とつぜんコラム №172 なんでも「民」でいいのか

　そんなことは無ければ良いと思っているが、探したらもっといろいろ出てくるだろう。企業の手抜き、インチキ、ごまかしである。　　
橋の補強工事に使われた部品に溶接不良のモノが複数見つかった。製造した会社が手抜きしたのだ。最悪の場合橋が落下する。溶接部分をテレビのニュースで見たが、隙間が開いていて素人目にも不良とわかる。この製造方法で工期短縮コスト削減を行っているのだ。
東洋ゴムによる免震装置ゴムのデータ改ざん。旭化成建材のマンションくい打ち工事のデータごまかしによるいいかげんな工事。血液製剤の製造による４０年にもわたる不正。書類を古く見せる小細工をしていたというから、確信犯で悪質だ。その他、いろいろ企業のごまかしインチキは枚挙のいとまがない。
日本は自由主義経済で、民間企業は自由に競争できる。また、この企業の自由な競争が、国の経済の活性化に役立っていることは否定できない。しかし、企業というものの本質を考えるに、まことに遺憾なことではあるが。企業には倫理というものがないといわざるを得ない。企業の本質は悪なのではないか。
企業が最優先で考えること。企業の存続と利潤の追求である。この二つを達成するためならば、倫理は邪魔なだけ。試しに法律による規制を無くし、どんなことをやってもＯＫ。完全無法化すれば、企業倫理だけで、自らを律する企業がどれぐらい存在するだろうか。たぶん、ほとんどの企業が、倫理よりも、自らの欲望に欲するまま企業活動を行うだろう。これが個人となると、そこには倫理が存在するだろう。個人で仕事をしておれば、人間としてやってはいけないこと、いいことの判断ができるのであろう。しかし、これが個人の集合体である企業となれば、倫理よりも利益追求が優先してしまう。極論すれば、企業はおのれ１社だけ生き残ればいいのである。全世界が滅亡し、地球も消滅してしまっても、おのれ１社だけが虚空にぽかんと浮かんでいても、それで生存できればいい。
日本電電公社、日本郵便、日本専売公社、日本道路公団、日本国有鉄道。「官」から「民」への移行は、世の趨勢だ。小泉内閣あたりからいい始めた「民」にできることは「民」へ。確かに、親方日の丸的体質が、非効率な業務を誘発して、多大な税金のムダ遣いをしていることはいなめないだろう。しかし、単純に民に移行していいのだろうか。民間企業となると、利潤を追求しなくてはならない。株式を上場すれば配当を行わなければならない。
世の仕事というものは、利潤がでなくて大赤字となっても、業務を行う必要のあるものもあるだろう。そういう業務を、倫理よりも利潤を優先する民間企業に任せていいものだろうか。
「官」のままのものは「官」のまま。「民」に移行すればいいものは「民」に、このあたりの匙加減が為政者の腕の見せ所ではないか。猫も杓子も、味噌も糞も、なんでもかんでも「民」では、確かに、「見切り」をやらなくてもいいから楽だろう。それでは社会的な弱者は切り捨てられるだけである。なにせ彼らは利潤を生まないからだ。