goo

森山大道「昼の学校、夜の学校」(平凡社)が面白い!

推薦図書です。

写真家の森山大道さんが写真学校の学生達の質問に答えた対話を本にまとめた、「昼の学校、夜の学校」を読んだのですが、なかなか良い本でした。語る言葉に無駄がない、素晴らしい対話です。

森山大道さんは、ほとんどをモノクロで、主に都市の路上を取り続けている写真家ですが、日本を代表する写真家だといっていいと思います。都市を強引に切り取るような強い視線と、ぞくぞくするような独特のグレーの出し方が素晴らしく、「日本にはいいアーチストがいるのか?」と外国人に訊かれたら、「フォトグラファーのダイドー・モリヤマが素晴らしいぞ」と答えてみたくなるよう人です。事実、近年は世界的に評価が高く、海外でも、何度も個展が開かれています。

写真の大家が、写真学校の学生に対して話をするわけなのですが、若者を対等なライバルとしても尊重し、激励しつつも、一切甘やかさない、誠実なやりとりをしています。

例えば、森山氏の写真を「汚く見える」と評して質問する若者に対しても、その人物の見方を尊重しつつも、その見方が一つの見方に過ぎないことをきちんと相対化して諭し、そもそも世の中や人間が、そんなにきれいなものでないという世界観を語り、写真が必ずしもきれいでなくてもいいのだ、というご自分の写真観を過不足無く説明します。

また自己表現者の持っている自己顕示欲について、ご自分の持つ自己顕示欲のあり方を隠さず説明し、同時に、他人の写真を見て感心する暇があったら、もっと自分の写真を撮って、他人に見て貰いたいと強く思え、と若い写真人達を叱咤しています。

過去の修行や仕事の歴史、どうやって食べてきたかという経過、現在の仕事の仕方の凄まじさなども、淡々と語られていて、プロの職業人のあり方も考えさせてくれる本です。大まかにいうと、路上をフィルム1千本から2千本撮って(リコーのGRが2千本で壊れるらしいということを始めて知りました)、一週間かけて一気に現像し、一ヶ月間毎日朝9時から午前3時まで暗室にこもって写真を焼く、というようなプロセスで一冊の写真集が出来上がるようです。

もちろん写真そのものについても、特に森山氏の写真の撮り方、焼き方、本の作り方などについて、詳しく語られているので、写真ファンも満足するでしょう。

「最近の若手写真家で、こいつはいい人は?」という質問に対しては、「思わずのけぞって腰を抜かすって人はいない」と言っていますが、他方では、「ぼくらが呆然とするような、『これが写真だぜオッサンよ』というとてつもないことをやって見せてほしいと思っている。何てったってカメラマン同士だからさ」と答えています。聴衆に対して、「君たち、やってみろ」と言っているわけで、森山氏ならではの、優れた教育だと思います。

若者を恐れず、ナメず、しかし、甘やかさず、という姿勢は、個性を確立した一流人でなければ決してきれいに出せない姿だと思いますが、森山氏はその辺りを実に格好良くやっています。これは、何とも羨ましい。

ちなみに、最初の講義の最後には、「ひとまず量のない質はない、ただもうそれだけです、ぼくの唯一のメッセージは」と述べておられます。ともかく、撮らなければ始まらないし、その後も、取り続けるしかないよ、と言っておられるわけです。

一気に読んで、たいへん感心しました。
コメント ( 31 ) | Trackback ( 0 )
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする