彦四郎の中国生活

中国滞在記

国連緊急特別総会「ロシアのウクライナ併合非難決議」143カ国の賛成(74%)多数で採択される

2022-10-16 13:00:30 | 滞在記

 9月30日、国連緊急安全保障理事会(15ヵ国)での「ロシアによるウクライナ併合に対する非難決議案」が、常任理事国のロシアの反対(常任理事国拒否権発動)により採択とはならなかった。10ヵ国は賛成、中国・インド・ブラジルなど4カ国は棄権。このため、非難決議案の採択は緊急国連特別総会(193ヵ国)の場へと移ることとなった。

 10月10日から開催されたこの緊急国連特別総会において、60ヵ国以上の国々がこの問題に関して演説を行った。決議案の内容は、「ロシアによる違法な併合は、国際法の下では何の効力もない」という文章や、「即時停戦とロシア軍のウクライナからの撤退」の文章。ロシアの国連大使は、併合の正当性を改めて主張を繰り返し、議事妨害ともとれる要求(総会での投票は国名を書かない無記名投票とすることなど)をした。そして、この要求が拒否されると、会合議事途中に立ち上がりロシア代表団は退場していった。(※ロシアの「無記名投票」要求提案に対抗して、アルバニアからは、「ロシアの無記名投票提案は国連総会の透明性を脅かすものだ」として、公開投票の実施を要請、この「公開記名投票」提案に対する採決が行われた。この「公開記名投票案」は、賛成107ヵ国、反対13ヵ国、棄権39ヵ国。)

 国連総会での決議には、法的な拘束力はないが、国際社会の総意としての意味をもつため、何カ国が賛成するかが焦点となった。

 そして、この緊急国連特別総会が開催された10月10日、ロシアによるウクライナの首都キーウをはじめとしてウクライナ全土への激しいミサイル攻撃が行われた。クリミア大橋の爆破をウクライナによるものと断定し、その報復として、「その脅威のレベルに匹敵する規模で 厳しく報復する」と宣言した。10月12日付朝日新聞には、「ウクライナ全土報復攻撃―プーチン氏"橋爆破はテロ/連日ミサイル120人超死傷」「市民・インフラ標的—大統領府まで1キロ・公園遊具そば着弾/プーチン氏"突き上げられ"/欧米から防空システム」などの見出し記事。(クリミア大橋の爆破は、ロシア国防相の自作・自演との見方も出てきている。)

 10月10日・11日と二日連続でウクライナ全土の40余り(80余りの都市とも?)の都市を高性能ミサイルで攻撃したプーチン大統領のロシア軍。精密誘導ミサイルと呼ばれるそのミサイルは、10日には84発、11日には28発、合計112発もが発射された。10月12日付朝日新聞には、「ロシア新司令官"完全な冷酷"―強硬派の批判受けプーチン氏意向 10日の攻撃指揮か」「クリミアはロシアのレッドライン(兵頭慎治氏筆)」「よみがえる開戦期の記憶」などの見出し記事。2日間の攻撃で、死者は少なくとも44人、死傷者は200人以上にのぼった。その多くが民間人だ。

 日本の報道テレビ番組には、「プーチン氏窮地か"切り札(ミサイル)使い切る」「ウクライナ国防相発表―10日のミサイル84発中43発、13機の無人航空機を撃墜と発表」した。この二日間のロシアの攻撃で、ロシアは虎の子(超貴重な)の精密誘導ミサイルの在庫をほぼ使い切ったとも指摘されている。このため、今後、このミサイルを使用してのウクライナ攻撃は難しいと報道されていもいる。このためか、プーチン大統領は、「ウクライナ全土への攻撃の目的はほぼ達成した。これ以上の攻撃は必要ないだろう」と15日の会見で述べた。実は、ミサイルの在庫が少ないので、再びの攻撃ができないのが真の理由のようだ。(このミサイルは、一発が平均8億円、112発で約1000憶円。)

 この冷酷な無差別爆撃を直接指揮したのが、10月に入りロシア軍の新司令官に任命されたスロヴィキン将軍だ。残忍で冷酷な軍事行動をとる軍人として知られ、あだ名は「アルマゲドン(最終戦争)」との異名をもつ人物で、核兵器使用にも積極的な軍人だ。この人物が、ロシア軍NO2的な地位となり、ロシア国内の強硬派として知られるチェチェン共和国首長のカディロフ大将がロシア軍NO3となった。彼もまた核使用ためらわずの人物だ。

