中学校を卒業したのはいつだっただろうか。
思い出せないくらい昔の話だ。
私は、田舎の小さな小中学校に通った。
同級生に、達ちゃんという、女の子がいた。
彼女は、先天性心臓弁膜症に罹っていた。
きれいな血がつくれないので、いつも顔は紫色だった。
知能の発達や身体の成長にも支障をきたした。
達ちゃんは、医師から「長く生きて20年」と診断されていた。
彼女は、そのことを知っていたのだろうか。
いつもさびしそうだった。
中学2年のときこんなことがあった。
担任の荒木先生が一人の男子生徒に向かって声をあらげた。
その男子生徒は、幼児のころに罹患した小児麻痺の影響で知能に少し障害があった。
まさし、お前は、なぜ宿題をしないのか。
なぜ、勉強を一生懸命やろうとしないのか。
達ちゃんを見てみい。
達ちゃんは二十歳までしか生きれんのぞ。
でも、達ちゃんは、学校が好きだから、
クラスの友だちが好きだから一生懸命勉強をする。
宿題も欠かさずやってくる。
テストもいくら頑張っても10点か20点しか取れないけれど、ひっしにテストを受ける。
それに比べてお前はどこが不自由だというのか。
普段は温厚で笑みを絶やさない先生だが、その日は違った。
私は、これほど感情をあらわにした先生をみたことがなかった。
先生は目に涙をためていた。
教室は静まり返った(その日、達ちゃんは休んでいた)。
まさしはポカンとしていた。
先生には子どもがいなかった。
だから余計に、達ちゃんがかわいくて、不憫でならなかったのだろう。
運動場で撮った卒業写真には、先生と達ちゃんが手をつないで写っている。
それから5年後、達ちゃんは医師の見立てどおり二十歳で短い生を終えた。