読売新聞(9/17)より
学士の名称急増700種類、見直し求める報告書
日本学術会議:
17日、大学が卒業時に与える学位「学士」の名称について、約700種類と過度に多様化した結果、内容が不明確で国際的にも通用しないものが多いとして、大学側に見直しを求める報告書を提出。
文部科学省:
「改善に向けて取り組みたい。」
学士の名称は、大学設置基準(省令)で定めていた1991年までは「法学士」など25~29種類だった。
1991年の基準緩和で、'94年度には250種類に急増。2010年度の調査では約700種類が確認されている。
文化や情報、福祉、環境、国際など14種類の言葉を含む名称が半数をしめる。その大学でしか用いられない名称も6割。
そんな内容の記事である。
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「学士」は、学位とされる期間、称号とされる期間がある。僕は文学部英語英米文学科卒業、学士は称号で、文学士である。出身大学の学部は組織改編(学部再編)で名称、教育内容が変更されている。後継学部で英語・英文学、米文学を学び卒業した場合、学位は「学士(学術)」である。
1990年代の大学(大)増設期に開設の大学には、従前の感覚ではありえないような学部・学科名称が多い。「名は体を表す」ならば、「体(=学習内容)」の見当がつかない。学位も、「学士(〇〇学)」といわれて、〇〇学とは、どんな学びかわからないこともある。記事にある「14種類の言葉」(五つしか書かれていないけど)も、進路指導で非常によく目にするものだ。おもしろそうだ。これは絶対オリジナルを読みたいと考え、学術会議ウェブサイトから、オリジナルをDL、土日に読んでみた。
まず、学士の種類について。
資料4ページに、以下の記述がある。
『大学設置基準制定当初は以下の25種類だったが、その後に衛生看護学士が看護学士と保健衛生学士とに分かれ、また芸術学士が芸術学士と芸術工学士とに分かれ、さらに鍼灸学士と栄養学士とが新たに加わり29種類となった。』
文学士、教育学士、神学士、社会学士、教養学士
学芸学士、社会科学士、法学士、政治学士、経済学士
商学士、経営学士、理学士、医学士、歯学士
薬学士、工学士、商船学士、農学士、獣医学士
水産学士、家政学士、芸術学士、芸術工学士、体育学士
看護学士、保健衛生学士、鍼灸学士、栄養学士
まあまあ何となくだけど、だいたい何を勉強したら授与される「学士」なのかイメージできる。
次に14種類の言葉については資料5ページに出ていた。それらは以下のものである。
文化 情報 福祉 環境 国際
経営 人間 健康 政策 医療
地域 スポーツ デザイン コミュニケーション (多い順)
700種類にも及ぶ「学士(〇〇学)」のうち、上記14を含むものがおおよそ50%である。
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報告にもあるのだが、学部名称(すなわち学士の学位名称)は、以下の二つの観点から考えなければならない
①大学で担われる学問の普遍性
②「専攻分野」の概念の拡大、それへの対応
この二つ、どちらも正しいことである。しかしながら、現状では「〇〇学」が多様化し(すぎて)、関係者以外には何を学んだかわからない状況が生まれている。これは学生にとって不利益である。では従来型の学士に括るればよいかというと、そうでもない。それでは、大学の学びの多様化を証明、説明することにならない。ただ、このままではまずいので、報告書は四つの提案をしている。
①「学士(〇〇学)」の学をつけない。
②「学部名」=「学問の分野名称」=「教育課程(学習内容)」=「学士(〇〇学)」の考えをやめる。
③複数の語を組み合わせた名称の意味の明確化をする。
④分かりやすく単純で共通性のある表現をする。
①については、「学」という文字はきわめて多様な意味、イメージを持つものなので、ストレートに勉強したこと、研究したことを表すのはアイディアとしては正しい。
②については、はその通りだと思う。
③については、難しい問題だと思う。
④については、言い換えるとこうなる。学士の名称が『わかりにくくて、共通性(ある程度の普遍性、認知度)が無い、もしくは低い。』
③が問題なのだと思う。報告書にもあるが、以下のようにまとめられている。
『「△△〇〇学」もしくは「△△〇〇」が、確立した一般的な語として通用すると思われるもの。
『「△△」と「〇〇」とを組み合わせて独自の造語として掲げていると思われるもの。
『「△△」と「〇〇」とを組み合わせて全く独自の意味を持たせようとしたと思われるもの。
上記三つの二番目、三番目が問題なのだ。何が勉強できるのか、受験生・保護者という利害関係者がわからない、わかりにくいだけではない。生徒に質問される高校の先生たちもわからない場合が多すぎる。そして、往々にして、これらの『よくわからない学士』を出す『わかりにくい名称の学部』を設置しているのは、1991年度以降に開学した新設大学に多く見られると思う。つまり、それよりも前からある大学よりは、いやな言葉だが、社会的評価がまだ高くない大学のグループである。新設大学なので、新しい学問ができる。でも、その新しさが社会に浸透しきれていない。結果としてわかりにくく、④のような書かれ方になる。
文科省は「改善に向けて取り組みたい」としているので、何らかの方向性が示されるだろう。一定の方向性に基づき改善されていくまで、進路指導や三者面談で高校の先生たちは、『よくわからない学士』の学位を出している大学・学部では、学部のシラバスを読んだり、何の教員免許状をとることができるのかという、きわめて弱いアプローチの仕方で学習内容を想像せざるを得ないのかもしれない。
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参考とした報告は以下のものである。
報告
学士の学位に付記する専攻分野の名称の在り方について
平成26年(2014年)9月17日
日本学術会議 大学教育の分野別質保証委員会