 一昨日14日(金)のABC放送系報道番組「大下容子のワイド・スクランブル」では、大和大学の佐々木正明教授が出演・解説。「攻撃を受けた都市40箇所以上」「標的となったのは発電所などのインフラ施設—ウクライナ国内のエネルギーインフラの約30%が損傷」「今の時期のウクライナは、東京の真冬の寒さと一緒で、今後マイナス20度まで下がる冬となる」

 「国民の戦意喪失を狙った可能性が高い」➡「しかし、このインフラへの大損失にも耐えようと、国民が一致団結し、ますますロシアに対する戦意が高まってしまった可能性が高い」(戦死した兵士を車に乗せて走行している車両に対し、反対車線の車は全て停車し、車外に出て全ての人が片膝をつき、車を見送る動画映像を紹介し、佐々木氏は、ウクライナ国民の戦意のますますの高まりを指摘していた。)  また、このウクライナ全土への攻撃を受け、欧米各国はウクライナの防空システムの緊急性も痛感し、アメリカやドイツは防空システムの本格的な支援に乗り出すこととなった。また、フランスやドイツも支援を行うもようだ。

 ロシア安全保障会議のベネディクト副書記(会議序列NO2)は、「もし、ウクライナがNATOに加盟すれば第三次世界大戦を引き起こすことになる」との声明を出した。

 ロシアのプーチン大統領ともパイプがあり、ロシアとウクライナの仲介をたびたびしてきていたイスラエルのラピド首相は10月10日、「市民に対するロシアの攻撃を強く非難する。犠牲者の家族とウクライナ国民に哀悼の意を表する」と、自身のツイッターに投稿した。

 そして、このウクライナ全土への攻撃があった期間も、ウクライナ軍によるロシア占領地域へのさらなる奪還がすすんでいる。特に、南部ヘルソン州の州都への奪還作戦が大詰めを迎えつつあり、ヘルソン州のロシア寄りの責任者は、住民の避難を呼びかける一方、ロシアの軍事支援を求めている戦況だ。

 このようなロシア軍の敗色をくい止めるために、プーチン大統領はベラルーシのルカシェンコと協議し、「ロシア軍とベラルーシの合同軍」を編成。ウクライナ北部に対する軍事的圧力をかけ始めた。15日には、ロシア軍がベラルーシに入国した。また、ベラルーシは、これまでにロシア軍に戦車を数十台軍事支援している。10月16日付朝日新聞には、「ロシアに戦車支援―ベラルーシ監視団体が確認 67台」の見出し記事。

 だが、ベラルーシの軍隊は5万人余りの軍事兵力であり小規模だ。そこで、ルカシェンコ大統領は、予備役の招集を検討し始めているとも報道される。だが、とても慎重にルカシェンコ大統領は考えてはいる。なぜなら、ベラルーシ国民の85%はロシア軍と共にウクライナに軍事介入することは反対と報道され、ロシア軍との共同出兵に賛成は数パーセントしかないと目されている。もし、独裁者ルカシェンコ大統領が、ロシア軍とともにベラルーシ軍を共同派遣したり、予備役の大規模招集をした場合は、国内で打倒ルカシェンコの大規模行動が起こり、政権が崩壊する可能性はロシアよりもかなり高い。

 そして、10月10日から始まった国連緊急特別総会では、12日に「ロシアによるウクライナ4州併合非難決議案」への投票が行われた。その投票結果は、193ヵ国中、賛成143、反対5(ロシア・ベラルーシ・北朝鮮・シリア・ニカラグア)、棄権(中国・インド・カザフスタン・モンゴル・パキスタン・南アフリカ・エリトリア・タイ・ベトナム・キューバ・エチオピア・アルジェリアなど)、無投票となった。今回は、ブラジルのトランプとも言われ親プーチン派と目されるボルソナロ大統領はなんと賛成に回った。(※9月30日の国連安保理事会では、決議に対し中国・インドとともに棄権だった。)

