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私が子供の頃は、コンピュータのことを電子頭脳と呼んだ。
アニメの鉄腕アトムでも鉄人28号でも、頭脳に内蔵されているから電子頭脳。
今の子どもに、電子頭脳なんていうと、中国語かと勘違いされる恐れのある古い言葉だ。

今や生活に溶け込んでいるコンピュータは、そもそも半生記ぐらい前までは「計算に従事する人」を意味したという。複雑な計算を大勢の人々が人力で解いていく。
そういう仕事があったことに驚きを感じるが、そのコンピュータという人の仕事が、そのままコンピュータとなったのだと思うと、呼び名というのはなかなか面白いものだ。

「チューリング 情報時代のパイオニア」(NTT出版)B・J・コープランド著はそんな人力計算の時代にプログラミング型のコンピューターのコンセプトを生み出した英国人数学者の物語だ。
時代は1930年代。
日本ではやっと東京と大阪で地下鉄が走りだした頃。
そんな昭和のはじめにコンピュータのコンセプトはチューリングという優秀な数学者が論文として生み出し、それがやがて第二次世界大戦中にドイツの暗号を解読するための技術として具現化していく。
この行程が歴史的には別段ふせられてもいないのに、知られることが少なくスリリングだ。

コンピュータは今日のように電子工学が発展する前に、まず歯車やカムなどを使った機械式のものが登場した。
私が子供の頃はタイガー計算機という機械式の計算機があって、おもちゃにしては叱られたものだ。
この機械式のコンピューターの最古のものはギリシャで発掘されたアンティキテラと呼ばれる古代ギリシャ時代の超精密天体運行計算機だ。
あまりに精密な特殊技術が必要だったためか、きっとコストが異様に高く千年以上の歳月、この歯車式計算機の存在は忘れされるのであるが、それがルネサンス期以降、再開発され、第二次世界大戦に入ったころ、歯車がリレースイッチに代わり、さらに真空管に変わって現代のコンピュータの基本が誕生したという。
その中心的人物が、実はアメリカ人のノイマンでもなく、もうっと後年に現れるビル・ゲイツでも2人のスティーブでもなくアラン・チューリングという人物であったというわけだ。

このこと、本書を読むまで私もまったく知らなかった。

しかも知らないことだらけで、初の真空管を使った本格的演算装置は第二次世界大戦中にイギリス政府によって開発され、それを用いたことにより、ドイツ人が絶対解読不能と自負していたエニグマという暗号装置を解読するのに利用され、人のコンピュータが何ヶ月もかかる計算を数時間で成し遂げた。その結果、ドイツの秘密作戦をことごとく解読し、終戦を早めたという。
そんなこともまったく知らなかったのだ。

しかもしかも、チューリングが作ったコンピュータは現代のコンピュータの仕組みと同じであり、プログラミング式で、暗号解読はもちろん、音楽制作、ゲームなど、いま私たちが日常親しんでいるIT技術のやっていることをほとんどやってしまっていた、ということも知らなかっただけに大きく衝撃的なのであった。

強いて違いを述べれば、扱えるデータ量が格段に違うことと、計算速度が大きく異なっているところだ。
当時扱える基本データ容量は4kバイト程度だったようだが、現在ではギガバイト、テラバイトは当たり前、という時代に突入しつつある。
速度は当時2週間かかったような複雑な計算も、現在では安物のパソコンでも1秒でこなしてしまう、そんな違いでしかない。

ともかく、この伝記かつPC誕生物語は特別な知識を持たずに楽しめる、驚きに満ち満ちた素晴らしい科学歴史読み物なのであった。



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