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「だいたいが、人を殺すようなヤツはどこか狂いよるに決まっとるんですよ。それを精神鑑定とか言うてぇ、私は国民を馬鹿にしとるんとしか言えんと思いよるんです。」

広島駅から乗ったタクシーの運転手がラジオのニュースを聞いて憤った口調で話しだした。

殺人事件が起きると必ずと言っていいほど犯人の精神鑑定を依頼してくる弁護士がいる。
ともすれば、
「犯人には自分で判断する能力がなかった」
なんていう鑑定書を精神科医から取付けられれば裁判にもならずに無罪放免、なんて企んでの申請だ。

これほど弁護士や犯人本人に便利で、被害者に失礼な方法は他にない。

これが青少年の犯罪となると被告側弁護士にはより狡猾な場合が頻繁に見られ、
「被告は幼少期に父親から執拗な暴力を受けていた」
とか、
「被告は外国籍を理由に幼少期から不当な差別を受け続け、犯罪に手を染めるようになった」
などという実しやかな参考意見が添えられる。

このような妙竹林な言い訳は、20年前30年前にはあまり見かけなかったようにも思うのだが、気のせいだろうか。
幼少期に親から暴力を受けていても、外国籍であっても、立派に成人している人が圧倒的に多いことを考えると、こういうことは罪に対する罰則を緩める理由にはまったくならない。

タクシーの運転手が憤っていたように、殺人を犯すような連中は、鑑定せずともイカレているのが普通なのではないだろうか。

このように「幼少期の体験」や「特別な環境」で人の精神は左右されるという考え方を人類史上初めて科学的なものとして取り上げさせたのが精神分析論で有名なフロイト博士の理論だ。

文春文庫「フロイト先生のウソ」は最新の精神医学でこのフロイト先生が作り上げ摩訶不思議な「科学の世界」を真っ向から斬り捨てている。
痛快で興味深い科学ノンフィクションだ。

フロイト先生が作り上げた理論の多くがロクに検証されもせず、今日まで至っているという話は非常に関心をそそるものがあった。
今の世の中、精神アナリストとかカウンセラーなんていうちょっとインテリっぽい職業が花盛りだ。
とりわけアメリカ映画を見ていると、いたるところで精神科医が登場して、患者に対して摩訶不思議な助言を繰り返している。
診断には多額のカウンセリング料金が必要で、よくよく見ているとそこそこ金を持っている人のみが、精神科医にかかっていることに気づくだろう。

筆者は言う。
このような精神科医は科学的検証もされず、しかも最新医学では否定さえされている論理にすがって「金のため」に精を出し商売をしている、と。
従ってカネになるので真実を広められると困るからフロイト理論の否定を否定するのだ、と。

「フロイト先生のウソ」。
カネにはなるだろうが、ウソのために泣き寝入りする人は少なくない。

~「フロイト先生のウソ」ロルフ・デーゲン著 赤根洋子訳 文春文庫~

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