MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

『明治文化全集第13巻』

2007年04月14日 | 翻訳研究

『明治文化全集第14巻飜譯文藝篇』は「伊蘇普物語」やリットンの「花柳春話」、シェイクスピアの翻訳などを収め、翻訳史研究には欠かせないが、13巻の『時事小説篇』も副題に「附続飜譯文藝篇」とあるので気になっていた。実際入手してみると「暴夜物語」、「鬼啾啾」、「狐の裁判」、「西洋娘節用」の4編が収録されており、ページ数でもほぼ2分の1を占めている。「鬼啾啾」(宮崎夢柳訳)の「緒言」には「…篇中三人の事跡を抜粋敷衍し、且つ近日西字新聞の伝ふるところを湊合して…」とあるように、いわゆる豪傑訳である。その中にこういう人物が出てくる。「抑も此の一等警視ドレボフを狙撃せし曲者は誰ぞ。此は即はちウエラ、サシュリツチにて、其の身は最早世の中に養うべきの親もなく、侍づくべきの人もなく…。」晩年のマルクスの『ヴェラ・ザスリッチへの手紙』のヴェラ・イ・ザスリッチその人である。ザスリッチはいわゆるナロードニキで、20歳にもならない時にロシアの警視総監トレボフ中将をピストルで狙撃する。これはヨーロッパでは大事件だったようである。この事件の記述を訳した「鬼啾啾」が当時の自由民権運動に影響を与えるのである。


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