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火の鳥 復活編


手塚治虫    虫プロ商事

 悲恋物語である。悲恋でないラブストーリーとは、どんな物語か。それは、もう、恋が成就して、二人はめでたくいっしょになって、生物の雄と雌として、生殖に成功、子孫を残すまでいってこそ、完璧なラブストーリーの一巻の終わりとなる。そうならないのが、悲恋物語だといっていいだろう。
 古今東西、悲恋物語は多く、人々の涙を誘ってきた。ロミオとジュリエット、お染久松、安珍清姫、絵島生島、愛と誠、などなど。実はこれらは本当は悲恋でもなんでもない。生き物どうし、なかんずく人類どうしである。生殖行為が可能なものどうしだ。
 究極の悲恋物語とは、この作品のことではないか。人類どうしどころか、生き物どおしでもない。有機物どうしですらない。有機物と無機物のラブストーリーなのだ。生殖行為のまねごとはできるかも知れないが、絶対に子孫は残せない。
 レオナはエアカーから転落して死んだ。そのまま死んでいればレオナも苦しまずにすんだのだが、生き返ってしまった。脳を含め人工物と交換する最新の医療技術でレオナは生き返った。手術の後遺症で、彼は有機物が無機物に、無機物が有機物に見える。人間や動物が土くれに見える。機械が花に見える。工場が美しい自然の野山に見える。
 レオナは美しい女性と出会い恋に落ちる。その女性チヒロは事務用ロボット。レオナには機械のロボットが若い女性に見えるのだ。二人(?)は相思相愛となり、ついには駆け落ち。臓器密売組織に拾われる。レオナは組織の女ボスに身体をやり、意識をチヒロに移植してもらう。こうして二人は1つになった。
 新しいボディを得た、レオナ+チヒロは一体のロボットとして、ある家の召使になり、その家の子供に慕われる。人間味を持ったロボットはロビタと命名され人気ロボットとなり大量生産される。ところがロビタのせいで子供が死んだとされる。大量のロビタが自殺。ただ1台だけ残ったロビタが世捨て人の猿田博士に拾われる。
 ラストで未来編にリンクする。最も人口に膾炙している手塚作品といえば「鉄腕アトム」だろう。本作もアトムと並んで手塚のロボットSFの代表作といえる。アトムは生まれた時からロボットだったのに対して、ロビタは人間として生まれ人間として死に、ロボットとして生まれ変わった。アトムは、自分のモデルの天馬博士の息子トビオの記憶を持っていないが、ロビタはレオナの記憶が残っている。人間としての苦悩も残っており、完全に機械になりきっていない。そのため、ロビタはアトムが持っていない「哀しさ」を持っている。無表情な機械人形ロビタが、実に表情豊な演技をする。
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