 ウクライナの国連大使は、「ロシアとともに投票した国が4か国しかないことに感動し鼓舞されています」とのコメントを述べた。

 10月14日付朝日新聞には、「ロシア非難 143ヵ国賛成—国連総会決議"4州併合無効"」「"自分事"に練られた決議—国際社会 薄れぬ関心 143ヵ国 過去の決議上回る」などの見出し記事。同紙の14日付「社説」の見出しは「対ロ非難決議 非道を許さぬ国際意思」。

■2014年の「ロシアによるクリミア半島併合」に関する、国連緊急特別総会」での「ロシア非難決議・併合は無効決議」では、賛成は100、反対は11、棄権は58だった。

■2020年3月2日の「ロシア非難決議・ロシア軍の即時撤退決議」では、賛成は141、反対は5、棄権は35、無投票は12だった。

■2022年3月24日の「ロシア非難決議・ウクライナでのロシアの戦争犯罪に伴う人権改善を求めた決議」では、賛成は140、反対は5、棄権は38、無投票は10だった。

■2022年4月7日の「ロシア非難決議・国連人権理事会でのロシアの資格停止を求める決議」では、賛成は93、反対は24、棄権は58、無投票は18となり、賛成93に対して、反対・棄権・無投票の合計100が上回っていた。

■そして今回10月12日の投票結果(国際社会の意向)へと変化してきている。

 このような国際社会の意向も踏まえ、トルコのエルドアン大統領が、再びロシアのプーチン大統領ともこの国連総会後に会談、また、アメリカのバイデン大統領にも働きかけて、停戦に向けた仲介をとろうと動いてもいる。

 10月16日付朝日新聞には、「プーチン氏 苦戦にじむ会見」の見出し記事。15日付同紙には、「旧ソ連国もロシア離れ—軍事支援ない同盟に不満/プーチン氏は結束訴え懸命」などの見出し記事。

 プーチン大統領が9月22日に発表した「部分的動員令」により、10月中旬までに約22人の予備役の招集が完了し、すでに一部はウクライナの前線に派遣されているとロシア側は表明、下旬までにはその招集が完了するだろうとも述べている。まともな武器や戦備が枯渇していく中、ベラルーシの軍事支援を得て、ウクライナの前線では、新たに招集した30万人余りの人海戦術で敗色を挽回しようとしているプーチン大統領。また、戦術核兵器の使用での戦況挽回も図る可能性もある。新たに招集された兵士たちもまた、プーチン氏の権力を守る楯(たて)として死傷させられていく。

 2月24日のロシア軍によるウクライナ侵略開始から2か月間ほどは、「いけいけプーチン!」「プーチンすごいぞ!」「プーチン頑張れ!」「プーチンは現代の英雄だ!」「ゼレンスキーは身の程知らずだ!大国ロシアに逆らうとは!」などという記事が溢れかえっていた中国の各種インターネット報道。だが、5月に入り、そのような言葉も影を潜め始め、この9月以降のウクライナ軍のロシア軍占領地への反撃・奪還が進む中、インターネットの「ロシアによるウクライナ侵攻」関連の記事もめっきり少なくなった。取り上げられていても、小さな記事で、一面・二面記事となることは少ない。

 今日10月16日、中国の何局かのネット報道を閲覧すると、「プーチンすでに22万の予備兵を招集」「ロシア、ウクライナ全土にミサイル攻撃」などの記事が少し掲載されている程度だった。

 中国にとって、このロシア・ウクライナ戦争の長期化によって、「①ロシアの石油やガスをとても低価で買いたたけること、②特に極東ロシアや中央アジアでの中国の存在感の高まり」など歓迎すべき点もある。だが、「①一帯一路政策の頓挫(とんざ)、特に東ヨーロッパ諸国からの中国への反発や離脱、②国連総会で棄権を続ける中国への国際的信頼度の低下」など苦しい点も多々多い。そして、中国が一番心配するのは、ロシア国民がプーチン政権への不満をさらに募らせ、ロシアがこのウクライナ侵略戦争にさらに敗色を濃くし、ロシアでも「カラー革命(民主化革命)」が起こり、プーチン政権が崩壊し、新しい民主化政権に変わることだ。また、核兵器の使用も止めたいところだろう。