MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

IATISのAbstract

2006年08月23日 | 翻訳研究
7月に南アフリカで行われた第2回IATIS (2nd Conference of the International Association for Translation and Intercultural Studies)のSpecial Panelのアブストラクトが読める。全部で20もパネルがあり、abstractだけで100ページ近くある。翻訳だけでなく通訳についても多くの論考がある。これをざっと眺めれば、世界の通訳翻訳研究がいま何を問題にしているのかがよく分かる。Panel 12が日本の翻訳を扱っているが、このパネルのチェアのHiroko CockerillさんのStyle & Narrative in Translations: The Contribution of Futabatei Shimeiという本が9月にSt. Jeromeから出版される予定になっている。Cockerillさんは二葉亭の翻訳がロシア語の動詞形にふくまれる意味の微妙な陰翳を伝えていると評価しているようだ。

ところで小森陽一によると、『あひびき』の表現上の特質は実はツルゲーネフの全くの独創ではなく、そのロシア語の文体は当時のフランスの新しい文体を媒介に成立したというのである(『<ゆらぎ>の日本文学』)。ツルゲーネフはフランス語で草稿を書き、それをロシア語に翻訳していったのだ、と小森は言う。ただし小森は典拠を何一つ挙げていないし、フランス語のどのような特質が、ツルゲーネフのロシア語にどのような影響をおよぼしたのかについて一切言及していない。

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2 コメント

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翻訳通訳研究のトレンド (武田珂代子)
2006-08-26 06:20:46
IATISのアブストラクト、あまりの数の多さにびっくりしました。ディスカッションの時間は十分にあったのでしょうか?でも、日本の翻訳についての発表がいくつもあったのは非常に喜ばしいことだと思います。最近Snell-HornbyのThe Turns of Translation Studiesを読んだのですが(ドイツ語を勉強し直したくなりました)、Target17:1にあった古代中国やイスラエルについての非常に興味深い論文を見たり、今年のCETRA担当教授がインドの大学の先生だということ等を鑑みると、ヨーロッパ中心型、英語文献主導の翻訳通訳研究に対する不満が顕著になってきている気がします。翻訳通訳研究の「国際化」に対する要求はこれからも強くなるでしょうし、それがこの学問の発展につながればいいと思っています。日本からもたくさんの研究が発信されることを願っています。
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新トレンド (みずの)
2006-08-27 23:37:01
武田さん、コメントありがとうございました。参加した鳥飼さんにちょっと聞きましたが、かなり盛況だったようですね。

そういえばSt. Jeromeからは今年An Anthology of Chinese Discourse on Translation Volume 1というのが出るようです。この巻は古代から仏典翻訳プロジェクトまで。2008年に予定されているVolume 2は14世紀から20世紀初頭までを扱うようです。
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