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前立腺風雲録 第6回

 2008年7月18日。会社をおえて、JR芦屋で降りる。駅の北側にラポルテというビルがある。このあたりにはホテル竹園がある。このホテル竹園、巨人が甲子園で試合がある時の宿舎となる。近所のコンビニで菅野がすけべ雑誌を買ったり、近くの飲み屋で阿倍と坂本が高橋の悪口をいったりしてるかも知れない。小生もこのあたりをよくウロウロするが、そういうのを見かけたことはない。連中、ホテルに閉じこもってるのかな。それとも阪神タイガースに負けた反省会をしてたりして。一度、このホテルのレストランで食事をしたが、但馬牛の肉はさすがにおいしかったが、スープやサラダは小生でも出せる味であった。
 それはともかく、JR芦屋の北側出口。地上へ降りないで2階の通路を歩く。まっすぐ行くとホテル竹園。つき当たりで地上へ降りて少し北へ。そこがラポルテ北館。歩いてほんの5分ほど。この5分間はドキドキの5分であった。1週間前に受けた針生検の結果を聞きに行くのである。小生は、どっちかというと楽天的なほうに分類されると自分では思っているが、だいじょうぶ。癌なんかではあるもんか。あははは。と、いう気持ちにはなれない。気分はまっ黒け。雫石には白雫石と黒雫石の2種類あるが、この時の雫石はまっくろくろすけの黒雫石であった。
 吉田泌尿器科に入る。診察券を受付に出す。待合のイスに座る。小生は病院の待ち時間は本を読んでいるのだが、この時は本を読む気分にはとうていなれなかった。
 先生に呼ばれる。診察室に入る。先生が発した言葉が世界を一変させた。暗転というのがあるが、これは光転というのだろうか。
「生検の結果は異常なしです」
 まわりに立ち込めていたまっ黒な霧がさああっと晴れた。光がまわりに満ちた。
「前立腺の10ヶ所から細胞を取りましたが、どれも異常なしです」
 小生、胃潰瘍持ちである。最近こそピロリ菌除菌が効いたのか発症してないが、10年ほど前までは、4回出血入院している。その最初の胃からの出血の時は心配した。胃癌の可能性も否定できないと医者にいわれてたから。
 もちろん胃の内視鏡検査を受けた。小生の胃の中の様子を写すモニターを見ながら医師どうしが言葉をかわしている。聞き耳を立てるがよく聞こえない。内視鏡が動くのが判る。それが止まるとビク。なんぞ異変があるのか。癌ではないか。医者の言葉のハシに「が」という音が聞こえるとドキッ。
 内視鏡の結果はすぐ判る。「異常なしです」ホッ。小さく安心。
「胃壁の細胞を摂取しました。その細胞で癌の検査を行います。結果をまた聞きに来てください」
 結果を聞きにいった。
「異常なしです。癌の所見は認められません」ホッ。大きく安心。
 前立腺の針生検の結果を聞いたときは、あの最初の胃の内視鏡検査の結果を聞いた時以来の、大きな安心であった。
「これで、とりあえず前立腺癌の心配はないですが、PSAは6ですから前立腺肥大は肥大です。1年後にまたPSAを計りに来てください」
 吉田泌尿器科を出てJR芦屋に向かう。その道中は来た時とはまったく違う世界であった。夏の夜ではあるが、こころは快晴であった。
   
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SFマガジン2017年4月号


SFマガジン2017年4月号 №720 早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター

1位 白昼月  六冬和生
2位 航空宇宙軍戦略爆撃隊(後篇) 谷甲州
3位 ルーシィ、月、星、太陽    上田早夕里
4位 最後のウサマ         ラヴィ・ディドハー 小川隆訳
5位 ちょっといいね、小さな人間  ハーラン・エリスン 宮脇孝雄訳
6位 エターナル・レガシー     宮内悠介
7位 ライカの亡霊         カール・シュレイダー 鳴庭真人訳
8位 精神構造相関性物理剛性    野崎まど
9位 製造人間は主張しない     上遠野浩平

連載
忘られのリメメント(新連載)    三雲岳斗
小角の城(第43回)         夢枕獏
椎名誠のニュートラル・コーナー 第54回
らくだ               椎名誠
プラスチックの恋人(第2回)    山本弘
幻視百景(第7回)         酉島伝法
近代日本奇想小説史(大正・昭和篇)(第30回) 横田順彌
SFのある文学誌(第51回)     長山靖生
にゅうもん!西田藍の海外SF再入門(第14回) 西田藍
アニメもんのSF散歩(第15回)   藤津亮太
現代日本演劇のSF的諸相(最終回)  山崎健太

正解するカド小特集

 ベスト・オブ・ベスト2016ということで、毎年恒例の企画。「SFが読みたい」2017年版で、2016年国内1位の上田早夕里、ハーラン・エリスン、2位の宮内悠介が短編を発表している。
 小生のひとりカウンターで3位の「ルーシィ、月、星、太陽」5位「ちょっといいね、小さな人間」6位「エターナル・レガシー」がそれである。
「ルーシィ、月、星、太陽」オーシャンクロニクル・シリーズ。「ブルームの冬」のあとの海の中を描く。
「ちょっといいね、小さな人間」小さな人間をつくる。みんなほめてくれた。あのエリスンがトシのせいかずいぶん丸くなったもんだ。 
「エターナル・レガシー」その男はZ80と名のった。そうあのZ80である。しかし宮内悠介ってそんなトシだったのかな。ああ、なつかしのシャープMZ80、NECのPC-8801。
 今号は八つも作品が読めた。とりあえず満足である。8位と9位はまったく面白くない。特に8位。たいそうな名前のショートショートであるが、なんということもない作品。
 甲州の新・航空宇宙軍史。さすがである。特務艦イカロス42の艦長早乙女大尉は軍司令部からの命令に違和感を覚える。どうする。しかし、この作品前篇は昨年の10月に出たのだぞ。甲州が悪いのか編集部が悪いのか知らないが、一挙掲載はできなかったのか。せめて12月に出た2017年2月号に掲載できなかったのか。
 1位にした六冬和生。月面都市在住の女探偵が主人公。この作者、新人ではあるがなかなかの手だれ。デビュー作を読んだときは、なかなかの腕力の持ち主だと思った。軽快な文章でエンタメ作家としての大きな可能性を感じる。方向性はまったく違うが、田中光二がデビューしたときもこんな感じだった。この作家のびるぞ。 
          
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