全英連参加者のブログ

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水深ゼロメートルから

2024-05-18 04:00:00 | 全英連参加者 2024

「水深ゼロメートルから」ポスタービジュアル 高校2年の夏休み。ココロとミクは体育教師の山本から、特別補習としてプール掃除を指示される。水の入っていないプールには、隣の野球部グラウンドから飛んできた砂が積もっている。渋々砂を掃き始めるふたりだが、同級生で水泳部のチヅル、水泳部を引退した3年の先輩ユイも掃除に合流。学校生活、恋愛、メイク……。なんてことのない会話の中で時間は進んでいくが、徐々に彼女たちの悩みが溢れだし、それぞれの思いが交差していくー。プールの底から始まる、青春群像劇。

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 ’19年開催の第44回四国地区高等学校演劇研究大会で文部科学大臣賞(最優秀賞)を受賞した、徳島市立高等学校の同名舞台劇を映画化した青春群像劇である。

 Tagline通りのものがたりを期待して劇場に出向いた。キャストの女優たち、誰一人存じ上げない。

 ココロ:濱尾咲綺
 ミク:仲吉玲亜
 チヅル:清田みくり
 ユイ(水泳部前部長):花岡すみれ
 リンカ(野球部マネージャー):三浦理奈
 山本(体育教師):さといほなみ

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 夏休みのある日、水泳(欠席)補習として、ココロとミクは山本に、水を抜いたプールの清掃を命じられる。そこには水泳部のチヅルも来ていた。何気ない会話が続き、3人の日頃の思いがあふれ出てくる。
 元々学校のプールでの出来事を題材としたものがたり。本作は水のないプールが、ほぼ全ての舞台である。はじまりは3人と山本。途中からユイ、リンカとの言葉のやりとりで、ものがたりが進む。

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 学校を舞台にした「青春キラキラ&ラブ」でないもの~日常の学校を題材とした(とされる)もの~を見ることができるようになったのは、「幕が上がる」(’15)以降だと思う。それまでかなり評判がよくても「学校」を舞台にした作品を僕は見ていない。どうしても現職教員の意識が邪魔をする。「そういう先生、生徒はいないだろ...」的な感覚を覚えるのがイヤで避けていたのだ。そんな僕でも、「坂道のアポロン」(’18)、「サマーフィルムにのって」(’21)、「少女は卒業しない」、「君は放課後インソムニア」('23)等は劇場で鑑賞している。

 本作の元は高い評価を得た高校生演劇である。観客も評価者たちも、この(映画の)ものがたりが響いた、ささったのだろう。ただ、補習とは呼べないような清掃活動も、その活動を生徒任せの教師の安全意識の低さも、そもそも補習になる原因の授業運営も、僕は現在では(ほぼ)ないと感じた。理不尽で時代錯誤。生徒たちが気の毒___。作りすぎに見える設定が邪魔をした。すごい会話劇なのに、始めの方は彼女たちの言葉が頭に入りにくく感じた。それでもものがたりは僕にも響き、考えさせられた。本作、学校の先生は、イライラさせられる作品だと思う。

 でも...何が響いたのだろう
 やはりどうしても先生目線になるが、どんなによかれと学校や先生たちが考えても、TS(先生と生徒)の関係性は、生徒に理解されないものという自覚が先生たちにはある。生徒たちの成長に寄り添う、生徒たちのためというけれど、学校が提示できる価値観は普遍的とは言えない。限定的、時限的なものであると思う。時代の求めを基準に「人を社会化する装置」が学校である。それを感じているからだ。理解されずとも、やらなくてはいけないこともある。そしてそれは世代間の意識の相違により反発(ハレーション)を生む。山本の存在・たちふるまいは、それを象徴している。あえていえば役回りが悪役の山本も、お気の毒ということ。途中、それが見えた気がした。
 僕は価値観にあらがうココロ、チヅルのふるまいにまぶしさを、山本とたたかう彼女たちの姿に、うらやましさを感じたのかも知れない。TSは立場も生きている時代も違う。そこには絶対的な差異、断絶がある。そしてそれらは生徒から見て、ただ従うべきものではなく、超えるか、変えるか、打破すべきもの。その様子が僕にも響いたのだろう。

 audienceの心をガリガリ削る
 「先生! 、、、好きになってもいいですか?」(’17年)の感想でも書いたことだが、本作もものがたりの登場人物に「声をかけてしまう」作品だ。どこかが現実世界とシンクロしている作品。感性にガリガリと傷を負わせる作品である。本作はガリガリである。

 いろいろごちゃごちゃ書いたけど、パワフルな作品だ。鑑賞したのは大正解!お薦めの1本と思う。
 ココロ役の濱尾咲綺さん、力強く光る存在である。何年かしたら、「サマーフィルム」や「少女は」で注目の、河合優実さんのようになるかも...

 (文中一部敬称略)

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