<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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猛暑の中、東京都現代美術館で開催中の「フレデリック・バック展」を訪れた。

この美術館に行くのは初めてだったので予めホームページで行き方を調べてから出かけた。
ええ年をこいて迷子になっては恥ずかしいと思ったからだ。

ホームページに記載されていたとおり、地下鉄都営大江戸線の清澄白河駅を下車し、A3番出口を出た。
ちょっと歩くだけで、このあたりは東京には珍しく京都や大阪のように碁盤目状の街並みになっており、迷子になることなくすぐにその経路がわかった。

また、ここは下町でも最もディープなところらしく、美術館に至るまでの街並みは結構楽しめるものであった。
資料館通り、という名前のとおり、近くには江戸時代からの深川を中心にした江戸の民俗を知ることのできる深川江戸資料館がある。
並ぶ商店もなんとなくレトロっぽくて雰囲気がいい。

まず、佃煮屋さんが目に留まった。
佃煮屋さんも何軒かあるけれども、どれもお土産屋さんと一般店を兼ねたようなコンセプトに見受けられた。
一軒の店は「日本で一番まずい店」とあったが、その「まずい」という文字が逆さまになっていて、

「ん~、これは『美味い』の洒落か」

と、地域のセンスにちょっとばかり田舎っぽさを感じたりしたのであった。

また幾つかの食堂では「深川めし」が名物のようで、競うように「深川めし」「深川めし」と看板や幟が上がっていて、

「ま、これが現代の東京下町か。活気のあるぶん、大阪よりマシかもわからへんな」

と思ったりしてテクテクと歩いた。
ちなみに「深川めし」は数少ない私の東京での好物である。

最も感動したのは昔ながらのクリーニング屋さんを見つけたことだ。
入り口に受付があり、その奥にアイロン台があり、その奥にあずかっている衣類がハンガーに掛けられて並んでいた。
その店の風景から遠い子供の頃、洗濯物を母から預り近所の洗濯屋さんに持って行ったときのことを思い出した。
あの洗濯屋さん独特の薬液の匂いを思い出していたのだった。

ということで、あれやこれや懐かしいものや、大好きな「深川めし」などの看板を横目に歩いていたが、問題はめちゃくちゃ暑いことなのであった。

美術館のホームページには清澄白河駅から歩いて13分と書いてあったのだが、この夏の炎天下、「おひいさんが、か~~~!」((C)桂枝雀)の東京の街を歩くというのは並大抵ではなく、美術館の建物が目に入ったときは一刻も早くたどり着き、冷房のよく効いた館内に逃げこまなければ死んでしまうかも知れないと思ったのであった。

で、「冷房のよく効いた館内」を期待して中に入ったのであったが、よくよく考えてみると現在の東京は節電モード全開であったので、館内はさほど涼しくなかったのであった。
でも、外気温35度の状態から室内温度28度ぐらいにはいると、そこはやはり別天地。
汗が引くまで暫く佇んでいたのであった。



ところで、なぜ私が「フレデリック・バック展」を訪れたかというと、かくいう私も元々は映像作家を目指していた学生時代が存在し、映像に関連するものについては、一般企業のマーケティングマンとなった今も興味が溢れているからなのだ。
この展覧会のポスターを地下鉄の車内で見かけた時は、是非とも行かねばならないと思ったのであった。

美術館が辺鄙なところにあるためか展覧会のグレードの割には館内は空いていた。
というか、きっと暑いのでなかなかここまで来ないのであろう。

フレデリック・バックはカナダで活躍するフランス人アニメーター、というかイラストレーター。
中でもアカデミー賞を受賞した「木を植えた男」は有名だ。
有名だ、といっても実際に鑑賞したのは私にとって今回が初めてで、初めてだけにその手作り感覚でかつ、研ぎ澄まされた感覚の映像にが目が釘付けになったのであった。

全編にわたって作品はどうやら日本の影響を受けているのではないか、と思われるような筆致のものが少なくなかった。
これは私の勝手な考えだが、この日本の影響、つまり日本画や漫画のタッチに似ている部分がこの作家の日本での人気の重要なエッセンスになっているのではないだろうか。
それだけ私たち日本人の目から見ると親しみのある作風がフレデリック・バックの魅力になっているのだろう。

展覧会は1階と2階の2つのフロアで開催されていて、すべてを堪能するには2時間以上の時間が必要だと思う。
好奇心が強く、かつヒマな人は一日中楽しめる展覧会だ。

私は1時間ほどの急ぎ足で展覧会を鑑賞したのだったが、

「この展覧会は是非とも家族に見せてあげたい。どうして大阪で開催しないのか。一人で東京で行きました、と白状したら家の中でなんと罵られるかわからない。でも家族にこの素晴らしさを話したい。」

とジレンマに陥るくらい楽しい展覧会なのであった。

「.......暑いやろな、ぜったいに........」

と、覚悟を決めて美術館を出た。
灼熱地獄も駅までの辛抱と歩き出したら、向こうの方から都バスが走ってくるではないか。行き先は......。

「新橋」

なんと、この美術館には新橋駅から正面玄関すぐ横まで都バスで来ることができるのであった。
なってこった。
暑い中歩いてきたのに。

ということで、暑いので迷うことなく、美術館からの帰りは冷房のよく効いたバスに飛び乗った私なのであった。


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