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ぐるりのこと


監督 橋口亮輔
出演 リリー・フランキー 木村多江 倍賞美津子 寺島進 寺田農 柄本明

 映画は1993年から始まる。20世紀の世紀末から21世紀初頭にかけての、一組の夫婦の物語。
 妻は、なにごともきちんとしなくては気がすまない。夫は少々のんきだが優しい。うまくやりたい、上手に生きたい妻が、女として最大の挫折味わった。流産。小さな出版社でキャリアウーマンとして働く妻は、精神に大きな傷を負った。出版社を辞めた。
 靴屋でアルバイトをしながら画家を志望していた夫は、先輩の紹介で法廷画家になる。
 精神を病んだ妻が、夫に聞く。「なぜ私といるの?」「好きだから」
 妻の兄がいう。「めんどうだ」「なぜ生きてるの」「死ぬのもめんどうだ」
 バブル崩壊後の日本。夢を持った夫と、普通にちゃんと生きたい妻。彼らは別にぜいたくは望んでいない。夫は絵を描き、妻は子供を産んで育てる。これを望んで何が悪い。どこにでもいる、ごく普通の夫婦を極めてリアルに描写しながら、映画は私たちに問いかけてくる。
 法廷画家の夫は職業柄、様々な犯罪の裁きの場に立ち会う。宮崎勤事件、池田小学校事件、地下鉄サリン事件。これらの凶悪な犯罪を起した人物の表情をとらえてスケッチするのが仕事。それは、この夫婦が生きた時代が生み出したモンスターか、いや違う。彼らも私たちと何ら変わらない市井の人なのか?時代そのものがモンスターと化しているのか?映画のラストは2001年。そう9.11同時多発テロがあった年だ。
 夫が小さなクモを殺した。「なぜクモを殺した」妻が荒れ狂う。床を踏み鳴らし、泣き叫ぶ妻の姿は、下の階から「うるさい」と文句をいってきた女にとっては、小さなモンスターに見えただろう。でも、彼女は非業の死をとげたクモを悼んでいるだけだ。
 だんだんと精神を病んでいく妻役の木村多江の演技は鬼気迫る。特に上記のクモ殺しのシーンは圧巻。その妻を受け止める夫役のリリー・フランキーもひょうひょうとした、芸術家気質の男を自然体で演じていた。さすが本物のイラストレーター。この夫だから、妻は生きていけると納得する。
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