<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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ともかく、一か八かで展望デッキでアントノフの撮影にトライすることに決めた私は展望デッキ5階から遥か彼方の貨物ターミナルに眼を凝らすことにした。
そもそもアントノフがどこに駐機しているのかさえ分からなかったのだ。
友人の連絡によると、アントノフは前日に関空入りしており、この日の午後に離陸する予定であった。
関空のフライト情報を見てもアントノフ飛来は掲載されていない。
しかし出発の方にはロシアのハバロフスク行の貨物便が掲載されており、機種は空白になっていた。
これに違いない。
アントノフであることは伏せられているのか、関空のスケジュールシステムでこの機種の登録がないのか、いかにんせん、かなり隠密的な匂いが立ち込めていたのだ。
ちなみに関空発のアントノフの最終目的地はハバロフスクではなく英国のロンドンなのであった。

5階に到着した私はさっそくアントノフを探した。
拍子抜けしたことに、アントノフは直ぐに見つかったのであった。
ず~と遙か彼方、貨物ターミナルの一番南側。
各社の貨物機がずらっと並ぶ向こう側に、特徴のある、かつ関空では見たこともないヒコーキがずっしりと駐機していたのであった。

しかも、このフライトは隠密ではなかった。
なぜなら、私と似たり寄ったりのヒコーキファンが時間が経過すると共に徐々に集まり始め、かなりの群衆に発展していったからなのであった。
やつらは何処からアントノフの情報を手に入れたのであろうか。
私の友人があちらこちら情報を振りまいているとも考えにくく、ヒコーキファンの臭覚に驚きを隠せない私なのであった。

出発時間が近づいてきた。
やがてアントノフはトーイングカーに押されてタクシーウェイに姿を現し始めた。



ずんぐりしたボディ。
腹の部分にズラッと並んだタイヤの列。
SF映画に登場する母船型飛行艦といった趣だ。
ヒコーキファンもグググググっと、手すりに吸い付けられる。
なお、このアントノフは世界佐大のモデルではなく、1クラス小さなアントノフなのであった。
それでも周囲のB777やB767などと比べても圧倒的な大きさがあり、背中から生えた翼が独特のムードを放っているのであった。

ヒコーキファンたちがアントノフにレンズを向けシャッターを切る。
やがてアントノフはゆっくりと動き始めた。
目の前に迫って来るアントノフを見つめ、私の心はドキドキしてくる。
最近こういうドキドキ感を味わうことが少なくなっているだけに、ドキドキ感にドキドキするくらいだ。
私はあのへんてこりんなヒコーキを間近で目にできるのはなんてラッキーなんだろうと、思っていた。
徐々に近づいてくるアントノフ。
やがてアントノフは私から見て右方向へ進路を変え始めた。
そしてターミナル1の向こう側へ姿を消し始めたのだ。



なんたること!
アントノフはB滑走路から離陸しようとしていたのであった。
アントノフがB滑走路に方向を変えると、私を含めたヒコーキファンたちは磁石に引き付けられる砂鉄のように、ズズズズズっと展望デッキ5階の手すり前を西側に引きつけられて移動したのであった。
恐るべきアントノフの磁力。
とぞのつまり、アントノフは展望台のあるこっち側には来ないのであった。
かの機は、はるか3kmも彼方にあるB滑走路からの離陸なのであった。
他の全ての飛行機がA滑走路から離陸しているので、てっきりアントノフもA滑走路から離陸すると思った私が甘かったわけだ。

よくよく考えてみると、アントノフのようなずんぐりした重いヒコーキの場合、機長が、
「長い方の滑走路から離陸させて」
と管制塔に依頼することは十分に考えられるわけで、関空の場合、B滑走路のほうが4000mで長く、アントノフの機長としてはそちらからの離陸をリクエストするほうが安心で、結果的に承認されたのであろう。



やがてアントノフは遥かターミナル2の向こう側、ピーチのA320が駐機する辺りに再び姿を現すと、ゆっくりとB滑走路の北端に向かって移動していった。
ずんぐりむっくり。
あんなのが空に浮かぶのか。
ロシア魔術の権化なのかもしれないと思わずにはいられない、お世辞にも「美しい」と言えないフォルムのヒコーキだ。
鳥のようなフォルムの最新鋭B787とは対象を成すヒコーキなのかもしれない。
それでも私を含め、展望デッキのヒコーキファンたちは一同ビルの西側に集合し、なんとかレンズを向け頑張っている。
しかし、いかにせん遠いのででっかいアントノフもちっこいのであった。
でっかいのにちっこいのは、どこかで自宅不倫を働いたアイドルタレントの正反対で好感が持てるのは、また別の話。

やがてアントノフは北端に達すると方向を変え、南方向に機首を向け停止した。



その間、A滑走路では次々といろんな会社のヒコーキが離発着していたのであった。
JAL、アリタリア、UPS、フェデックス、ANA、大韓航空などなどなど。
アントノフがいつ走り始めるのか、展望デッキではかたずを飲んで見守っていたのであった。
JALのB737が離陸してからしばらくした後、アントノフがやっとこさ動き始めた。
遠すぎるので残念ながら轟音を聞くことさえ出来ない。
ああ、ターミナル2へ行くべきであった。
しかし、後悔しても仕方がない。
私は知人から借りていた望遠レンズでしっかりアントノフを追い、シャッターを切り続けた。



なかなか浮かない。
アントノフの機長がB滑走路を選んだのは正解かもしれない。
このまま滑走路を突っ切り、そのまま大阪湾に突っ込むのではないか、と思うほどモタモタ走っている。
ほんとにあれはヒコーキなのだろうか。

やがて滑走路が時切れる寸前と思われるターミナル2のはるか向こうでアントノフは「のそ~~~」っと浮かび上がった。
やっとこさ離陸速度に達したようなのだ。
これで大阪湾に突っ込む心配はなさそうだ。

私の周囲でも安堵の吐息が聞こえる。



やがて緩い上昇を続けながらアントノフが南の空に去っていく。
その角度はサンフランシスコ国際空港で着陸に失敗したアシアナ航空のB777のアプローチ角度の逆を行くような緩やかな上昇だ。



去りゆくアントノフの機影を追いながら、中途半端な撮影になってしまったことをわずかながら後悔した。
しかし、それでも情報をくれた友人には大きく感謝していた。
なんといっても、かなりのストレス発散につながったのだから。

ただし、次回飛来の際は迷うことなくターミナル2で撮影したいと思ったのは言うまでもない。



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