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宙の地図


  フェリクス・J・パルマ  宮崎真紀訳   早川書房

時の地図」の続編。まず最初にアドバイス申し上げる。前作「時の地図」を読んだ上で本書を読まれることをお勧めする。物語の芯となる人物が、前作でも重要なキャラで登場している。
 SF、ホラー、冒険、伝奇、恋愛、あらゆるエンタティメント小説の要素がてんこ盛り。実在の人物、架空の人物、作家、大富豪、捜査官、地球人、火星人、いろんな人物がワサワサ出てきて、くんずほぐれつの大活躍。なにもかもツユだく、大盛りのなんでも丼。げっぷ。たっぷりいただきました。ごっそうさん。
 狂言回しは前作に続いて、実在の作家H・G・ウェルズが務めるが、この物語の真の主人公は「時間の帝王」ギリアム・マリーだろう。マリーは前作で死んだはずだが、思わぬ形で再登場する。
 上巻のほとんどは南極探検の話。ジュレマイア・レイノルズ(実在)が地球空洞説を実証するため南極へ。ところが南極にあるという地底への穴にたどり着く前に遭難。南極の氷原で火星から飛来した怪物を遭遇。人に化ける怪物との戦い。このあたりは、ジョン・カーペンターのどろどろぐちょぐちょホラーの傑作「遊星からの物体X」そのまま。本作もカーペンターに負けないぐらいどろどろぐちょぐちょ。内臓、血しぶき飛び散る大スプラッター。わずかな生存者を残して探検隊は壊滅。そのわずかな生存者の中に思わぬ人物が二人。一人は上巻でだれか判るが、もう一人は下巻のラスト近くなって判る。その人物がそこにいたことがこの物語の謎を解く重要なキーとなる。この南極の描写で、おや間違いではないかと思われる個所が出てくるが、間違いではない。最後まで読めば納得する。
 上巻はスプラッターホラーだったが、後半は冒険活劇だ。大英帝国は火星人に制圧された。地上には熱線を放射する火星の巨大な三本脚マシーンがうようよ。ウェルズ、マリー、ロンドン警視庁のクレイトン、後半の語り手富豪の御曹司チャールズ、マリーの恋人でアメリカの新聞王の曾孫エマ、そして「時の地図」の主人公英雄シャクルトン将軍、といった連中が地下下水道を伝って決死の脱出を試みる。この部分の物語のたて糸は連中の冒険だが、よこ糸はマリーとエマの悲恋物語。マリー助からないケガを負う。みんなを逃がすために自爆を決意。
「エマ、逃げろ」「いやだわ。あなたを置いて行けない」「おれは大丈夫だ行け」「わたしもここに残る」といった愁嘆場が繰り広げられ、読者の紅涙を誘う。
 冒頭でギリアム・マリーが真の主人公といったが、登場人物の中で一番面白いキャラだった。前作「時の地図」では胡散臭い実業家。本作の上巻では嫌味な大富豪。ウェルズは彼を大嫌い。エマに岡惚れしてストーカーと化す。エマにかぐや姫のような無理難題を出され、合格なら求婚をOKといわれて、なんと無理難題を実現する。そしてエマと相思相愛。上記のような理りない仲となった。ウェルズにも大親友と思われる。なかなか面白い人物である。
 このなんでもありな、てんこ盛りエンタティメントのラストはなんとも爽やかなもの。まるでヒロ山形のイラストを見ているようなラストだ。
 パルマはシリーズ三作目を計画しているとか。「タイムマシン」「宇宙戦争」に続いて、こんどは「透明人間」とか。楽しみ。
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