MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

グリム童話の翻訳研究

2007年03月11日 | 翻訳研究

奈倉洋子(2005)『日本の近代化とグリム童話:時代による変化を読み解く』(世界思想社)は、基本的には比較文化の視点からグリムのメルヒェンの受容と変容を研究した本だが、広い意味では翻訳研究とも言える内容だ。著者はグリム童話を、学校教育(修身教育)、国語改革と標準語教育、母親を通した家庭教育、子ども向け雑誌などとの関わりにおいてとらえ、さらに大正から昭和にかけてのグリム受容を考察している。また、明治以降昭和までの「赤ずきん」の受容を翻訳史として論じている。ここが翻訳研究と最も関わりのある部分で、分析の方法は主に「教訓の付加」、「結末の変更、削除」といった内容面に焦点を合わせたものである。時代の教育政策(理念)や児童観と翻訳との関わりを読み取ることができる。理論的にはノームの概念を使えばすっきりまとめられるのではないかと思う。ノームは「赤ずきん」の分析が示しているように、内容に関わることもあれば、文体や語彙の選択にも関わる。
  ところで著者によると赤ずきんには(1)狼が殺されて終わる、(2)赤ずきんが狼に食われて終わる、(3)赤ずきんは狼に食われるが助けられる、(4)赤ずきんは狼に食われずに助けられる、の4パターンがある。(2)がペロー型、(3)がグリム型である。時代が下がるにつれて(3)(4)のパターンが増えるという。僕などが子どものころに読んだのは(3)だったが、若い人はどうなのだろうか。


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