<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
宇宙エンタメ前哨基地





アンドロイドといってもグーグルのOSではない。

スター・トレックのオリジナルシリーズの第七話「コンピュータ人間 What are little girls made of?」は今見ても衝撃的なストーリーだ。

行方不明になっていた科学者の消息を訪ねるために惑星エクソを訪れたエンタープライズ号はその人・コービー博士の生存を確認。
船長のカークはいつものように上陸班を派遣する。
過酷な環境の惑星。
その地下深くに居住区を建設し、博士は生きながらえていたのであった。
しかも博士は美しい女性型アンドロイドを助手にしていた。
かつて博士の婚約者だったエンタープライズ号の看護婦クリスティン・チャペルは、博士と再開するも複雑な感情を顕にした。
やがてカーク船長たちは博士とアンドロイド、そしてこの惑星の秘密を知るのであった.....。

アンドロイドの未来を予見したようなこの作品は、なんと1966年のテレビ作品。
今から50年近くも前に、現在でも最新の技術であるアンドロイドを予言し、それを見事に表現したいたのには驚くばかり。
さすが宇宙大作戦・STAR TREK。
今日もなお映画やテレビ、小説などで継続されているSFシリーズだが、その継続させるアイデアのエネルギーがこのあたりにあるのだろう。

で、宇宙大作戦はともかく、そのアンドロイドを本当に開発している科学者が大阪大学工学部の石黒浩教授。
アンドロイド研究では世界の最先端を突っ走っている人で、タイム誌にも世界に最も影響を与えている人物の一人として選ばれたこともある先生だ。
私など阪大といってまず思い出すのは工学部の生協食堂の唐揚げ定食だが、石黒先生は大阪大学を世界的に有名なアンドロイド開発の最高峰とした、同世代ながらまったく異なる優れた人なのである。

この石黒先生のエッセイ「どうすれば『人』をつくれるか アンドロイドになった私」(新潮社)は、アンドロイドを開発し、考察する過程で「人間とは」について発見する、かなり面白い一冊なのであった。

まず、石黒先生がどのようなアンドロイドを開発しているのか。
それはYoutubeあたりを検索すると直ぐに見つかるのだが、そのリアルさ、その精度の高さ。
まさにSFの世界が現実に存在することに驚きを覚える。
まるで宇宙大作戦・STAR TREKに登場したアンドロイドのようだ。

この超リアルなアンドロイドと人が接する時、その人の感じ方、接し方が実に面白い。
単なるロボットではなく、生身の人がある種の人として接してしまうその光景は、近未来の社会をリアルに予測させるのだ。
アンドロイドに恥じらいを感じて。
あるいはアンドロイドに怖い先生を見るような恐ろしさを感じる。
単なるロボットではない、また、動かない蝋人形でもないものがここにある。
やがてアンドロイドを通じて「人間というものはこういう動物であるのかも知れない」というテーマを提示してくるところは、もはや科学読本というよりも哲学書のような雰囲気さえあるのだ。

工学部の先生に書かれたエッセイなので、硬い内容と思いがち。
だが、ユーモアに富んでいて、随所で笑いを取ることも忘れていない。
このあたりが大阪大学の大阪たる所以なのかもわからないが、産業用ロボットとは違う日本のハイテク技術を知ることができるうえ、夢の世界が現実と混じり始めているのを知り、ワクワクしてくることもこのエッセイの魅力である。

とはいえ、まだまだアンドロイドは開発途上にある技術。
これからの進歩に大いに期待する夢のある話なのであった。

ところで、先生の外見は失礼ながら、あの天馬博士(鉄腕アトムの設計者)に似ていなくもない。
さすが手塚治虫を生み出した大阪大学。
妙なところも伝統を引き継いでいるようだ。

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