも「文書でなら回答する」ということだった。高々一時間半程度の時間があれば済む対談がダメで、文書回答なら大丈夫、というのは不自然だと思ったが、対談の場で失敗することを恐れたのだろうと推察した(そんなに心配しなくても、いいのに)。それでも、文書のやりとりであっても、やってみる価値はあると思ったので、私は、A4で2枚程度の質問文を書いて、編集部に送った。
 この時点で、樋口氏サイドが、文書で回答なら、「答える」と確約したのか、「答えることを検討する」と言っただけなのかは、私には分からないが、雑誌の48ページの注に「締め切り日までに回答を得られなかった」とあるから、編集部では、期限を提示して回答文を待つ状態にあった。
 樋口氏ご本人はどうか分からないが、窓口になっているはずの広報担当者は、雑誌の締め切りがどのようなもので、ページに穴を開けると迷惑だ、というくらいのことは分かるはずであり、誠意のない対応だった。回答しないなら、「答えるつもりはない」と早く連絡するのが筋だろうし、会社なのだから、広報部が回答の草案を書いて、社長の了承を得て送ってきてもいい。たぶん、社長ないし、その取り巻きの誰かに「投げっぱなし」になっていたのだろう。もちろん、対応の責任の大半は樋口氏にあるが、広報の仕事として、連絡係以上のことが出来ていないと思うのだが、どうか。
 質問文は、私の理解では遅くとも5月20日には先方に届いているはずで、結局、ページを確定する、ぎりぎりの期日である5月29日までに回答が得られず、編集部は、回答文の掲載を断念した。その後、この質問文の大部分を雑誌に掲載することが決まり、私が、別の原稿の字数の調整をし終えたのは6月4日だった。

 詳しくは、「週刊ダイヤモンド」6月16日号の48ページを見て欲しいが、私が、樋口氏に問うた論点は、以下の三つだ。

 一つめは、明らかに合理的な商品ではないのに、よく売れるからと毎月分配型の投信が売られていることに関して、「多分配型投信には、合理的なニーズがあると考えるのか? 単に、販売現場で売りやすいだけではないのか? また、売れるからと言って、多分配型を続々と商品化する投信会社の運用には見識というものはあるのか?」と問うている。
 二つめの質問は、信託報酬に関する問題で、これについて、投資顧問の手数料との比較、過去の信託報酬との比較から「高すぎる」と私見を述べて、「現在の信託報酬水準は高いとは思わないのか? また、投信の純資産が大きくなった場合には米国で行われているように、手数料の引き下げがあってもいいのではないか?」と訊いている。
 三つ目は、投信会社の経営について、直接販売の販路を持たないことと親会社から経営者が天下ることにより、販売会社に弱い体質になっていることと、素人経営者の弊害を質問している。「日本の投信会社の、『販路』のあるべき姿について、どのように考えるか? また、投信会社の資本及び人事は、証券会社などこれまでの親会社から、独立すべきではないか?」。

 質問の内容は、ごく普通のものだと思う。何とでも答えられるだろう。
 私としては、仮に、当初の予定のように対談が実現したとしても、対談相手をその場でやり込めるつもりは、全く無かった。上記の論点は、当たり前すぎて、改めて当否を論じるようなものではないので、こうした現実を認めた上で、今後の投信業界の発展方向について話したかった、というのが希望であった(本当です!)。私の予定では、相手が意地を張らなければ、上記の三論点についても、双方の顔が立つやりとりで進行することが十分可能の筈だった。

 一般論として、取材依頼や質問を受けたら必ず答えなければならない、というものではない。回答を拒否する権利は、政治家や行政の一部を除いて、誰にでもあると思う。この点は、ダイヤモンドの担当編集者もよく理解し、強調しており、筆者との電話でも、「当誌としては、質問に答えなかったから『悪い』という姿勢は取りたくない」と仰っていた。
 ただ、投信協会長で、かつ大手投信会社の社長である樋口氏が、対談やこの程度の質問から逃げるのはいかがなものか。一言付け加えておくが、日本の投信会社の社長が、対談用の1-2時間の時間を作れないほど多忙だということは、断じてあり得ない。先般のダイヤモンドのよく売れて話題になった特集号「『投信』の罠」の後を受けた特集号なのだから、投信業界の側から、反論なり、説明なりを適切に行うことは、投信協会長であり投信会社の社長として、望ましいことではないのだろうか。むしろ、機会を与えられたことを、感謝すべきではなかったかと思うのだが、どうか。
 樋口氏のプロフィールや人となりについて、私は、何も存じ上げないが、こうした誠意(編集部に対する)とやる気(投信協会長・社長として)のない対応を見るに、私が質問文で書いたように、「運用に見識・経験のない人物」であるだけではなく、経営者としての能力にも疑問のある方なのかも知れない。せっかく発展しつつある日本の投信業界にとって、残念なことだと思う。
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